【本編完結】アリスとレイスの不思議な絵本

札神 八鬼

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おまけ(本編とは関係無し)

今日もつれない神父様

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神なんて、いやしないのさ。

いくら私が神の名をかたろうが、
何人もの女性を殺そうが、
ちっとも怒鳴りに来ないのだから。

だからきっと、神など本当はいなくて、
一人でどうしようも無くなった誰かが、
いるはずのない存在にすがっただけの話なんだ。

もしそうだとしたら、あの神父は、
一体何を見たと言うのだろう。

あれほどまでに信仰している原点は、
どこにあったのだろうか。

私の名前はドードー鳥。

クライスの言葉を借りるならば、
神が定めたことわりから外れた者。

それが、今の私だ。











ダイヤの国にある唯一の教会。

そこにいる神父こそが、私のお気に入りだ。

私は彼に会うために、勢い良く扉を開ける。

「やあ、クライス!
暇そうだから来てあげたよ!」

「帰れ」

「相変わらずつれないね君は」

「狂信者が土足でこの聖なる教会に入るな
今すぐに立ち退きを要求する」

私を見た瞬間のクライスは本当に嫌そうで、
しっしっと追い払うような動作をしていた。

そこまで拒絶されると、更に嫌がる顔を見たくなってしまう。

そうと決まれば、彼が嫌がるような行動をしなければ。

「まあまあ、私も暇なんだよ
少し話し相手になってくれ」

「そんなの、他の子羊に聞いてもらえば良いだろ」

子羊て、君私以外の住人のこと子羊って呼んでるの?

良いなぁ、私もその一人になれないかな?

「残念ながら、私は嫌われ者だからね
その聞いてくれる人もいないのさ」

「まあ、そうだろうな」

「君、私相手だと、全くオブラートに包まないよね」

「狂信者に気を使う必要は皆無だからな」

「冗談のつもりで言ったのだけど」

「ほう、自覚症状は無いと?」

「さらっと酷くない?」

「狂信者に嫌われようが、
こちらは痛くもかゆくもないからな」

「あとさ、その狂信者って呼ぶのやめない?」

「狂信者は狂信者だろ」

相変わらず私にだけは塩対応なんだよなこの神父。

仲良くなるには私からスキンシップを取るしか……

あ、信者が座るような横幅長い椅子に座り始めた。

私の前以外はずっと立ちっぱなしなのに。

そんなに私と話すの嫌?

私相手の時だけ、扱いが雑過ぎない?

そういうものなの?

それが狂信者に対する接し方なの?

「それなら君の隣は私が貰うよ」

「おい狂信者、いつ座って良いと許可した
勝手に隣に座るんじゃない」

「どうせ誰もいないから良いじゃないか」

「……………」

クライスは無言で席を立つと、別の椅子へと座る。

そこにすかさず私が隣に座る。

クライスが席を立つを、何度か繰り返すと、
クライスは諦めたのか、不機嫌そうな顔をしながらも、
もう席を立つことはしなくなった。


私のねばり勝ちである。


「しつこいぞ、狂信者」

「しつこさは昔から持ち合わせていてね
相手が諦めるまで続けられる自信があるよ!」

「……………この場合の殺生は、神に許されるだろうか……」

「小声で物騒なこと言うのやめてくれる?」

「貴様のようなタイプは、一度死なんと直らんと思ってな」

「そもそも完全に殺せやしないよ
私も君も、不老不死だからね」

「………….ふむ、現在は不可能か……」

現在はとか言わないでよ。

というか、神父が殺害計画立てるのはアウトじゃない?

