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はじめに
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運命の出会いというのは、中々想像通りにはいかないものである。
それでも共通項があるとすれば“突発的におこる”事ぐらいだが、少なくとも私の場合、大衆が好む【ある日突然、空から落ちてきた美少女と出会い、戦いや冒険の中で紆余曲折を経て絆が深まっていき、世界の危機に直面するも、世界そっちのけで美少女と結ばれる】様な、いわゆるボーイミーツガール物では無い事をここで宣言しておきたい。
それまでの私の日常としては、とある田舎町で作家を志し、アルバイト生活を送りつつ、幾つかの作品を書いては応募していたものの、どれも鳴かず飛ばずといった、うだつの上がらない日々である。
才能というかセンスなんて上等な物が備わってる筈もなく、普通の人間ならとっくに諦めて無難な職に就いているものだが、かといって他の仕事に就いている自分の姿など、とても想像出来ない。
そんな折、町の住人が姿を消し、数日後に石像となって発見されるという奇妙な事件が相次いだ。
共通点の見当たらない老若男女が、それぞれ人気の無い路地で襲われ、何か一点を見つめ恐怖に怯える表情のまま、文字通り石化させられる・・という物である。
まるで神話の怪物メデューサによる仕業の様だと囁かれたこの事件は、当初、警察が動き出しすぐに収束するかと思われた。
だがこの事件は、その巡回中の警官が石像となって発見された事によって更に深刻化していく。
そしてその事件に興味を持ってしまったのが、私にとってのターニングポイントだったのだ。
当時小説のネタに困り果てていた私は、“どうにか運良くこの事件の現場に遭遇出来ないものか”という軽い気持ちで、夜な夜な人気の無い路地をカメラを手に歩き回るようになっていたのである。
だが、歩けど歩けど事件に直面する気配は一向に無く、これが一週間程続いた後、そろそろ諦めようかと考えた時だった。
私は路地の奥から地を這うような囀り声が響いてくるのを耳にし、腰を落としてそっと一歩一歩、足を進める。
すると暗闇の奥から現れたその存在は、人間のシルエットを持ちつつも、その頭部からは無数の蛇が蠢いており、爬虫類特有の縦に切れ長の瞳孔を持つその黄色い眼は、闇の中でも分かる程に鮮やかな光を放っていた。
大きく裂けたかの様な青い唇の奥から先端が二つに別れた舌をチラつかせ、ゆっくりとこちらへ迫ってくる。
「・・・ぁっ・・・ぁ・・」
完全にしくじった。
遭遇出来ないかとは言ったが、それは当事者の視点ではなく、あくまで第三者の視点によるものである。
そして屍人(しびと)の様に灰色の、しかし見ただけで分かる滑らかな肌をボンテージ風の装いが申し訳程度に包んでおり、手には数メートルはあろう鞭が握られていた。
人型であっても明らかに人間ではない、まさしく怪物メデューサそのものであると結論付ける他無い。
しかし好奇心の成せる業だろうか、普通の人間ならその姿を見た瞬間、脱兎の如く反対方向へ駆け出す所を、私は無心でカメラのシャッターを切り続けていた。
いつしか恐怖を通り越して美しいとさえ感じてきた私の意識は、突然の伸びた鞭による捕縛によって、現実へと引き戻される。
「!」
私が自らの境遇に気付いた段階では時既に遅く、メデューサはその眼の輝きを更に強めていた。
「うっ、くっ・・・」」
もう助からない。このまま何かを成す事も無く、ただのボンクラとして人生が終わってしまう。
せめて写真だけでも無事であれと、カメラごと後方へ投げ捨てるのと、メデューサがその両眼から眩い光線を放ったのはほぼ同時だった。
だがその光線が私に到達する事は無く、次の瞬間、私を縛り付けていた鞭の拘束が解かれ、地面に尻餅をつくと同時に瞑っていた眼を開ける。
「!?」
するとそこには、漆黒のゴスロリ風の服を着た、蝶々仮面とシルクハットの女がこちらを見下ろしていた。
「人間が追うには相手が悪すぎたな」
