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第三章 暴風のコロッセオ
第223話 準決勝の接戦
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内外問わず大闘技場を超満員で埋め尽くす観客たちの熱気は、初日を遙かに上回って渦巻いている。
武侠宴舞恒例の賭け事も、実力的には学年最下位に位置づけされた1年F組の2チームが揃って準決勝に進出したこともあり、一番人気のカナルフォード生徒会チームの予想配当率が昨日よりも僅かに下がっている。その代わり、昨日かなりの高額払い戻しを記録した僕たちのチームに賭ける人々が見受けられるようになった。
「リインフォース! リインフォース!」
「ベール! ベール!」
準決勝第一試合である僕たちの入場を前に大歓声が響いているのも、その影響だろう。
「ベールって、ヴァナベルちゃんたちのこと……でいいのかな?」
「まあ、応援で『ベルと愉快な仲間たち』っていうのは呼びづらいだろうからね」
不思議そうなアルフェの声に、僕は首を竦めた。昨日の戦い振りを見て、今日ヴァナベルたちに賭けようと思った人たちの興味など、おそらくその程度のものだろう。
「……今日はアルタードを呼ぶ声が聞こえませんね」
自慢の愛機の名がなかなか聞こえてこないのが不満なのか、機体を前に進めながらホムがぽつりと呟く声が聞こえた。
「ホムが活躍すれば、きっとすぐにアルタードコールでいっぱいになるよ」
チーム名が呼ばれるのも嬉しいが、アルタードやレムレスのコールで大闘技場が大いに沸く様子は、それを生み出した僕としても嬉しい限りだ。
あくまで武侠宴舞というくくりで言えば、従機に搭乗している僕の戦い方は真なる叡智の書に頼った謂わば邪道な戦い方でもある。
どうしようもないこととはいえ、このチームで一番の弱点になっていることは否めないわけだし、今日の戦い方で学ぶことも多いだろう。本気でやると言ったヴァナベルたちが僕をどう扱ってくるのかにも、注目しなければな。勿論、優勝すると約束した以上は、無策でやられるつもりなんて微塵もないけれど。
「さぁああああああてぇええええええっ! お待たせぇええええっ致しましたぁああああああっ! 只今よりぃいいいいいいっ、武侠宴舞・カナルフォード杯二日目、準決勝第一試合のぉおおおおおおっ――――選手入場をぉおおおおおおお始めますッッッッッ!」
バックヤードの向こう、明るい日の光で照らされた大闘技場から司会のジョニーの高らかな声が響いてくる。
「参りましょう、マスター、アルフェ様」
先陣を切るホムに続いて、僕たちはゆっくりと入場口へと機体を進めた。
◇◇◇
「よしよし、調子良さそうじゃねぇか、ホム」
「ええ。勝ちに参りましたので」
同時に入場したホムとヴァナベルが、機体の距離を取った状態で対峙する。いつもよりもやや緊張した声音を耳に感じながら、僕はアーケシウスを入場口ギリギリの場所に停めた。
アルフェが僕を庇うように進み出て、アルタードの背部とも少し距離を取る。プラズマ噴射推進装置の噴出を避けられる絶妙な距離だ。
「ワタシはここから始めるね」
「ああ、頼むよ。アルフェ」
昨日のメルアの戦いでアルフェもかなり刺激を受けたようで、朝から多層術式のシュミレーションを繰り返しているのは知っている。この場所から始めることを決めたのは、ホムとリアルタイムで攻守を連携させるつもりだからだろう。僕を守る意味もあるけれど、ホムの攻撃に合わせていつでも動けるように考えているのが僕にはわかった。
