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第六章:役割
77:荒ぶる波
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イアンさんも出て行ったことだし、私は私で“データベース”を使うことにした。そのためには予期せぬプレゼント――アミィの力が必要だった。部屋に戻ると、アミィは退屈そうにベッドでごろごろしていた。
私の部屋だけど、大した我が物顔だ。自由奔放なデバイスちゃんは私を見るなり駆け寄ってくる。足が短い割に結構早いな。
「オカエリ!」
「あ、うん、ただいま……えっと、お願いがあるんだけど……」
「なにー?」
「さっき“スキャン”した情報を出力したいんだけど、できるかな?」
「デキる! ハイ!」
元気なお返事、とてもよろしい。でも、どうして右手……右足? 二足歩行だから右手か。手を私に差し出すのかな。握手しろってこと? 恐る恐る手を取ると、微かに電流が走った気がした。アミィの体が淡い光を帯びる。
『“スキャン”により得た情報を出力しますか?』
「うわ、なにこれ頭の中に入ってくる……えーっと、はい」
『なうろーでぃんぐ……』
気の抜けた声だなぁ、などと思っているとアミィの様子に変化があった。口が横一文字に広がり、機械音が聞こえる。まさかそんな形で出力されるの?
案の定、アミィの口から用紙が排出された。プリンターだ。サイズもA4程度、申し分ない。ないんだけど、もうちょっと見栄えを気にかけてほしかった。これも霊魂案内所に文句言えばいいのかな。
人数分、排出が終わる。アミィはぐったりと地べたに寝そべった。充電とか必要なのかな、この子。背中を見てもコンセントや電源コードはない。この世界に適したデザインになっているなら、そりゃそうか。
「ありがとう、お疲れ様」
「うい~、アミィちゃんツカれたよ……」
「よしよし、少し休もうね。って、どうすればいいんだろう」
「ぎゅ~ってすればダイジョブ……」
「はぇ、そんなことでいいの?」
冷静に考えれば、アミィは“データベース”専用のデバイスだ。本体から充電するという発想ならばおかしなことはなにもない。私の体力と相談ってことになるのかな?
そういえば、調べたり視たりするのにエネルギーは消費しないの? 使っていても疲れたと感じることはないし、無制限に使えるんだとしたら大した力だ。本当、なんでミチクサさんがあんなに渋ったのかわからない。
ひとまずはベッドに寝転がり、アミィを抱き締める。デバイスというから機械的な無機質さがあると思ったけど、意外と気持ちいい。哺乳類の温もりを感じる。おまけに柔らかい。やば、私も眠くなってきた……。
危険を感じたのも束の間、私の意識は包み込まれるように溶けていった。
=====
「……ん、ふわぁ……寝ちゃってた、いま何時……?」
意識が戻った頃には、もう日も暮れる時間帯だった。イアンさん、戻ってきてるかな? アミィはまだ私の腕の中で寝息を立てている。起こさないようにそっとベッドに寝かせて事務所へ向かう。
まだ暗くはない。廊下の窓から覗く空は相変わらず重たいものの、どこか赤味を帯びていた。春暮に突入したわけだけど、これから少しずつ暖かくなっていくのかな? 全然そんな気がしない。
「……うん? あれ?」
事務所の扉が開け放たれている。イアンさん、いるのかな? それともまさか……泥棒? いやいや、ここはお城の敷地内ですよ。盗人が侵入できるはずがない。
こっそりと中を覗くと、なんとびっくり。陛下がいた。こちらに背を向けて、イアンさんと話している。いったいなんの話だ……? っていうか、不用心過ぎる。私に聞こえちゃってもいい話なのかなこれ。野次馬根性が悪さをして、つい耳をそばだてる。
「それで? 成功の見込みはあるのかい?」
「あいつが選んだメンバーだ、なんとかなるだろう」
