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婚約者ご登場 ①
しおりを挟むワルツ一族が納めてる領地は、なだらかな草原が広がる牧草地帯である。のどかなデコボコ道を馬車で辿ってゆくと羊や牛の鳴き声が聞こえてきてとても長閑だ。
山に囲まれ、時折修行に明け暮れる者たちの雄たけびで溢れる我が領地とは雲泥の差がある。
こういうのんびりしたところ僕は好きかも。
風と共に流れれてくる柔らかな空気も心地が良い。今まで領地の外に出たこともなかったのだし、少しは観光気分を味わっても良いのかも、ここまで来て仕舞ったら、妹と入れ替わっているのがバレないようにおとなしく過ごすしかない。もし妹の気が変わって帰ってきたらそのまま彼と結婚できるように体制を整えておきたいし、相手への印象もなるべく良くしておきたい。
聞き分けが良すぎると思われるかもしれないけれど、僕みたいな病弱で世間知らずな人間では逃げ出したところでたかが知れている。あぁ迷子になって餓死するのが目に浮かぶようだ。
こういう時は流れに身を任せるしかない。それが今の僕に唯一出来る事なのだから。
のどかな牧草地帯を抜けると小高い丘の上に煉瓦作りの一際大きい屋敷が建っていた。馬車でゆっくりと坂を上がってゆくと大きな鉄の門があり、傍にはかっちりとした執事服をきた壮年の男性が背筋を伸ばし、僕たちの到着を待っていた。口元の長く白いひげがダンディなおじ様だ。
僕が馬車から降りようとすると恭しく手を引いてくれる。まさにベテラン紳士と言った風格だ。
「お待ちしておりました、シャシュカ・ベイレード様。この屋敷での生活が貴方様にとってより良いものでありますよう。我々ワルツ家使用人一同精一杯務めさせて頂きます。」
胸に手を当てしっかりと礼をしてくれる。
「歓迎して頂きありがとう。貴方たちの主にふさわしい妻になれるようワタクシも努力を惜しみませんわ。」
白手袋をした指で口元を隠し優雅にほほ笑む。妹の気の強い感じは上手く出せていただろうか。少し不安だ。
「そしてこの二人は、ワタクシの護衛であるハンスと、乳母であり身の回りの世話をしてくれるステラですわ。二人ともワタクシが信頼を置く者たちです。どうか仲良くしてくださいね。」
「こちらこそ、宜しくお願い致します。私は執事のカールと申します。」
軽い挨拶を終え広間に通される。一つ一つの調度品が品よく置かれていて、この家の格式の高さを表している様にも見えた。
我が家も位的にはそう変わらないはずなのに、雑な者たちが多いのですぐ物を壊してしまう。因みに妹が原因で割れた花瓶は累計100に上り、その時から僕たちは数えることを止めた。
その為屋敷ではガラスの花瓶ではなく耐久力のある、鉄製の花瓶か、簡単に作り直せる庭師手作りの温かみのある木の花瓶が置かれるようになったのだった。
僕は豪華な飾りの付いた真っ赤なソファーにお淑やかに座り、(ちなみにハンスとステラは後ろに控えている)
この屋敷の主人を待つことになった。
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