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おまけ(本編とは関係無し)
時は残酷に刻む
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僕がまだ不思議の国の住人では無かった頃、
僕の世界の全ては、狭い病室だった。
僕の名前はケディス・クロッキー。
外の景色は四角く切り取られた窓から見えているものが全てで、
何度も手を伸ばしては、届かずに諦めた。
「あの子、もう長くないんですって」
「まだ若いのに……可哀想にねぇ」
上っ面だけの同情の声が何度も聞こえた。
何が可哀想だ、本当は可哀想なんて思っていないくせに。
どうせ、こんな可哀想な僕を見ることで、
自分の方がまだマシだと安心したいだけなんだろ?
なあ、正直に言えよ。
僕はお前らのような人間の嘘が大っ嫌いなんだよ。
そんな僕にも、転機が訪れた。
今までの人生で初めての、初恋だった。
初めて見たのは、ベットで眠る彼女の寝顔だった。
寝息も静かで、最初は死んでいるんじゃないかと思ったくらいで、
そして何よりも、綺麗だった。
彼女の名前はセリシア・ハーミル。
物語が好きで、体調が良いときは、
僕に絵本を読み聞かせてくれる優しい女の子。
僕は彼女が大好きで、彼女と一緒の時は、
僕は自分の病気のことも忘れられた。
「僕、頑張って病気治すから
二人とも自由になったら、沢山の景色を見ようね
僕は、セリシアと一緒に生きたい」
「うふふ、それなら私も長生きしないとね
いつか私が元気になったら、色んな所に連れていってね」
「勿論! 約束だよセリシア!」
セリシアとなら、僕はどこにでも行ける。
この病気だって、セリシアがいれば怖くない。
そう思っていた、それなのに……
どうして! どうしてよ! 僕が何をしたの!?
僕はただ、微かな幸せを求めただけなのに!
僕にはそれすらも許されないと言うの!?
眠りねずみと名乗る悪魔は、僕の細やかな幸せを、
無情にも奪っていった。
セリシアはもう、死ぬまで目覚めることはない。
あんなに体調が良かったのは、彼女の願いを
この悪魔が叶えたからだったのか。
代償として、彼女が死ぬまで目覚めない体にして。
「ケディスくん、私はあなたが気に入りました
これから先、私以外の女性を好きにならないで下さいね?」
「何でわざわざ守らないといけないの?
僕は死んでも君のこと、好きにはならないよ?」
「おやおやぁ? 良いんですかぁ?
私以外の女性を好きになれば、
また罪もない人間が犠牲になりますよ?」
「………………君はとんでもなく最低な悪魔だよ、本当に」
僕は幸せになりたいのに、この悪魔が邪魔をする。
その悪夢のような日々は、チェロさんに出会うまで続いた。
チェロさんはとても良い人だ。
でも、恋愛感情は湧かない。
もし恋愛感情を持ったとしても、口にはしない。
だって、そうしてしまえばあの悪魔が来てしまう。
僕の唯一の居場所を。
僕の心の拠り所を壊されてしまう。
これ以上はもう、奪われたくない。
時間は進む。針は時を刻む。
管理人に導かれるように不思議の国に来て、
僕は時を管理する時計鹿となった。
管理人が言うには、僕は時の管理人の立場らしい。
好きに時間を操り、僕がこの国を離れると時が止まる。
時間に対する恨みが強かったからか、
僕は偶然にも時間を操る力を手にいれた。
やっと、やっと時間が僕の味方をした。
今度こそ、今度こそは奪われるものか。
病気から解放された体を見て、複雑な気分になる。
皮肉にも、僕が病気から解放されたのは、
人間をやめてからだった。
「たまには外に出てみたら?」
「やだ」
「即答」
突然スペードの王様、シャロンに呼び出されたと思うと、
僕に外に出た方が良いと提案してきた。
例えシャロンにどんな理由があろうと、
僕はこの国の外に出るつもりはない。
「何でシャロンの言うこと聞かないといけないの?」
「いやあの、君も人間の頃は
自由に景色を見ることすら出来なかっただろう?