「準決勝はぁあああああああっ! 誰もが予想していなかった1年生同士の対決ゥウウウウウウッ! 勝つのはぁああああああああっ! アルタード率いるリインフォースかぁあああっ!? それとも、ベルと愉快な仲間たちかぁああああああっ!」
「リインフォース! リインフォース!」
「ベール! ベール!」
ジョニーの煽るような司会の声に、大歓声が呼応する。ジョニーはそれに満足げに口角を上げると大きく振りかぶるように右手を宙に向けて翳した。
「それではぁああああああっ! 試合――開始ィイイイイイイイッ!!!!!!」
「行くぜぇえええええっ!」
試合開始の合図と同時に、ヴァナベルがフラーゴの噴射推進装置を全開にしてホムに迫る。
「くっ!」
フラーゴの機動力を前面に出したヴァナベルの近接武器フラム・レイピアの一撃が、アルタードを急襲する。
ホムはそれを間一髪、左腕の装甲で受け、肩の噴射推進装置を噴射させて横に退いた。
「にゃはっ! ワンテンポ遅れるのはお見通しだぜ」
ファラの魔眼ならホムのプラズマ・バーニアの弱点を見抜くだろうとは思っていた。プラズマ・バーニアは驚異的な加速力を得られるが帯電布からの放電を必要とする以上、通常の噴射推進装置よりは起動が僅かに遅れるのだ。
「まさか、フラーゴでその一瞬を狙うとはね……」
一歩間違えれば、プラズマ・バーニアで相殺されるどころか一気に押し負ける危険と隣り合わせの攻撃だ。先手必勝がヴァナベルの戦い方であるとはいえ、ここでそれを見せつけられるとは思わなかったな。
「びっくりしてる暇はないよぉ~!」
「リーフ!!」
ヴァナベルの見事な強襲に感嘆の息を吐く間もなく、ヌメリンのカタフラクトが大剣を振り下ろしてくる。
「やるね」
アーケシウスを即座に後退させて攻撃を躱したが、ヌメリンは構わずそのまま地面に大剣を叩き付けた。
「よいしょぉ~~!」
A組とのクラス対抗戦と同じだ。ヌメリンが地面を陥没させて土煙を巻き上げる。
「なぁあああんとぉおおおおおおっ! ヴァナベルとヌメリンの先制攻撃ぃいいいいいいいっ! 砂塵で周りがぁああああっ見えませぇええええええん!!」
巻き上げられた砂煙で視界が一気に悪くなる。だが、それを放置するわけにはいかない。
「逆巻く風よ――疾風の加護を、ウィンド・フロー!」
真なる叡智の書の頁を捲り、エーテルを流す。アーケシウスにウィンド・フローで起こした風を纏わせると、周囲の砂塵が一気に晴れた。
「そうこなくっちゃ~!」
「なっ!」
露わになったのはヌメリンのカタフラクトだけではない。ヌメリンからは、僕のアーケシウスが丸見えになっている。
「せぇのぉおおおおっ!」
カタフラクトが大きく振りかぶって、アーケシウスを横に薙ぐ。進行方向を急いで切り替え、噴射推進装置で急進して躱したものの、さっきまでいた場所の土が抉れ、再び砂塵がもうもうと砂煙を上げて舞う。
だが、先ほどの風魔法の効果が残っていて砂煙が僕たちの姿を隠したのはほんの一瞬だけだった。
「まだまだぁ~!」
それすら狙いであったかのようにヌメリン大剣を振り下ろしてくる。
――まずいな。いくら僕のエーテルが無限に湧いてくるとはいえ、ヌメリンのカタフラクトとアーケシウスでは出力が違いすぎる。なんとか有効な攻撃方法を探さなければ。
「今助けるよ!」
思考を巡らせた次の瞬間、アルフェの声とともにウォーターランスが、ヌメリンのカタフラクトを攻撃して足止めした。
「アルフェ、僕のことはいい! それよりもファラを警戒して――」
言いかけると同時に、背に冷たいものが走るのを感じた。
「ファラはどこだ!?」
アーケシウスの映像盤に目を凝らし、大闘技場の状況を確認する。
