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第30話(最終話) あなたと歩く日々を、私の物語にしていく
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朝、カーテンの向こうから柔らかな光が差し込んだ。
鳥のさえずりが聞こえるたびに、胸の奥がそわそわと浮き立つ。
(今日が、結婚式の日)
ティナ・ミルフォード——
いや、もうすぐレイヴン公爵家の一員になる私は、
白と淡い銀で縫い上げられた式用のドレスに袖を通していた。
鏡の中の自分は、まるで別人のようだった。
けれど、目だけは変わらない。
「……絵を描く人の目、ですね」
クラリスがぽつりとつぶやいて、背中のリボンを丁寧に締めてくれる。
「うん。今日もちゃんと、私の目で未来を見てる」
「本当に、立派になられました」
「あなたのおかげだよ、クラリス」
クラリスは微笑みながらそっと一礼した。
そしてドアがノックされる。
「準備はいいか?」
その声に、ティナの胸が高鳴る。
「——はい」
式場は、レイヴン家の屋敷の庭園に設けられた特設会場だった。
初夏の風が花を揺らし、木漏れ日が石畳の上を染める。
親族、友人、王宮関係者——
多くの人々が見守るなか、ティナはゆっくりとバージンロードを歩き出した。
隣にいるのは、父。
口数の少ない父が、小さくつぶやいた。
「……お前は、もう立派な“娘”ではなく、“自分の道を歩く人”なんだな」
「……ありがとう、お父さま。
でも私はずっと、あなたたちの娘です」
父の頬が、わずかにほころんだ。
そして——
ジークが、花のアーチの向こうに立っていた。
陽の光を受けた彼は、まっすぐこちらを見て、
それから静かに右手を差し出してくる。
その手を取った瞬間、すべての不安が吹き飛んだ。
「来てくれてありがとう。君が隣にいることが、なにより嬉しい」
「私も……ジークさんと出会えて、本当によかった」
誓いの言葉も、指輪の交換も、祝福の拍手も——
ひとつひとつが、かけがえのない時間として胸に刻まれていく。
「ジーク・レイヴン。あなたはこの女性を、
喜びのときも、悲しみのときも、永遠に愛し、共に歩むことを誓いますか?」
「誓います」
「ティナ・ミルフォード。あなたはこの男性を、
信じ、支え、未来を分かち合うことを誓いますか?」
「……誓います」
言葉を口にした瞬間、
ティナの目にうっすら涙がにじんだ。
これは別れじゃない。
“選んだ人と、新しい日々を始める”という、静かな始まり。
司祭が言う。
「では、おふたりを夫婦として宣言します」
その言葉と共に、ジークはティナを優しく抱き寄せ、
深く、やわらかく、唇を重ねた。
会場に、あたたかな拍手が広がっていった。
式のあと、ふたりは少しだけ抜け出して庭の裏手に向かった。
風がそよぎ、花が揺れ、ひとつ深呼吸すると——
もう涙は乾いていた。
「どう? 夫婦になった実感はある?」
「うーん……まだ少し、夢みたいかも」
ティナは頬を染めて、そっとジークの腕に手を添える。
「でもね、ひとつだけ確かなことがある」
「うん?」
「あなたとなら、どんな風景の中でも、私は筆を持てる。
そして、私の描いた絵に、あなたがいつも映っているって思えるの」
「それはつまり、君の人生に、ずっと一緒にいるってことだね」
「そう。あなたと歩く日々が、私の物語になるの」
ジークはティナを見つめ、
彼女の手を取り、額にそっと口づけた。
「それなら、僕は毎日、物語の中の君を守っていくよ。
誰よりも君の一番の理解者として、君のそばにいる」
ふたりは手を繋いだまま、もう一度空を見上げた。
青空の下、まるで新しいページが開かれるように——
風が、ふたりの前をやさしく駆け抜けていった。
鳥のさえずりが聞こえるたびに、胸の奥がそわそわと浮き立つ。
(今日が、結婚式の日)
ティナ・ミルフォード——
いや、もうすぐレイヴン公爵家の一員になる私は、
白と淡い銀で縫い上げられた式用のドレスに袖を通していた。
鏡の中の自分は、まるで別人のようだった。
けれど、目だけは変わらない。
「……絵を描く人の目、ですね」
クラリスがぽつりとつぶやいて、背中のリボンを丁寧に締めてくれる。
「うん。今日もちゃんと、私の目で未来を見てる」
「本当に、立派になられました」
「あなたのおかげだよ、クラリス」
クラリスは微笑みながらそっと一礼した。
そしてドアがノックされる。
「準備はいいか?」
その声に、ティナの胸が高鳴る。
「——はい」
式場は、レイヴン家の屋敷の庭園に設けられた特設会場だった。
初夏の風が花を揺らし、木漏れ日が石畳の上を染める。
親族、友人、王宮関係者——
多くの人々が見守るなか、ティナはゆっくりとバージンロードを歩き出した。
隣にいるのは、父。
口数の少ない父が、小さくつぶやいた。
「……お前は、もう立派な“娘”ではなく、“自分の道を歩く人”なんだな」
「……ありがとう、お父さま。
でも私はずっと、あなたたちの娘です」
父の頬が、わずかにほころんだ。
そして——
ジークが、花のアーチの向こうに立っていた。
陽の光を受けた彼は、まっすぐこちらを見て、
それから静かに右手を差し出してくる。
その手を取った瞬間、すべての不安が吹き飛んだ。
「来てくれてありがとう。君が隣にいることが、なにより嬉しい」
「私も……ジークさんと出会えて、本当によかった」
誓いの言葉も、指輪の交換も、祝福の拍手も——
ひとつひとつが、かけがえのない時間として胸に刻まれていく。
「ジーク・レイヴン。あなたはこの女性を、
喜びのときも、悲しみのときも、永遠に愛し、共に歩むことを誓いますか?」
「誓います」
「ティナ・ミルフォード。あなたはこの男性を、
信じ、支え、未来を分かち合うことを誓いますか?」
「……誓います」
言葉を口にした瞬間、
ティナの目にうっすら涙がにじんだ。
これは別れじゃない。
“選んだ人と、新しい日々を始める”という、静かな始まり。
司祭が言う。
「では、おふたりを夫婦として宣言します」
その言葉と共に、ジークはティナを優しく抱き寄せ、
深く、やわらかく、唇を重ねた。
会場に、あたたかな拍手が広がっていった。
式のあと、ふたりは少しだけ抜け出して庭の裏手に向かった。
風がそよぎ、花が揺れ、ひとつ深呼吸すると——
もう涙は乾いていた。
「どう? 夫婦になった実感はある?」
「うーん……まだ少し、夢みたいかも」
ティナは頬を染めて、そっとジークの腕に手を添える。
「でもね、ひとつだけ確かなことがある」
「うん?」
「あなたとなら、どんな風景の中でも、私は筆を持てる。
そして、私の描いた絵に、あなたがいつも映っているって思えるの」
「それはつまり、君の人生に、ずっと一緒にいるってことだね」
「そう。あなたと歩く日々が、私の物語になるの」
ジークはティナを見つめ、
彼女の手を取り、額にそっと口づけた。
「それなら、僕は毎日、物語の中の君を守っていくよ。
誰よりも君の一番の理解者として、君のそばにいる」
ふたりは手を繋いだまま、もう一度空を見上げた。
青空の下、まるで新しいページが開かれるように——
風が、ふたりの前をやさしく駆け抜けていった。
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