冥府探偵零時

札神 八鬼

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本編

第二十九話 本物はどっち?【後編】

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私達は昨日の事件の犯人を見つけるため、
昨日よりも詳しく調べていこうと思っている。
本格的に捜査を始める前に、
零時さんが気になることがあると言っていたので、
先に久保山さんのお宅に改めて伺うことになった。

「あら、いらっしゃい刑事さん
今回は小さい女の子も一緒なんですね」

そう言って菫さんは朱音ちゃんの前にしゃがんで、
笑顔で話しかける。
朱音ちゃんは知らない人に会うのはまだ恥ずかしいのか、
零時さんの足にそっと隠れる。
そんな恥ずかしがりやな朱音ちゃんを、
菫さんはニコニコと見つめている。

「ほら朱音、ご挨拶は?」

朱音ちゃんは零時さんの足から顔を覗かせるようにして、
おずおずと菫さんに挨拶する。

「…………こんにちは」

「こんにちは朱音ちゃん
もし良ければ、おばさんと仲良くしてくれると嬉しいな」

「うん………」

菫さんの母性溢れる笑顔に心を許したのか、
朱音ちゃんはおずおずと菫さんに駆け寄る。
菫さんに促されるまま家にお邪魔すると、
菫さんは朱音ちゃんにクッキーとオレンジジュースを持ってきた。

「昨日ハロウィン用のお菓子を作りすぎちゃって……
良ければ刑事さん達もどうぞ」

アイシングで綺麗にお化けや黒猫が描かれたクッキーに、
朱音ちゃんは目を輝かせ、
小さな手で「いただきます!」と手を合わせると、
そのまま美味しそうにクッキーを口に運んだ。
とても美味しそうである。

「これ程の出来のクッキーを手作りなんて凄いですね
全部奥さんが作られたんですか?」

「クッキーは私なんですけど……
実はアイシングは夫が描いたんです
私が書くと線がガタガタになっちゃって……」

そう言って照れ臭そうに笑う菫さん。
別に私は美味しければ良いとは思うのだが、
見目が良ければ普通のクッキーより美味しそうに見えるのは確かだろう。
試しに食べてみるとバターの優しい味わいと、
アイシングのチョコの味がマッチして非常に美味しい。

「お店開けますよこれ、数々のスイーツを食べてきた私が断言します!」

「ありがとうございます
お世辞だとしてもとても嬉しいです」

温かい飲み物を飲んで落ち着いた後、
私は菫さんにここに来た事情を話すことにする。

「申し訳ございません菫さん
こちらで詳しく調べてみた所、
犯人の身分証は湊大さんの身分証を偽造した物だと発覚しまして……
関連性を含めて改めて捜査することになりました」

私が事情を説明すると、
菫さんは不安そうな顔をしていたが、
事件の解決に繋がるならと、
もう一度昨日のアリバイを話してくれた。

「昨日は朝5時に起きて、仮装姿の子供達に配る為の、
お菓子を作っていました
夫も手伝ってくれたので良く覚えています」

「それを裏付ける証拠はありますか?」

「お菓子の写真はありますが、夫が写った写真は……
そうですね……近所の子供達と撮った写真はありますので、
それが証拠になるなら……」

そう言って菫さんはスマホを操作して写真を見せてくれる。
近所の子供達と写っている写真は確かに旦那さんだ。
零時さんはその写真を確認して、真剣な顔で頷く。

「確かにアリバイはあるようですね
念のため聞きますが、旦那さんに変わった所はありませんでしたか?」

「変わった所……」

菫さんは考え込む素振りをした後、
何か思い当たるような素振りを見せる。

「事件に関係あるかは分かりませんが……
それでも良いですか?」

「構いません、何か解決の糸口になるかもしれませんから」

「私の夫は昔浮気を繰り返していたのですが……
ある日突然心を入れ替えたんですよ
それこそ別人になったかのように」

それを聞いて零時さんは興味深そうに聞き返す。

「ほう、別人のように……ですか
具体的にどの部分が変わったんですか?」

「夫は家を留守にする事が多かったのですが、
突然帰ってきたと思ったら、
『今まで蔑ろにしてきて悪かった
もう一度だけ僕にチャンスをくれないか?』って……」

「それで、受け入れたんですか?」

「すぐには受け入れられませんでした
だって、夫は今まで口先だけの約束しかしませんでしたから……
それでも、愛情はまだ残っていたので、
二度と浮気しないと約束するならと、
一度受け入れたんです」

