カガスタ!~元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト~

中務 善菜

文字の大きさ
23 / 123
第三章:正々堂々

18:皇帝と騎士

しおりを挟む
 私はいま、商店街にいる。バーバラさんから夕飯の買い出しを頼まれたのだ。パスタ、ベーコン、にんにく……あと、生クリーム? カルボナーラでも作るのかな、地球とは家庭料理に差はないみたい。

 商品をぱっぱと籠に突っ込み、レジへ向かう。人の良さそうなお兄さんが、私を見るなり笑顔を見せてくれた。

「ああ、リオちゃん。いらっしゃい」

「こんにちは、これお願いします」

 籠を差し出すと、お兄さんは慣れた手付きで勘定を進める。他愛のない世間話をしながらでも手は止まらないものだ。勤めて長いのかな、器用なものだと思う。

 現在、春明の十六日。私が記憶を取り戻してから一週間が経った。地球基準で言えば、だ。この世界では十日間が一週間だという。一つの季節が九十日なので、三六週間で一年、というわけだ。週刊誌が三六冊と考えると、少し少なく感じてしまう。

 あれから少しずつ、一人で動くことが増えてきた。だからだろうか、街の人も顔を覚えてくれているようだ。いろんな場所でいろんな人と出会ってきたが、アイドルの原石と思えるような人にはいまだ巡り合えていない。せいぜいギルさんくらいだ。

 会計を済ませ、ケネット商店に戻る。その途中、白い鎧を着た人たちを多く見かけた。騎士様だろう、ここ最近になって増えてきたように思える。巡回でもしているのだろうか? なにか良くないことでも起こるのかな……?

 買い物袋を下げながらすれ違う騎士様に一礼。彼らは仕事中だ、敬意を払って然るべき。なにかが起こるのであれば、私のような力のない人間は彼らに頼らざるを得ないからだ。

「なあ、聞いてるか? 巡回の理由」

「アベル前陛下の指揮下にあった騎士たちが妙な企てをしていると聞いたが……実際のところ、俺たち末端には詳細な理由は明かされていないな」

「アベル前陛下は好戦的なお方だったからな……カイン陛下は侵略よりも外交に重きを置いているから、血の気の多い奴らは納得いかないんだろう」

 陛下。ミカエリアを――ひいてはこの国を統治する者の名前。そういえば、ミカエリアはこの街の名前だったっけ。それに、カインとアベルという名前も気になる。一人の帰り道であれば遠慮することはないだろう。

「スタートアップ。“カイン アベル”」

 これで情報が引き出せるだろうか。皇帝陛下のことだ、多少は記述が存在すると思う。見つかった情報は、皇族――レッドフォード家の家系図だった。こんなものまで調べられるんだ、本当に、悪いことには使わないようにしよう。

 アベルとカインは兄弟だったようだ。アベルが第一子、正統後継者ということだろう。カインは彼の弟で、いまの皇帝ということか。でも、どうしてカインが皇位を継承できたの? アベルはいまなにをしている? 調べていくにつれて――私は言葉を失った。

「アベルは不審死……?」

 それは去年の秋宵あきよいのこと。アベルは寝室で亡くなっていたという。心臓にナイフが突き立っていたそうだ。だが、妙な話だ。皇帝陛下の寝室だ、護衛の一人もつけないなんてことがあるのか? 護衛がついていたとしたら、どうやって掻い潜った?

 謎は解決しないまま、彼の弟にして宰相でもあったカインが即位したようだ。そして、元々カインが務めていた役職は、経歴不明の男性が担うことになったようだ。名前はイアン・メイナード。年齢は二一歳。かなり若い。というか、カインと同い年だ。経歴が不明というのも気になる。いったいどこで知り合ったんだろう?