「確かに私は、神を信じちゃいないさ」

「は?」

「…………話は最後まで聞いてくれよ」

だからそんな殺気のこもった目で見るのやめてくれ。

流石に私も傷ついちゃうから。

本当に君は、神の存在を否定されるのが嫌いなんだね。

「だからざっくりで良いから教えてくれないか?
君が信仰している神というものを」

彼に会うまでは、神なんてもの信じちゃいなかった。

………今もそうだが、少し興味が湧いたんだ。

クライスは、神に愛されていると知った。

もしそうならば、神は見る目がある。

こんなに神の使いに相応しい人間は、
そういないだろうから。

「おお! そうか、狂信者もついに神を信仰する気になったか!
うむ、それはとても良い傾向だな!
良いだろう、この俺が神に縁がない
狂信者にも分かりやすく教えてやろう」

神が絡むと本当に嬉しそうな顔をするな。

私、君の嬉しそうな顔は初めて見たよ。

「まず、神ってどういうものなんだ?」

「そうだな……日本では八百万の神と言うように、
この世にはいくつもの神が存在するものだ
神道では、この世界は神が作り出した
という考え方が主流だな」

「この世界……と言うと、海とか大地のことかな?」

「そうだな、海や大地の神もいる
その一方、海外の神道では、
中には家畜の肉を食べないなどのルールがあるな」

「でも君、お肉とか普通に食べなかった?」

「俺は神そのものを信仰しているのであって、
人々が勝手に定めたルールを信仰しているわけではない」

「独特な思考を持ってるよね君」

「神が自ら定めたルールでないのなら、
わざわざ言う通りに合わせる義理も無いからな」

「その神だけに執着するところ、実に君らしくて私は好きだよ」

「狂信者に好かれても嬉しくない」

「相変わらずつれないね」

相変わらず態度の変わらない神父を見ながら、
私はふと浮かんだ疑問を口にする。

「そういえば、どうして君はそこまで、
神の存在を否定されるのを嫌うんだ?」

「…………そう……だな……
恐らく俺は、すがる対象が消えるのが怖いのだ」

「怖い? 君にしては珍しいね
君のような人間なら、
例えいなくてもなんとかなりそうだけど」

「例えでもいないとか言うな」

「ごめんて」

「俺はだな、神に救われて生きてきた
少なくとも俺は、そう思っている
もしそうじゃなかったとしたら、
本当にいなかったとしたら……」

神父クライスが、消えてしまいそうな気がした。

「…………その先は聞かないよ
なら君はいつまでも信仰していると良い
神父クライスは、皆が必要としているからね」

「……………ああ、言われずともそうする」

「そういえば、住人の中には殺人鬼がいっぱいいるのに、
君は何とも思わないのかい?」

「聖書の中では、神は人の何倍も殺している
その膨大な数を見れば、数人だろうが数十人だろうが、
神の前では些末さまつなことだ」

「ふーん、そうか」

そこに、教会の扉を開ける音が聞こえる。

ここから先は、神父クライスの時間だ。

私は一足先に退散しよう。

その前に、気になっていた質問を一つ。

「そういえば、クライス」

「何だ」

「私はあれだけ神を否定していたのに、
どうして殺さなかったんだ?」

クライスは神を否定されると手がつけられなくなる。

それこそ、対象を肉塊にするまで止まらない。

それなのに、クライスは。

私がいくら神を否定しても、殺しはしなかった。

「確かにお前は殺したくなる程無礼なことをしてきた
だがどうしてかは知らんが、手が止まるんだ
何故かは俺の方が聞きたいくらいだ」

「へー、そうなのか
あの堅物塩対応クライスがねぇ……」

「何か腹が立つなその顔……とりあえず死ね」

私がニヤニヤしていた顔が気に入らなかったのか、
クライスは召喚魔法で裁きの神を呼び出し、
その巨大なつちが頭上に振り下ろされる。
それを何とかかわすと、すぐにふっと消えた。

「わあ危ない!
相変わらずつれない神父様だね、君は」

「二度と来るな! この狂信者め!」

「はいはい、また来ますよっと」

「来いとは一言も言ってないだろう!」

「いいや、また来るさ
私は神の信者ではなくて、君の信者だからね」

「はぁ!? 何を訳の分からないことを……」

「それじゃあまた会おう、神父様」

「おい、待て狂信者! どういうことか説明しろ!」

相変わらず天の邪鬼な神父様だ。

来て欲しいなら素直に言えば良いのに。

素直な彼が見られるのは、まだ少し時間がかかりそうだ。


【おまけ】今日もつれない神父様 終
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