「なんとかなるじゃ困るんだ。僕の面子にも関わってくるからね。それに、彼女が選んだ人員にどうしてきみがいるのか不思議でならないよ」
「んなもん、俺だってわからんわ」
ごめんなさい、最終手段でした。適性自体はあるみたいだし、これからトレーナー次第でいくらでも輝けると思います。
「指導者の勧誘は全滅したんだろう? どうやって歌やダンスの稽古をつける気だい? 当てはあるの?」
「……現状、ない」
ぜ、全滅でしたか……そうですか……となると、本当に私が動くべきだな。イアンさんは悪くない、アイドルという文化が未知のものだから。
この世界にアイドルの魅力を知っているのは私しかいないのだ、依頼された側だって二の足を踏むのは当たり前。彼の厚意に甘んじていたことを思い知る。
「結構な額を支援してきたけれど、期限を定めなかったのは僕の失敗だったね。夏までに芽が出なかった場合、いままで支援した分を全て返してもらおうか」
別れ際に「いままでのデート代を返せ!」と宣う元カレか、と思ってしまった。
いや違う、そこはどうでもいい。一国の主が言う「結構な額」なんて絶対私の想像より二桁は多い。それをイアンさんが支払うって……? 発破をかけるにしても、圧力のかけ方がえげつない。弊社の上司がマシに見えるレベルだ。
「……わかった。一生かけて返す」
あの人、なにもわかってない。いわゆる倒産ですよ、二つ返事でそんなことを言うもんじゃありません。冷や汗が止まらない。これ、見つかる前に立ち去った方がいいね……?
抜き足差し足忍び足、社畜時代の居た堪れなさを思い出せ。静かに、それでいて最速で現場を離れる。背後を見ても、部屋から出てくる気配はなかった。
自室に戻り、緊張を一気に吐き出す。彼らの話を聞いて、私にとっても絶対に失敗できないものとなった。いまは無根拠に成功するなんて思えない。
イアンさんの人生が詰むのは避けたい。道連れのようなものだから。となれば、成功を確約できる良質なトレーナーが必要だ。けれど、そんな当てがどこにある?
「はあ……」
たまらず、ため息。先行きはいつだって安定しない。第二の人生、本当に波乱万丈だな……刺激が強すぎる、いろんな意味で……。
私の部屋だけど、大した我が物顔だ。自由奔放なデバイスちゃんは私を見るなり駆け寄ってくる。足が短い割に結構早いな。
「オカエリ!」
「あ、うん、ただいま……えっと、お願いがあるんだけど……」
「なにー?」
「さっき“スキャン”した情報を出力したいんだけど、できるかな?」
「デキる! ハイ!」
元気なお返事、とてもよろしい。でも、どうして右手……右足? 二足歩行だから右手か。手を私に差し出すのかな。握手しろってこと? 恐る恐る手を取ると、微かに電流が走った気がした。アミィの体が淡い光を帯びる。
『“スキャン”により得た情報を出力しますか?』
「うわ、なにこれ頭の中に入ってくる……えーっと、はい」
『なうろーでぃんぐ……』
気の抜けた声だなぁ、などと思っているとアミィの様子に変化があった。口が横一文字に広がり、機械音が聞こえる。まさかそんな形で出力されるの?
案の定、アミィの口から用紙が排出された。プリンターだ。サイズもA4程度、申し分ない。ないんだけど、もうちょっと見栄えを気にかけてほしかった。これも霊魂案内所に文句言えばいいのかな。
人数分、排出が終わる。アミィはぐったりと地べたに寝そべった。充電とか必要なのかな、この子。背中を見てもコンセントや電源コードはない。この世界に適したデザインになっているなら、そりゃそうか。
「ありがとう、お疲れ様」
「うい~、アミィちゃんツカれたよ……」
「よしよし、少し休もうね。って、どうすればいいんだろう」
「ぎゅ~ってすればダイジョブ……」
「はぇ、そんなことでいいの?」
冷静に考えれば、アミィは“データベース”専用のデバイスだ。本体から充電するという発想ならばおかしなことはなにもない。私の体力と相談ってことになるのかな?
