夢中の少女 第一章

流川おるたな

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ホワイトクリスマス

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 日にちが判明しない...

 もし、あの日だったらどうしよう...という焦りが突き上げる。
 あの日は雪が降り積もり、小学生だった僕はこの雪を使って友達とどんな遊びをしようか、などとはしゃいでいたような記憶が残っていた。

 小走りで母が現れ、こたつの上にある空き皿を持ってきたお盆に乗せていく。

「全くもう、天気予報通りのホワイトクリスマスになっちゃったわねぇ。子供達にとっては嬉しいんだろうけど...」

 そう独り言を呟きながら台所へ引っ込んで行った。

 クリスマスということは12月25日なのか!?
 だとすれば母が失踪してしまった日...

 僕の胸がぞわぞわする。
 光球触れて最初に飛ばされたのは実の父親が亡くなった日だった。
 今回は二人目の母が失踪した日に飛ばされたのか...
 まだ人生を語れるほど生きていないけれど、2回飛ばされて2回とも僕の人生のターニングポイントになる日だ...

 ...得体の知れない何かに弄ばれているような気さえしてしまう...

 だめだ、今はこんなことを考えている場合じゃないだろ!
 本当に母が失踪した日なのであれば、状況を変えられないとしても事の真相を確かめなければならない。
 母がこの日に行方不明になってから5年近く経過した現在においても、まだ原因は突き止められていないのだから...

 僕は早速、母の様子を見ようと居間を出て廊下を通り台所に移動する。

 台所では母がせかせか動きながら食器を洗っていた。

 高校生で17歳という年齢にも関わらず、その後ろ姿を眺めているうちに胸の中で懐かしさが溢れ出し、母の背中に飛びつき抱きついてしまいたい衝動に駆られる。

 声を掛けてみようか...

 最後の最後で実の父親と目が合ったあの時、僕の声が届いたのかどうかは分からないが母に試してみる価値はある筈だ。

 期待と不安から緊張が生じてゴクリと唾を飲み込み、意を決してそっと声を出す。

「母さん」

 食器洗いで動く母の反応は全く感じられない。
 蛇口から流れるお湯の音で聴こえていない可能性だってある。
 そう考えた僕は母との距離を縮め、今度はもっと大きい声を出してみることにした。

 母の横顔が見える至近距離まで移動し口を開く。

「母さん!僕だよ!」

「...........」

 ほぼ叫ぶくらいに声を出してみたけれど、残念ながら母の横顔はピクリとも動かなかった。

 ダメか...
 
 声が届かないのなら、僅かでも触れることはできないだろうか?

 僕は中学の頃に観た映画のワンシーンを思い出そうとしていた。
 とても古い映画、[ゴースト ニューヨークの幻]では、死んでしまった主人公が人間に触れるシーンがあったような...
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