鉄の心臓、茨の涙

深渡 ケイ

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第8話:忘却の修理

第8話:忘却の修理

 炉の口が閉じられると、光は薄い刃のように鍛冶場の隅々へ滑り、煤けた梁に刺さって止まった。空気はまだ熱を含んでいるのに、床石は冬の墓標のように冷たく、裸足の指先から体温を奪っていく。灰が舞い、雪のように降り、彼の肩の上で溶けもせずに沈黙した。

 ガルドは横たえられていた。鉄の肋骨は一度ほどかれ、関節の奥まで洗われ、錆の花は削ぎ落とされている。新しい鋲が打たれ、裂けた継ぎ目には黒い樹脂が縫い目のように光った。腐食していた箇所は、まるで古い傷跡を削り取るみたいに、冷たく平らに均されている。茨に触れた鉄が死ぬ――その定めを知っていながら、誰かが彼の身体を、まだ歩ける形に戻してしまった。

 最後の留め具が締まる音は、祈りの結び目のように短く硬かった。続いて、静寂。耳の奥の血の音だけが、鍛冶場の暗がりで膨らんだ。

 それから、ガルドの胸の中央――鉄の心臓が、ひとつ、淡い衝撃を刻んだ。鈍い鼓動ではなく、規則正しい起動の打鍵音。錆びたころの苦しげな喘鳴は消え、歯車は油に浸された獣のように滑らかに回り始める。関節が鳴る。きしみではなく、乾いた音楽のような整った響き。漏れていたオイルも止まり、床に広がっていた黒い涙の跡は、灰に吸われてただの汚れになった。

 エリスは一歩も近づけないまま、炉の残光の縁に立っていた。彼女の指先は袖の内側で固く握られ、爪が掌に食い込む。痛みがあることだけが、泣かないための楔だった。泣けば茨が生まれる。茨が生まれれば、彼の新しい皮膚にまた毒の口づけを与える。

 だから彼女は笑う。喉の奥がひび割れるほど乾いても、唇だけを持ち上げる。微笑みは薄い硝子で、触れれば血が出る。

 ガルドの上半身が、ゆっくりと起き上がった。首が回り、視線が暗がりを測る。瞳に当たる灯りが揺れ、金属の眼球に小さな炎が宿る。けれどその炎は、彼女を探して燃え上がるものではなかった。炉の口、壁の釘、散らばった工具――それらを順番に確認し、最後にようやくエリスの方へ向く。

 その動きは正確だった。迷いがない。いつもなら、彼女の位置を知るだけで駆動音がわずかに高くなり、胸の奥で何かが詰まるような間が生まれた。近づけない距離を測って、わざと足を止め、手を下ろす――あの不器用な優しさが、音の癖として現れていた。

 だが今、ガルドの駆動音は一定だった。波のない灰色の水平線のように、ただ均一に続く。視線も揺らがない。彼女の顔に触れては戻る、あの微かな迷子のような揺れが消えている。

 エリスの笑みが、ほんの少しだけ遅れて固まった。

 ガルドは立ち上がった。足裏の鉄が床石を踏む音は、前よりも軽い。新品の鎧が初陣に向かうときのように、無駄がなく、恐れがない。彼は一歩、二歩と進み、鍛冶場の中央で止まった。胸の心臓が正しく回り、肩の軸が滑らかに動く。まるで、修理ではなく、別の個体が組み上がったかのようだった。

 エリスは息を吸い、胸の奥でそれを押し殺す。呼吸が震えると涙がこぼれる。涙がこぼれると茨が咲く。茨が咲けば、彼はまた腐る。だから震えを嚙み殺し、唇の端をさらに上げた。

 彼女は、距離を詰める代わりに、両手を胸の前でそっと開いた。触れられない抱擁の形。いつもならガルドはそれを見ると、ほんの僅かに頭を下げ、手を伸ばしかけて――伸ばせずに、指先を空へ戻した。彼の指の関節からオイルが一滴落ち、床に黒い点を作ることもあった。彼の「触れたい」が、漏れとして現れる瞬間だった。

 今は、何も漏れない。

 ガルドは彼女の手の形を見た。見ただけで、反応は続かなかった。視線が彼女の頬のあたりで止まる。そこにあるはずの湿り気――涙を堪える光を、機械の眼は読み取らない。彼の胸の音は一定のまま、彼女の存在を「障害物」か「目標」か、どちらにも分類しないように漂った。

