天狗と骨董屋

吉良鳥一

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河童の手のミイラ(下)

第九話

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 利音がそっちの状況はと聞かれ栗郷が犯人の男について話した。
 そこで出てきた樹璃と言う人物には利音も心当たりはないと言う。
 ここでネコがこちらをじっと見つめていることに利音は気が付いた。

「何?俺を喰いたかった?」

 利音を喰いたそうに見るネコにそう聞くとぷいっとそっぽを向いた。
 元々隙を見せたら喰われる事を覚悟して契約した犬神だ。
 弱りきった利音を見て喰ってしまおうか考えたのだろうが、それは叶わなかったようだ。
 まぁ自分を喰らおうとすれば自身に施した結界術が発動し、ネコを近付けないようにするのだが……

「………?」

 そこで利音は思った。
 何故喰おうとしなかった?
 結界術を張ったとは言え、そんなことネコが知る筈もない。

 そう言えば大蝦蟇との対峙中、意識が遠くなる中で真尋が必死にネコを呼ぶ声が聞こえた事をぼんやりと思い出す。

「まさか……ね………」

 利音があんな状態になり、契約者でもない真尋の言うことを聞いたなんて事は、いくら懐いているように見えてもそれは無いだろうと思う。
 しかし、もし本当に真尋の言うことを聞いたとなれば彼は一体……
 きっと本人が一番分からないだろう。

 それでも今回真尋が利音にとって砦になったことは事実。
 彼に助けられたことは不本意で何故か少々腹が立つ。

「おい、身体大丈夫なら犯人追うぞ。
どちみちお前は高住の所に行けねぇだろうし」

 真尋は狐の啼が連れてくる。
 そう思って利音は栗郷と犯人を追い掛ける事に決めた。

「それと__」

 ここで栗郷は利音にある話を持ち掛ける__

 その後、男を追った魁の気配を栗郷が探りながら進むと人気の無いビルの前に魁が男の上に乗って押さえている姿があった。

「よう、俺から逃げられると思うな」

「くっ………」

 捕らえられた男は二人を睨む。

「んで、あんたは俺達に何の恨みがあるわけ?
ちゃんと言ってくんないとスッキリしないでしょ」

 利音の淡々とした物言いに男は額の血管を浮き立たせ苛ついた表情を見せる。

「お前、名前は?」

 栗郷の問い掛けに、自棄になった男は自分を葛西雄一かさいゆういちと名乗った。
 その名前にはやはり聞き覚えがない。
 すると葛西は彼らを狙う理由をこう語る。

「お前らは俺の恋人の坂下樹璃を見捨てた。
6年前お前らと樹璃が一緒に任務についた筈だ。
その任務で樹璃は死んだ……
だから樹璃を見捨てた三上をまずは殺したんだ」

「三上……
そうか、三上克之を殺害したのはテメェか」

 三上克之。
 彼は何者かに殺害され、天明道が調査を行っていた人物だ。
 ここで漸く繋がった。

 
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