天狗と骨董屋

吉良鳥一

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温泉旅行(上)

第一話

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「じゃあまぁ適当でいいから宜しく」

 この日真尋と利音は懸賞で当選した1泊2日の温泉旅行へ出掛ける。

「お二人が留守の間は店番をきっちり遂行する」

「いや適当でいいから呉々も問題起こさないように」

 あまり張り切り過ぎて問題を起こされては困る。
 堅苦しい話し方は直らないままなので客から変に注目されて怪しまれたくない。
 かと言って店を閉めるのも売り上げに影響するので無理だ。

 店を心配しながらも真尋に早く行きますよと急かされながら出発した。

 家を出てから数時間。

「………ねぇ、こんな大変なんて聞いてないんだけど!!」

 今二人がいるのは山の中。
 電車とバスを乗り継ぎ、更に1日に4本しか走ってないバスに乗り、山の麓から徒歩で山を登る。

 まさかここまで遠いとは思ってなかったので、騙された気分だ。

「まあまあ、たまにはこう言う秘境に行くのもいいじゃないですか」

 疲れつつも足を進める真尋は案外楽しんでいる様子だ。
 しかし………

「凄いな………」

 真尋はそう呟く。
 何が凄いのかと言うと、周りを見渡すと昼間だと言うのにあちこちに妖が彷徨いている。
 
 とは言っても、人に影響を及ぼす程のものではない。
 真尋のすぐ傍を漂っている白く長い蛇のような羽の生えた名前も知らない、見たことの無い妖や「凄いな」と真尋が口にした言葉をひたすら真似している妖などがいる。
 そんな中で茂みの中からコソコソと話し声が聞こえた。

「おい、あいつら視えてるぞ」

「じゃあもっと驚かせてやろう」

「やろうやろう」

 話し声がしたと思ったらそこで途絶え、ここから去って行ったと思ったら突然真尋の目の前に青い小さな二本角の鬼が木に逆さ吊りになって現れた。

「おわっ!!」

 びっくりして思わず後ろに引いてしまうと、複数の笑い声が聞こえた。
 どうやらからかわれているらしい。
 何処からともなく笑い声が聞こえる。
 そして後ろから気配が猛スピードで近付いて来たその時。

「縛」

「うぎゃっ!!」

 利音が術でそれを縛りつけた。
 見ると赤い小さな鬼が踠いている。
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