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366回目の告白
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366回目の告白
「笑美は幸せになってね。別れよう。」
それが彼の最期の言葉だった。
葉山楓は私にとって、幼馴染で、初恋で、彼氏、だった。
彼と付き合って1年半。沢山の思い出ができた。2人で遊園地や買い物、デートに行った。こんな幸せな時間がずーっと続くのだと思ってたし、私達なら長続きすると思っていた。
「ねぇ、笑美は幸せになってね。別れよう。」
その言葉は突然に。
いつものように彼の家でまったりと他愛のない会話をしたりくだらないゲームをしたりしてるとき。そんな時に彼はふと立ち上がってからそう言い放った。
「え?」
意味がわからなかった。別れる?笑美は幸せになれ?
なにかのドッキリか冗談だと思った。
別れるもなにも、一緒に幸せになるんでしょ。
私達2人で。
1分ほど硬直した後、鈍い音がして我に返った。
目の前に彼の姿はない。下を見ると、息もせず、もがこうともせず、ただうつ伏せで倒れている楓がいた。
「え?なに?ドッキリ?ちょっと、起きてよ。
ねえ楓、その冗談タチ悪いよ。起きてってば。」
無数の言葉をかけて彼の体を揺さぶっても、ぴくりとも反応はない。
すぐ楓のお母さんに伝えて救急車を呼んだ。
そこからの記憶はあまりない。
ただ彼の言葉が頭の中で反芻されるだけだった。
笑美は幸せになってね、って。あんたは幸せにならないの?
葉山楓が死んだ。
楓の母から聞かされた。彼は持病があったと。余命宣告もされていた。なんで私に言ってくれなかったのかと尋ねると、楓が言わないで欲しいと言っていたそう。涙は流れない。心には大きな喪失感と、まだ事実を受け入れられない、受け入れたくない気持ちが残った。
それから3年後。椛が色付く季節になった。3年前、彼の葬式には行かなかった。きっと彼の顔を見たら正気ではいられなくなってしまうから。当時はあれは夢なんだと思い込まなければ普通の生活すらできなかった。
葬式も行ってなければ、墓参りにも行っていない。もし行ってたとしても、下手したら堀り起こしてしまうかもしれない。
でも私は今、彼の墓場に向かっている。今更行って楓に怒られたりしないかな。いや、楓なら笑顔で受け入れてくれるかもな。車に揺られながらそんなことを思った。
3年ぶりに彼と対面する。
目をそっと閉じる。
あ、いる。楓がいる。目の前にいる。
楓の気配を感じる。あの懐かしい感じ。
楓のことを見たいと思って目を開けた。
でもそこには当然、楓の墓石しかなかった。
「はは、疲れてんのかな。」
死んだ人がこの世界にいるわけないのに。
枯れかけの花を入れ替え、墓の前に屈む。
楓が亡くなったときに友達に言われた言葉をなんとなく思い出した。
「人間界は醜くくて1番下層だから、素敵な人は早く上にあがっちゃうんだよ。」
うん、本当にその通りだと思う。
そしてまた目を閉じる。
嗚呼、やっぱり彼がいる。
私は目を閉じたまま、静かに楓に語りかける。
3年間、楓に会いに来なくてごめんね。
覚えてる?君が私に告白してくれたときのこと。告白って普通1回じゃん、なのに君、365回もしちゃうんだもん。
1回目の君からの下手くそでぎこちない告白。
「好きです。付き合ってください。」
私断ったよ。冗談だと思ったの。だから1年後にまだ私の事好きだったら考えてあげる、って言った。
そしたら楓、君さぁ毎日告白してきたよね。毎日だよ?ほんっとに、今となっては思い出だよ。でもその時、私すごく戸惑ってたんだからね?
そんで、しっかり1年後に付き合ってください、って。言ってくれたよね。そこまでしつこくされたらさ、断れないじゃん…?
