前世では地味なOLだった私が、異世界転生したので今度こそ恋愛して結婚して見せます

ヤオサカ

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第11話「訪れた朝」

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 朝の光が差し込む静かな部屋。
 フィオーレ・アメリアは鏡の前に立ち、じっと自分の顔を見つめていた。

「……ひどい顔ね。」
 
 思わず苦笑する。
 
 観劇が中止になってから三日。期待に膨らんでいた心がぽっかりと空いてしまい、夜もよく眠れず過ごしていた。
 ほんのりと目の下に影を落とした顔を見て、こんなにも楽しみにしていたのかと改めて驚く。
 
 それほどまでに、レオナード様との時間を心待ちにしていたの?
 前世ではこんな感情を抱いたことはなかった。
 誰かと恋愛をしたい——心からそう思っている自分に戸惑いつつも、変われていることが嬉しかった。
 かつては、自分の気持ちを閉じ込めることの方が多かった。
 けれど今は違う。
 ちゃんと誰かを想い、胸を高鳴らせる日々がある。
 
 ふと、扉がノックされた。

「お嬢様、朝食の準備ができました。」
 
 侍女のクラリスの声だった。

「……ありがとう。」
 
 あまり食欲はないままだったが、フィオーレはゆっくりと身支度を整え、食堂へ向かう。
 
 
 だが、その途中でクラリスが戸惑ったような顔で言った。

「お嬢様……。騎士団長のレオナード様が、屋敷にお越しです。」
「——え?」
 
 予想もしていなかった言葉に、思わず足が止まる。

「こんな朝早くに……?」
 
 訪問の知らせもなかったのに。
 何か急用だろうか。
 
 フィオーレは戸惑いつつも玄関へ向かった。
 
 扉の前に立ち、深呼吸をしてゆっくり開くと——。
 そこには、申し訳なさそうな表情のレオナード・ヴェルシウスが立っていた。

「……おはようございます、フィオーレ嬢。」
 
 低く響く声。
 彼はほんの少し目を伏せながら続ける。

「突然の訪問、申し訳ない。あなたに謝りたくて来た。」
 
 フィオーレは驚きながらも、静かに彼の言葉を待った。

「詳しくは話せないが、急遽護衛の任務が入り、どうしても観劇に行けなくなってしまった。約束を果たせず、本当に申し訳ない。」
 
 レオナードは深く頭を下げた。

「それに……私の仕事のことを気遣ってくれたことも、感謝している。」
 
 その言葉に、フィオーレの胸がじんわりと温かくなった。
 
 デートが中止になっただけなのに、彼はわざわざ朝早く訪ねてきて、こうして誠実に謝罪をしている。
 その姿勢が、彼らしいと思えた。

「レオナード様……。」
 
 フィオーレはそっと微笑んだ。

「どうか、気にしないでください。騎士団のお仕事は大切なものですし……それに、また機会はありますもの。」
 
 レオナードはじっと彼女を見つめ、少し頷いた。
 
 その時、ふとフィオーレの頭にひらめきが訪れた。

「ところで……レオナード様は、今朝の食事は済まされていますか?」
「……?」
 
 レオナードはわずかに目を丸くした。

「いいえ、まだだ。」
「でしたら、一緒に朝食をいかがでしょうか?」
 
 フィオーレの言葉に、レオナードはしばらく沈黙した。

「……私が?」
「ええ。朝早くから訪ねてくださったのだから、ぜひご一緒に。」
 
 フィオーレは微笑んだ。
 
 一瞬、彼の瞳が揺れる。
 けれど、次の瞬間には落ち着いた声で言った。

「……では、お邪魔させてもらう。」
 
 思いがけない展開に、フィオーレの心が弾んだ。
 
 それと同時に、鏡の前で自分の顔を見たときのことを思い出す。
 ーークマがあること、レオナード様に気づかれないかしら?
 ふと心配になるが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
 彼との朝食——それは、決して予定にはなかったひと時だけれど、今は何よりも楽しみだった。
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