ヴァナベルの猛攻を凌ぐホムの後ろに、ファラのレスヴァールの影を見た。
「ホム、後ろだ!!」
警告は間に合わず、ファラの双剣はアルタードのプラズマ・バーニアから伸びる帯電布を断ち切る。
武侠宴舞恒例の賭け事も、実力的には学年最下位に位置づけされた1年F組の2チームが揃って準決勝に進出したこともあり、一番人気のカナルフォード生徒会チームの予想配当率が昨日よりも僅かに下がっている。その代わり、昨日かなりの高額払い戻しを記録した僕たちのチームに賭ける人々が見受けられるようになった。
「リインフォース! リインフォース!」
「ベール! ベール!」
準決勝第一試合である僕たちの入場を前に大歓声が響いているのも、その影響だろう。
「ベールって、ヴァナベルちゃんたちのこと……でいいのかな?」
「まあ、応援で『ベルと愉快な仲間たち』っていうのは呼びづらいだろうからね」
不思議そうなアルフェの声に、僕は首を竦めた。昨日の戦い振りを見て、今日ヴァナベルたちに賭けようと思った人たちの興味など、おそらくその程度のものだろう。
「……今日はアルタードを呼ぶ声が聞こえませんね」
自慢の愛機の名がなかなか聞こえてこないのが不満なのか、機体を前に進めながらホムがぽつりと呟く声が聞こえた。
「ホムが活躍すれば、きっとすぐにアルタードコールでいっぱいになるよ」
チーム名が呼ばれるのも嬉しいが、アルタードやレムレスのコールで大闘技場が大いに沸く様子は、それを生み出した僕としても嬉しい限りだ。
あくまで武侠宴舞というくくりで言えば、従機に搭乗している僕の戦い方は真なる叡智の書に頼った謂わば邪道な戦い方でもある。
どうしようもないこととはいえ、このチームで一番の弱点になっていることは否めないわけだし、今日の戦い方で学ぶことも多いだろう。本気でやると言ったヴァナベルたちが僕をどう扱ってくるのかにも、注目しなければな。勿論、優勝すると約束した以上は、無策でやられるつもりなんて微塵もないけれど。
「さぁああああああてぇええええええっ! お待たせぇええええっ致しましたぁああああああっ! 只今よりぃいいいいいいっ、武侠宴舞・カナルフォード杯二日目、準決勝第一試合のぉおおおおおおっ――――選手入場をぉおおおおおおお始めますッッッッッ!」
バックヤードの向こう、明るい日の光で照らされた大闘技場から司会のジョニーの高らかな声が響いてくる。
「参りましょう、マスター、アルフェ様」
先陣を切るホムに続いて、僕たちはゆっくりと入場口へと機体を進めた。
◇◇◇
「よしよし、調子良さそうじゃねぇか、ホム」
「ええ。勝ちに参りましたので」
同時に入場したホムとヴァナベルが、機体の距離を取った状態で対峙する。いつもよりもやや緊張した声音を耳に感じながら、僕はアーケシウスを入場口ギリギリの場所に停めた。
アルフェが僕を庇うように進み出て、アルタードの背部とも少し距離を取る。プラズマ噴射推進装置の噴出を避けられる絶妙な距離だ。
「ワタシはここから始めるね」
「ああ、頼むよ。アルフェ」
昨日のメルアの戦いでアルフェもかなり刺激を受けたようで、朝から多層術式のシュミレーションを繰り返しているのは知っている。この場所から始めることを決めたのは、ホムとリアルタイムで攻守を連携させるつもりだからだろう。僕を守る意味もあるけれど、ホムの攻撃に合わせていつでも動けるように考えているのが僕にはわかった。
「準決勝はぁあああああああっ! 誰もが予想していなかった1年生同士の対決ゥウウウウウウッ! 勝つのはぁああああああああっ! アルタード率いるリインフォースかぁあああっ!? それとも、ベルと愉快な仲間たちかぁああああああっ!」