想像よりも大分低い声でそう告げた彼女が、右手をクイッと動かすと、同時に私の身体が宙に浮かび、建物の陰へと引き寄せる。
「あ、貴方は一体・・」
「メデューサの噂が横行してるとは聞いたが、まさかこんな所で【伝承種】に出会えるとはな。町中に出没する様な種じゃないんだが、潜伏の可能性を考えると・・上位種か」
彼女がメデューサについて色々考察を重ねていたその時、光線を阻んでいた防壁がそのまま石化して地面へ落下し、割れる皿の様にユニット毎粉々になった。
「! フォースバリア毎石化した? チッ、マルチビットが一発でオシャカだ」
彼女は毒づくと、左手から発した衝撃波の様な物で、襲い掛かってきたメデューサを吹き飛ばし、建物の外壁に叩きつける。
「どうするんです?」
「メデューサは通常若い女を狙う。だが、あの分だと余程食料に困ったらしい」
少女の問いにそう答えた彼女は、何も無かった筈の空間に魔法陣を展開し、そこから見た事の無い謎の物質を呼び出したかと思うと、何と私の目の前で等身大のマネキンを作り出したのである。
そして仕上げとばかりに手をかざした先から、表面が本物の服、肌、髪、瞳と何ら遜色ない物に変化していき、そこに一人の美女が誕生した。
「こ、コレは・・・貴方は神か何かですか?」
「そんな下賤極まりない奴と私を一緒にするな」
「ご、ご免なさい!」
私が謝罪すると、彼女は美女にメデューサにの下へ向かうよう促す。
「アレに何をさせるんです?」
「見てれば分かる」
彼女に言われた通り、物陰に身を隠しながらそっと美女の様子を探ると、近づくや否や、美女は即座にメデューサに捕まり、その身を貪る様に食い散らかされた。
「ちょ、ちょっと! あの人食べられちゃってますけど、大丈夫なんですか?」
「問題ない。予定通りだ」
「えっ?」
彼女の言葉を裏付ける様に、その直後、満足げな様子を見せていたメデューサが突然、その動きを止め、身体をくの字に曲げ苦しみ始めたのである。
「一体何が・・?」
「アレには、自身を何らかの形で体内に取り込んだ者の構成組織を、内部から崩壊させる仕掛けを施してある」
「ウゥゥゥァァアアアァァァァゥゥッ!」
彼女がそう答える中、苦しむメデューサが唸らせた鞭に対して、空から飛来した一対の剣がそれを斬り落とし、そのまま蝶々仮面の彼女の手に収まった。
そしてメデューサにカカカッと駆け足で距離を詰めていくと、瞬く間に腕や脚を斬り飛ばし、細切れにしていく。
「グキャァァァァァァァァァァァッ!」
「・・・凄い」
何人もの一般市民と警官を石へと変えた怪物に対し、悠々と立ち回る彼女の姿はまさに颯爽の一言に尽き、しかしその動きは軍に属する兵士の物とは明らかに異なり、全く見た事が無い。
「何者なんだ?」
唖然とする私をよそに、苦し紛れに放たれたメデューサの光線を、今度は剣の刃面で跳ね返すと、胴体が石化したメデューサの首を斬り飛ばし、我が人生の危機と共に、街にもたらされた恐怖の事件は終幕を迎えたのである。
「あ、あの・・・」
私の呼びかけに振り向いた蝶々仮面の女は、まだいたのかと言わんばかりの表情でこちらを見据えた。
「有難う御座います。助かりました」
「そうか」
「あぁ待って!」
メデューサの首を持ち、足早に去ろうとした彼女を、私は慌てて呼び止める。
「何だ?」
「貴方は命の恩人です。何かお返しをさせて下さい」
「いらん。この件は既に依頼主と話がついている」
「依頼主? お仕事で怪物退治を?」
「趣味でやるとでも?」
「あのぉ~~もしかして異世界から来た怪物退治屋とかだったり・・・?」
「・・・・・・・・・」
やってしまった。
こちらを見据えたままピクリともしていない。
折角自分を救ってくれたであろう、彼女の機嫌を損ねて殺されるのだ。
そして本当にやってしまったと思った時には人間、言葉を失うものである。だが――
「そんなところだ。正確にはフリーエージェントだが」
何て事だ。
怪物退治屋は流石に半分冗談のつもりだったのだが、まさか半ば肯定されるとは思わなかった。いわゆる何でも屋の様なものだろうか?
