万年時計の歯車

札神 八鬼

文字の大きさ
3 / 11

二時間目 逃げ出した歯車

しおりを挟む
俺達はこの国を出ることにした。

機械人形を作る国、セーベルから…

この国は機械人形を作る人形師が多い町で、
毎年この国から、命が宿った機械人形が
万年時計の生け贄として選ばれる。

この世界は五つの国で出来ている。




一つ目は今いる機械人形の国セーベル。

命を宿す核の器となる機械人形を作る国。

機械人形は三種類に別れており、
主に歯車として選ばれる人型。

愛玩用として人に飼われる動物型。

国の警護をする異形型だ。

毎年この国から歯車が選ばれている。






二つ目は時計を作る国キルダン。

人々の生活にかかせない時計を作る国だ。

珍しい時計が多く売られており、
新しい時計が次々と作られるので、
この国の歪み時計の増加は増すばかりだ。





三つ目は機械人形の核となる心臓を作る国ウィルセルス。

俺達機械人形は核から作られており、
動かすのにも核を必要とするため、
核を失ったり壊れたりすると、
その機械人形は動くことが出来ず、
最悪処分されてしまう。






四つ目は命が生まれ、還る国ユルガルト。

始まりと終わりの国。

寿命を迎えた死者や、これから生まれる者が住む国。

この国では生きている者の
体を奪おうとする死者もいるので、
本名を口に出してはいけない。





五つ目は万年時計がある国ミーリス。

俺達の最終目的地だ。

この国の真ん中には万年時計が建てられていて、
組み込まれた歯車達の寿命を蝕みながら
時を刻む大きな時計塔だ。

昔は人間が生け贄だったそうだが、
今は機械人形が生け贄になっている。

ちなみに歯車とは、
万年時計に組み込まれる生け贄のことだ。

俺達は今、左上のセーベルにいる。

さあ、冒険に出かけよう。

「こんなに早く出て大丈夫か?」

「大丈夫、僕達は遅かれ早かれ
この国を出ることになるんだから」

「…………それもそうだな」

本来は、俺一人だけの役目だった。

ギルスを置いて、一人だけの旅に出るんだ。

自らの命を終わらせる為だけに、覚悟を決めて。

……………………

ギルスは、何故ついてきてくれるのだろう。

俺だけでも充分なのに。

ギルスがついてくる必要はないのに。

…………死んでしまうかもしれないのに。

なあ、ギルス。

自らの時を止めてまで、
俺を助けようとしなくても良いんだぞ。

「お前が犠牲になる必要はないんだからな。シルカ」

それは俺の台詞だ。

「ああ、分かっているよ」

お前が犠牲になるくらいなら、俺が万年時計の生け贄となろう。

元からそのつもりだし、覚悟はとうの昔に出来ている。

ギルスは…大切な親友は俺が守る。

「そうだ、シルカ
どこか行きたい所はある?」

「そうだな…」




窓から見える景色はあまりにも頼りなくて、
全てを知るには、俺の世界は狭すぎた。



どこに行っても良いのなら…



今、自由があるのならば…





「こことは違う、他の世界を…
俺の知らなかった世界を、知りたいな」

「それなら見に行こう
僕らが知らない世界を、一緒に知りに行こう」




ある日、二体の機械人形が、
窓から見える狭い世界から脱走した。


彼らの顔は期待に満ち溢れていて、
これから見ることになるであろう
他の世界に胸を膨らませていた。







例えその冒険が、どんな結末を迎えようとも…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...