蝶々仮面のエージェントーー異世界転移する人が皆良い人だと思いますか?

ギュラ ハヤト

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勇者PT抹殺指令

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 遡る事少し前ーー
「××、お前はもうクビだ」
「何だって?」
 勇者によるその通告は、付与術士の男にとって、まさに青天の霹靂だった。
「アンタいつも戦いの前にチョロっと呪文唱えただけで、戦闘が始まったら直ぐ後ろに引っ込んで何もしないじゃない」
 続く黒魔導士の女が放った一言には目眩すら覚える。
 魔法が広く普及して早数世紀、個人差はあれど、民間の生活基盤にも魔法は広く浸透していた。
 そんな魔法文明の発達した世の中においても、魔法生物による人類の生活圏への侵攻や、出現したダンジョンでの古代文明の遺産、財宝へのロマンは尽きる事が無く、『冒険者』という職は未だ一戦級の人気を博している。
 そしてあらゆる冒険者達の憧れを集めているのが、この付与術士の男属する勇者PTであった。
 その結成時から組んできた仲間だというのに、誰一人として付与術士の重要性を理解していなかった事に、付与術士の男はショックを禁じ得ない。
「冗談だろ? 僕は付与術士だ。戦闘前に君達の能力を強化したり、敵に合わせた耐性を付与するのが僕にとっての仕事だ。それに何もしてないとは心外だな。戦闘に入ってからは敵の能力弱体化デバフも行っているというのに!」
「フン、バフやデバフを使えんのがお前だけだと思ってんのか?」
「何?」
 自分以上の人材でも見つかったのだろうか?
 いや、これでも映えある勇者PTの一角である。そんな人材、そうそう居る筈がない。
「俺達はあの頃とは違う。戦いながら自身の能力強化バフも出来るし、敵の能力弱体化デバフだって出来る。だが、お前はどうだ? 戦いながら出来るか? あん?」
「それは・・・」
 返す言葉も無かった。いや、彼等が自ら行う物など微々たる物だろうが、それでも自分が戦いながら同じ事が出来ないのは事実である。
 付与術士は既存の能力を伸ばす効果は付与出来ても、無い能力を新しく付与する事は出来ない。
「それで私達と同じ報酬ってのはチョットねぇ」
 続く白魔導士までもがそう口にする頃には、付与術士の男の腹は決まっていた。
 仮に自分の取り分を減らす条件で残留出来たとして、今後、対等でいられるとは思えない。
 加えてここまで関係が拗れたメンバーと今まで通りやっていける筈も無かった。
 潮時である。
「新米の頃ならともかく、今の俺達にとって戦えない奴はただのお荷物だ」
「・・いいだろう。そこまで言われたからには、こちらも未練は無い。後から後悔するなよ?」

 そうして彼は、"勇者PTの付与術士の男"から"ただの付与術師の男"となった。

           ※

 所変わって、見渡す限りの波一つ立たぬ一面の水面みなもと、その中央にポツンと存在する砂で出来た小島。
 そこに蒼味の深い空と入道雲の間を縫う様にして、燦々と陽の光が降り注ぐ中、パラソルを突き立てた白い丸テーブルと、同じく白い椅子1組。
 その片方に腰を鎮め、足を組んだ状態で女が1人、眠る様に唾広帽を顔に被せて座っていた。
 まるで南の海のプライベートビーチの様な場所に、正直あまり似つかわしく無い、黒のゴシックドレスとマント、ブーツまで漆黒の彼女に、テーブルの上に置かれた古いラジオの様な物から、声が呼びかける。

『ご機嫌よう、エージェントパンドラ。早速ですが任務の依頼です。Fタイプバース0725において現地時間2日前、付与術士の男が勇者率いるPTを解雇されています。ここまではルート通りですが、その1日後に壊滅する筈の勇者PTにルート改変が発生。その後の勇者PTの行方が判明しておらず、当局はPT内に転移体潜伏の可能性有りと見ています。すぐに現地に向かい、24時間以内に勇者を始めとした主要メンバーの抹殺をお願いします。それではご武運を』