 エリスの喉が動いた。声にならない何かが、皮膚の内側を引っ掻いた。笑顔の硝子に、見えない亀裂が走る。だが彼女は泣かない。泣けない。泣けば彼を殺す。

 そのとき、梁の上で羽が擦れる音がした。煤にまみれたカラスが、ゆっくりと首を傾ける。人の眼差しを持ったまま、火の残り香を嗅ぐように嘴を鳴らした。彼の声は出ないが、その沈黙には、皮肉の影が差しているようだった。

 ガルドはカラスの方へも視線を向けた。そこでも同じだった。反応は薄く、ただ確認するだけの動作。かつて、カラスが嘲るたびにガルドの駆動音がわずかに荒れ、鉄の指が床を掻いた。怒りではない。守りたいものに触れられない苛立ちが、音になって漏れた。

 今は、砂時計の砂のように均一だ。

 鍛冶場の隅に残っていた水桶の表面が、微かに震えた。ガルドが歩く振動ではない。エリスの体内で、感情が棘へ変わろうとする前兆の震えだった。皮膚の下を、冷たいものが這う。涙腺の奥が熱くなり、目の縁が痛む。茨の芽は、泣く前にもう生えたがっている。

 エリスは急いで視線を落とした。床の灰の中に、黒い点がいくつもある。以前、彼のオイルが落ちてできた染みだ。彼が痛むたびに増えた小さな星座。今の彼からは、それが落ちない。痛みが消えたのは救いのはずなのに、胸の奥が凍りつく。温かい心だけが置き去りにされ、冷たい体だけが完璧になったみたいだった。

 ガルドは、彼女の前で止まっている。距離は、茨が届くほど近くはない。けれど、彼ならいつも、もっと遠ざかった。彼女の涙の可能性を恐れて。彼女を傷つけないために、自分を削って距離を作った。

 今はその計算がない。近づかないのは、恐れではなく、ただ命令の範囲内の適正距離だからに見えた。

 エリスの指先が、袖の内で震えた。皮膚の下で、棘が微かにうごめく。彼女は笑顔を保ち、唇の裏を噛んで血の味を飲み込んだ。温かい鉄錆のような味。痛みが、涙の代わりになってくれる。

 ガルドの胸の心臓が、規則正しく回る。きれいな音。新しい機械の音。そこにはもう、彼女の名を呼ぶような乱れがない。

 エリスは、触れられない手をそのまま下ろした。落とした視線の先で、灰が舞い、雪のように静かに積もっていく。彼女のまつげに一粒、熱いものが溜まった。落ちれば茨になる。落ちる前に、彼女は目を閉じ、瞼の内側でそれを押し潰した。痛い。けれど、棘は生まれない。

 目を開けると、ガルドはまだそこにいる。新品のように、静かに、正しく。

 そしてその正しさが、彼女の世界を最も残酷にした。


 雪は、音を殺すために降るのだろうか。白い灰のように空からほどけ、廃都の瓦礫の角を丸め、崩れた聖堂の尖塔を鈍い象牙に変えていく。凍った風が石の裂け目を舐め、そこに残る古い血の色だけを、執拗に薄めていった。

 エリスはその白の中に、ひとつだけ異物の色を見つめていた。鉄の背中。かつては黒曜のように艶を持っていた装甲が、今は錆の花を咲かせている。赤褐色の斑点が、まるで病斑のように関節の周囲へ広がり、雪の冷たさよりも冷たいものが、そこから滲んでいた。

 ガルドは動かなかった。正確には、動けないのではなく、動くことを選ばないように見えた。膝を折り、胸部の装甲を僅かに開いたまま、内側の機構が露出している。そこに詰め込まれた歯車と管は、凍りついた臓腑のように鈍く光り、オイルが細い糸となって垂れて、雪に黒い染みを作っていた。

 その滴りが、エリスの喉の奥をひりつかせた。泣けば茨が出る。泣けば、また誰かを刺す。刺す相手が誰であるかは、もう選べない。彼女は唇を噛み、血の味で涙を押し殺した。血は温かい。温かいものほど、ここでは罪に近い。

 彼女の指先は宙に浮いたまま、ガルドの肩甲の辺りに触れられずに止まっている。数寸の距離が、海より深い。あの鉄に触れたい。触れて、まだここに居ると確かめたい。けれど触れた瞬間、茨が生まれ、彼の体を腐らせる。その想像は、雪の冷たさより先に皮膚を刺した。

