カガスタ!~元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト~

中務 善菜

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第四章:一世一代の商談

幕間15:僕を否定できるとしたら

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「あれ、ミランダ。いつの間に帰ってきていたんだい?」

 休憩と言って外に出て行ったミランダはロビーの片隅に設置された椅子に腰かけていた。彼女は僕の声に驚いたのか、微かに肩を跳ねさせる。なにかやましいことでもあるのかな?

「おう、ちょっと休んでた」

「そう。顔色が良くないけれど、なにかあったのかな?」

「あの日の嬢ちゃんが来てたから喋ってたんだよ」

 リオのことだろうか? こんなところになんの用だったんだろう。ミランダの追っかけというわけでもなさそうだったし、見学でもしたかったのかな。もしくは――僕を口説きに来たか。

「ふふ、人気者はつらいね。旅人と言えど“スイート・トリック”の花形とはなにかしら接点を持ちたかったと見える」

「ほんとにな。たまたま居合わせちまったのもあるし、ちょっとしたファンサみたいなもんだよ」

「余念がないね。だからこそ、きみはこの一座で無二の存在であると言えるんだろう」

「お褒めに与り光栄です。さ、稽古に戻るぞ」

 立ち上がり、そそくさと稽古場に戻ろうとするミランダ。なにかある。大方、僕を音楽グループに誘うための口利きでもしていたのだろう。人の力を借りるような小賢しい子でもないと思っていたけれど……まあ、そういうものか。

 自分で言うのもどうかとは思うが、エルフは確かに見目麗しい種族ではある。自ら接点を持とうとするのも勇気がいるのだろう。けれどそれは、僕にとって喜ばしいことではない。

 ――だとしたら、僕はいったいなにを望んでいるんだろうね。

 人伝に触れられるのが嫌、かといって直接深い関係を築くのも嫌。僕が他人に求めるものって、なんなんだろう。放っておいてほしい? 違う。その場限りの関係でいたい? それも違う。答えなんて最初から出ているんだ。僕がそれを選ばないだけで。ギルにご高説を垂れる資格なんて、僕にはなかったみたいだ。

「……帰る場所は要らない」

 言い聞かせるように呟く。そう、僕は故郷を追われた。帰る場所なんて、もう必要ない。旅を続けて、世界のどこかで一人朽ち果てる。それでいい。

 ――本当に?

 僕を否定するのは、聞き覚えのある声。忘れようとして、忘れられず、優しく鼓膜を撫でる愛らしい声だった。

 本当かどうかなんてくだらない質問だ。一人で逝くことが僕の望み? そんなわけがない。僕の本当の願いは、エルフの血が流れている以上叶うことがないものだ。

 諦めるしかないんだ。人間と共に在れるのは、ながい人生のほんの刹那。想いが募れば募るほど、別れが怖くなる。

 人間のように儚い命だったなら、こんなことを恐れずに済んだのにね。どうにもならないことに恨み言を吐くのは、あの日止めた。僕がエルフとして産み落とされた以上、その運命に抗うのは馬鹿げている。別れを前提とした交友関係なんて、虚しいだけじゃないか。

 だから僕は留まらない。根を下ろせば、蓄えた葉が枯れていく様を見守るしかない。帰る場所なんて作っても、そのうち廃墟になるんだ。

 僕の愛は僕を悲しませる。それなら深く繋がらず、上辺だけの関係を多く持っていた方が気が紛れる。別れを約束された親密さと、別れを恐れずに済む薄っぺらさ。どちらが寂しいかなんて比べるまでもない。

「……っ」

 ぐらりと頭が揺れる。考えもまとまらない。当然か。心は頭で制御できるものでもない。幾ら頭を理屈を捏ねたって、心を納得させるには至らない。僕の頭が悪いからか、あるいは――僕自身が、僕を否定したいのか。

 もうわからない。僕はいったい、どこへ行くのか正解なんだろう。いままで旅路に迷ったことなんて一度もなかった。こんなことで悩むなんて、どうかしている。なににほだされたんだか。ため息を吐く。頭蓋骨の内側で反響する苦悩を吐き出すように。

「おい、続きやるぞ! いつまで休んでんだ!」

「はいはい、仰せのままに」

 先に休んだのはどこの誰だっけ。苦笑を浮かべ、稽古場に戻る。

 考えるのは終わりだ。どうせこの先も皆の死を脇目に生きていく。ミランダも、ギルも、リオも、ほんのひと時しか関わらない。その程度の関係だ。そう思わないとつらくなる。

 ーーもし、僕が僕を否定できるとしたら。僕を変えてくれるのは、彼女たちだろう。そう思うのは、身勝手かもしれないけれど。

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