 音声はそれだけ告げると、エージェントパンドラと呼ばれた女の返事を待つ事なく、一方的に切れ、再びその場に静寂が訪れた。
 だが寝ていた訳では無いらしく、人差し指でクイッと僅かに上げた唾広帽の下から、鋭いシルエットの蝶々仮面パピヨンマスクとその奥にある不気味な眼を覗かせる。
「気のせいか? まるで猶予が24時間を切っているかの様に聞こえたが」
 そう言うと、パンドラは急ぎ起き上がり、近くに停めてあった二頭引きの馬車へと向かった。
「バースF0725へ向かってくれ」
 牽引している機械仕掛けの馬にそう告げると、パンドラはそのまま馬車へ乗り込む。

ーーーーーバースF0725ーーーーー

「失礼致します」
 人通りの少ない街外れ、その路地裏に、機械仕掛けの馬引く馬車が現れ停車すると、暫くしてそこへ、フォーマルな制服を身に纏った女達3人が現れ、扉の開いた馬車へと乗り込んだ。
 馬車の外見は、大人4人も入れば満員になりそうな大きさだが、内部の広さはそれとは合致しない。
 扉を開け、階段を数段昇れば、家1軒程の、玄関ホールとリビングを合わせたかの様な、広々とした空間がそこにある。
「ターゲットのその後の情報は?」
「・・城壁の門番の証言によれば、数日前に街の北側の門から出たとの事ですが、ギルドへの報告が上がっておりません」
 冒険者ギルドの受付嬢に扮したドールトルーパー乗り込んだ女達の1人が、更なる補足情報を加えた。
「つまり正規の手順を経ずに街を出たと・・・地図はあるか? 出来れば大陸規模の」
「こちらに」
 受付嬢トルーパーの別の1人が持って来ていた地図を机の上に広げる。
「街より北方面で、且つターゲットが立ち寄りそうな場所・・いや待て」
 地図を見ていたパンドラは、そのある1点を見つめて考えを改めた。
「おあつらえ向きの餌があるじゃないか」
「マスター、もしや・・・」
「魔王城へ向けて北上しろ」
「マスター、無茶です! 相手は魔王ですよ!?」
「だが魔王の封印を解けば、流石の勇者達も無視出来まい。どこにいるかも分からんターゲットを探し回るより向こうにこちらへ来させた方が遥かに効率的だ」
 馬車は、道に沿って行くと勇者PTに遭遇してしまう可能性がある為、空路を駆け、また馬車自体にも光学迷彩をかける。
 それから暫く走り続けた先、広大な荒地の中、大きく窪んだ盆地の中央で、高く塔の様にせり上がった台地に、封印の地はあった。
 そこでかつて世界中に轟く程の支配と栄華を誇っていたであろう古城は、今や見る影もない廃墟と化しており、まるで迷宮の様なその奥に、主亡き巨大な魔法陣が、瘴気を漏らしながらも、懸命に蓋をしている。
「ターゲットの現在地は?」
『現在、ここから南東に約48キロ地点で野営中』
「良し、作戦の成功条件1つ目はクリアした。契機は我に有り。封印を解いて魔王の力を頂くとしよう」
 パンドラは魔法陣に手をかざすと、封印術式の解析を始める。
「魔法術式で何重にも封印が施されている。構造の複雑さと規模からして、やったのは人間ではなくエルフの魔術士だな。ドルイド術式なのがいい証拠だ」
 何層にも渡る魔法陣に対し、まるでダイヤル式の金庫を解錠する鍵屋の如く解析を進めたパンドラは、人間の魔導士なら何十年とかかるであろうそれを、僅か数時間で終えてしまった。
「さて、どんな奴かな?」
 暗闇に満ちた穴の奥深く、それこそ「奈落」と呼ぶに相応しい闇の中から、膨大なエネルギーが飛び出してくるのを感じ取ったパンドラは、即座にフォースシールドを展開するも、一瞬で空中まで押し出されてしまう。
