プロメテウスの神託

序章

4話目 彼の凄さ

　さて、このあととんでもない展開になるわけだけれど、物語は始まったばかり、彼が如何に凄い人物かについての解説がまだまだ足りないかも知れないので少しだけ補足いておこう。
　「超」の付く天才であることは十中八九間違いない桐生要の性別は清らかに男であり、古くからの伝統ある桐生家の第十二代目の紛れもない世継ぎにあたるのだが、聡明で美しかった母の腹より生まれてから現在に至るまでに経験した恋愛はたった一度たりもと...否々、一度「かすった」程度はあったのだ。がしかし、そのかなり希少な存在である女性は無情にも彼の隣の空間を埋めることはなく、早々にして彼の元から去っていった。その「かすった」女性は彼のバランス良く整った顔よりも、彼の内面や才能に心底惚れ込み、実際に結婚話も出ようか出まいかというところまでの関係に至っていたのだが、ある時期において彼が研究開発に没頭するあまり...あとは言わずもがな...結果であったことは想像に容易いだろう。
　当然この広い世界ではたった一度の恋愛で結婚に至り、生涯の中でたった一人だけを愛し人生をまっとうした人間もそれなりいるのであるから、桐生要があとどれくらい生きれるかわからないが、死ぬまでにワンチャンあるかも知れない。
　しかし桐生要は女性という人生のパートナーについてはできる限り考えないようにしていたし、プロメテウスの開発に没頭して考える暇さえ無かった。
　継続性という意味では、人類にとって不可欠とまでは言わないまでも必要であろう「恋愛」（不要な人もいるだろうが)には「かすった」あとはおよそ縁がなく、時には心無い人から「あなたはゲイではないのか？」などと疑われたりもしてきたわけで、そんなこんなで彼は50歳という結婚適齢期をとうに過ぎたる熟年熟練の独身者である。
　平均寿命記録を更新し続けるこの老人全盛期の日本において、彼の父と母の両方が同時に不幸な事故によって60代という若さで亡くなっており、親戚などとは途方もなく長い話になる事件によって完全に絶縁状態のため、桐生家の跡継ぎ云々について彼が「早く結婚して世継ぎを」という言葉で誰からか攻め立てたられることもなかった。だからこそ残念なことに人間関係の乏しい今の彼があるわけで...

　おっと、桐生要の「凄さ」について語るつもりが気づけば大いに脱線してしまい、文脈もかなり酷い有様になってしまい申し訳ないことこの上ない。
　しかし彼の女性関係については1ミリくらいはご理解いただけたことを期待しつつ、全くもって訳もわからぬまま始まったばかりの物語を進めていくこととしよう...