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190.お祝い
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翌日。
約束の時間に教会に行くと、ちょうどアニタが出てきたのでそのままカルマ医院へ。
中は昼休憩の時間帯なので人気が無く静かだった。でも奥から微かに話し声がする。私たちは声のする方に行った。
そこはやはりエルちゃんが泊まっている部屋。アニタがノックしてから扉を開けると、カルマさんとニフラさんが居た。
「あ~ちゃんとキラちゃん!」
「やはりな。そろそろ来るのじゃなかろうかと話していたんじゃ」
「それじゃあわたしたちは上に行ってましょうかね?先生」
「そうじゃな」
2人が部屋を出ていく。
「2人とも来てくれて嬉しい」
「エル、体調はどう?赤ちゃんは元気?」
「うん、わたしは大丈夫だよ。赤ちゃんも元気で、母乳良く飲むの」
「そう、安心したわ」
アニタがホッと息を吐く。私たちはベビーベッドですやすや眠っている赤ちゃんを眺めた。
「可愛い…ちゃんと母乳出てるんだ。良かったね」
「うん、ほんとに良かったよ。わたしキラちゃんみたいにおっぱい大きくないから出るかどうか心配だったもん」
ここにも粉ミルク的な物はあるが、やはり母乳、しかも初乳は赤ちゃんにとってとても大切。エルちゃんは私の胸ならたくさん出そうだと頻りに羨ましがっていたのだ。大きいから出る、というものでもないと前世で聞いたことがある気がするんだけど、黙っておこう…。
「良かったわね、ミルク代もバカにならないし」
「うん」
「アルスは今日帰ってくるんでしょう?」
「その予定。でも今日はアルスが来てからじゃ遅いから、家には明日帰るんだ」
「そう」
私たちはその後も少し話をしてから部屋を後にした。
「アニタ。私もプレゼントを渡したいんだけど、あなたは何にするか決めた?」
帰り道、アニタと別れる前に聞いてみる。ここではバースデーと同じく出産も派手にお祝いする習慣はない。だが親しい友人などはちょっとしたものを贈るという。アニタがニフラさんに何が良いか相談していたので、私も贈りたいと思ったのだ。
「あら、キラも?それはエルが喜ぶと思うわ。あたしは赤ちゃんの服を縫う事にしたの」
「そうなんだ。…じゃあ私はよだれかけでも作ろうかな」
「よだれかけか、良いじゃない。あれは何枚あっても良いってカルマさんのところに来るおかあさんたちが言ってたわ」
「じゃあ決めようかな」
「一緒に渡しましょうよ」
「良いの?」
「ええ、もちろん。いつが良い?」
「アニタに合わせるよ」
「ありがとう。じゃあ…」
エルちゃんは5日後に経過を診せにくるというので、渡すのはその日に決めてアニタと別れた。
コテージの前まで来ると、外で遊んでいたスノウたちが私の元に飛んで来た。
(おかえりなの、きら!)
((オカエリナサイ、アルジサマ))
(オカ エリ)
スノウは谷間に直行、サニーとサックスは左右からすりすりする。スレートはサックスの頭上から手を振っている。
「ふふ…ただいま。どうしたの?みんなして」
(だってきらきのーもそのまえもおうちにいなかったの)
私の問いにスノウが代表して答える。どうやら少し寂しい思いをさせてしまったらしい。そういえば連日長時間離れたのは初めてだ。
「そっか、ごめんね」
そう言ってみんなを撫でていると、レオンとエヴァが出てきた。
「くくっ、何してるかと思えば…」
「フフ…今日は全員甘えっこだね」
「何日も居なかったから寂しがらせちゃったみたいで」
「そうみたいだな」
「だね。ほら、ちょうどおやつの時間だからこのままテラスに行こう」
(おやつ!スノウぷりんたべたいの!)
おやつ、と聞いたスノウが谷間から声を上げる。
((アップルパイ!))