 刺々しいアゲハの羽フォースウィングを展開し、その出力でどうにか踏みとどまるも、封印の解かれた魔王を縛るものは何も無かった。
「妾の一撃を正面から受け止めるとは・・・お前が今の勇者か? そうは見えんが」
 発せられた言葉使いに対し、その声は非常に若く、透き通る様な透明感まで感じられる。
「・・・君も魔王には見えんがな。生憎私は勇者ではない」
 実際、魔王の容姿に関して、角が生えている訳でも、羽や鋭い爪が生えている訳でも無く、魔族特有の尻尾が生えている訳でも無かった。
 長く整った髪、顔や手から僅かに伺う事の出来る肌、パンツスーツスタイルや、その上のロングコートといった近代風の装いに至るまで、まるで全身から色素という色素が抜け落ちたかの様な白づくめである事も含めて、言われなければ魔王と判別する事は不可能であろう。
「何? 勇者でもない癖に、わざわざ1人でやってきて妾の封印を解いたのか? フン、とんだ阿呆だな。どういうつもりか知らんが、妾の復活祝いだ。華向けに死んでもらうぞ」
「全力で、拒否する」
 次の瞬間、2人同時に、魔王は空中に魔法陣を、パンドラは刺々しいアゲハの羽フォースウィングを羽ばたかせ、魔王は魔法陣から追尾性の触手を、対するパンドラは魔法陣から山吹色の輝きを放つ2本の剣ムーンダイトを召喚し、曲芸軌道サーカスマニューバで襲い来る触手をかわしつつ回転斬りで次々と斬り伏せ、急加速をかけて魔王に接近した。
 迎え撃つ魔王はというと、前方に突き出した左手から、巨大な光線を迫るパンドラ目掛けて繰り出す。
 だが、パンドラはコレを予期していた様に、フォースウィングを羽ばたかせて急制動をかけると、大きく後退すると同時に、ムーンダイトを前方で交差し、出現させた三日月と蝶の紋章から同規模の光線を撃ち放った。
 空中でぶつかり合った光線同士が、凄まじい轟音と共に大爆発を起こし、辺り一帯を一瞬、目も眩む様な閃光が満たす。
 その閃光ひかりが止んだ時、パンドラは既に必殺体勢へと移行していた。
 足先に出現した満月と蝶の紋章が、魔王に対する死刑宣告かの様に、その存在を主張する。
 「ムーンライトキック」
「チッ、生命を終焉へと誘う魔法ジ・エンド
 先程の轟音から一転、魔王城跡地は風音1つ立たない静寂に満たされた。
「・・・何故じゃ、何故死に絶えるどころか皺の1つも出来ぬ!?」
「生物相手ならそれで決着がついただろうが」
「どういう・・事じゃ?」
「失礼、生憎人形なものでな・・・・・・・・・
「おの・・・れ・・」
 直後、魔王の身体は先程までとうって変わって、黒炭の塊の様な状態から、風に吹かれる砂像の様に崩れ去る。
 そしてその中から現れた、弱々しくも禍々しい謎の物体を手にすると繁々と眺め回した。
「・・・コレが“魔王の根源”というやつか。何とも言えん万能感は格別だが、流石に丸ごと頂いても影響が出るか?」
 パンドラは禍々しく余波を放つ魔王の根源を見つめ考え込むと、その3分の1程を切り離し、地面に埋める。
「さてコッチは・・・一先ずこうしておくとしよう」
 そう言うと、パンドラは残りをキューブ状に形成し、自身の中へと仕舞い込んだ。
「それとコレでは・・出迎えるには流石に無粋か」
 周囲の荒れ果てた地形を見渡したパンドラは、そう結論づけると指を1度パチンと鳴らす。
【蝶・創・生】クリエイト
 すると、パンドラの足下から轍の様な物が現れて広がり、周囲一面の地形を瞬時に花畑へと変えてしまった。
「コレで良し、と」
 パンドラは満足気にそう言うと、更に魔法陣から飾り付きの豪華な屋外用テーブルセットとティーセットを取り出す。
 腰を落ち着け、紅茶を口に運び、勇者PTを出迎える準備は全て整った。