 背後で、羽ばたきの音がした。黒い影が瓦礫の上に降りる。人の顔をしたカラスは、首を傾げ、滑稽なほど静かに二人を見下ろした。嘴の先には、拾ってきたのだろう、小さな金属片が挟まっている。古い歯車の欠片。あるいは、忘れられた玩具の心臓の一部。

「修理は得意かい、お嬢さん」

 その声は、凍った水面を石で叩くように乾いていた。エリスは返事をしなかった。返事をすれば、声が震える。震えれば、感情がほどける。ほどければ、茨が生まれる。彼女はただ、笑顔の形を作ろうとして失敗し、頬の筋肉が痛むのを感じた。

 ガルドの駆動音が、微かに変わった。低い唸りが、雪の下で眠っていた獣の呼吸のように揺らぐ。彼は顔を上げない。それでも、エリスの方へと視線だけが滑った。光のないはずの眼窩の奥で、淡い灯が揺れる。焦点が定まらず、しかし確かに彼女を探している揺らぎだった。

 その揺らぎが、エリスの胸を締めつけた。彼が彼女を見ている。それだけで、罪悪感が熱を持つ。守るために造られたものが、守ろうとするほどに壊れていく。それを、彼女の涙が、彼女の感情が、加速させている。

 カラスは嘴の金属片を落とした。小さな音が、雪に吸われる前に、エリスの耳を刺す。

「直せるものは直せばいい。直せないものは、忘れるしかない。……もっとも、忘れるのは人間の特権だ。鉄は、覚えたまま錆びる」

 エリスはその言葉を聞き流そうとした。けれど「忘れる」という音だけが、胸の奥に引っかかった。忘れる。誰かを。自分を。あるいは、旅の目的を。忘れたくない。忘れないでほしい。ガルドが、彼女の名前を知らないことを思い出す。彼は喋れない。彼は呼べない。呼べないまま、彼女を守ってきた。

 エリスは膝をついた。雪が膝に染み、布越しに冷たさが骨へ届く。冷たさは痛みを伴わない。痛みのないものは、彼女にとってむしろ恐ろしい。痛みがあれば、まだ生きていると分かるのに。

 ガルドの胸部から、さらに一滴、オイルが落ちた。黒い涙。エリスの瞳の端が熱を帯びた。熱は危険だ。熱は感情だ。感情は茨だ。

「だめ……」

 声にならない声が、唇の内側で砕けた。彼女は両手を自分の胸に押し当て、心臓の鼓動を押さえ込もうとする。鼓動は止まらない。止まらないものがある限り、彼女はまだ呪いの器だ。

 ガルドが、ゆっくりと右腕を持ち上げた。金属の軋みが、凍った空気を裂く。関節の隙間から赤錆が粉となって舞い、雪の上に散った。彼の指が、エリスの頬へ向かう。触れようとするのではない。触れられない距離で止まろうとしている。彼はいつもそうだった。触れずに、触れるふりをする。鉄の優しさは、いつも寸止めの痛みを伴う。

 指先が、彼女の頬の前で止まった。そこから先は、彼女の茨の領域だ。彼の駆動音が、ほんの少し高くなった。焦りのように。あるいは、祈りのように。

 エリスはその指先の冷たさを、触れずに想像した。想像は安全なはずだった。けれど想像の中でさえ、彼の鉄は冷たく、彼女の肌は温かく、その対比が涙を誘う。温かさは罪。冷たさは罰。彼女は罰を受けるべきだ。けれど、罰を受けるのはいつも彼だった。

 カラスが笑った。笑い声は、雪の上を転がる小石のように乾いている。

「ほら、見ろよ。お前が泣けば刺さる。泣かなきゃ凍える。どっちに転んでも、悲劇は礼儀正しくやってくる」

 エリスは顔を上げた。カラスを睨もうとして、睨めなかった。睨みは怒りを生む。怒りは茨を生む。茨は、彼を殺す。彼女はただ、視線を落とし、ガルドの胸の開いた隙間を見た。そこにある歯車の列は、まるで骨の肋のようで、一本一本が冷たい。そこに手を入れて直すことなど、彼女にはできない。触れれば腐食が進む。触れなくても、時間が腐食を進める。