だからここの住人になった今なら、
たまに外に行くくらいが良いと思……」
「やだ」
「二度目の外出拒否」
「ケディス、王様に対して失礼だろ
せっかくの王様のご厚意なんだから、
ここは素直に乗るべきだと思うぞ」
「くっくっくっ、この鹿もなかなかに毒舌だねぇ
こいつは将来大物になりそうだ」
「アイン、笑い事じゃないだろう」
多少怒りのこもった声のエクターとは対照的に、
アインは笑いを噛み殺しながら僕を見つめていた。
僕はやっぱりこの人の喋り方は慣れない。
最初はシャロンへの態度の悪さに対して怒っていたのに対し、
突然笑い始める姿はまさしく精神異常者のそれで、
二重人格と聞いた時は、驚きと言うよりも、納得した。
ああ、頻繁に別人のような態度になるのは、
人格がもう一つあったからなのだと。
だけど、僕はこの人にはまだ慣れていない。
今までいなかった人種だったから、接し方が分からない。
まあこの人から話しかけてくることはめったにないし、
基本は二人とも郵便の仕事で多忙だから、何とかなっている。
「時間の管理はガンズに任せるから、しばらく羽を伸ばしてきなよ」
「やだ」
「びっくりするほど頑固だね君」
「僕羽なんて生えてないもん」
「あ、突っ込むのそっちなんだね」
「王様のご厚意だぞ? どうしてそこまで断る必要がある」
「だって、僕が外に出たら……」
また病気が再発するかもしれない。
罪もない人が死ぬかもしれない。
外のことを考えると、どうしてもあの悪魔を思い出す。
僕の幸福を奪っていく悪魔。
細やかな幸せすら許してくれない悪魔。
この国は皆死なないから安心出来るけど、
人間の世界だとそうはいかない。
僕が関われば、どうしても死人が出てしまう。
「別に出ていけとは言ってないんだから、
帰りたくなったらすぐに帰っても良い
僕はただ、君にゆっくり休んで欲しいだけなんだ」
「……………」
「それとも、僕の言うことは信用ならない?
必要なら住人の一人を護衛につけるけど」
「……………それなら、シャロンも来てよ」
「え、僕が?」
「ケディス! それは流石に……」
「良いじゃねえのエクター
一人で心細いみたいだから、今回は許してやろうじゃねえか」
「アイン…………」
「…………うん、良いよ
役に立てるかは分からないけど、君の護衛を務めよう」
「王様!」
「良いんだよ、エクター
心配なのは分かるけどね、いざとなれば自分で何とかするよ」
「……………」
そうして僕は、シャロンと共に外の世界を出た。
そこで僕は出会ってしまった。
彼女に、セリシアにとてもよく似た女の子を。
別人なのは分かっている。
だけど僕は、
手を伸ばさずにはいられなかった。
そんな僕の手を、シャロンが掴む。
「こちら側に引き込む気かい?」
「…………こちら側?」
「そう、こちら側
僕達のような人間ではない者が住む世界のことだよ」
「…………もしそうだと言ったら?」
「全力で止める。何しろ彼女は不思議の国に行く資格が無い」
「どうして、どうしてよ
やっと見つけたんだ、僕の初恋に似た人を
それなのに、どうして諦めなきゃいけないの?
僕には、誰かを愛する資格すら無いの?」
「そういうわけじゃない
君の過去はセバルトに見せて貰ったから知ってる
だからこそ僕は君を止めたいんだ」
シャロンは僕を掴む手を強め、真剣な顔で僕を見る。
「君が本当に彼女を愛しているのなら、
彼女を、犠牲にはしたくないだろう?」
ああ、そうだった。
僕には、あの悪魔がいるんだった。
あの悪魔がいるうちは、僕は彼女を好きになってはいけない。
「本当に彼女のことを思うなら、
もう二度と、彼女には会わない方が良いだろう」
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!!!
やっと会えたのに。
あれほど焦がれた彼女が目の前にいるのに。
諦めるなんて。
もう二度と会わないなんて。
僕にはそんなこと出来ない。
あれから僕は、シャロンに隠れて彼女と何度も会った。
声も、性格も、全てあの日の彼女そのものだった。
あの日は叶えられなかった約束を、今度こそ叶えてみせる。
「王様、ケディスを知りませんか?」
「今頃例の初恋の彼女に会ってる頃だと思うよ」
「ケディスはどうして、あそこまで、
初恋に似てる少女に執着しているのでしょうか」
「多分だけど彼は、やり直したいんだよ」
「やり直したい?」
「そう、待っているはずだった明るい未来のやり直し
ケディスは二度目の初恋をやり直そうとしているんだ」
「ですが、いくら初恋に似てるとはいえ別人ですよ?