 そこから 数時間程が経過し、タイムリミットが迫って来た時ーー
 
「ン?」
 花畑の向こうにポツンと、6つの人影が佇み、こちらの様子を伺っているのが見えた。
 騎士、黒魔導士、白魔導士、召喚士、竜騎士、勇者の一行である。
「あぁ、漸くお出ましか」
 ゆっくりと武器を構えつつも、中々こちらへ近づいてこないのは、パンドラが早々に本物の魔王を討伐し、その力を取り込んだ事で、上手い事パンドラを魔王だと勘違いしてくれているからだ。
「早く来給え。君達が来る迄に、紅茶を3杯もおかわりしてしまったぞ」
 退屈そうな様子から一転、突然背筋も凍る様なオーラを放ち、右手で手繰り寄せる様な動きを取ると、同時に勇者PTの身体が浮き上がり、猛スピードでパンドラの元へと引き寄せられる。
「「「「「!?」」」」」
「やはり勇者一行を始末するなら魔王の力でないとな」
「だったら・・・使ってみろ! 生命を原始へと還す魔法プリミティブ!」
 勇者が我先にと飛び込み、掌から魔王の一撃にも似た波導を放つ。だが、
「!?」
 直撃を与えた筈だが、パンドラのどこにも変化が見受けられない。
「何だ? 何で生命を原始へと還す魔法プリミティブが効かねぇ!?」
「その展開はもう見た」
 その時、上空からの攻撃が勇者を構えた盾ごと吹き飛ばす。
「ぐぉああッ!!」
 空気を切り裂く音の後、それは構えられた盾を粉々に打ち砕き、勇者の身を焼き焦がした。
「大丈夫か?!」
「ぐっ、何だ今のは!?」
 竜騎士の呼びかけに、勇者は焔を振り払って立ち上がりながら空を睨め上げる。
 それは鋼鉄の身体と翼を持ち、一瞬で飛び去ったかと思えば、音すら凌駕する速度で再び、遥か彼方より飛来した。
 翼の下に備え付けられた細長い鉄の塊を撃ち放ち、同時に先端下部からせり出た鉄の筒の束がブゥゥゥゥゥゥという轟音をたてながら高速で回転し、目にも止まらぬ火の雨が勇者PTに降り注ぐ。
「避けろ!!!」
 勇者が叫ぶと同時に、他のメンバーも回避行動を取るものの、その圧倒的な速度と火力を前に、完全に避け切れた者などおらず、爆風に身を焼かれた竜騎士、降り注ぐ攻撃に、展開した障壁ごと吹き飛ばされた魔導士組、成す術もなく撃ち抜かれて即、命を落とした召喚士と騎士など、花畑は一瞬にして死屍累々と化した。
「魔王武装ーー【冥府の怪鳥ンフェールグリフォン】」
「グリフォンって・・アレは“戦闘機”じゃねーか!!」
 思わず口をついて出た言葉であったが、これでパンドラが抱いていた疑念は確信となる。
「ホウ、戦闘機の概念を知ってるという事は、やはりお前が転移体か」
「チッ」
「とにかくあの"セントウキ"とやらは俺がやる。おい、援護頼む」
 竜騎士の男は勇者に向かってそう言うと、黒魔道士の女に援護を要請し、相棒の竜と共に空へと飛び立つ。
「グリフォンと呼んでやってくれ。可哀想だ」
「黙れ!」
 剣を構えて突っ込んでくる勇者に、パンドラは新たな武装を繰り出した。
「魔王武装ーー【冥府の灯火ンフェールリュミエール】」
 マッチ棒にも似た形状の弾頭を備えたその鉄の筒を肩に担ぐと、パンドラは迫る勇者に狙いを定める。
 だが、十分に引き付けた筈のパンドラの一撃を、勇者は身体を回転させてかわし、更にパンドラとの距離を詰めた。

「貰ったぁぁっ!」

 そう確信した勇者の聖剣がパンドラに迫る。しかし・・・

【蝶・効・果】エフェクト

 次の瞬間、パンドラは自らの身体を無数の蝶の群体へと形態変化させると、勇者の聖剣を、その腕ごと掴み取る。
「何ッ!?」
 そしてそこから勇者の身体全体へと波及し、その制御を奪い始めた。
「っ、何だテメエっ。離れろ!」
「ン~魔王の力も悪くはないが、勇者PTを他ならぬ勇者自身の手で滅ぼすのもオツだな」
「うっ''、ウゥぐぁァァッッ! ッガァアぁッっッ!!!」
 力の限り引き剥がそうとする勇者を嘲笑うかの様に、その制御を乗っ取ると、勇者の身体は糸の切れた操り人形の様に、力無く項垂れ、その動きを止める。
「・・・【蝶・融・合】フュージョン完了。さて、冥府の怪鳥グリフォンを助けてやるか」
 ゆっくりと顔を上げた勇者(パンドラ)は、次の標的を黒魔導士と白魔導士の女2人組へと定めた。