そんな事を考えていると、彼女はメデューサの首を持ったまま、いつの間にか通りを挟んで反対側の裏路地へと足を踏み入れており、私は慌てて彼女の後を追いかける。
「どこへ行くんです?」
「警察署だ。そこでこの首と引き換えに残りの報酬を貰う」
一体いつの間に警察は懸賞金などかけていたのか。
だがその考えは、警察署に着いてすぐに外れていたと分かる。
彼女が所内に入ると同時に、受付の女性の軽い悲鳴と全警官のどよめきが所内に広がった。
無理もない。向こうからすれば奇妙な恰好をした女が、怪物の生首持って署内に堂々と入ってきたのだから当然である。
署内が静まり返る中、カウンターの女性が口を閉じる事も忘れたまま、呆然とした表情で手だけを動かし、無言でアタッシュケースを彼女へと渡した。
「どうも」
彼女はメデューサの首をドンとカウンターに置くと、アタッシュケースを受け取り、回れ右で警察署を後にする。
「あのっ、これからどこへ?」
「帰るだけだが、まだ何かあるのか?」
「では、私から貴方に依頼をしても?」
「何のつもりだ?」
彼女は振り向きざまに怪訝そうな顔で私を見た。
「貴方の活躍で私をベストセラー作家にして欲しいのです」
「・・・・・・」
流石の彼女もこれには言葉を失ったようである。
だが彼女に助けられた時、日々のモヤモヤが一瞬で晴れた気がしたのだ。
本来、人に頼むような事ではないのも重々承知の上だが、本当に言いたい事は別にある。
「全力で拒否する」
「あーいや、待ってください」
私は再び彼女を呼び止めた。
「何も売れるまで世話しろという訳ではなくてですね・・」
「では何だ?」
「貴方のフリーエージェントのお仕事に同行させて欲しいんです。そこでの事を本として書かせて下さい。それ以外の手間は取らせません」
「報酬は?」
「えっ?」
「私の仕事に対する支払いは半分が現金前払いだ。作家とくればその収入が継続的に見込めるまで時間がかかる。もう半分がそのベストセラー作家とやらになってからだとして、前払いの分はどうするつもりだ?」
「・・僕の今現在の貯金を全て前金としてお渡しします」
「フム・・・覚悟は分かった。私としても今までに無い依頼だが、労力を殆ど割かずに金が貰えるとあれば受けない手はない。リスクも無いしな」
「それじゃあ!」
「精々頑張りたまえ・・先生」
早速、分不相応な愛称をつけられてしまったが、これで作家への新たな望みが開ける。
色々不安な点も幾つかあるが、それよりも目下解決しておきたい疑問があった。
「あのぅ、今更で恐縮なんですけど・・・」
「どうした?」
「その、お名前をまだお伺いしてなかったなって・・・」
彼女は一瞬、思い返す様に黙ったが、すぐにその答えを寄越す。
「パンドラだ。一部の連中は、【蝶々仮面のパンドラ】と呼んでいる」
――――――――――終
それでも共通項があるとすれば“突発的におこる”事ぐらいだが、少なくとも私の場合、大衆が好む【ある日突然、空から落ちてきた美少女と出会い、戦いや冒険の中で紆余曲折を経て絆が深まっていき、世界の危機に直面するも、世界そっちのけで美少女と結ばれる】様な、いわゆるボーイミーツガール物では無い事をここで宣言しておきたい。
それまでの私の日常としては、とある田舎町で作家を志し、アルバイト生活を送りつつ、幾つかの作品を書いては応募していたものの、どれも鳴かず飛ばずといった、うだつの上がらない日々である。
才能というかセンスなんて上等な物が備わってる筈もなく、普通の人間ならとっくに諦めて無難な職に就いているものだが、かといって他の仕事に就いている自分の姿など、とても想像出来ない。
そんな折、町の住人が姿を消し、数日後に石像となって発見されるという奇妙な事件が相次いだ。
共通点の見当たらない老若男女が、それぞれ人気の無い路地で襲われ、何か一点を見つめ恐怖に怯える表情のまま、文字通り石化させられる・・という物である。
まるで神話の怪物メデューサによる仕業の様だと囁かれたこの事件は、当初、警察が動き出しすぐに収束するかと思われた。
だがこの事件は、その巡回中の警官が石像となって発見された事によって更に深刻化していく。
そしてその事件に興味を持ってしまったのが、私にとってのターニングポイントだったのだ。
当時小説のネタに困り果てていた私は、“どうにか運良くこの事件の現場に遭遇出来ないものか”という軽い気持ちで、夜な夜な人気の無い路地をカメラを手に歩き回るようになっていたのである。
