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古書店で働くタマとムギ

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 僕が馬鹿の一つ覚えのようにひたすら部屋でマンガを読んでいると、母とタマとムギが昼過ぎには帰って来た。

 1階に降りて居間に居る3人の様子を覗く。
 買った服を広げて親子のように楽しそうにしていた。

 父から何年か前に聞いた話し。
 結婚当初の子供好きな父と母は、子供を最低でも3人は欲しかったのだけれど、残念ながら僕が生まれたあとは子供に恵まれなかったのだと云う。

 そんな経緯のある母だからこそ、タマとムギの人間に化けた姿を受け入れられたのかも知れない。

 この日以降、タマとムギは人間の姿をしている割合の方が圧倒的に多くなり、猫の姿の方が珍しくなっていった。

 事前に母から聞いていたのか、父が退院してタマとムギの人間モードを初めて見ても余り驚かず、すぐに解け込み実の娘と変わらぬように可愛がったものである。

 僕が高校に通うようになると、タマとムギは父の代わりに古書店で働くようになった。
 以前から日中は古書店に居た二人は、父の仕事を観察していたお陰ですぐに仕事をこなせるようになったのである。

 二人が古書店で働き任せられるようになると、父は前々からやりたかったネット関係の仕事を自宅でするようになった。

 因みに母は図書館司書の資格を活かして図書館のパート勤めをしている。

 つまり家族で僕以外はみんな働いていたのだけれど、僕は学生なのだからそんなことを気にしてもしょうがない。

 タマとムギが任された古書店は高校の通学路にあり、帰りに立ち寄り二人の様子を見るのが日課となっていた。

 今日も学校の帰りに二人の様子を見に行くと...

 タマはカウンターで鼻風船を出しながら寝ていて、ムギは汗をかきながらせっせと本を整理していた。

 これは教育的指導が必要だな...

「タマーッ!起きろーっ!」

「パチン!ひゃっ!?」

 僕が大声を出すとタマの鼻風船が割れ、授業中に起こされる生徒のようにビクッと起きた。

「ムギが汗をかきながら仕事を頑張ってるのに昼寝とは呑気なもんだな!?」

「......?」

 寝起きで僕の言うことが理解できないのか、タマはキョトンとしている。

 僕の大声に気付き、あたふたしながらムギが話す。

「違うの違うの!タマはちょっと前まで接客してたの!やっと昼ご飯を食べて昼寝してただけ!」

「なに!?」

 やばい...恐る恐るタマの方を振り向くと、タマの後ろに魔王の影が見えゴゴゴゴ!と聴こえそうなほど怒っているのが分かった。

「当然だが早とちりした僕が100%悪かった!」

「んーにゃ!許さん!ボクの希少な昼寝時間を妨げた罪は深いのだーっ!」

 普通に謝っても無理だ...こうなったらアレで釣るしかない!

「OK、OK。タマよ。今度カマンベールチーズをたっぷり奢ってやるからそれで手を打たないか?」

 僕がゲス顔で切り札を出すと...

「カ、カマンベールチーズーッ!?約束だぞ~天馬っ!」

 チョロい!チョロすぎるぜタマ!

 だがこの切り札はサイフにダメージの大きい諸刃の剣だった。
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