初恋とは言えないのではないですか?」
「いいや、初恋だよ
だって彼は、初恋の子に似た女性を好きになったのだから……」
時間よ戻れ、戻ってくれ。
何度懇願しても、時は戻らない。
無情にも時間は進んでいく。
どうして、どうしてよ。
何で僕の力は、止めることや進めることは出来るのに、
戻すことは出来ないんだ。
僕の味方をしてくれたんじゃなかったの?
やっぱり僕は、幸せになってはいけないの?
僕の初恋の人を目の前で殺した悪魔は笑う。
愛してると囁きながら、触れてくる手は気持ち悪かった。
「触るな」
僕が無理やり突き飛ばすと、悪魔は不満そうな顔をする。
まるで僕に愛されることを当然だと言うように。
僕の意志など全く尊重せずに、
勝手に相思相愛だと決めつけて、まとわりついてくる。
気持ち悪い。反吐が出る。
そんな彼女の頭は、乾いた破裂音と共に、
小さな風穴を空けて倒れた。
「流石においたが過ぎるよ、ジルミア
全く、ラミリの妹とは思えないくらい性格に違いがあるね」
眠りねずみに向けて発砲したのはシャロンだった。
手に持っているリボルバーからは硝煙が漂っている。
シャロンは彼女の死体を見ると、悲しそうな顔を見せた。
「…………どうやら間に合わなかったようだね
僕の知り合いが迷惑をかけたね、ケディスくん
これからは君の周りに被害を与えないように、
僕達がしっかりと監視と教育をしておくよ」
「…………ねえ、シャロン」
「何だい、ケディスくん」
「僕は、幸せになってはいけないの?」
「そんなことはないさ
これからは君の幸せを奪わせはしない
それに、もう外の世界に出ようなんて言わないから、
君はいつも通りの生活をすれば良いだけだ」
「…………やっと、初恋の人に会えたのに」
「また探せば良いさ
もし来ないなら待っていれば向こうから来るだろう
僕も君の初恋の人探しを協力するよ」
「……………うん、ありがとう
でも、しばらくは初恋の人探しは良いかな」
「そうか、ならしばらく人探しは中断しようか
そしてゆっくりと、ゆっくりと」
「セリシア・ハーミルのことを忘れていけば良いさ」
【おまけ】時は残酷に刻む 終
僕の世界の全ては、狭い病室だった。
僕の名前はケディス・クロッキー。
外の景色は四角く切り取られた窓から見えているものが全てで、
何度も手を伸ばしては、届かずに諦めた。
「あの子、もう長くないんですって」
「まだ若いのに……可哀想にねぇ」
上っ面だけの同情の声が何度も聞こえた。
何が可哀想だ、本当は可哀想なんて思っていないくせに。
どうせ、こんな可哀想な僕を見ることで、
自分の方がまだマシだと安心したいだけなんだろ?
なあ、正直に言えよ。
僕はお前らのような人間の嘘が大っ嫌いなんだよ。
そんな僕にも、転機が訪れた。
今までの人生で初めての、初恋だった。
初めて見たのは、ベットで眠る彼女の寝顔だった。
寝息も静かで、最初は死んでいるんじゃないかと思ったくらいで、
そして何よりも、綺麗だった。
彼女の名前はセリシア・ハーミル。
物語が好きで、体調が良いときは、
僕に絵本を読み聞かせてくれる優しい女の子。
僕は彼女が大好きで、彼女と一緒の時は、
僕は自分の病気のことも忘れられた。
「僕、頑張って病気治すから
二人とも自由になったら、沢山の景色を見ようね
僕は、セリシアと一緒に生きたい」
「うふふ、それなら私も長生きしないとね
いつか私が元気になったら、色んな所に連れていってね」
「勿論! 約束だよセリシア!」
セリシアとなら、僕はどこにでも行ける。
この病気だって、セリシアがいれば怖くない。
そう思っていた、それなのに……
どうして! どうしてよ! 僕が何をしたの!?
僕はただ、微かな幸せを求めただけなのに!
僕にはそれすらも許されないと言うの!?
眠りねずみと名乗る悪魔は、僕の細やかな幸せを、
無情にも奪っていった。
セリシアはもう、死ぬまで目覚めることはない。
あんなに体調が良かったのは、彼女の願いを
この悪魔が叶えたからだったのか。
代償として、彼女が死ぬまで目覚めない体にして。
「ケディスくん、私はあなたが気に入りました
これから先、私以外の女性を好きにならないで下さいね?」
「何でわざわざ守らないといけないの?