そういえば、調べたり視たりするのにエネルギーは消費しないの? 使っていても疲れたと感じることはないし、無制限に使えるんだとしたら大した力だ。本当、なんでミチクサさんがあんなに渋ったのかわからない。
ひとまずはベッドに寝転がり、アミィを抱き締める。デバイスというから機械的な無機質さがあると思ったけど、意外と気持ちいい。哺乳類の温もりを感じる。おまけに柔らかい。やば、私も眠くなってきた……。
危険を感じたのも束の間、私の意識は包み込まれるように溶けていった。
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「……ん、ふわぁ……寝ちゃってた、いま何時……?」
意識が戻った頃には、もう日も暮れる時間帯だった。イアンさん、戻ってきてるかな? アミィはまだ私の腕の中で寝息を立てている。起こさないようにそっとベッドに寝かせて事務所へ向かう。
まだ暗くはない。廊下の窓から覗く空は相変わらず重たいものの、どこか赤味を帯びていた。春暮に突入したわけだけど、これから少しずつ暖かくなっていくのかな? 全然そんな気がしない。
「……うん? あれ?」
事務所の扉が開け放たれている。イアンさん、いるのかな? それともまさか……泥棒? いやいや、ここはお城の敷地内ですよ。盗人が侵入できるはずがない。
こっそりと中を覗くと、なんとびっくり。陛下がいた。こちらに背を向けて、イアンさんと話している。いったいなんの話だ……? っていうか、不用心過ぎる。私に聞こえちゃってもいい話なのかなこれ。野次馬根性が悪さをして、つい耳をそばだてる。
「それで? 成功の見込みはあるのかい?」
「あいつが選んだメンバーだ、なんとかなるだろう」
「なんとかなるじゃ困るんだ。僕の面子にも関わってくるからね。それに、彼女が選んだ人員にどうしてきみがいるのか不思議でならないよ」
「んなもん、俺だってわからんわ」
ごめんなさい、最終手段でした。適性自体はあるみたいだし、これからトレーナー次第でいくらでも輝けると思います。
「指導者の勧誘は全滅したんだろう? どうやって歌やダンスの稽古をつける気だい? 当てはあるの?」
「……現状、ない」
ぜ、全滅でしたか……そうですか……となると、本当に私が動くべきだな。イアンさんは悪くない、アイドルという文化が未知のものだから。
この世界にアイドルの魅力を知っているのは私しかいないのだ、依頼された側だって二の足を踏むのは当たり前。彼の厚意に甘んじていたことを思い知る。
「結構な額を支援してきたけれど、期限を定めなかったのは僕の失敗だったね。夏までに芽が出なかった場合、いままで支援した分を全て返してもらおうか」
別れ際に「いままでのデート代を返せ!」と宣う元カレか、と思ってしまった。
いや違う、そこはどうでもいい。一国の主が言う「結構な額」なんて絶対私の想像より二桁は多い。それをイアンさんが支払うって……? 発破をかけるにしても、圧力のかけ方がえげつない。弊社の上司がマシに見えるレベルだ。
「……わかった。一生かけて返す」
あの人、なにもわかってない。いわゆる倒産ですよ、二つ返事でそんなことを言うもんじゃありません。冷や汗が止まらない。これ、見つかる前に立ち去った方がいいね……?
抜き足差し足忍び足、社畜時代の居た堪れなさを思い出せ。静かに、それでいて最速で現場を離れる。背後を見ても、部屋から出てくる気配はなかった。
自室に戻り、緊張を一気に吐き出す。彼らの話を聞いて、私にとっても絶対に失敗できないものとなった。いまは無根拠に成功するなんて思えない。
イアンさんの人生が詰むのは避けたい。道連れのようなものだから。となれば、成功を確約できる良質なトレーナーが必要だ。けれど、そんな当てがどこにある?
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