刀姫 in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編

流川おるたな

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ノ54 時代を越えて

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 仙女と云えばついぞ当たり前のように美形、美人を想像するものであるけれど、或いは広い仙人界においても不細工な仙女が居ても不思議ではない。

 しかし、堕仙女の物語を折角にして語るなら、不細工な仙女に出て来てもらうよりも、絵になるほど美人な仙女に登場してもらう方が幾分マシだと思われる。

 幸い?なことに、底なし沼の泥に胸のあたりまで浸かった伊乃の前に上空から舞い降りた仙女。彼女の人格云々はさておき、「絶世」がついてもおかしくないほど美人な仙女であった。

 仙女が空中に浮いたまま腰に手を当てニコッと微笑む。

「ねぇねえねぇ、ひょっとしあなたぁ。それってもしかしてぇ、死のうとしちゃってるぅ?」

 生まれてこのかた場の空気を読むことに努力などしたことのない仙女。彼女の口調は羽毛のように軽く場違いで、とてもじゃないが死を決めた人間に語りかける調子ではなかった。

 伊乃は仙人はもとより仙女という種の存在を知らない。彼女は恐らくこの仙女のことを怪異か何かの悪い印象しかなかったのであろう。軽い口調で話し掛けてくる仙女に一度目線を向け、興味なさげに下へ直ぐ目を逸らして一言呟く。

「...邪魔、消えてちょうだい...」

「なぬっ!?仙人界屈指の実力者であるこの即蘭眉雲峡(そくらんびうんきょう)に向かって何という口の利き方を!?」

 辛辣な言葉に僅かに逆上する仙人界屈指の奇仙女でもある雲峡。
 江戸の時代に仙花らと出会うも、仙女でありながら邪魔者扱いされた彼女は、二百年以上の時を遡ったこの室町の時代においても、初見の人間から雑にあしらわれてしまっていたものである。

 だが伊乃のどん底の心境を考えれば、相手が誰であれ同じ反応を示したであろう。

「誰かは存じないけれど、本当に要らないから、そういうの...」

 力の無い声でそう言った伊乃の身体は泥の中へ沈み続け、今や首が浸かるところまで来ていた。
 聞いた雲峡がムスッとして言う。

「何だかムカつくなぁそういうの。よ~し、貴方の願いとは逆のことをしてやろうじゃないか!」

「ヴン!」

 雲峡が右腕を前に差し出し、希少な仙器である雷禅杖(らいぜんじょう)を手許に出現させ、すぐさま杖の先端を下へ向け。

「その底なし沼ごと吹き飛ばしてやろう!響け!地雷万画(じらいばんかく)!!!」

「ピシャーーーーーーッ!!!ズッ!!ズゥオオオオーーーーッ!!!!!」

 底なし沼の全面に不規則で数えきれぬほどの網状の稲妻が走り、沼の底まで泥を引き裂き上空へ一気に噴出させた!
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