一輪の廃墟好き 第一部

流川おるたな

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第54話 鳴き声

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 物置の襖は風化して所々が破けており、出来た穴から物置の不気味な暗闇が目に映る。

 雨雲が太陽の光をほぼほぼ遮断し薄暗くなった外よりも、家の中は当然の如くさらに暗くなっていた。

 真剣な表情をした未桜が、にわかに目撃したと思われる何かの正体を見極めようと足を一歩踏み込む。

 僕はその動きに併せて踏み込むような真似はしなかったけれど、同じく破れた押入れの襖を凝視した。

「ん!?」

 数秒と経っただろうか。

 僕は僅かに開いた襖の隙間ではなく破けて貫通している穴の奥の暗闇に、一瞬だけ小さな光のようなものが横切るのを見逃さなかった。

 未桜が僕の声に反応してこちらに視線を移す。

「一輪、何か見えたの?」

「...あぁ、一瞬だが右下の穴を小さな光が横切った」

「やっぱり押入れに何か居るみたいだねぇ...」

「そのようだな...」

 僕と未桜に緊張が走り、固唾を呑んで再び襖の暗闇を凝視する。

 しかし今度は1分以上経過しても暗闇になんら変化が見られない。

 こんな場所で時間を浪費してしまうことは、どう考えても後の探索に支障をきたすだろうと考えた僕は、腰のホルダーに下げていた懐中電灯をそっと外す。

「未桜、このままじゃ拉致があかん。暗闇の部分に懐中電灯の灯りを照らすから少し下がってくれ」

「...了解」

 
 未桜は僕の言葉の意味を直ぐに察し微かに頷くと、慎重にゆっくりと後方へ後退りした。

「やるぞ」

「...うん」

 僕が懐中電灯のスイッチをONにして先ほど光の横切った穴の暗闇に灯りを当てると。

「ガサササササッ!...」

 押入れの中で何かが素早く移動するような音が聴こえた。

 僕達は声を出さずに驚きはしたものの、押し入れに潜む何者かが人間ではないという確信を得て安堵する。

 否、安堵したのは僕だけだったかも知れない。想像力豊かな僕の頭が想像していた最悪のシナリオは、押し入れに潜む者が刃物を持った人間であり、突如として襖を突き破り襲いかかって来るというものだったのだから。

 こんな突飛なことを彼女が想像する可能性はゼロに等しいと云えた。

「多分、あの足音からして衝動だね」

「恐らくは、な...」

 彼女の言葉に同調した瞬間。

「シャァァァッ!!」

 そいつは突如、何処かで聞いたことのある威嚇の鳴き声を上げ、襖の真ん中の穴から凄まじい速さで飛び出して来た。

「なっ!?」

「きゃっ!?」

 十分な注意を払い身構えていた僕達は、なんとかそいつを避けて横に飛び退いた。

 二人の間を跳んで通り抜けたそいつは居間から玄関を抜け、あっと言う間に視界から消え去ってしまった...
 
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