夢中の少女 第一章

流川おるたな

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居なくなった母

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 映画のあれって、怒りの感情を特別なパワーに変えて相手にぶつけるようなものだったか?...確か悪役を突き飛ばしたり物を弾くシーンだったような...
 まぁ映画通りに行くわけは無いのだが、なにかしらのヒントにはなるかも知れないし...

 ...しまった!?
 考えているあいだに母が目の前から居なくなってしまっていた。
 
 台所を見渡すが姿が無い。
 まさか!?
 僕は焦燥感に駆られて洗濯場へ急いで向かう。
 そこには洗濯機から洗濯物を取り出す母の姿があった。

「良かったぁ...」

 声に出して胸を撫で下ろす。
 しかし、僕の安堵の声はやはり母へは届かなかった。
 もうこんな想いはしたくない。
 僕は母を見失ってしまわないよう、それからはべったりと張りつくことにした...

 
 失踪事件当日のことをまた思い出してみる...

 母が失踪した日は12月25日で間違いないのだが、当時の夕方、僕が小学校から家に帰り着いた時に母の姿は無く、父も仕事から帰っておらず家に居なかった。
 
 僕はしんと静まり返る家の中で、暖かいこたつに入って宿題をする。

 1時間ほど経過して父が帰って来て母が居ないことを話すと、「大丈夫、すぐに帰ってくるさ」と言ってその時点ではまだ心配していなかった。

 ところが、七時を過ぎ外が真っ暗になったというのに母は帰って来ず父の携帯電話も鳴らない...

 いよいよ心配になったのか、父が携帯を手に取り母に電話をかける。
 
 すると母の携帯の呼び出し音がトイレの方から聴こえて来た。

 僕と父は二人同時にトイレへ向かったけれど中の灯りが点いていない...

 言いようのない不安が胸に押し寄せ、自分の心臓の音が聴こえそうなほど心拍数が上がって行くのが分かった。

 父がトイレのドアを開けずに外側から呼びかける。

「母さん、中に入ってるのかい?居るんだったら返事をしてくれ!」

「.......」

 数秒待ってもトイレの中から返事は帰って来ない。
 父が僕に「開けるぞ」とでも言うように目配せをしてドアを開ける。

 もしかしたら母が倒れているかも知れないと怖い想像もしていたのだが、中に母の姿は無く、壁に取り付けられた棚の上に携帯が置かれていた。

 トイレの中にある窓ガラスが少しだけ開いていて、そこから外の冷たい風が入って来る。

「母さんはどこに行ったんだろうね?」

 そう問いかけながら父の方を見ると、さっきまで普段と変わらなかった父の顔が血の気が無くなり青ざめていた。

「良いか凪、よく聞いてくれ。父さんは今から母さんを探しに外へ出る。お前はここに残って居間のこたつでじっとしているんだ。家の中を歩き回るのもだめだ。もし、家の電話が鳴ったその時は必ず電話に出てくれ。分かったか?」
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