だが、歩けど歩けど事件に直面する気配は一向に無く、これが一週間程続いた後、そろそろ諦めようかと考えた時だった。
私は路地の奥から地を這うような囀り声が響いてくるのを耳にし、腰を落としてそっと一歩一歩、足を進める。
すると暗闇の奥から現れたその存在は、人間のシルエットを持ちつつも、その頭部からは無数の蛇が蠢いており、爬虫類特有の縦に切れ長の瞳孔を持つその黄色い眼は、闇の中でも分かる程に鮮やかな光を放っていた。
大きく裂けたかの様な青い唇の奥から先端が二つに別れた舌をチラつかせ、ゆっくりとこちらへ迫ってくる。
「・・・ぁっ・・・ぁ・・」
完全にしくじった。
遭遇出来ないかとは言ったが、それは当事者の視点ではなく、あくまで第三者の視点によるものである。
そして屍人(しびと)の様に灰色の、しかし見ただけで分かる滑らかな肌をボンテージ風の装いが申し訳程度に包んでおり、手には数メートルはあろう鞭が握られていた。
人型であっても明らかに人間ではない、まさしく怪物メデューサそのものであると結論付ける他無い。
しかし好奇心の成せる業だろうか、普通の人間ならその姿を見た瞬間、脱兎の如く反対方向へ駆け出す所を、私は無心でカメラのシャッターを切り続けていた。
いつしか恐怖を通り越して美しいとさえ感じてきた私の意識は、突然の伸びた鞭による捕縛によって、現実へと引き戻される。
「!」
私が自らの境遇に気付いた段階では時既に遅く、メデューサはその眼の輝きを更に強めていた。
「うっ、くっ・・・」」
もう助からない。このまま何かを成す事も無く、ただのボンクラとして人生が終わってしまう。
せめて写真だけでも無事であれと、カメラごと後方へ投げ捨てるのと、メデューサがその両眼から眩い光線を放ったのはほぼ同時だった。
だがその光線が私に到達する事は無く、次の瞬間、私を縛り付けていた鞭の拘束が解かれ、地面に尻餅をつくと同時に瞑っていた眼を開ける。
「!?」
するとそこには、漆黒のゴスロリ風の服を着た、蝶々仮面とシルクハットの女がこちらを見下ろしていた。
「人間が追うには相手が悪すぎたな」
想像よりも大分低い声でそう告げた彼女が、右手をクイッと動かすと、同時に私の身体が宙に浮かび、建物の陰へと引き寄せる。
「あ、貴方は一体・・」
「メデューサの噂が横行してるとは聞いたが、まさかこんな所で【伝承種】に出会えるとはな。町中に出没する様な種じゃないんだが、潜伏の可能性を考えると・・上位種か」
彼女がメデューサについて色々考察を重ねていたその時、光線を阻んでいた防壁がそのまま石化して地面へ落下し、割れる皿の様にユニット毎粉々になった。
「! フォースバリア毎石化した? チッ、マルチビットが一発でオシャカだ」
彼女は毒づくと、左手から発した衝撃波の様な物で、襲い掛かってきたメデューサを吹き飛ばし、建物の外壁に叩きつける。
「どうするんです?」
「メデューサは通常若い女を狙う。だが、あの分だと余程食料に困ったらしい」
少女の問いにそう答えた彼女は、何も無かった筈の空間に魔法陣を展開し、そこから見た事の無い謎の物質を呼び出したかと思うと、何と私の目の前で等身大のマネキンを作り出したのである。
そして仕上げとばかりに手をかざした先から、表面が本物の服、肌、髪、瞳と何ら遜色ない物に変化していき、そこに一人の美女が誕生した。
「こ、コレは・・・貴方は神か何かですか?」
「そんな下賤極まりない奴と私を一緒にするな」
「ご、ご免なさい!」
私が謝罪すると、彼女は美女にメデューサにの下へ向かうよう促す。
「アレに何をさせるんです?」
「見てれば分かる」
彼女に言われた通り、物陰に身を隠しながらそっと美女の様子を探ると、近づくや否や、美女は即座にメデューサに捕まり、その身を貪る様に食い散らかされた。
「ちょ、ちょっと! あの人食べられちゃってますけど、大丈夫なんですか?」
「問題ない。予定通りだ」
「えっ?」
彼女の言葉を裏付ける様に、その直後、満足げな様子を見せていたメデューサが突然、その動きを止め、身体をくの字に曲げ苦しみ始めたのである。
「一体何が・・?」
「アレには、自身を何らかの形で体内に取り込んだ者の構成組織を、内部から崩壊させる仕掛けを施してある」
「ウゥゥゥァァアアアァァァァゥゥッ!」
彼女がそう答える中、苦しむメデューサが唸らせた鞭に対して、空から飛来した一対の剣がそれを斬り落とし、そのまま蝶々仮面の彼女の手に収まった。
そしてメデューサにカカカッと駆け足で距離を詰めていくと、瞬く間に腕や脚を斬り飛ばし、細切れにしていく。