「……いまの騎士様も新しく組織されてる……」

 これは道すがら聞こえてきた話と同じものだ。アベル前皇帝が指揮を執っていた騎士は他国への侵略に積極的だったという。けれどカインが即位してから、騎士団は一度解体。その後、彼とイアンの選定により、治安の維持に特化した現在の騎士団が生まれたようだ。

 攻撃的な思想の騎士様は軒並み職を失い、路頭に迷っているという。幾らなんでも急すぎる気がする。だってこれ、現代社会で例えたら社長が変わって経営方針に合わない社員をまとめてリストラするのと同じだよね。考えただけで身の毛がよだつ。

「リオー!」

 おののく私の視界に、元気よく走る少年の姿が飛び込んできた。改めて思うけど、本当に子犬みたいだな。可愛い。口元が緩みかけていることに気付き、慌てて表情を殺す。というか、彼はまだ仕事中だったはず。駆け付けたアレンくんに笑顔を向ける。

「アレンくん、お仕事は?」

「上がらせてもらったんだ、それ持つよ」

 私が持つ買い物袋をひょいと自分の手に。天然なのかな、こういうのを自然とできるのは偉いね。いい男になるよ、きみは。

「あはは、ありがとう。迎えに来てくれたんだね」

「リオを手伝ってあげてって駆り出されたんだ、結構たくさん頼まれたでしょ?」

「うん、助かったよ。私も少し持つから、一緒に帰ろっか」

 アレンくんから少し買い物袋を分けてもらい、二人で帰路に着く。こういうの、学生時代に経験したかったなぁ。若い頃の気持ちなんてもう取り戻せないもんね。思春期に後悔はないけど、もし人並みに恋愛とかしてたら、また違う人生だったのかなぁとは思う。

 どっちにしろ、アイドルにハマってたとは思うけど。つい苦笑する。アレンくんが不思議そうに顔を覗き込んできた。本当に可愛い子だな、きみは。

「リオ、どうしたの? 大丈夫?」

「大丈夫だよ。最近、騎士様が多いからちょっと物騒だなって思っただけ」

「ああ、確かに……なにかあったのかな。犯行予告とか?」

「……“ミカエリアの犯行予告”、かぁ」

 不自然ではなかったのか、アレンくんは「わかんないけどね」と笑った。“データベース”がまだ起動中だったこともあり、わざと間を入れたのだ。ミカエリアの犯行予告、が検索ワードとして入力され、情報が引き出される。

 しかし該当する情報は私が記憶を取り戻す以前のものばかり。それも一年や二年じゃない、もっと前のものだ。犯行予告、というワードでは「犯行予告として取り扱われ、記録されたもの」しか該当しないのかもしれない。

 道中も巡回の騎士様を見かける。二人一組で当たっているようで、会話の内容も耳に飛び込んでくる。

「そうだ、先日保護した少年の容体は?」

「城内で養生している。身元不明だが、あんな痛ましい姿を見て見て見ぬ振りはできなかったのだろう」

 退屈なのかどうかはわからないが、不注意過ぎやしないか。会話の内容が騎士団内部の話だったから、聞こえてしまって少し罪悪感。

 話を聞く限り、少年が暴行に遭ったようだ。こんな世界観だし、あり得ることなのかもしれないけど、胸が痛む。騎士様が治安の維持に貢献しているのは当然なのだろうけど、それでも手が届かない場所があるということだろうか。

 ――そういえば、エリオットくんは大丈夫かな。

 結局、あの日から彼の姿を見ていない。孤児院には何度か顔を出したけど、エリオットくんの姿はなかった。きっとお姉さんを探して旅立ったのだと思う。

 でも、もし、保護された少年が彼だったらどうしよう。幽霊のようだったから、他人に干渉されることはないと思うけど……。

「――リオ、大丈夫?」

「え、あ……ごめんね、ちょっと上の空だった」

 不安が顔に出ていただろうか、心配そうな面持ちのアレンくん。体は少女と言えど、心は大人のままなのだ。若い子の前ではクールにいなければ。笑顔で返すが、信用させるには至らなかったようだ。恥ずかしい。