(オカキ)
みんなも食べたい物を叫ぶ。私たちは3人で顔を見合わせて笑った。
「じゃあ今日はそれぞれ食べたい物をおやつにするね」
「それが良いな。俺はミートパイが良い」
「オレはワインゼリーかな。コーヒー淹れるよ」
「うん、ありがとう」
それから揃ってテラスに移動し、楽しいおやつタイムを過ごした。
■
翌日、私は早速よだれかけを縫っていた。ブルー、イエロー、グリーンの色違いを3枚。刺繍でも入れようかと思ったが、シンプルな方が洗いやすいし使いやすいかな、と思い直して止めた。
昼食後、出来上がったものを夫たちに見せた。
「もう出来たんだ。うん、これくらいシンプルな方が良いと思うよ。あまり凝ってても向こうが遠慮するかもしれないし」
「そうだな。大袈裟な感じが無くて良いと思うぜ」
「そう?良かった」
意見を聞いて安心していると、レオンがよだれかけを手に取って眺める。
「しっかし、赤ん坊のもんってんは小せえな。…ベビーベッド、デカく作り過ぎたか?」
「え?ベビーベッド?」
「うん、キラが居ない間に作ったんだよ」
エヴァがそう言って立ち上がり、インベントリからベッドを出した。
「ほら」
「わ…」
それは前世で言うなら腕の良い職人が一つ一つ手作りしたような素敵なベッドだった。本体は明るい色合いの木製で、きちんと角を削って丸くしてある。がっしりした高い柵も一方が開くようになっていた。中のマットや掛け布団、毛布などはセットで何色か用意されている。
「本体はレオンが、布団とかはオレが作ったんだ。どう?」
「凄い…素敵!」
「気に入ったか?」
「もちろん。ありがとう、レオン、エヴァ。とっても嬉しい」
お礼を言うと夫たちは左右から私の肩を抱く。
「まだまだこれからだぜ?」
「そうだよ。ベビーカーとかゆりかごとかもあると良いよね」
「わ、楽しみ。私もベビー服作るね」
「いっそのこと哺乳瓶とかも作っちゃう?」
「良いな、それ。…楽しみだな」
「うん、楽しみだ」
「私も」
そう言ってキスを交わす。
今日も穏やかで幸せな一日です。
約束の時間に教会に行くと、ちょうどアニタが出てきたのでそのままカルマ医院へ。
中は昼休憩の時間帯なので人気が無く静かだった。でも奥から微かに話し声がする。私たちは声のする方に行った。
そこはやはりエルちゃんが泊まっている部屋。アニタがノックしてから扉を開けると、カルマさんとニフラさんが居た。
「あ~ちゃんとキラちゃん!」
「やはりな。そろそろ来るのじゃなかろうかと話していたんじゃ」
「それじゃあわたしたちは上に行ってましょうかね?先生」
「そうじゃな」
2人が部屋を出ていく。
「2人とも来てくれて嬉しい」
「エル、体調はどう?赤ちゃんは元気?」
「うん、わたしは大丈夫だよ。赤ちゃんも元気で、母乳良く飲むの」
「そう、安心したわ」
アニタがホッと息を吐く。私たちはベビーベッドですやすや眠っている赤ちゃんを眺めた。
「可愛い…ちゃんと母乳出てるんだ。良かったね」
「うん、ほんとに良かったよ。わたしキラちゃんみたいにおっぱい大きくないから出るかどうか心配だったもん」
ここにも粉ミルク的な物はあるが、やはり母乳、しかも初乳は赤ちゃんにとってとても大切。エルちゃんは私の胸ならたくさん出そうだと頻りに羨ましがっていたのだ。大きいから出る、というものでもないと前世で聞いたことがある気がするんだけど、黙っておこう…。
「良かったわね、ミルク代もバカにならないし」
「うん」
「アルスは今日帰ってくるんでしょう?」
「その予定。でも今日はアルスが来てからじゃ遅いから、家には明日帰るんだ」
「そう」
私たちはその後も少し話をしてから部屋を後にした。
「アニタ。私もプレゼントを渡したいんだけど、あなたは何にするか決めた?」
帰り道、アニタと別れる前に聞いてみる。ここではバースデーと同じく出産も派手にお祝いする習慣はない。だが親しい友人などはちょっとしたものを贈るという。アニタがニフラさんに何が良いか相談していたので、私も贈りたいと思ったのだ。
「あら、キラも?それはエルが喜ぶと思うわ。あたしは赤ちゃんの服を縫う事にしたの」
「そうなんだ。…じゃあ私はよだれかけでも作ろうかな」
「よだれかけか、良いじゃない。あれは何枚あっても良いってカルマさんのところに来るおかあさんたちが言ってたわ」
「じゃあ決めようかな」
「一緒に渡しましょうよ」
「良いの?」
「ええ、もちろん。いつが良い?」
「アニタに合わせるよ」
「ありがとう。じゃあ…」
エルちゃんは5日後に経過を診せにくるというので、渡すのはその日に決めてアニタと別れた。
コテージの前まで来ると、外で遊んでいたスノウたちが私の元に飛んで来た。
(おかえりなの、きら!)