「グキャァァァァァァァァァァァッ!」
「・・・凄い」
何人もの一般市民と警官を石へと変えた怪物に対し、悠々と立ち回る彼女の姿はまさに颯爽の一言に尽き、しかしその動きは軍に属する兵士の物とは明らかに異なり、全く見た事が無い。
「何者なんだ?」
唖然とする私をよそに、苦し紛れに放たれたメデューサの光線を、今度は剣の刃面で跳ね返すと、胴体が石化したメデューサの首を斬り飛ばし、我が人生の危機と共に、街にもたらされた恐怖の事件は終幕を迎えたのである。
「あ、あの・・・」
私の呼びかけに振り向いた蝶々仮面の女は、まだいたのかと言わんばかりの表情でこちらを見据えた。
「有難う御座います。助かりました」
「そうか」
「あぁ待って!」
メデューサの首を持ち、足早に去ろうとした彼女を、私は慌てて呼び止める。
「何だ?」
「貴方は命の恩人です。何かお返しをさせて下さい」
「いらん。この件は既に依頼主と話がついている」
「依頼主? お仕事で怪物退治を?」
「趣味でやるとでも?」
「あのぉ~~もしかして異世界から来た怪物退治屋とかだったり・・・?」
「・・・・・・・・・」
やってしまった。
こちらを見据えたままピクリともしていない。
折角自分を救ってくれたであろう、彼女の機嫌を損ねて殺されるのだ。
そして本当にやってしまったと思った時には人間、言葉を失うものである。だが――
「そんなところだ。正確にはフリーエージェントだが」
何て事だ。
怪物退治屋は流石に半分冗談のつもりだったのだが、まさか半ば肯定されるとは思わなかった。いわゆる何でも屋の様なものだろうか?
そんな事を考えていると、彼女はメデューサの首を持ったまま、いつの間にか通りを挟んで反対側の裏路地へと足を踏み入れており、私は慌てて彼女の後を追いかける。
「どこへ行くんです?」
「警察署だ。そこでこの首と引き換えに残りの報酬を貰う」
一体いつの間に警察は懸賞金などかけていたのか。
だがその考えは、警察署に着いてすぐに外れていたと分かる。
彼女が所内に入ると同時に、受付の女性の軽い悲鳴と全警官のどよめきが所内に広がった。
無理もない。向こうからすれば奇妙な恰好をした女が、怪物の生首持って署内に堂々と入ってきたのだから当然である。
署内が静まり返る中、カウンターの女性が口を閉じる事も忘れたまま、呆然とした表情で手だけを動かし、無言でアタッシュケースを彼女へと渡した。
「どうも」
彼女はメデューサの首をドンとカウンターに置くと、アタッシュケースを受け取り、回れ右で警察署を後にする。
「あのっ、これからどこへ?」
「帰るだけだが、まだ何かあるのか?」
「では、私から貴方に依頼をしても?」
「何のつもりだ?」
彼女は振り向きざまに怪訝そうな顔で私を見た。
「貴方の活躍で私をベストセラー作家にして欲しいのです」
「・・・・・・」
流石の彼女もこれには言葉を失ったようである。
だが彼女に助けられた時、日々のモヤモヤが一瞬で晴れた気がしたのだ。
本来、人に頼むような事ではないのも重々承知の上だが、本当に言いたい事は別にある。
「全力で拒否する」
「あーいや、待ってください」
私は再び彼女を呼び止めた。
「何も売れるまで世話しろという訳ではなくてですね・・」
「では何だ?」
「貴方のフリーエージェントのお仕事に同行させて欲しいんです。そこでの事を本として書かせて下さい。それ以外の手間は取らせません」
「報酬は?」
「えっ?」
「私の仕事に対する支払いは半分が現金前払いだ。作家とくればその収入が継続的に見込めるまで時間がかかる。もう半分がそのベストセラー作家とやらになってからだとして、前払いの分はどうするつもりだ?」
「・・僕の今現在の貯金を全て前金としてお渡しします」
「フム・・・覚悟は分かった。私としても今までに無い依頼だが、労力を殆ど割かずに金が貰えるとあれば受けない手はない。リスクも無いしな」
「それじゃあ!」
「精々頑張りたまえ・・先生」
早速、分不相応な愛称をつけられてしまったが、これで作家への新たな望みが開ける。
色々不安な点も幾つかあるが、それよりも目下解決しておきたい疑問があった。
「あのぅ、今更で恐縮なんですけど・・・」
「どうした?」
「その、お名前をまだお伺いしてなかったなって・・・」
彼女は一瞬、思い返す様に黙ったが、すぐにその答えを寄越す。
「パンドラだ。一部の連中は、【蝶々仮面のパンドラ】と呼んでいる」
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