やしあか動物園の妖しい日常 第一部

流川おるたな

文字の大きさ
88 / 93

喜ぶ二人

しおりを挟む
 結局、二人で話し合った結果、渡すなら久慈さんの分を渡すという結論に至って保管倉庫の事務室に行った。

 事務室の中ではボウさんとシラユキさんが、先ほどと同じように作業をしている。

 ガラス窓の外側から二人で覗いていると、海坊主のボウさんがこちらに気付きガラス窓を開けてくれた。

「おう!二人ともまだ帰ってなかったのか?」

「ちょっと野暮用があってですね...ボウさんちょっと良いですか?」

 久慈さんがそう訊くとボウさんが不思議そうな表情になる。

「ん、なんだ?」

「これ、河童の妙薬って云うんです。良かったら病気で休んでる人に飲ませてあげてください」

 ガラス窓のサッシ越しに久慈さんが妙薬をボウさんに差し出す。

「河童の妙薬...ってあれか!?ワッパが作ってるってのは噂で聞いたことがあったが...本当にあったんだな」

 あっ!そうか。ワッパさんが園長かリンさんにしか渡したことが無いって言ってたから、河童の妙薬を実際に見ていない妖怪もいるのか。

「これを飲めば病気も治るかも知れません」

「本当に良いのか?これって貴重な薬なんだろ?」

「それは貴重ですけど、僕が持っているよりボウさん達に渡した方が役立ちそうなので。でも最初に思い付いたのは紗理っちなんですよ」

「あ、いえいえ。わたしはたまたま思い付いただけなので」

 わたしがそう言ったあとでボウさんの顔を見ると、いつに間にか目に涙が滲んでいた。

「ありがとな二人とも。感謝する...お~い、シラユキ~!ちょっとこっちに来てくれ!」

 ボウさんがシラユキさんを呼びと、作業の手を止めてこちらにやって来た。

「どうしたの?ボウ。まだ仕事が終わってないのだけれど...あら、久慈っちと紗理っちが来てたのね」

 シラユキさんは仕事に没頭してわたし達が訪れたことを知らなかったらしい。

「この二人から河童の妙薬という薬を貰ったよ。これでアイツの病気が治るかも知れないぞ」

「本当に!ありがとう。何だか今日は二人にはお世話になりっぱなしで申し訳ないわね」

「ハハハ、そんな。困った時はお互い様ですから気にしないでください」

「そうですそうです。わたし達に出来ることなら何でもしますよ。今からでも手伝えることがあれば何でも言ってください」

 わたしがそう手伝いを申し出ると、ボウさんが涙を吹いて話し出す。

「いやぁ、流石にそこまでは頼めない。それに、もう少ししたら今日は引き上げようって二人で話してたんだ。折角貰ったこの妙薬を早くアイツに飲ませてやりたいしな」

「そうですか...じゃあ僕らはこれで帰りますね。お疲れ様でした」

「ああ、お疲れさん!二人とも今日は本当にありがとな!」

 ボウさんとシラユキさんは笑顔を見せて本当に喜んでくれた。

 そのあとわたし達は保管倉庫を出て事務所に戻り、久慈さんがわたしを駅まで送ってくれたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...