「それで、結果的に本当に心を入れ替えていたと……」

零時さんの問いに菫さんは力強く頷く。

「はい、浮気もしなくなりましたし、
前と打って変わって私に優しくしてくれるようになって……
本当に理想的な良い夫に変わっていました」

「菫さんは、今の旦那さんは好きですか?」

「はい、出来ればずっとこのまま、
変わらないでいてくれたら……と思っています」

そう言って、菫さんは不安そうに笑う。
もしかしたらいつか元の酷い夫に戻るかと思うと、
内心気が気でないのだろう。

「…………なるほど、
その情報のお陰で何か掴めそうな気がします
ご協力、ありがとうございました」

朱音ちゃんが食べ終わったのを確認すると、
零時さんは立ち上がって久保山さんの家を出る。
そのまま事実確認の為に近所の人にも聞き込みをした。

「うん!おかしもらったよ!
やさしそうなおじちゃんもいたのおぼえてる!」

そう言って近所の子供達は元気よく答える。
子供達の証言から奥さんと旦那さんが、
昨日は一度も外出していないというアリバイは成立した。

私達は現在会社にいるはずの旦那さんにも聞き込みするため、
会社へと向かっている。

「やっぱり……久保山さんは白でしたね
ということは、他に犯人がいるということですよね……」

「ああ、だがお陰で興味深い事を聞けた
あの証言は今回の事件の糸口になるかもしれない」

「それにしても、湊大さんにも聞く必要あるんですか?
もう白だと確定してますよね?」

「いや、聞き込みをした所で大した情報は得られないだろう
それよりも今は気になることがあるからな
本人を見て判断がしたい」

零時さんの考えてる事はさっぱり分からないが、
私達は湊大さんが勤めてる会社へと向かった。
会社で湊大さんを呼び出すと、
湊大さんが慌ててこちらに駆け寄ってくる。

「刑事さんが、僕に何か用ですか?」

湊大さんが緊張した面持ちで問いかける。
そりゃあ刑事に呼び出されたのだから、
何かあったのかと思うだろう。
そんな湊大さんに零時さんは冷静に話し掛ける。

「今回は個人的に気になることがありまして……
失礼ですが湊大さんの身分証を拝見しても?」

「身分証を?どうしてでしょうか」

「実は被害者の身分証が湊大さんの身分証を
偽造した物だと判明しまして……あくまで念のためです」

偽造と聞いて分かりやすく湊大さんは動揺した顔を見せる。
明らかに何か心当たりがありそうだが……
その真意までは分からない。

「確かにそうなると偽物を疑われても仕方無いですよね
僕の身分証でよければ、どうぞ」

そう言って、湊大さんが身分証を見せてくれる。
零時さんは身分証と湊大さんを見比べると、
私に湊大さんの身分証を渡した。
私は彼岸警察署から借りてきた偽造したものかを、
判別できる機械を押し当てる。
結果を見た私は零時さんに向けて首を振ると、
零時さんは無言で頷いて身分証を湊大さんに返した。

「ありがとうございます」

「ど、どうでした?」

湊大さんが不安そうに問いかけると、
零時さんはにこりと笑いかける。

「ええ、大丈夫でしたよ」

零時さんがそう答えると、
湊大さんはホッとしたような表情をする。

「それで、他にご用件は?」

「いえ、湊大さんに聞きたかったのはこれだけです
ご協力、ありがとうございました」

湊大さんは困惑した顔をしながらも、
仕事に戻っていった。
私達は何か新しい情報がないか調べる為に、
彼岸警察署に向かっている。

「湊大さんの身分証は本物でしたね
光本さんの身分証は偽造でしたが……
何か関係があるのでしょうか」

「ああ、身分証は本物だったな」

「身分証は?」

「まだ憶測の段階だ、話すには早い」

相変わらずこういう時は話してくれない。
私は朱音ちゃんと手を繋ぎながら彼岸警察署へと向かった。

◇◇◇

「あっ、師匠!久しぶりっすね!」

彼岸警察署に着くと、月宮くんがリョウ先輩と
話しているのを見つけた。
そういえば最近月宮くんには会えてなかったっけ。
朱音ちゃんはまだ会ったことがなかったのか、
不思議そうな顔をしている。