あれ、なんでだろ、視界がぼやけるなぁ。
…………楓。
365回の告白をありがとう。全部君からのだったけどさ、366回目の告白は私にさせて。
「好きです。付き合ってください。」
「もちろん。じゃあ、またね。」
頬につたる生暖かい雫を感じながら。
私は楓に背を向けて、前へ走り出した。
「笑美は幸せになってね。別れよう。」
それが彼の最期の言葉だった。
葉山楓は私にとって、幼馴染で、初恋で、彼氏、だった。
彼と付き合って1年半。沢山の思い出ができた。2人で遊園地や買い物、デートに行った。こんな幸せな時間がずーっと続くのだと思ってたし、私達なら長続きすると思っていた。
「ねぇ、笑美は幸せになってね。別れよう。」
その言葉は突然に。
いつものように彼の家でまったりと他愛のない会話をしたりくだらないゲームをしたりしてるとき。そんな時に彼はふと立ち上がってからそう言い放った。
「え?」
意味がわからなかった。別れる?笑美は幸せになれ?
なにかのドッキリか冗談だと思った。
別れるもなにも、一緒に幸せになるんでしょ。
私達2人で。
1分ほど硬直した後、鈍い音がして我に返った。
目の前に彼の姿はない。下を見ると、息もせず、もがこうともせず、ただうつ伏せで倒れている楓がいた。
「え?なに?ドッキリ?ちょっと、起きてよ。
ねえ楓、その冗談タチ悪いよ。起きてってば。」
無数の言葉をかけて彼の体を揺さぶっても、ぴくりとも反応はない。
すぐ楓のお母さんに伝えて救急車を呼んだ。
そこからの記憶はあまりない。
ただ彼の言葉が頭の中で反芻されるだけだった。
笑美は幸せになってね、って。あんたは幸せにならないの?
葉山楓が死んだ。
楓の母から聞かされた。彼は持病があったと。余命宣告もされていた。なんで私に言ってくれなかったのかと尋ねると、楓が言わないで欲しいと言っていたそう。涙は流れない。心には大きな喪失感と、まだ事実を受け入れられない、受け入れたくない気持ちが残った。
それから3年後。椛が色付く季節になった。3年前、彼の葬式には行かなかった。きっと彼の顔を見たら正気ではいられなくなってしまうから。当時はあれは夢なんだと思い込まなければ普通の生活すらできなかった。
葬式も行ってなければ、墓参りにも行っていない。もし行ってたとしても、下手したら堀り起こしてしまうかもしれない。
でも私は今、彼の墓場に向かっている。今更行って楓に怒られたりしないかな。いや、楓なら笑顔で受け入れてくれるかもな。車に揺られながらそんなことを思った。
3年ぶりに彼と対面する。
目をそっと閉じる。
あ、いる。楓がいる。目の前にいる。
楓の気配を感じる。あの懐かしい感じ。
楓のことを見たいと思って目を開けた。
でもそこには当然、楓の墓石しかなかった。
「はは、疲れてんのかな。」
死んだ人がこの世界にいるわけないのに。
枯れかけの花を入れ替え、墓の前に屈む。
楓が亡くなったときに友達に言われた言葉をなんとなく思い出した。
「人間界は醜くくて1番下層だから、素敵な人は早く上にあがっちゃうんだよ。」
うん、本当にその通りだと思う。
そしてまた目を閉じる。
嗚呼、やっぱり彼がいる。
私は目を閉じたまま、静かに楓に語りかける。
3年間、楓に会いに来なくてごめんね。
覚えてる?君が私に告白してくれたときのこと。告白って普通1回じゃん、なのに君、365回もしちゃうんだもん。
1回目の君からの下手くそでぎこちない告白。
「好きです。付き合ってください。」
私断ったよ。冗談だと思ったの。だから1年後にまだ私の事好きだったら考えてあげる、って言った。
そしたら楓、君さぁ毎日告白してきたよね。毎日だよ?ほんっとに、今となっては思い出だよ。でもその時、私すごく戸惑ってたんだからね?
そんで、しっかり1年後に付き合ってください、って。言ってくれたよね。そこまでしつこくされたらさ、断れないじゃん…?
あれ、なんでだろ、視界がぼやけるなぁ。
…………楓。
365回の告白をありがとう。全部君からのだったけどさ、366回目の告白は私にさせて。
「好きです。付き合ってください。」
「もちろん。じゃあ、またね。」
頬につたる生暖かい雫を感じながら。
私は楓に背を向けて、前へ走り出した。
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