 また、一人ぼっちになる。

 その言葉が、彼女の中で形になった瞬間、喉が詰まった。幼い頃、追放された門の外で聞いた雪の音。誰も手を伸ばさない広場の冷たさ。夜の森で、自分の泣き声だけが茨を呼び、茨が獣を裂き、裂けた肉の匂いが自分を慰めるしかなかったあの孤独。孤独はいつも、彼女のすぐ隣に座っていた。

 ガルドが、指先を少し引いた。触れないまま、引く。その動きが、別れの仕草に見えた。彼はただ、壊れかけた機構を守るために動いただけかもしれない。けれどエリスの目には、それが「離れていく」に見える。離れないで、と言えない。言えば、声が震える。震えれば、涙が落ちる。涙が落ちれば、茨が生える。

 彼女は両手で自分の口を覆った。息が掌に当たり、温かい蒸気が立つ。その温かさが、なおさら涙を誘った。涙は目の奥で膨らみ、眼球の裏を焼く。焼けるような痛みが、彼女を救う。痛みがある。まだ、抑えられる。まだ、耐えられる。

 しかし耐えることは、孤独と同義だった。誰にも触れられない。触れさせない。笑顔を作るたびに、頬の筋肉が裂けそうになる。優しいふりをするたびに、心の中の獣が爪を研ぐ。

 ガルドの視線が、また揺らいだ。灯が不規則に明滅する。彼の胸の奥で何かが噛み合わず、駆動音が一拍遅れて鳴った。オイルの滴りが増える。黒い涙が、雪に吸われていく。

 エリスはその黒を見つめながら、まるで自分の涙を見ているような錯覚に襲われた。彼が流しているのは、彼女の分の涙だ。彼女が泣けない代わりに、彼が漏らしている。そんなふうに思った瞬間、胸の奥で何かが折れた。

 涙が、ひとすじ、頬を滑った。

 落ちる前に、彼女は顔を横に向けた。雪に吸わせるために。誰も刺さないために。けれど涙は、空気に触れた瞬間、透明な液体ではなくなった。冷たい光を帯び、細い棘の影を孕む。皮膚の上で、痛みが芽を出す。茨は、泣き方を忘れない。

 エリスは震えた。震えは寒さのせいだと自分に言い聞かせる。寒さなら安全だ。寒さなら、茨は生まれない。けれど震えは止まらず、涙がもう一滴、こぼれそうになる。

 ガルドが、突然、腕を下ろした。指先が雪を掴み、白を握り潰す。硬い鉄の掌の中で、雪はただの水になり、指の間から落ちた。彼はその水で、自分の胸の開いた縁を拭った。オイルと混ざり、黒い筋が装甲を伝う。自分を汚し、自分を冷やし、彼女の涙を誘わないようにするかのように。

 彼の動きは不器用で、きしみが痛々しい。錆が擦れ、微かな粉が舞う。粉は雪に落ち、赤茶の点となった。血のない血痕。死の予告のように、静かに散っていく。

 エリスはその点を見て、目を閉じた。瞼の裏で、茨が伸びる幻を見た。伸びて、彼の関節に絡み、鉄を腐らせる。腐食は花のように広がり、最後に残るのは錆の匂いだけ。錆はいつも、雨より先に匂う。

「また……」

 声が、漏れた。掌の隙間から、かすかな音が逃げる。言葉になりきらない音が、雪の中で凍った。

 カラスが翼を広げ、瓦礫の陰へ飛び移った。距離を取る仕草は、賢い。茨を避ける生き物の本能。誰もがそうやって離れていく。エリスはそれを責められない。責めれば、怒りが生まれる。怒りは茨だ。

 ガルドは、エリスの方を見たまま、胸部の装甲を閉じようとした。閉じる動作が、棺の蓋を閉めるように遅い。装甲が重なり合う直前、彼の駆動音が一瞬だけ、低く落ちた。沈む音。諦める音。あるいは、彼なりの「ごめん」の音。

 装甲が閉じ、内側の光が隠れた。彼の眼窩の灯も、揺らぎながら弱くなる。雪の白さの中で、鉄の巨体がただの影へ戻っていく。

 エリスは手を伸ばした。触れられないと知りながら、伸ばした。指先が空気を掻き、冷たさだけを掴む。冷たさは、誰のものでもない。孤独の温度だ。

 雪が降り続ける。音はなく、ただ白が積もる。エリスの頬の涙の跡だけが、冷えて痛み、皮膚の下で小さな棘が目を覚まし始めていた。彼女は笑顔を作ろうとしたが、口角は上がらない。上げれば、また涙が落ちる。

 ガルドの背中は、動かない。彼女の前にあるのは、守ってくれるはずの鉄の壁ではなく、触れられない墓標のような沈黙だった。

 エリスは雪の上に、そっと額をつけた。冷たさが額の皮膚を焼き、痛みが彼女の内側に細い線を引く。その線だけが、彼女がまだここにいる証だった。

「また一人ぼっちになってしまった」

 言葉は唇の内側で形を持ち、外へ出る前に凍った。代わりに、呼吸が白く漏れ、雪に吸い込まれて消えた。誰にも届かない。届かせてはいけない。届けば、茨が応える。

 彼女の肩が小さく震え、目の奥で涙が新たに生まれる。その涙を、彼女は必死に飲み込む。飲み込んだ涙は胸の中で棘になり、心臓の周りに絡みつく。柔らかい肉に、見えない茨が刺さる。痛みは静かで、甘く、救いのように残酷だった。


 雪は灰のように降りつづけ、廃墟の石畳の目地にまで沈黙を詰めていった。壊れた鐘楼の影は長く、折れた十字架は夜空へ錆びた爪を伸ばしている。エリスはその影の縁に立ち、笑みの形だけを唇に貼りつけたまま、息を白くほどいた。胸の奥で何かが疼くたび、そこから茨が芽吹いてしまうのを知っているから、涙の温度さえ喉の奥で凍らせるように。

 ガルドは彼女の半歩前にいた。肩から背へと続く鉄板は修理痕の継ぎ目がまだ新しく、黒い油が縫い糸のように細く滲んでいる。歩くたび、駆動音は低い祈りのように一定で、きしみは雪を踏む音よりも静かだった。彼の視線だけが、ときおり揺れた。風ではない揺らぎ――彼女の指先が寒さで震えた瞬間、彼の首の関節がほんの僅かに傾き、見えない距離を測るように戻る。

 頭上で、カラスが翼を畳み、崩れた石の突起に降りた。黒い羽根に雪が刺さり、すぐに溶けて黒い水の点となる。人の顔をした嘴元が、笑うように歪む。

「修理したばかりの身体に、また傷を増やすのかい。まあ、旅ってやつはいつもそうだ。直して、壊して、忘れて――」

 その言葉が終わる前に、空気が裂けた。

 矢が一本、夜の暗がりから飛んできて、石畳に突き立った。次の一本はガルドの肩を狙ったが、鉄の身体はそれを許さない。彼の上体が、ただ必要なだけ逸れた。矢羽が頬の横を掠め、冷たい風だけが通りすぎる。

 雪の向こう、崩れた家々の影から人影が滲み出る。布で顔を隠した狩人たち。鉄と革と、乾いた怒りの匂い。松明の火が揺れ、赤い舌が廃墟の壁に血のような影を塗った。

「魔女だ」「茨の――」

 声は喉の奥で擦れ、恐れと欲望が混ざっている。エリスの肩が小さく跳ねた。笑みは崩れない。崩せない。彼女は両手を胸の前で組み、爪が掌に食い込むほど強く握りしめた。温かいはずの痛みが、今は冷たい針のように皮膚の内側で鳴る。

 ガルドは彼女の前に、さらに一歩出た。足裏の鉄が石を押し、雪が粉のように散る。駆動音が僅かに変わった。低く、短く、余計な揺れのない加速の音――機械が「戦闘」を選んだときの呼吸。

 狩人の一人が槍を構え、突進する。狙いはガルドの脇腹、関節の隙間。だがガルドは、その槍の軌道が生まれる前に動いた。腕が上がり、手首が回り、槍の柄を掴む。鉄の指が木を圧し折る音は、雪の静けさを裂く乾いた骨の音に似ていた。槍は抵抗もなく折れ、持ち主の身体は前へ倒れ込む。ガルドはその勢いを利用し、肩で相手の胸を押し返す。鎧の下の肋が砕ける鈍い感触が、鉄板越しに伝わり、狩人の息が白い泡になって散った。

 別の男が剣を振り下ろす。火の光が刃に走り、雪の上へ赤い線を引く。しかしガルドは剣を避けない。避ける必要がない角度だけを選び、腕の外装で受けた。刃が鉄を噛み、火花が散り、酸っぱい金属の匂いが立つ。次の瞬間、ガルドの肘が相手の手首に落ちた。骨が折れる音は細く、あまりに短い。剣が雪へ落ち、すぐに赤い点が増えた。ガルドは落ちた剣を拾わない。武器を持つより、武器を奪う方が早いと知っているからだ。