僕は死んでも君のこと、好きにはならないよ?」
「おやおやぁ? 良いんですかぁ?
私以外の女性を好きになれば、
また罪もない人間が犠牲になりますよ?」
「………………君はとんでもなく最低な悪魔だよ、本当に」
僕は幸せになりたいのに、この悪魔が邪魔をする。
その悪夢のような日々は、チェロさんに出会うまで続いた。
チェロさんはとても良い人だ。
でも、恋愛感情は湧かない。
もし恋愛感情を持ったとしても、口にはしない。
だって、そうしてしまえばあの悪魔が来てしまう。
僕の唯一の居場所を。
僕の心の拠り所を壊されてしまう。
これ以上はもう、奪われたくない。
時間は進む。針は時を刻む。
管理人に導かれるように不思議の国に来て、
僕は時を管理する時計鹿となった。
管理人が言うには、僕は時の管理人の立場らしい。
好きに時間を操り、僕がこの国を離れると時が止まる。
時間に対する恨みが強かったからか、
僕は偶然にも時間を操る力を手にいれた。
やっと、やっと時間が僕の味方をした。
今度こそ、今度こそは奪われるものか。
病気から解放された体を見て、複雑な気分になる。
皮肉にも、僕が病気から解放されたのは、
人間をやめてからだった。
「たまには外に出てみたら?」
「やだ」
「即答」
突然スペードの王様、シャロンに呼び出されたと思うと、
僕に外に出た方が良いと提案してきた。
例えシャロンにどんな理由があろうと、
僕はこの国の外に出るつもりはない。
「何でシャロンの言うこと聞かないといけないの?」
「いやあの、君も人間の頃は
自由に景色を見ることすら出来なかっただろう?
だからここの住人になった今なら、
たまに外に行くくらいが良いと思……」
「やだ」
「二度目の外出拒否」
「ケディス、王様に対して失礼だろ
せっかくの王様のご厚意なんだから、
ここは素直に乗るべきだと思うぞ」
「くっくっくっ、この鹿もなかなかに毒舌だねぇ
こいつは将来大物になりそうだ」
「アイン、笑い事じゃないだろう」
多少怒りのこもった声のエクターとは対照的に、
アインは笑いを噛み殺しながら僕を見つめていた。
僕はやっぱりこの人の喋り方は慣れない。
最初はシャロンへの態度の悪さに対して怒っていたのに対し、
突然笑い始める姿はまさしく精神異常者のそれで、
二重人格と聞いた時は、驚きと言うよりも、納得した。
ああ、頻繁に別人のような態度になるのは、
人格がもう一つあったからなのだと。
だけど、僕はこの人にはまだ慣れていない。
今までいなかった人種だったから、接し方が分からない。
まあこの人から話しかけてくることはめったにないし、
基本は二人とも郵便の仕事で多忙だから、何とかなっている。
「時間の管理はガンズに任せるから、しばらく羽を伸ばしてきなよ」
「やだ」
「びっくりするほど頑固だね君」
「僕羽なんて生えてないもん」
「あ、突っ込むのそっちなんだね」
「王様のご厚意だぞ? どうしてそこまで断る必要がある」
「だって、僕が外に出たら……」
また病気が再発するかもしれない。
罪もない人が死ぬかもしれない。
外のことを考えると、どうしてもあの悪魔を思い出す。
僕の幸福を奪っていく悪魔。
細やかな幸せすら許してくれない悪魔。
この国は皆死なないから安心出来るけど、
人間の世界だとそうはいかない。
僕が関われば、どうしても死人が出てしまう。
「別に出ていけとは言ってないんだから、
帰りたくなったらすぐに帰っても良い
僕はただ、君にゆっくり休んで欲しいだけなんだ」
「……………」
「それとも、僕の言うことは信用ならない?
