カガスタ!~元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト~

中務 善菜

文字の大きさ
106 / 123
第六章:役割

77:荒ぶる波

しおりを挟む
 イアンさんも出て行ったことだし、私は私で“データベース”を使うことにした。そのためには予期せぬプレゼント――アミィの力が必要だった。部屋に戻ると、アミィは退屈そうにベッドでごろごろしていた。

 私の部屋だけど、大した我が物顔だ。自由奔放なデバイスちゃんは私を見るなり駆け寄ってくる。足が短い割に結構早いな。

「オカエリ!」

「あ、うん、ただいま……えっと、お願いがあるんだけど……」

「なにー?」

「さっき“スキャン”した情報を出力したいんだけど、できるかな?」

「デキる! ハイ!」

 元気なお返事、とてもよろしい。でも、どうして右手……右足? 二足歩行だから右手か。手を私に差し出すのかな。握手しろってこと? 恐る恐る手を取ると、微かに電流が走った気がした。アミィの体が淡い光を帯びる。

『“スキャン”により得た情報を出力しますか?』

「うわ、なにこれ頭の中に入ってくる……えーっと、はい」

『なうろーでぃんぐ……』

 気の抜けた声だなぁ、などと思っているとアミィの様子に変化があった。口が横一文字に広がり、機械音が聞こえる。まさかそんな形で出力されるの? 

 案の定、アミィの口から用紙が排出された。プリンターだ。サイズもA4程度、申し分ない。ないんだけど、もうちょっと見栄えを気にかけてほしかった。これも霊魂案内所に文句言えばいいのかな。

 人数分、排出が終わる。アミィはぐったりと地べたに寝そべった。充電とか必要なのかな、この子。背中を見てもコンセントや電源コードはない。この世界に適したデザインになっているなら、そりゃそうか。

「ありがとう、お疲れ様」

「うい~、アミィちゃんツカれたよ……」

「よしよし、少し休もうね。って、どうすればいいんだろう」

「ぎゅ~ってすればダイジョブ……」

「はぇ、そんなことでいいの?」

 冷静に考えれば、アミィは“データベース”専用のデバイスだ。本体から充電するという発想ならばおかしなことはなにもない。私の体力と相談ってことになるのかな?

 そういえば、調べたり視たりするのにエネルギーは消費しないの? 使っていても疲れたと感じることはないし、無制限に使えるんだとしたら大した力だ。本当、なんでミチクサさんがあんなに渋ったのかわからない。

 ひとまずはベッドに寝転がり、アミィを抱き締める。デバイスというから機械的な無機質さがあると思ったけど、意外と気持ちいい。哺乳類の温もりを感じる。おまけに柔らかい。やば、私も眠くなってきた……。

 危険を感じたのも束の間、私の意識は包み込まれるように溶けていった。

 =====

「……ん、ふわぁ……寝ちゃってた、いま何時……?」

 意識が戻った頃には、もう日も暮れる時間帯だった。イアンさん、戻ってきてるかな? アミィはまだ私の腕の中で寝息を立てている。起こさないようにそっとベッドに寝かせて事務所へ向かう。

 まだ暗くはない。廊下の窓から覗く空は相変わらず重たいものの、どこか赤味を帯びていた。春暮に突入したわけだけど、これから少しずつ暖かくなっていくのかな? 全然そんな気がしない。

「……うん? あれ?」

 事務所の扉が開け放たれている。イアンさん、いるのかな? それともまさか……泥棒? いやいや、ここはお城の敷地内ですよ。盗人が侵入できるはずがない。

 こっそりと中を覗くと、なんとびっくり。陛下がいた。こちらに背を向けて、イアンさんと話している。いったいなんの話だ……? っていうか、不用心過ぎる。私に聞こえちゃってもいい話なのかなこれ。野次馬根性が悪さをして、つい耳をそばだてる。

「それで? 成功の見込みはあるのかい?」

「あいつが選んだメンバーだ、なんとかなるだろう」

「なんとかなるじゃ困るんだ。僕の面子にも関わってくるからね。それに、彼女が選んだ人員にどうしてきみがいるのか不思議でならないよ」

「んなもん、俺だってわからんわ」

 ごめんなさい、最終手段でした。適性自体はあるみたいだし、これからトレーナー次第でいくらでも輝けると思います。

「指導者の勧誘は全滅したんだろう? どうやって歌やダンスの稽古をつける気だい? 当てはあるの?」

「……現状、ない」

 ぜ、全滅でしたか……そうですか……となると、本当に私が動くべきだな。イアンさんは悪くない、アイドルという文化が未知のものだから。

 この世界にアイドルの魅力を知っているのは私しかいないのだ、依頼された側だって二の足を踏むのは当たり前。彼の厚意に甘んじていたことを思い知る。

「結構な額を支援してきたけれど、期限を定めなかったのは僕の失敗だったね。夏までに芽が出なかった場合、いままで支援した分を全て返してもらおうか」

 別れ際に「いままでのデート代を返せ!」とのたまう元カレか、と思ってしまった。

 いや違う、そこはどうでもいい。一国の主が言う「結構な額」なんて絶対私の想像より二桁は多い。それをイアンさんが支払うって……? 発破をかけるにしても、圧力のかけ方がえげつない。弊社の上司がマシに見えるレベルだ。

「……わかった。一生かけて返す」

 あの人、なにもわかってない。いわゆる倒産ですよ、二つ返事でそんなことを言うもんじゃありません。冷や汗が止まらない。これ、見つかる前に立ち去った方がいいね……?

 抜き足差し足忍び足、社畜時代の居た堪れなさを思い出せ。静かに、それでいて最速で現場を離れる。背後を見ても、部屋から出てくる気配はなかった。

 自室に戻り、緊張を一気に吐き出す。彼らの話を聞いて、私にとっても絶対に失敗できないものとなった。いまは無根拠に成功するなんて思えない。

 イアンさんの人生が詰むのは避けたい。道連れのようなものだから。となれば、成功を確約できる良質なトレーナーが必要だ。けれど、そんな当てがどこにある?

「はあ……」

 たまらず、ため息。先行きはいつだって安定しない。第二の人生、本当に波乱万丈だな……刺激が強すぎる、いろんな意味で……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

処理中です...