天狗と骨董屋

吉良鳥一

文字の大きさ
上 下
35 / 169
片割れは傍らに在り(上)

第四話

しおりを挟む
 盗まれたと言う物は一体どのような物だったのか……
 すると如月はこう続けた。

「宗像さん、一緒に見に来て貰えませんか?」

 そう言って如月は立ち上がった。
 見に来てとは、盗まれた物があった場所を見て欲しいと言うことだ。
 二人は如月の後を着いていく。
 着いた先は薄暗く、重々しい引き戸が待ち構えていた。
 
 如月がガラガラと戸を開けると、中は暗い。
 しかも空気が冷たい。
 電気を付け明るくなった部屋は、物置部屋のように色々な物が乱雑に置かれていた。
 
「すみません、散らかっていて……
色々な物が持ち込まれますので、整理しきれなくて」

 如月が言うように、確かにあまり良くない気配がする。
 それでも利音の蔵に比べたら可愛い物である。

「それで盗まれた物ですが、兎のぬいぐるみなんです。
古い物のようで恐らく数十年前の物ではないかと思います」

 盗られたと言う古い兎のぬいぐるみは、昔亡くなった少女が持っていた物だと言う。
 詳しい事は分からないが、所有者が処分しようと捨てても戻ってくるそうだ。
 怖くなったその人は寺に持ってきて処分を依頼してきたと言う。

 如月は詳しい説明を求めようとしたがその人はよっぽど恐ろしかったのか、話を聞く前に帰ってしまったのだそう。 

 「元の所に戻ってしまうと言うことは、念が強いと言うことです。
私では処理しきれないので、宗像さんに見て頂こうと思ったのですが……」

 ここにあったんですがご覧の通りと、如月は奥にある棚を指差した。
 棚には一ヶ所だけぽっかりと空いていて、その両隣には日本人形と洋風の人形が置いてある。

 場所や兎のぬいぐるみと言うのを見ても、わざわざ盗むような物とはとても思えなかった。
 本当に盗まれたのだろうか?
 その疑問を利音が如月にぶつけた。

「ええ、私も見たときはまさかと思いましたが昨夜遅くにで物音がしたもので、防犯カメラを見てみると男が忍び込み、出るときにはそのぬいぐるみを持っていました」
 
 如月はその防犯カメラと言うのを場所を変え見せてくれた。
 確かに、辺りをキョロキョロと見渡す挙動不審の男が寺に入る様子が映っており、出ていく時にはしっかりとぬいぐるみを手にしていた。
しおりを挟む

処理中です...