刀姫 in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編

流川おるたな

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ノ55 雷鳥 羅狗佗(らくた)

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 雲峡が行った所業を悪く云うなら「馬鹿」、良くは云わずもっと悪く云えば「大馬鹿」であろう。

 後先を考えて放ったのか?否、恐ろしいことに何も考えずぶちかました大技は、泥の中に沈んでいた伊乃をも豪快に吹き飛ばしたのだった。

 だが、大馬鹿者だと過大に揶揄した上で比喩もしたけれど、雲峡が仙人という神に近い存在の一人であり、仙人界屈指の実力者であることは紛れもない事実であり、彼女がただの大馬鹿者でないこと証明される。

 雲峡は眼差しを鋭くし、空中に舞い上がった想像を絶する大量の泥に紛れる伊乃の身体を見つけ出すと、己の長い黒髪を一本「プチッ」と引き抜き口笛を吹くように「ふぅ~っ」と息を吹きかけ。

「出でよ!雷鳥!羅狗佗(らくた)!」

 彼女がそう言うと、一本の黒髪がみるみるうちに何倍もの大きさに膨張し、黄金に輝く鳳凰の如き形を成した。

 雲峡がいきなり出現させたこの鳥、否、正確に云うと仙人界に生存する霊獣なのだが、本来、一人の仙人に霊獣は一体従い寄り添うのが基本なのであるところ、こと雲峡に関しては三体の霊獣を従えている。
 その内の一体を易々と召喚した力こそ、雲峡が仙人の中でも屈指の実力者であることを示す指針であった。

 実力者たる彼女が雷鳥に片目を瞑り合図を送る。

「羅狗佗♪あの娘を助けてやってちょうだい♪」

 自分で起こした災難なのに「助けてやって」とはこれ如何に...
 などと茶化すの栓なきこと。
 雷鳥は高い鳴き声で「ピャーッ」と一鳴きすると翼を大きく広げ、地上へ落ちゆく伊乃の元へと向かった。

 唐突だけれど、日本に生息する鳥で最も早く飛行する種と云えば、水平飛行で最も速いのが「ハリオアマツバメ」で時速170km。限定的だが、急降下において最も速いのが「ハヤブサ」で時速300km。ということらしい。
 
 いずれにしても最高速度に到達するためには多少なりとも時間がかかるもの。

 しかし雷鳥の羅狗佗にそのような概念は当てはまらなかった。

 結果から云ってしまえば、羅狗佗は動き出した瞬間に最高速度に達したのである。その速度たるや正に光の如し。
 あっという間に伊乃の落ちゆく落下点に到達し、衝撃を与えないようその背中に上手く乗せたものである。

 羅狗佗が伊乃を乗せたまま地上へゆっくり降り立つと、雲峡も地上へ降り、一仕事を終えた雷鳥の額を優しく撫でてやった。

「羅狗佗~♪ご苦労ご苦労♪また機会があれば呼んであげるからね~♪」

「ピャーッ!」

 召喚され登場したばかりだというのに、雷鳥は嬉しそうに鳴いてその場から消え去ってしまった。
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