アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

文字の大きさ
94 / 396
第二章 誠忠のホムンクルス

第94話 老師の故郷の味

しおりを挟む

「ほっほっほ。これがわしの故郷の味じゃ。リーフ嬢ちゃんのフライパンのおかげで、満足いく出来のものが作れてわしも嬉しいぞ。……どうじゃ? 作れそうかの?」
「やってみます」

 そう答えたものの、内心は早くこれを自分で作りたくて仕方がなかった。はやる気持ちを抑えながら、出来上がった炒飯を大皿に移して、空になったフライパンを洗う。

 当たり前になってきていて、普段はあまり感じないが、こういうとき、自動洗浄機能があると本当に便利なことを思い出すな。

 新鮮な気持ちで調理用魔導器の前に立った僕は、先ほどのタオ・ランが見せた手順を追って調理した。

「どうじゃ? なかなか楽しいじゃろ? 故郷では強い火力で、腕利きの料理人が一気に火を通して仕上げて作っているのじゃが、このフライパンではそれが簡単にできるのが嬉しくてのぅ」

 そう話してくれるタオ・ランは、本当に嬉しそうに目を細めている。

「確かに面白いですね、老師。僕もこれは初めての体験です」

 なるほど。やってみてわかったが、水分を含んだカナド米の表面から水分を飛ばして、パラパラにするのは、このフライパンならではの調理なんだろうな。

 炒めているうちに、具と卵をまとったごはんが均一に混ざり、先ほどと同じ見た目の炒飯が仕上がったので、老師に味見をしてもらった。

「……ほうほう。わしのものよりも、優しい味じゃの。リーフ嬢ちゃんが、食べる人のことを想っているのがよくわかる味じゃ」
「……ありがとうございます」

 料理でそんな風に言われると、少し照れくさいな。だが、アルフェとホムにお腹いっぱい食べてもらおうと思っているのが伝わったのは嬉しかった。

「なに、礼には及ばんよ。むしろ、この五日間で、人間としての成長を見せてくれたリーフ嬢ちゃんに、わしから礼を言わねばならぬくらいじゃ」

 タオ・ランの振り返りに、胸が少しだけ痛んだ。僕はなんて子供じみた思考で、ホムと接してきたのだろうと、恥じ入る思いだ。

「……やはり、お見通しだったのですね」
「伊達に長くは生きておらぬからのう。ほっほっほ」
「本当にお世話になりました、老師。感謝の言葉だけでは足りないですが、とても感謝しております」

 この気持ちを伝える言葉をうまく持ち合わせていないのが、なんとももどかしいな。深く頭を下げて感謝の意を示すと、老師がもう良いというように僕の背を叩いた。

「今生の別れでもない、またいつでも訪ねてきておくれ。わしもこの街が気に入ったゆえ、長く滞在するつもりじゃからな」
「ありがとうございます。では、ホムを連れてまた参ります」

 そうすればホムも喜ぶだろう。ホムには、僕以外に自分のことを理解してくれる相手が必要だ。信頼出来る人間は、きっと多い方がいい。

「アルフェ嬢ちゃんもな。あの子がおると、孫が出来たようでわしも嬉しい」
「そうですね。アルフェも一緒に――三人で伺います」
「そうしておくれ」

 タオ・ランが笑顔で手を差し出してくる。僕はタオ・ランの大きくてしわくちゃな手をしっかりと両手で握り、約束した。


 昼食の炒飯はアルフェと大好評で、アルフェもホムもよくおかわりしてくれ、用意していた分はあっという間になくなった。

 早々に食べ終わったホムは率先して後片付けを行い、僕たちはカナド風の冷たく香ばしいお茶で喉を潤して一息ついた。

「……さて、満腹になったところで、今回の合宿は解散とするかの」

 五日間の合宿ももう終わりだ。ホムは教わるべきことを全て教わり、きちんと自分のものにしてくれた。

「大変お世話になりました、老師」
 僕が頭を下げる隣で、アルフェが名残惜しそうにもじもじと身体を動かしている。
「……おじいちゃん、また遊びにきてもいい?」
「もちろんじゃ。今度は、アルフェ嬢ちゃんに魔法でも教わろうかの」
 タオ・ランの意外な申し出にアルフェは目を輝かせ、微かに飛び跳ねて喜びを見せた。

「おじいちゃんに教えられるくらい、しっかり勉強しないとだね。ワタシ、がんばるね」
「その才能が健やかに花開くことを、わしは楽しみにしておるよ。三人の成長を、この老いぼれに見守らせておくれ」

 タオ・ランの言葉はいつも真っ直ぐで偽りがない。
 僕はその言葉の意味を噛みしめながら、ゆっくりと頷いた。

「約束します、老師」
「アルフェも!」

 僕に続いて、アルフェが元気よく手を挙げて宣言する。僕たちの答えを待ってから、ホムがその場に跪き、恭しく頭を垂れた。

「誠心誠意努力いたします。どうぞ、老師様もご自愛くださいますよう」
「では、またの機会を楽しみに待つとしようかの。ホム嬢ちゃんも達者でな」

 タオ・ランがホムの頭をそっと撫でてやる。ホムはその手の感触に心地よさそうに目を閉じて頷いた。

しおりを挟む
感想 167

あなたにおすすめの小説

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

処理中です...