刀姫 in 世直し道中ひざくりげ 鬼武者討伐編

流川おるたな

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第2話 出雲の地へ ノ1

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 遠く離れた道を歩く仙花達の姿を、視界から消えるまで見届けた光圀の背に向け絹枝が声をかける。

「行ってしまわれましたねぇ。仙花様」

 その場に立ち尽くす光圀の脳裏には、仙花と出逢った日から六年間の思い出が走馬灯のように流れていた。

 辛うじて絹枝の声を拾い呟くようにして言う。

「あの子ともう少しだけ一緒に時を過ごしたかったのう。あっという間の六年じゃったわい。だが儂の人生で最高の日々を送らせて貰った。これが今生の別れにならぬことを願うばかりじゃて......」

 光圀の声には若干の震えが感じられた。
 そのことを察した滝之助が光圀を気遣う。

「光圀様...もはや仙花様一行の姿は見えませぬ。縁側にでも腰掛け、暫く休れた方がよろしいかと存じます...」

「...................」

 聞こえている筈だが光圀は微動だにせず黙していた。

 絹枝がその様子から察し、滝之助の側に寄り耳打つ。

「光圀様は振り返られぬ理由があるご様子。暫くそっとしておいて差し上げましょう」

「..............あっ」

 耳打ちされた言葉で滝之助もようやく気付き、二人は目配せして音を立てずに社へ入って行った。

 この時、光圀が心配してくれる二人の方を振り返らなかった理由とは、声こそ出していなかったものの、目尻から大粒の涙が溢れていたからに他ならない。

「まさか、天下の徳川光圀にこれほど涙を流す日が訪れようとは...人生とはほんにわからんもんじゃのう...」

 ある程度の心傷はとうの昔に覚悟していた光圀だった。が、現実に目の前から仙花が消えるという事実は、人生の熟練者である年寄りの胸を格別に締めつけた。

「仙花、必ず、必ずや儂の元へ帰ってくるんじゃぞ...」

 光圀は声を振り絞ってそう呟き、口を閉ざして暫くのあいだ蒼天を眺めたのだった。

 爽やかで心地良い風が吹き、近くからは可愛い鶯の囀りが響く春の朝の一幕はこうして閉じた。



 一方その頃、仙花の一行は雪舟丸の「居眠り歩き」について盛り上がっていた。

 通常、人が一度眠りにつけば自らの意思で身体を動かすことは不可能、と考えるのが当然であろうし当たり前である。

 だが一行の常識は見事に覆されていた。

 一行の最後尾を歩く無精髭を生やした侍の阿良雪舟丸は、「すぴぃ~、すぴぃ~」と寝息をたて健やかに眠っている。つまりは寝相どころの騒ぎではないわけだ。

 美貌を持つお銀が唇に手を当て美しく笑う。

「くくくっ、寝ながら歩く人など初めて拝見しましたよ。誠に器用なものですねぇ...」


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