35 / 396
第一章 輪廻のアルケミスト
第35話 嫌がらせの犯人
しおりを挟む
アナイス先生のお説教の後、中断されていた魔導工学の授業が再開された。
再開されたといっても残り時間が少なかったので、前回の復習ということで、クリエイト・フェアリーの自習課題が出されただけだった。
僕は予定通り適当なスライムを作り、アナイス先生の魔法学の授業からヒントを得て、スライムに変形出来る機能を組み込んでおいた。
変形といっても、無難に拳の形にして、大きさも適当に書き加える。スライムは変形したり、伸びて相手を包み込んだりして攻撃することもあるわけだし、そういう行動様式が入っているのは自然だろう。なかなか子供らしい発想のコツがわかってきたように思う。
アルフェはというと、僕がプレゼントした術式基盤を白紙の術式基盤にせっせと模写し続けている。なくなったときのための予備、ということらしいが、アナイス先生のあの忠告を受けてなお、同じ嫌がらせが続くようなら先が思いやられそうだ。
とはいえ、アナイス先生もリオネル先生も犯人を捜し出そうとはしなかったし、アルフェも僕も犯人捜しに時間を費やす予定はない。
ただ、誰にも邪魔されずに平穏に過ごすことができれば、たった一回の嫌がらせには目を瞑るつもりだった――のだが……。
◇◇◇
「おい、アルフェ、リーフ!」
授業が終わり、リオネル先生が退室すると同時に、体格の良い男の子が僕たちのことを名指しで呼んだ。アルフェのことを魔族女と侮辱したヤツだということは、僕にでもすぐにわかった。
「先生に告げ口したら、どうなるかわかってるよな?」
肩を高く立てて胸を張り、この学年にしては体格の良い身体を精一杯大きく見せながら、男の子が近づいてくる。
頭に血でも上ったのか、さては自分がなにをしているかわかっていないようだな。
「……驚いた。自分が犯人だとわざわざ教えに来たのか?」
「う……うるさい! 邪魔するなら、お前も同じ目にあわせてやるからな!」
一応忠告してみたのだが、全く話が通じない。これには呆れた。
「やれやれ。論理が破綻しているぞ。まるで子供だな」
「お前も子供だろうが!」
僕の呟きに、取り巻きの男の子が声を上げる。「そうだそうだ!」と野次が飛んだ。
「俺たちの方が優秀なんだ。なのに、どうして途中から来たお前らが、特待生なんかになってるんだよ!」
「能力の問題だと思うけれど?」
何のために入学試験とクラス分けのテストを受けたのか全然わかっていないのか? それとも、そういうものとは別の評価精度でもあるのだろうか。
「グーテンブルク家の長男が、こんな庶民に劣るはずがないんだ! お前らがズルしてんのは、わかってんだぞ」
「……家柄で知能が決まるのだとすれば、苦労はしないな」
おっと、思ったことがそのまま口を突いて出てしまった。今のは子供らしくなかったな。まあ、こうして自分が犯人だと名乗り出るような連中なら、三歩歩けば忘れるか。
「そっ、それなら、どっちが優秀か決闘で決めてやる!」
「決闘?」
話が飛躍したが、この年代の男児らしい発想はこういうところなのだろうな。だが、この体格差は面倒だし、万が一怪我でもしようものなら、両親になんと言い訳をしたものか……。
「フェアリーバトルだよ。そんなことも知らねぇのか?」
ああ、なんだ。子供の遊びか。
それなら実体があるわけじゃないし、お互いの身体に危害が加わる心配もないな。面倒だし、付き合ってやるか。手加減する保証はできないけれど。
「……リーフぅ……」
ずっと黙っていたアルフェが、不安げな声を出して僕の腕に縋りつく。
「僕なら平気だよ、アルフェ。それより、こっちが勝ったらアルフェに謝って、二度とこんな真似はしないって誓える?」
「いいぜ。けど、俺らが勝ったら、お前たちは学校から出て行けよな」
要望が全く釣り合っていないが、まあ、いいだろう。
「そんな……」
「いいよ。じゃあ、やろうか」
僕を相手に選んだことを、少しは後悔してもらわないとな。
「で、出て行くんだぞ、学校から!?」
「構わないよ。負けなければいいだけのことだから」
再開されたといっても残り時間が少なかったので、前回の復習ということで、クリエイト・フェアリーの自習課題が出されただけだった。
僕は予定通り適当なスライムを作り、アナイス先生の魔法学の授業からヒントを得て、スライムに変形出来る機能を組み込んでおいた。
変形といっても、無難に拳の形にして、大きさも適当に書き加える。スライムは変形したり、伸びて相手を包み込んだりして攻撃することもあるわけだし、そういう行動様式が入っているのは自然だろう。なかなか子供らしい発想のコツがわかってきたように思う。