「リインフォース! リインフォース!」
「ベール! ベール!」
ジョニーの煽るような司会の声に、大歓声が呼応する。ジョニーはそれに満足げに口角を上げると大きく振りかぶるように右手を宙に向けて翳した。
「それではぁああああああっ! 試合――開始ィイイイイイイイッ!!!!!!」
「行くぜぇえええええっ!」
試合開始の合図と同時に、ヴァナベルがフラーゴの噴射推進装置を全開にしてホムに迫る。
「くっ!」
フラーゴの機動力を前面に出したヴァナベルの近接武器フラム・レイピアの一撃が、アルタードを急襲する。
ホムはそれを間一髪、左腕の装甲で受け、肩の噴射推進装置を噴射させて横に退いた。
「にゃはっ! ワンテンポ遅れるのはお見通しだぜ」
ファラの魔眼ならホムのプラズマ・バーニアの弱点を見抜くだろうとは思っていた。プラズマ・バーニアは驚異的な加速力を得られるが帯電布からの放電を必要とする以上、通常の噴射推進装置よりは起動が僅かに遅れるのだ。
「まさか、フラーゴでその一瞬を狙うとはね……」
一歩間違えれば、プラズマ・バーニアで相殺されるどころか一気に押し負ける危険と隣り合わせの攻撃だ。先手必勝がヴァナベルの戦い方であるとはいえ、ここでそれを見せつけられるとは思わなかったな。
「びっくりしてる暇はないよぉ~!」
「リーフ!!」
ヴァナベルの見事な強襲に感嘆の息を吐く間もなく、ヌメリンのカタフラクトが大剣を振り下ろしてくる。
「やるね」
アーケシウスを即座に後退させて攻撃を躱したが、ヌメリンは構わずそのまま地面に大剣を叩き付けた。
「よいしょぉ~~!」
A組とのクラス対抗戦と同じだ。ヌメリンが地面を陥没させて土煙を巻き上げる。
「なぁあああんとぉおおおおおおっ! ヴァナベルとヌメリンの先制攻撃ぃいいいいいいいっ! 砂塵で周りがぁああああっ見えませぇええええええん!!」
巻き上げられた砂煙で視界が一気に悪くなる。だが、それを放置するわけにはいかない。
「逆巻く風よ――疾風の加護を、ウィンド・フロー!」
真なる叡智の書の頁を捲り、エーテルを流す。アーケシウスにウィンド・フローで起こした風を纏わせると、周囲の砂塵が一気に晴れた。
「そうこなくっちゃ~!」
「なっ!」
露わになったのはヌメリンのカタフラクトだけではない。ヌメリンからは、僕のアーケシウスが丸見えになっている。
「せぇのぉおおおおっ!」
カタフラクトが大きく振りかぶって、アーケシウスを横に薙ぐ。進行方向を急いで切り替え、噴射推進装置で急進して躱したものの、さっきまでいた場所の土が抉れ、再び砂塵がもうもうと砂煙を上げて舞う。
だが、先ほどの風魔法の効果が残っていて砂煙が僕たちの姿を隠したのはほんの一瞬だけだった。
「まだまだぁ~!」
それすら狙いであったかのようにヌメリン大剣を振り下ろしてくる。
――まずいな。いくら僕のエーテルが無限に湧いてくるとはいえ、ヌメリンのカタフラクトとアーケシウスでは出力が違いすぎる。なんとか有効な攻撃方法を探さなければ。
「今助けるよ!」
思考を巡らせた次の瞬間、アルフェの声とともにウォーターランスが、ヌメリンのカタフラクトを攻撃して足止めした。
「アルフェ、僕のことはいい! それよりもファラを警戒して――」
言いかけると同時に、背に冷たいものが走るのを感じた。
「ファラはどこだ!?」
アーケシウスの映像盤に目を凝らし、大闘技場の状況を確認する。
ヴァナベルの猛攻を凌ぐホムの後ろに、ファラのレスヴァールの影を見た。
「ホム、後ろだ!!」
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