「…………パパの知り合い?」

「…………いや?師匠である俺と過ごすよりも、
バイトを優先してろくに会いにも来ない
薄情な狼獣人なんて知らないな」

ちょっと皮肉めいた零時さんの発言に、
月宮くんは気まずそうな顔をした。

「ごめんなさいっす……
バイトが繁忙期で師匠に会う時間がなかったっす……
でも!これからはちゃんと会いに行くっすよ!」

聞けば、昨日は複数のバイトを掛け持ちしてたのだそう。
でもほとんどのバイトが終わったので、
これからは事務所に来られるようになったらしい。
改めて月宮くんの事を零時さんに紹介された朱音ちゃんは、
キラキラとした目で月宮くんの耳と尻尾を見つめる。

「わんわん!」

「狼っすけど!?」

そう言って朱音ちゃんは月宮くんの服を掴んでよじ登り、
頭の上に乗ってモフモフの耳と尻尾を触り始めた。
月宮くんは幼女に耳や尻尾を触られてもみくちゃになっており、
月宮くんは朱音ちゃんを振り払うことも出来ずに、
されるがままになっている。
朱音ちゃんと月宮くんの癒し×癒しのコラボ……
最高かな。

「それで?月宮が何でここにいるんだ」

「そりゃ勿論事件解決への貢献っすよ!
俺独自のルートで調べて光本の妻であり、
久保山湊大の元浮気相手を見つけたっすよ!」

「何!?それは本当か!」

「本当っす!聞き込みがしたいなら案内するっすよ?」

「ああ、是非頼みたいが、
その前にリョウに頼みたいことがある」

「頼みたいこと……何か調べたいことでもあるの?」

「ああ、念のために被害者の死体に真名診断をしておいてくれ」

「真名診断?被害者の身元は割れているのに?」

「少し気になることがあってな
まだ推測の域でしかない推理を確実にするには、
必要なことなんだ」

「分かった、君がそう言うなら診断をしてみるよ
結果が出たら君のスマホに連絡すれば良いのかな?」

「ああ、よろしく頼む」

リョウ先輩と話し終わると、零時さんは改めて月宮くんに向き直る。

「待たせたな月宮、案内を頼めるか?」

「任されたっす!」

月宮くんは嬉しそうに尻尾をブンブン振りながら、
被害者の妻である光本 穂香みつもと ほのかさん
に聞き込みをすることになった。

◇◇◇

流石に浮気相手だった人の所に、
幼女を連れていくわけにはいかないので、
朱音ちゃんは月宮くんと一緒に、
家の外で待ってもらうことにした。

「何?話って」

光本さんの妻である穂香さんは気だるそうに問いかける。
菫さんと違い、穂香さんは派手な見た目で、
いかにも遊んでそうな雰囲気をしている。

「あなたの旦那さんである、
健太さんが亡くなったのは御存知ですか?」

「そんなの知らないわよ
あんななよっちい男、死んでせいせいしたわ」

自分の旦那に対してとは思えない冷たい発言に、
零時さんは静かに眉を潜める。
まあ確かに私もちょっといらっとしたけど。

「昨日の犯行時刻はどこにいましたか?」

「そりゃあ、仮装して歩き回ってたわよ!
あんな冴えない男じゃなくて、
頼りがいのある彼氏と一緒にね」

「つまり、浮気していたんですね?」

「それの何が問題なわけ?
別に浮気してた所で犯罪じゃないんだし、
あたしが誰と一緒にいようが事件と関係ないでしょ?」

全く反省してなさそうな穂香さんに多少いらっとはするが、
浮気は病気とも言うし、どうしようもないのだろう。
零時さんは感情を表情に出さないようにしながら、
冷静に穂香さんに聞き込みをしていく。
聞いてみるとほとんどは私達が知ってる情報のようだ。
零時さんが考え込んでる中、私は部屋にかかっている、
血が付いたナース服を見つける。

「あのナース服は?」

「ああ、あれは昨日着てた仮装よ
とびきり可愛いの選んだから、
彼氏も可愛いって褒めてくれたのよ?」

そう言って彼氏の自慢話をひとしきり話した後、
真正面の零時さんをまじまじと見つめる。

「よく見たらお兄さん超イケメンじゃん!
どう?私と試しに付き合ってみない?」

「結構です」

穂香さんが上目使いで胸元をチラリと見せ付けて誘惑するも、
零時さんはピシャリと断る。
まあ穂香さんより美人で胸が大きいストーカーいるもんね。
伊織さんって言うんだけど……

「つれないわねぇ、気が変わったらいつでも教えてね?
これ、私の連絡先だから」

そう言って穂香さんは零時さんに連絡先を渡してくる。
零時さんはとりあえずは連絡先の紙を受け取った。
凄い、白雪さんに口説かれてる時よりも目が笑ってない。
本当に嫌なんだな……

「では俺達はここで失礼します
ご協力、ありがとうございました」

零時さんはそそくさと穂香さんの家を後にし、
穂香さんから渡された連絡先の紙を、
月宮くんの複製ライターで火を付けて燃やす。
零時さん、いくら嫌いなタイプの女だったとしても、
その処分の仕方は朱音ちゃんの教育に悪いですよ。

「零時さん、それは朱音ちゃんの教育に悪いですよ」

「ああすまない、
香水臭い女の痕跡は一刻も早く消したくてな……」

「こうすい?」

「零時さんが普段付けてる良い香りが付いた水の事だよ」

「おい、言い方」

「私パパの匂い好き!」

「そっかぁ、私も零時さんの匂い好きだよ」

「俺も師匠の匂い大好きっす!負けないっすよ!」

「本当に何なんだお前らは……」

呆れた風な声を出しながらも、
零時さんの顔は耳まで真っ赤だ。
褒められ慣れてなくて照れちゃうのが零時さんの可愛い所だ。
思わずニヤニヤが止まらない。

「零時さんかーわいい」

「かーわいい」

「朱音も真似するんじゃない……」

プルルルル……

零時さんが更に赤面する中、零時さんのスマホが鳴る。
零時さんは正気に戻ってスマホに出ると、
電話の相手と通話し始める。

「なるほど……やはりか
念のため頼んでおいて正解だったな」

零時さんは電話を切ると、
真剣な顔で私達の方へ向き直る。

「犯人が分かった
だが、まだもう少しだけ情報が欲しいな
細かいところを調べたら、
犯人を指定の場所に呼び出そう」

◇◇◇

こうして捜査を全て終えた後、
私達は誰もいない公園に犯人を呼び出した。
零時さんと一緒に待っていると、
湊大さんと穂香さんがやってくる。

「あの、お話とは何でしょうか……」

「何?お兄さんもしかして付き合う気になってくれたの?」

「お前また人様に迷惑かけて……」

湊大さんが穂香さんに怒鳴りかけてやめる。
この言い方は穂香さんを良く知っていそうだ。

「これで三成も分かったな?
目の前にいる久保山 湊大と名乗る謎の男が誰なのか……」

「…………はい」

「では念のため聞いておこう
この男は本当に久保山 湊大だと思うか?」

零時さんの問いかけに私は静かに首を横に振る。

「いいえ」

「なら、誰だと思う?」

「……………すみません、誰かまでは……」

「思い出せ、三成
俺達は今まで誰の捜査をしていた?」

「…………光本 健太さんです」

「なら、答えも自ずと分かるな?」

「まさか……」

「ああ、目の前にいるのは久保山 湊大ではない
光本 健太だ」

「…………探偵さん、笑えない冗談はやめてちょうだい
あの男はもう死んだの
そこの刑事さんだって、あの男の死体を見たでしょう?」

「…………そうですね
確かに顔は光本さんにそっくりでしたし……
身分証も光本さんの物でした」

「ほら、なら疑う必要はないじゃない!
それなのにどうしてこいつが健太だと思ったの?」

「最初は、菫さんの証言がきっかけでした
ある日夫が別人のように変わってしまった……
その奇妙な出来事が気になりましてね」

「そんなの、人なんだから突然変わることだってあるでしょ!?」

「いいえ、人はそう簡単には変われない生き物です
表面上はそのように振る舞っていても、
元は浮気を繰り返していたような男なら、
必ずどこかで綻びが出ていたはずです
ですが……彼にはそれがなかった」

湊大さんは一言も話さずに下を向いている。
それに対して穂香さんは必死に弁明を続ける。

「そんなの分からないじゃない!
友人に諭されて目が覚めたかもしれないでしょう?」

「既に友人全員から見限られて、孤立していた彼がですか?」

「それに、何で別人だと思ったのよ
顔だって、健太と似ていたんでしょう?
それなら別人かどうかなんて分かるわけがないじゃない!」

「それが二つ目の理由です
あなたはお気づきではないかもしれませんが……
少しだけ、顔の構造が違うところがあるんですよ」

「それって、全く同じではないってことですか?」

「ああ、タレ目とつり目の違いだったり、
体つきの違いも僅かだが見た目だけでもいくつかある
それに、趣味や好み、性格すらまるっきり違っているからな」

確かにそこまで違うと別人と断定出来るだろう。
穂香さんは言い返せなかったのか、拳を震わせる。

「……………それなら、身分証はどう説明するのよ!
わざわざ偽造する必要はないじゃない!」

「そうですね……偽造に関しては必要ないでしょう
それに偽造は……あなたがしたことなんですよね?」

「……………は?」

「どういうことですか?零時さん」

「厳密には、プロに頼んで偽造させたんだろう
裏の人間と取引していた証拠もあるからな」

「……………もしそうだとして、
身分証の偽造なんかして、私に何の得があるの?」

「…………湊大さんの事を詳しく調べていくうちに、
彼が会社で横領をして浮気相手に貢いでいたことが発覚しました
あなたはそれを暴いて欲しくて、
わざと久保山さんの身分証に偽造したのでは?」

「…………あはは……」

穂香さんは力無く笑い、膝から崩れ落ちる。

「私、菫の事前から嫌いだったの
いつもヘラヘラして幸せそうに……
私には変な男しか寄ってこないのに、
皆菫の味方ばっかりして!
許せなかったのよ私!!!」

「穂香……」

「だから、だからあいつから夫を奪ってやったのよ!
最初は優越感を感じてたけど、途端に虚しくなって……
それで思い付いたの、そうだ、この冴えない男と、
あいつの夫を交換しようって」

「……………」

「幸運にも健太と湊大の顔は似てたから、
自分の夫が入れ替わってるなんて今も気付いてないのよ!?
笑えるでしょ!?
身分証だって交換してるもの!バレるわけないわ!
それなのに……」

穂香さんは光の無い目で誰もいない所を見つめる。

「私は遊び相手の一人でしかなかったなんて信じられる?」

「私だけは違うって思ってたのに……
私だけは特別だって信じてたのに……」

そこで突然ぐりんと視線が私に向いた。
生気の無い目がとにかく怖い。

「あいつが会社の金を横領して、
他の女に貢いでたのは知ってたから、
いっそ警察に暴いて貰おうと思ったのよ!」

「それなら、最初から警察に相談すれば良かったんじゃ……」

私がおずおずと答えると、穂香さんはくわっと怒鳴り声をあげる。

「それだけじゃ私の傷の痛みに釣り合わないのよ!
だから殺してやらないと気がすまなかったの!」

穂香さんはひとしきり話して静かになると、
突然零時さんの足元にすがり付く。

「ねえ!あなたは分かってくれるわよね!?
だってあなたも何かを失った目をしてるもの!
傷ついた目をしてるもの!」

「もうやめろ穂香!!!」

健太さんは穂香さんの所に走ると、
無理矢理穂香さんを零時さんから離す。

「これ以上人様に迷惑をかけるんじゃない!!!」

「探偵さん……」

穂香さんは死んだ目ですがるように零時さんを見つめる。
しかしそのすがり付く手を振り払うように、
零時さんは冷たく言い放つ。

「俺の正義は、人を無闇に傷つける程汚れてはいない」

「正義……」

穂香さんは零時さんの言葉を繰り返すと……
そのまま大人しくなった。

◇◇◇

リョウ先輩が穂香さんを連れていき、
残るのは健太さんだけとなった。
一人残った健太さんに零時さんが問いかける。

「これから健太さんはどうするんですか?」

「…………穂香とは離婚します
僕では、彼女を幸せには出来ませんでしたから」

「それが良いでしょうね
菫さんには本当の事を話すんですか?」

「そうですね、話そうと思います
もし、もしも許されるならば……
今度は彼女と人生を歩んでいきたい」

「…………許されると良いですね」

「はい、許されるかどうかは……彼女次第ですけどね」

◇◇◇

ハロウィンに起きた殺人事件は無事幕を閉じた。
零時はコーヒーを飲みながら、
光本 健太から送られた手紙を読む。
桜色の便箋に入っていた手紙には、
穂香と離婚した後菫さんと再婚した話と、
一緒に同封された写真には、
仲睦まじそうに写り込む、おしどり夫婦の姿があった……


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