アルフェはというと、僕がプレゼントした術式基盤を白紙の術式基盤にせっせと模写し続けている。なくなったときのための予備、ということらしいが、アナイス先生のあの忠告を受けてなお、同じ嫌がらせが続くようなら先が思いやられそうだ。
とはいえ、アナイス先生もリオネル先生も犯人を捜し出そうとはしなかったし、アルフェも僕も犯人捜しに時間を費やす予定はない。
ただ、誰にも邪魔されずに平穏に過ごすことができれば、たった一回の嫌がらせには目を瞑るつもりだった――のだが……。
◇◇◇
「おい、アルフェ、リーフ!」
授業が終わり、リオネル先生が退室すると同時に、体格の良い男の子が僕たちのことを名指しで呼んだ。アルフェのことを魔族女と侮辱したヤツだということは、僕にでもすぐにわかった。
「先生に告げ口したら、どうなるかわかってるよな?」
肩を高く立てて胸を張り、この学年にしては体格の良い身体を精一杯大きく見せながら、男の子が近づいてくる。
頭に血でも上ったのか、さては自分がなにをしているかわかっていないようだな。
「……驚いた。自分が犯人だとわざわざ教えに来たのか?」
「う……うるさい! 邪魔するなら、お前も同じ目にあわせてやるからな!」
一応忠告してみたのだが、全く話が通じない。これには呆れた。
「やれやれ。論理が破綻しているぞ。まるで子供だな」
「お前も子供だろうが!」
僕の呟きに、取り巻きの男の子が声を上げる。「そうだそうだ!」と野次が飛んだ。
「俺たちの方が優秀なんだ。なのに、どうして途中から来たお前らが、特待生なんかになってるんだよ!」
「能力の問題だと思うけれど?」
何のために入学試験とクラス分けのテストを受けたのか全然わかっていないのか? それとも、そういうものとは別の評価精度でもあるのだろうか。
「グーテンブルク家の長男が、こんな庶民に劣るはずがないんだ! お前らがズルしてんのは、わかってんだぞ」
「……家柄で知能が決まるのだとすれば、苦労はしないな」
おっと、思ったことがそのまま口を突いて出てしまった。今のは子供らしくなかったな。まあ、こうして自分が犯人だと名乗り出るような連中なら、三歩歩けば忘れるか。
「そっ、それなら、どっちが優秀か決闘で決めてやる!」
「決闘?」
話が飛躍したが、この年代の男児らしい発想はこういうところなのだろうな。だが、この体格差は面倒だし、万が一怪我でもしようものなら、両親になんと言い訳をしたものか……。
「フェアリーバトルだよ。そんなことも知らねぇのか?」
ああ、なんだ。子供の遊びか。
それなら実体があるわけじゃないし、お互いの身体に危害が加わる心配もないな。面倒だし、付き合ってやるか。手加減する保証はできないけれど。
「……リーフぅ……」
ずっと黙っていたアルフェが、不安げな声を出して僕の腕に縋りつく。
「僕なら平気だよ、アルフェ。それより、こっちが勝ったらアルフェに謝って、二度とこんな真似はしないって誓える?」
「いいぜ。けど、俺らが勝ったら、お前たちは学校から出て行けよな」
要望が全く釣り合っていないが、まあ、いいだろう。
「そんな……」
「いいよ。じゃあ、やろうか」
僕を相手に選んだことを、少しは後悔してもらわないとな。
「で、出て行くんだぞ、学校から!?」
「構わないよ。負けなければいいだけのことだから」
0
あなたにおすすめの小説
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。
享年は25歳。
周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。
25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
ハイエルフの幼女に転生しました。
レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは
神様に転生させてもらって新しい世界で
たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく
死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。
ゆっくり書いて行きます。
感想も待っています。
はげみになります。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる