一輪の廃墟好き 第一部

流川おるたな

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第30話 刑事

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「刑事さん、見立て通りってなんですか?」

 湧き上がる苛立ちを一呼吸入れて抑えた僕は、彼のことを敢えて「刑事」と呼び、なんの罠も仕掛けずストレートに訊いた。

 変化球ではなくどストレートで質問した理由、それは男がスマホ画像の警察手帳を見せた真意を確認するという意味合いと、僅かな時間で相手がどの程度僕のことを把握したのかを知りたいという欲求があったためである。

 質問を受けた男がニヒルな薄笑いを浮かべたあとに喋り出す。

「あまり気を悪くして欲しくは無いんだが...と言っても時既に遅しってところだろうな。君ね、刑事の私に近しい匂いがプンプンするんだよ。だが同業者ではないなぁ...君の話し方と歳の割に薄いリアクションからして恐らくは探偵。と、その若くて可愛い助手といったところかな」

「やだっ♪可愛いだなんて♪」

 「可愛い助手」と言われて全然嫌がっていない未桜は捨て置いて、こいつ、怖いくらいにあっさりと当てやがった。

 人格は別として只者ではないという僕の見立てはどうやら間違っていなかったらしい。

 僕達の短い会話を聴いただけなのに声を照合させた優れた記憶力、また、僕の表情や反応から僕が何者かを言い当てた鋭い洞察力。
 もはやこの男はただの「ニヒルで嫌なやつ」ではない。「手強くてニヒルで嫌なやつ」だと明言しよう。

「凄いですねぇ刑事さん、手放しでお見事としか言いようがありません。んじゃぁ、初対面の僕達に何でそこまで食いついて来るのか教えてもらえないでしょうか?」

 多くのごく普通の旅行者なら、旅先で他の旅行者とすれ違い様に目が合った場合、大抵は何もせずに通り過ぎてしまうか、やってもせいぜい軽く頭を下げる会釈くらいのものであろう。

 だがこの男の取った行動はどうだ。

 歳上だということはその風貌からして明白であるけれど、初対面だというのにタメ口で不愉快なことをズケズケと言ってくるからには相応の理由があることを裏付ける。

「ククク...流石だねぇ探偵君。良いだろう、だが教えてやる前に互いの名を名乗ろうじゃないか。君も俺のことを『この男』だとか『こいつ』だとか頭の中で考えるのもまどろっこしいってもんだろう?」

 「ちっ!」、僕は心の中で大きく舌打ちした。顔に出せば男がつけあがるだけだと思い、もちろんポーカーフェイスを貫いている。
 それにあんたの名前はさっきの画像で既知だ。

 自分で云うのも何だが僕は元来より人に苛立ったりせず落ち着きを保っていられる性分だ。

 その僕を持ってしても苛立たざるを得ないこの男...

 まぁようやく辿り着いた廃墟探索の物件を前にして、余りこいつに時間を食われるのも得策どころか愚策としか云いようがないだろう。

 僕は素直に、そして正直に名を名乗ることにした...


 




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