「美味しいもの食べたらすぐ大丈夫になるよ。バーバラさんの手料理にいつも元気貰ってるよ」

「……それなら、いいんだけど」

 全然良くなさそう。でも、私がいいって言ったから、これ以上触れてこなかったんだよね。人のこと考えられるいい子だね、きみは。うちには体育会系の先輩がいてね、断っても断っても飲みに誘う人だったよ。酒の席で語らえば分かり合えるとか言ってさ。そりゃあんたが一人で居酒屋入りたくないからってだけでしょうがって思われてたよ。

 ちゃんと人の気持ちを汲み取れるきみは、きっといい男になるよ。私はいったいどこからの目線でいる気なのか。

 お店に帰るまでの間、奇妙な沈黙が続いたままだった。アレンくんとしては気まずさがあったのだと思う。気遣わせてごめんね。私は大丈夫だからね。本当に、日本の中高生にお手本として紹介したいくらいだ。

 お父さん、お母さん。異世界の思春期は人ができています。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王山田、誠実に異世界を征服する

nexustide400
ファンタジー
■概要 この作品はAIの力を借りて制作している長編の異世界群像劇です。 各話に連動したイラスト・BGMの他、動画・地図も作っています。(文末参照) ハーレム要素なし。登場人物は100人超。 第二部以降は第一部に比べて物語の温度がかなり変わりますので予めご了承下さい。 ■更新日:火・金・日(余裕があれば+木) ■お礼 数ある作品の中から読んでいただき、ありがとうございます。 ■構成と進捗 全四部構成で完結予定(200話以内に収まる予定でしたがプロット膨張中) 第一部《魔王VS勇者》編:1~90話(投稿済) 第二部《転生者VS??》編:91話~ 第三部《魔王VS??》編 第四部《魔王VS??》編 ※64話:重要エピソード ■AIを使っている部分(第一部:GPT 第二部:Gemini) ・プロット :100%自分 ・セリフ  :ほぼ自分 ・地の文  :AIが手直し ・校正   :AIと共同作業 ・世界観  :AIと共同設計 ・各種検証 :AIに依頼(設定や論理の確認など) ■その他 ・初の小説制作です。 ・小説家になろう・カクヨムにも同時投稿しています。 ■各話連動イラスト、イメージイラスト https://www.deviantart.com/nexustide400/gallery/97371975/isekai-demon-lord (DeviantArt内のGallery) ■各話連動BGM、イメージ動画 https://www.youtube.com/playlist?list=PLvwobsX9rAWxC8OC8ZUYrBphJrw8UaZvE (YouTube内の再生リスト) ■地図 【ランドア大陸南東マップ】https://www.deviantart.com/nexustide400/art/Isekai-Demon-Lord-163-1268207015 【ランドア大陸東部マップ】https://www.deviantart.com/nexustide400/art/Isekai-Demon-Lord-164-1268366391 【ランドア大陸北東マップ】https://www.deviantart.com/nexustide400/art/Isekai-Demon-Lord-165-1268366603 【ランドア大陸西部マップ】https://www.deviantart.com/nexustide400/art/Isekai-Demon-Lord-171-1270214638 (DeviantArt内の画像URL)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

リストラされた42歳、確率の向こう側へ。~なぜか俺の選択肢がすべて正解になる件~

RIU
ファンタジー
「君には今月いっぱいで席を空けてもらいたい」 42歳、独身、社畜。会社のために尽くしてきた柏木誠は、理不尽な理由でリストラされた。 絶望の中、雨の神社で野良猫を助けた彼は、不思議な光と共に【確率固定】という異能――「無意識に正解を選び続ける豪運」を手に入れる。 試しに買った宝くじは10億円当選。 復讐心に燃える元上司を袖にし、元天才投資家の美女をパートナーに迎えた柏木は、その豪運で現代社会を無双していく。 「俺の選択に間違いはない。なぜなら、確率の方が俺に合わせるからだ」 枯れたおじさんが資産と余裕を手に入れ、美女たちに頼られながら、第2の人生を謳歌する痛快サクセスストーリー!

処理中です...