((オカエリナサイ、アルジサマ))
(オカ エリ)
スノウは谷間に直行、サニーとサックスは左右からすりすりする。スレートはサックスの頭上から手を振っている。
「ふふ…ただいま。どうしたの?みんなして」
(だってきらきのーもそのまえもおうちにいなかったの)
私の問いにスノウが代表して答える。どうやら少し寂しい思いをさせてしまったらしい。そういえば連日長時間離れたのは初めてだ。
「そっか、ごめんね」
そう言ってみんなを撫でていると、レオンとエヴァが出てきた。
「くくっ、何してるかと思えば…」
「フフ…今日は全員甘えっこだね」
「何日も居なかったから寂しがらせちゃったみたいで」
「そうみたいだな」
「だね。ほら、ちょうどおやつの時間だからこのままテラスに行こう」
(おやつ!スノウぷりんたべたいの!)
おやつ、と聞いたスノウが谷間から声を上げる。
((アップルパイ!))
(オカキ)
みんなも食べたい物を叫ぶ。私たちは3人で顔を見合わせて笑った。
「じゃあ今日はそれぞれ食べたい物をおやつにするね」
「それが良いな。俺はミートパイが良い」
「オレはワインゼリーかな。コーヒー淹れるよ」
「うん、ありがとう」
それから揃ってテラスに移動し、楽しいおやつタイムを過ごした。
■
翌日、私は早速よだれかけを縫っていた。ブルー、イエロー、グリーンの色違いを3枚。刺繍でも入れようかと思ったが、シンプルな方が洗いやすいし使いやすいかな、と思い直して止めた。
昼食後、出来上がったものを夫たちに見せた。
「もう出来たんだ。うん、これくらいシンプルな方が良いと思うよ。あまり凝ってても向こうが遠慮するかもしれないし」
「そうだな。大袈裟な感じが無くて良いと思うぜ」
「そう?良かった」
意見を聞いて安心していると、レオンがよだれかけを手に取って眺める。
「しっかし、赤ん坊のもんってんは小せえな。…ベビーベッド、デカく作り過ぎたか?」
「え?ベビーベッド?」
「うん、キラが居ない間に作ったんだよ」
エヴァがそう言って立ち上がり、インベントリからベッドを出した。
「ほら」
「わ…」
それは前世で言うなら腕の良い職人が一つ一つ手作りしたような素敵なベッドだった。本体は明るい色合いの木製で、きちんと角を削って丸くしてある。がっしりした高い柵も一方が開くようになっていた。中のマットや掛け布団、毛布などはセットで何色か用意されている。
「本体はレオンが、布団とかはオレが作ったんだ。どう?」
「凄い…素敵!」
「気に入ったか?」
「もちろん。ありがとう、レオン、エヴァ。とっても嬉しい」
お礼を言うと夫たちは左右から私の肩を抱く。
「まだまだこれからだぜ?」
「そうだよ。ベビーカーとかゆりかごとかもあると良いよね」
「わ、楽しみ。私もベビー服作るね」
「いっそのこと哺乳瓶とかも作っちゃう?」
「良いな、それ。…楽しみだな」
「うん、楽しみだ」
「私も」
そう言ってキスを交わす。
今日も穏やかで幸せな一日です。
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