天狗と骨董屋

吉良鳥一

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天明道パーティー

第四話

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 栗郷が言葉に詰まっていると麟太郎はどうした?と訝しげに聞いてくるので栗郷はよく知ってますねと質問を返す。

「ふん……この天明道で情報を得ることなど容易い事だ。
君もよく知っているだろう?
何を今更……」

 噂など簡単に広まる。
 だからこそ利音はこの天明道を嫌い、家を出た。
 栗郷は思いきって利音の事を聞いてみた。

「……貴方の息子さんは戻った噂は聞かないッスね」

 麟太郎にとっては地雷かもしれない利音の事。
 栗郷は固唾を呑んだ。

「………息子?
はっ、そんなものうちには居らんよ」 

 麟太郎は息子など最初から存在しないと吐き捨てた。
 
「我々は家を背負う重責がある。
その家に生まれたからにはその自覚を持たねばならぬ。
君もそう思うだろう?」

「……そう、ですね………」

 鋭い目付きでそう言われ少々萎縮してしまう。
 家を背負う重責を放棄した利音の事を相当怒っているような様子だ。
 名門一族の当主としてのプライドと責任を人一倍持つ彼には利音の無責任さには我慢ならないようだ。

 それと同時に彼の口振りから今回の事件に利音が関わっている事は知らないようだと感じた。

「精々、母君を困らせる事はしないことだな」

 麟太郎はまるで利音の二の舞にならないようにと釘を刺すような事を言い、会長の京道の元へ行ってしまった。

 今回初めて麟太郎とまともに話をしたが、利音とは相性が悪そうに感じた。
 利音にとってはあの家は息が詰まる。
 なんと無く彼が家を出た理由が分かった。

 そしてこの二人の会話を遠くから見ていた秋人。
 彼が気にしていたのは勿論麟太郎だ。
 何せひ孫と暮らしているのは彼の息子なのだから。

「あの男がどうかしたか?」

 宗像麟太郎を見つめる秋人に朱兼が不思議そうに訊ねる。
 秋人は噂の宗像利音がひ孫と暮らしていると彼に言うべきかと悩む。
 朱兼は口が固いし、親のような存在なので言っても大丈夫とは思うが、何処から情報が漏れるかは分からない。
 しかしながら、いざと言う時には彼には知らせておいて損は無い筈だ。

「後日またお時間を頂いても?」

 そう言うと彼は言いにくい話かと察し、了承した。

「ならば近々うちに来ると良い」

「ありがとうございます」

 巣だったと思ったひ孫の心配は今でも尽きないと秋人は内心苦笑した。
 
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