必要なら住人の一人を護衛につけるけど」
「……………それなら、シャロンも来てよ」
「え、僕が?」
「ケディス! それは流石に……」
「良いじゃねえのエクター
一人で心細いみたいだから、今回は許してやろうじゃねえか」
「アイン…………」
「…………うん、良いよ
役に立てるかは分からないけど、君の護衛を務めよう」
「王様!」
「良いんだよ、エクター
心配なのは分かるけどね、いざとなれば自分で何とかするよ」
「……………」
そうして僕は、シャロンと共に外の世界を出た。
そこで僕は出会ってしまった。
彼女に、セリシアにとてもよく似た女の子を。
別人なのは分かっている。
だけど僕は、
手を伸ばさずにはいられなかった。
そんな僕の手を、シャロンが掴む。
「こちら側に引き込む気かい?」
「…………こちら側?」
「そう、こちら側
僕達のような人間ではない者が住む世界のことだよ」
「…………もしそうだと言ったら?」
「全力で止める。何しろ彼女は不思議の国に行く資格が無い」
「どうして、どうしてよ
やっと見つけたんだ、僕の初恋に似た人を
それなのに、どうして諦めなきゃいけないの?
僕には、誰かを愛する資格すら無いの?」
「そういうわけじゃない
君の過去はセバルトに見せて貰ったから知ってる
だからこそ僕は君を止めたいんだ」
シャロンは僕を掴む手を強め、真剣な顔で僕を見る。
「君が本当に彼女を愛しているのなら、
彼女を、犠牲にはしたくないだろう?」
ああ、そうだった。
僕には、あの悪魔がいるんだった。
あの悪魔がいるうちは、僕は彼女を好きになってはいけない。
「本当に彼女のことを思うなら、
もう二度と、彼女には会わない方が良いだろう」
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!!!
やっと会えたのに。
あれほど焦がれた彼女が目の前にいるのに。
諦めるなんて。
もう二度と会わないなんて。
僕にはそんなこと出来ない。
あれから僕は、シャロンに隠れて彼女と何度も会った。
声も、性格も、全てあの日の彼女そのものだった。
あの日は叶えられなかった約束を、今度こそ叶えてみせる。
「王様、ケディスを知りませんか?」
「今頃例の初恋の彼女に会ってる頃だと思うよ」
「ケディスはどうして、あそこまで、
初恋に似てる少女に執着しているのでしょうか」
「多分だけど彼は、やり直したいんだよ」
「やり直したい?」
「そう、待っているはずだった明るい未来のやり直し
ケディスは二度目の初恋をやり直そうとしているんだ」
「ですが、いくら初恋に似てるとはいえ別人ですよ?
初恋とは言えないのではないですか?」
「いいや、初恋だよ
だって彼は、初恋の子に似た女性を好きになったのだから……」
時間よ戻れ、戻ってくれ。
何度懇願しても、時は戻らない。
無情にも時間は進んでいく。
どうして、どうしてよ。
何で僕の力は、止めることや進めることは出来るのに、
戻すことは出来ないんだ。
僕の味方をしてくれたんじゃなかったの?
やっぱり僕は、幸せになってはいけないの?
僕の初恋の人を目の前で殺した悪魔は笑う。
愛してると囁きながら、触れてくる手は気持ち悪かった。
「触るな」
僕が無理やり突き飛ばすと、悪魔は不満そうな顔をする。
まるで僕に愛されることを当然だと言うように。
僕の意志など全く尊重せずに、
勝手に相思相愛だと決めつけて、まとわりついてくる。
気持ち悪い。反吐が出る。
そんな彼女の頭は、乾いた破裂音と共に、
小さな風穴を空けて倒れた。
「流石においたが過ぎるよ、ジルミア
全く、ラミリの妹とは思えないくらい性格に違いがあるね」
眠りねずみに向けて発砲したのはシャロンだった。
手に持っているリボルバーからは硝煙が漂っている。
シャロンは彼女の死体を見ると、悲しそうな顔を見せた。
「…………どうやら間に合わなかったようだね
僕の知り合いが迷惑をかけたね、ケディスくん
これからは君の周りに被害を与えないように、
僕達がしっかりと監視と教育をしておくよ」
「…………ねえ、シャロン」
「何だい、ケディスくん」
「僕は、幸せになってはいけないの?」
「そんなことはないさ
これからは君の幸せを奪わせはしない
それに、もう外の世界に出ようなんて言わないから、
君はいつも通りの生活をすれば良いだけだ」
「…………やっと、初恋の人に会えたのに」
「また探せば良いさ
もし来ないなら待っていれば向こうから来るだろう
僕も君の初恋の人探しを協力するよ」
「……………うん、ありがとう
でも、しばらくは初恋の人探しは良いかな」
「そうか、ならしばらく人探しは中断しようか
そしてゆっくりと、ゆっくりと」
「セリシア・ハーミルのことを忘れていけば良いさ」
【おまけ】時は残酷に刻む 終
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