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妹の思惑 ③
しおりを挟む少しばかり現実逃避をしていたら、僕の隣の席に座り道中ずっと編み物をしていた乳母のステラが、皺の有る口元に笑みを浮かべ宥めるように囁いた。
「坊ちゃま、確かにお嬢様は少しばかり衝動的で破天荒な方ですけれど、決して坊ちゃまを悲しませる為に行動を起こしたわけではありませんとも。仲の良い双子の兄妹ではありませんか、きっとこの婚約には海よりも深い意味があるに違いませんよ。」
「この婚約の意味かぁ。」
窓の縁に肘をついて考えてみる、妹の婚約者グラデウス・ワルツ。王都の国立騎士学校を首席で卒業、その後第一王子の専属護衛に選ばれていたが、遠征中に負傷、療養を余儀なくされ現在は実家の領地の一つである穏やかな土地で数名の使用人と共に静かに屋敷で暮らしているとのこと。
これが一応婚約者の事は把握しておくべきと思い、調べた内容の一部だ。もちろん急遽だったので情報としては中途半端だし経歴しか分からないけれど。
ワルツ家は代々優秀な宰相を送り出してきた家柄のようで文系一辺倒の者も多く、彼の様に武芸に優れたものは少なかったらしい、しかしグラデウスは文武両道彩色兼備という絶対に僕が敵に回したくないような優れた男で、彼の一族はグラデウスが騎士として城に上がった時など、総出で大喜びだったとかなんとか。
もしかして脳筋しかいない我が家の血筋に、頭脳に秀でたものを仕入れたいとお父様は考えたのか?あり得るような無いような。
そもそも婚約者が急に決まることもそうだけど、グラデウスは20歳僕と妹は12歳この年の差よ。貴族だからと言われれば頷くしか無いけれど。
幼女趣味なのかなと疑われても可笑しくないのにそのリスクを抱えてまで妹を婚約者にして、成人まで共に過ごすことを婚約の条件にしてきた意味は何なのだろう。因みにこの国の成人は男女共に18である。騎士学校は12歳で入学卒業が18歳なので理に叶っている気はするが。
「辺境の地に療養の為一人というのが、寂しいからだと手紙には書いてあったらしいけれど、どうなのやら。」
「坊ちゃま疑うのは良くありません。ケガというものは人の心に寂しさや孤独と言った風穴をあけるものなのですから。その辛さは誰でもない坊ちゃま自身が感じてるはずですよ。我々が領地に行くことで少しでも心を慰められるのであればよい事ではありませんか。」
名誉ある地位からの脱落。孤独な療養。
僕はふと、一人深夜に熱を出したことを思い出した。あの時の様な不安や孤独を彼も感じているのだろうか。
「仲良くなれるかな。」
「大丈夫きっとなれますよ。」
ステラは小さい手のひらでそっと僕の頭を撫でた、多忙な母上に変わり、常に僕達に愛情を注いでくれたのは他でもないこの穏やかな乳母なのだ。
大丈夫僕は一人じゃない。
信頼できる乳母と、馬を引きながら心配そうに時おりこちらを見つめてくる。元妹専属護衛のハンスだっているのだから。
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