 矢が続けざまに飛ぶ。ガルドは盾を持たない。盾になる。身体を半回転させ、エリスの前に鉄の背を置く。矢は背板に刺さり、震え、止まる。一本は関節の縁に当たり、わずかに外装を欠けさせた。そこから黒い油が一滴、雪へ落ちた。油は温度を持っていないのに、雪だけがそこだけ溶けて、小さな穴になった。

 エリスはその一滴を見てしまい、唇の端がわずかに震えた。目の奥が熱を持つ。熱が涙に変わる前に、彼女は視線を下げた。泣けば、茨が咲く。咲けば、彼が腐る。そういう世界の法則が、彼女の胸に冷たい鎖のように巻きついている。

 ガルドは背後を気にしない。彼の首の関節が、ほんの一度だけ彼女の方向へ微かに傾き、すぐに戻った。確認――そこにいる。生きている。それだけで十分だと言うように。

 狩人たちは数で押すつもりだった。だが数は、秩序に負ける。ガルドの動きには迷いがない。足運びは雪を乱さず、重心は常に次の一撃のために整えられている。相手の視線が向く前に死角へ入り、腕を伸ばす前に関節を折り、叫ぶ前に喉を潰す。

 一人が松明を投げつけた。火は空中で踊り、落ちれば雪を焼き、煙を上げるはずだった。ガルドはそれを手の甲で払った。炎は鉄に触れ、瞬間だけ青白く歪んで消える。熱が外装を舐めても、彼の表情は変わらない。変わるのは駆動音だけだ。微かな唸りが一段低くなり、冷たい怒りのような振動が空気を震わせた。

 ガルドは投げた男へ向かう。一直線ではない。最短で、最も静かな線。男は後退し、足を滑らせ、雪の上に尻もちをついた。目が見開かれ、口が開く。言葉が出る前に、ガルドの手がその顎を掴む。指は優しさのために作られていない。それでも動きは丁寧だった。必要な力だけを加え、首の角度だけを変える。骨と筋が離れる音が、雪の降る音に紛れて消えた。

 最後の二人は逃げようとした。廃墟の路地へ、闇へ、世界の裏側へ。ガルドは追いかけないように見えた。だが彼は、逃げ道を最初から計算していた。崩れた壁の陰に回り込み、先回りし、路地の口に立つ。鉄の影が、狭い通路を塞ぐ。

 二人は立ち止まり、武器を上げる。震える手。恐怖の汗。人間の温度。ガルドはその温度を、冷たい鉄の内側で理解できないまま、ただ排除する。片方の腕が伸び、剣を持つ手首を掴み、捻る。剣が落ちる。もう片方の腕が腹へ入る。拳ではない。掌の底で押し込むように、内臓の位置をずらす。人間は音を立てて崩れ、雪に顔を埋めた。

 残った一人が叫んだ。声は高く、幼い。ガルドの動きが一瞬だけ止まる。視線が揺れた。ほんの刹那――その揺れは、迷いではなく、記憶の断片が歯車に噛むような違和感だった。古代の戦場で、同じ高さの叫びを聞いたことがある。命令の声。助けを求める声。どちらでもよかった。次にすることは決まっている。

 ガルドはその男の喉元へ手を伸ばし、指を添える。刺さない。切らない。圧をかけるだけだ。皮膚の柔らかさが鉄に触れ、冷たさに震えるのが伝わる。温かいものが、彼の冷たい指の下で脈打ち、そして止まる。男の目が、雪の白を映したまま曇っていった。

 路地に戻ったとき、廃墟はまた静かだった。雪が死体の上にも等しく降り、血を薄め、やがて灰色の絵具に変えていく。松明は倒れ、火は雪に息を奪われ、赤い光だけが短く痙攣して消えた。

 ガルドの肩には矢が二本、背には三本刺さっている。抜けばいいのに、彼は抜かない。抜く動作は油を余計に漏らす。漏れた油は、エリスの目に「傷」として映る。それを避けるように、彼はゆっくりと身体を回し、矢が彼女から見えにくい角度に立った。

 エリスは一歩も動けなかった。死の匂いが近すぎて、胸が詰まる。だが泣けない。泣けば、茨が芽吹く。芽吹けば、彼が錆びる。彼女は笑みを保ったまま、唇の裏を噛んだ。鉄の味ではなく、血の味がした。温かい。怖いほど温かい。

 ガルドは彼女の前に戻り、膝を少しだけ折った。頭を下げるでもなく、抱くでもなく、ただ視線の高さを合わせるための動作。彼の眼の奥の光が、雪の反射で淡く揺れた。駆動音が、戦闘の低さから、旅の一定の音へ戻っていく。そこに混じる、微かな軋み――関節のどこかが、茨の毒に触れた記憶を残しているような、乾いた痛みの音。

 エリスはその音を聞いて、喉の奥で凍らせていたものが溶けそうになるのを感じた。涙は出ない。代わりに、息が白く長く伸びる。彼女は両手をさらに強く握りしめ、爪が皮膚を破り、血が滲んだ。自分の痛みなら、茨にならない。誰も腐らない。

 カラスが上から見下ろし、羽根を鳴らした。黒い羽根に付いた雪が落ち、死体の上へ散る。

「見事だよ、鉄の騎士。無駄がない。まるで、心なんて最初から無いみたいに」

 ガルドはカラスを見上げない。エリスから視線を外さない。彼の指先が、彼女の頬に触れたいという形で、空中に止まったまま、わずかに震えた。触れれば、彼は腐る。触れなければ、彼女は凍える。その二つの残酷な選択肢の間で、彼は指を引き、代わりに自分の外套の端を持ち上げた。

 外套の内側の布は、まだ僅かに温もりを残している。彼はそれを彼女の肩にかける。布越しなら、茨は生まれない。布越しなら、鉄は腐らない。ぎりぎりの距離でしか成立しない、世界の隙間のような優しさ。

 エリスは布の重みを受け取り、笑みのまま目を伏せた。雪が睫毛に刺さり、溶けて水になる。涙ではない。ただの雪だと言い聞かせるように、彼女は瞬きをした。

 その瞬間、ガルドの背板を伝って、黒い油がもう一滴落ちた。雪に吸われ、音もなく消える。静かに、確実に、錆は進む。旅は進む。戻れないことだけが、廃墟の鐘楼よりもはっきりと空に立っていた。


 戦いの余熱は、鉄と血の匂いだけを残して引いていった。雪はいつの間にか灰を混ぜ、地面に落ちたものすべてを薄い墓布のように覆い隠そうとしている。折れた槍、裂けた革、黒ずんだ肉片。どれも冷えながら、静かに錆びてゆく未来を約束していた。

 ガルドの胸の奥で、鉄の心臓が鈍く打った。駆動音は乱れ、歯車の噛み合いが一拍遅れるたび、関節の隙間から濃いオイルが涙のように滲んだ。茨に触れた箇所はすでに色を変え、金属の肌に腐食の花が咲き始めている。赤錆は血よりも乾いた色で、痛みを音に変え、きしみとして空気に漏らした。

 エリスは彼の影の中に立っていた。息を吐くたび、白い霧が唇を離れてゆらぎ、すぐに冷えた空へ溶ける。頬には泥が斜めに擦れ、戦いの最中に転んだのだろう、肌の柔らかさの上に土の冷たさが貼りついていた。笑顔は作られていたが、その端が微かに引き攣れている。泣けば茨が生まれる。その恐怖が、瞳の奥で凍りついたまま動かない。

 カラスは折れた柱の上にとまり、濡れた羽を震わせて黒い滴を落とした。人の目をしたまま、何も言わずに見ている。その沈黙が、皮肉より残酷だった。

 ガルドは一歩、エリスへ近づいた。雪と灰が足元で潰れ、ざらりとした音がした。彼の視線は、彼女の頬の泥へ吸い寄せられる。そこだけが、戦場の汚れをそのまま彼女の肌に残していて、まるで薄い傷のように見えた。

 彼はゆっくりと膝を折った。鉄が地に触れる音は重く、冷たい地面の硬さがそのまま彼の骨格へ返ってくる。ひざまずく姿は祈りに似ていたが、祈るべき神などこの灰雪の世界にはいない。ただ守るべきものが、目の前にいる。

 腕が上がる。指は武器を握るための形をしているのに、今はそれをほどこうとしていた。泥を拭う、その単純な所作のために。彼の指先は、彼女の頬へ向かって伸びる。

 寸前で、止まった。

 空気が冷たく固まったように感じられた。ほんの指一本分の距離で、彼の手は宙に縫い留められる。駆動音が一瞬だけ高く跳ね、次いで低く沈み、喉のない胸からかすかな軋みが漏れた。まるで見えない茨が、すでにそこに生えているかのように。

 彼の関節部から、オイルが一滴落ちた。雪の上で黒く滲み、すぐに灰色の粒に吸われて消えていく。エリスの頬の泥よりも濃い色のそれは、触れたいという衝動の重さを形にしたみたいだった。

 エリスは息を呑んだ。笑顔の仮面がほんのわずかに揺らぎ、唇が開きかける。だが声は出ない。出せば泣きそうで、泣けば茨が生まれてしまう。彼女はただ、視線を落とし、彼の止まった指先を見つめた。そこに触れられない距離があることを、何度も何度も確かめるように。

 ガルドの目――硝子のようなレンズが、微かに震えた。焦点が合い直されるように揺らぎ、彼女の頬と指先の間の空白を何度も往復する。記憶の棚にあるはずの手順が抜け落ち、代わりに身体の奥に染みついた痛覚だけが、警鐘として鳴り続けているようだった。触れれば腐る。触れれば彼女が傷つく。触れれば、彼女が恐れる。

 それでも、手は下がらない。下げてしまえば、彼女の汚れはそのまま残り、戦場の泥が彼女の肌に刻印されてしまう。彼はその二つの残酷さの間で、動けずにいた。

 やがて、彼の指がわずかに曲がった。触れる代わりに、空を撫でる。頬の輪郭をなぞるように、しかし一切の接触を拒む距離で。冷たい空気だけが、彼の指先を通り抜ける。柔らかい肌の代わりに、冬の刃が触れた。

 エリスの睫毛が震え、泥のついた頬がほんの少しだけ彼の手の方へ傾いた。自分から近づけば危険だと知っているのに、身体が勝手に温もりを探してしまう。だが、途中で彼女も止まった。彼の指先と同じ場所で。二人の間にある「触れてはいけない」が、見えない茨の垣根となって立ち上がる。

 ガルドはゆっくりと手を引いた。引く動きは、剣を鞘に収めるより慎重だった。駆動音が低く、哀しい調子に落ちる。彼の胸板に刻まれた傷が、錆の粉をこぼし、雪に赤茶の点を散らした。

 代わりに、彼は自分の前腕の外側を、彼女の頬のすぐ近くへ差し出した。金属の肌は冷たく、硬く、そこには腐食の斑点があり、触れれば彼女の繊細な肌を傷つけかねない。それでも、彼はその腕を盾のように立てた。風が吹けば、彼女の頬に当たる冷気を少しでも遮るために。触れられない愛は、こうして形を変えてしか差し出せない。

 エリスは小さく笑った。笑うことで、泣かないために。笑うことで、茨を眠らせるために。けれどその笑みは、雪の上の薄い血痕のように頼りなく、すぐに消えそうだった。彼女は泥のついた頬を自分の袖で拭い、布に黒い跡を移した。自分で拭ける、と言外に示しながら、同時に、彼が拭ってくれないことの痛みも飲み込む。

 ガルドはそれを見届けると、膝をついたまま頭をわずかに垂れた。鉄の額が冷気を受け、薄い霜がつく。霜はすぐに溶け、オイルと混じって黒い筋となり、頬に似た場所を汚した。彼自身もまた、戦場の泥と同じように汚れているのに、それを拭う手はどこにも伸びない。

 カラスが羽を一度だけ鳴らした。笑いでも嘆きでもない、乾いた音。灰雪の空に吸い込まれ、残らない。

 ガルドは立ち上がろうとし、関節がきしんで止まった。錆が骨を噛むような音。彼は一瞬、動きを調整し、痛みを受け入れるようにゆっくりと体重を移した。その過程のすべてが、触れてはいけない距離を守るための計算に見えた。彼の身体は、消えた記憶の代わりに、禁忌を守る手順だけを正確に覚えている。

 エリスは彼の前に立ち続けた。泥の跡は消えたが、頬の冷たさだけが残っている。触れられないまま、守られる。守れないほど近づけないまま、愛される。彼女はその残酷な温もりに耐えるように、胸の奥で息を折り畳んだ。

 ガルドの視線が、もう一度だけ彼女の頬へ落ちる。指先が微かに震え、しかし今度は上がらない。駆動音が低く安定し、諦めではなく、決意のように静まっていく。

 触れてはいけない。それでも、ここにいる。

 その沈黙の誓いだけが、雪と灰のなかで、かすかな熱を持っていた。


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