          ※

 一方、その魔導士組はというと。
 黒魔導士の女は、竜騎士の男の援護として、地上から様々な対空攻撃魔法を駆使して冥府の怪鳥ンフェールグリフォンに攻撃を仕掛け、白魔導士の女は、自分ごと黒魔導士の女を防御魔法で守りつつ、空中戦を繰り広げる竜騎士に祝福魔法で能力強化バフをかけていた。
「くっ、何なのよあの鉄の鳥! 早すぎてコッチの攻撃が全然当たんないじゃない!!」
「アッチも近づいてくるのを待つしかないみたい。最もアレが鳥かどうかすら怪しいけど」
 白魔導士の女が険しい表情で見上げるその先、竜騎士の男も、到底追いつく事の出来ない速度で離脱と再突撃を繰り返す冥府の怪鳥ンフェールグリフォンに、待ち構えるしか方法が無く、苛立ちが募る。

 ーーーコイツを落とせば勇者の加勢にいけるのに!

そんな思いが場を満たした時、
「お前ら!」
 背後から聞こえた、やや粗暴ながらも頼もしさすら感じさせる声ーー
 あの不気味な蝶々仮面の女が倒されたのだ。
 流石はと言うべきか、自分達が加勢など、逆におこがましかったのかもしれない。
 安心感と共に振り返ると、そこにはいつもの勇者がいつもの顔で立っていた。
 但し、見た事も無い巨大な黒鉄の武器を構えて・・・
「「えっ?」」
 次の瞬間、鈍い光沢を放つ鉄の筒束が3束、ブォォォォォォォォッという爆音と共に、高速で回転を始め、放たれたものが瞬く間に2人の身体を喰い千切っていく。
 やがて嵐の様な攻撃が去った後、一面の色鮮やかな花畑の一角に、真っ赤な塗料をこぼしたかの様な血溜まりと、およそ肉と呼べる物が殆ど消え去った、その残りカスのみが残った。
「魔王武装ーー【冥府の番犬】ゲーナケルベロスどうかな? 普通に殺しても良かったのだが、こちらの方が洒落ているだろう?」
 【蝶・融・合】バタフライフュージョンによる融合を解いたパンドラは、目の前の光景に茫然自失で立ち尽くす勇者に尋ねる。
「・・・あ・・・あぁ・・・」
「・・心ここに在らずか。魔王武装ーー【冥王の一太刀】エンマノミツルギ
 展開した魔法陣の中から漆黒の、およそ3~4Mはあろう、長大な大太刀がその姿を現し、直後に鞘に当たる部分が霧散したかと思うと、中から蒼い色彩を放つ凶刃がその姿を表した。
 そして尚も棒立ち状態の勇者に対し、背後から大きく振り被ったパンドラは、そのまま袈裟斬りの要領で冥王の一太刀エンマノミツルギを振り下ろす。
 ザシュゥゥという音と共に舞い散った周囲の花びらは、噴き出した鮮血によって、落ちるよりも早く赤く染まった。
任務完了ミッションコンプリート

          ※

「ハァ~~~」
 勇者のPTをクビになってから数日、付与術士の男はというと、足繁く冒険者ギルドに通っては、飛び入りで人員不足のPTに参加する、単発の依頼をこなす生活を続けていた。
 元勇者PTのメンバーという事で、どこのPTに参加しても手厚く歓迎され、本格的な加入を打診された事も少なくないが、今はとてもそんな気分になれない。
 しかしこのままでは余りにもその場凌ぎが過ぎる。
 何ものにも縛られず、行きたい時に行きたい場所へ行き、助けを求める声あれば、行って依頼をこなし、食べたいと思った物を食べ、求める財宝あらば、行って富を勝ち取る。
 そんな自由気ままな冒険生活を送ってみたかったが、ソロの付与術師ではそれも難しい。
 潔く諦めて故郷へ帰るべきだろうか?
 路銀はそれなりに稼いだし、今日の依頼を最後に冒険者は引退しよう。
 そう考えながら冒険者ギルドの依頼掲示板を覗いていた時だった。
「××様」
「!」
 自分を呼ぶ声を耳にした付与術師の男が声のした方を振り向くと、そこにはギルドの受付嬢が1人立っていた。
「何でしょう?」
「冒険者ギルドより、貴方様にお渡ししたい物がございます。応接室までご一緒に宜しいでしょうか?」


《ーーーTo be continued》

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