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婚約者ご登場 ②
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屋敷の主人であり僕(妹)の婚約者でもあるグラデウスは今朝がた領地の視察に出かけた為、帰ってくるまで暫く時間がかかるらしいと執事のカールさんはいう。
そもそも馬車での移動は道の状況でも到着予定が変わってしまうものだから、元々待ち合わせた時間もあいまいだったらしいので気にしても仕方が無い。
カールの妻でもあり使用人頭のミーアがお茶と焼き立てのお菓子を持って来てくれた。執事夫妻は若いころからワルツ家に仕えておりグラデウスの事も息子同然に思い大切にしているようだ。待っている間暇なので軽く話をさせて貰ったけれど、彼らの言葉の端々から屋敷の主人への深い敬愛が感じられた。
紅茶と果実もこの領地の売りらしく、今飲んでいる紅茶も癖が無くとても美味しい。焼き菓子もほんのりと酸味のある果実が入っていて口に入れる度に、長い旅の疲れを癒してくれるような気さえした。因みにこの屋敷から更に南に行くと茶畑や果樹園が広がっているそうで、グラデウスは丁度そちらの視察に出ているのだということだった。
当主が来る前にこの屋敷の人員をそれとなく聞いて確認しておくことにする。まず、執事夫妻次はこのお菓子を作ってくれた料理人とその弟子一人。庭師の夫婦とその息子。
メイドは全て結婚しており子供がいる者たちしかおらず、一番若いもので40歳だという。彼女たちは近所に夫婦で住んでいて通いでこちらに来てくれているそうだ。この話を聞き僕は何となく嫌な予感を感じていた。確か手紙にはこちらが連れて行っていい使用人は一人と書かれていた、しかも年嵩で信頼できるものを一人だけと念入りに。療養地なこともありグラデウスはかなりの美形と聞いていたから、若いメイドが来て騒がれたく無いのかなと思っていたけれど。
なんか色々きな臭いんだよなぁ。
因みにハンスは馬車を引くものや荷物運びが居ないと大変でしょうと勝手宣言してついて来た。元々妹付きで暇が出来たからかなと考えていたけれどなんか絶対理由があるぞこれ。
僕はダラダラと背を伝う冷や汗を表情に出さないよう、冷静にお茶を飲むしか出来なかった。
お菓子を食べ終わり、何だかうとうとしてきた頃グラデウスは帰宅した。
馬の蹄が響き渡り坂を昇ってくる音が聴こえると、執事夫婦が主人の迎えに動き出したので、なんとなく僕もついて行くことにする。来たばかりの令嬢としては優雅に部屋で待つ方が良いのかもしれないけれど、妹だったらきっと迎えに出ると思うし、他はどうかは知らないが我が屋敷では家に居る時は必ず家人の出迎えは玄関先で家族が出迎えることを義務としていた。恐らくアクティブな人間が多いせいで、もし怪我をしていたらすぐに傷を確認して医者を迎えに行く為にだと思う。
一度父上が血まみれで帰宅したことがあったのだが、その時は母上が父上をお姫様抱っこして外に飛び出そうとしていたっけ。その時にはすでに主治医が近くまで来ていて事なきを得たけれど、夫婦仲の良い我が両親の事だ、恐らく医者が来なかったら母上は絶対に医者の家まで父上を抱えたまま一心不乱走っただろう。
生まれも育ちも貴族であるのにこういった人間臭い所のある両親がとても好きだ、だからシャシュカとグラデウスにも将来は仲睦まじい夫婦になって欲しいと心から願っている。
大きく開かれた扉から無作法にならないように外を眺めていると。スラリとした身体を持った背の高い美丈夫が、頭上で一括りにされた長いブロンドを風に靡かせながらこちらに向かってきた。隠れマッチョなのだろうか第一王子の専属護衛だったとは思えないスマートさがある。腰には愛用しているのだろうシンプルな装飾の剣が一振り下げてあり、僕は思わず頬が緩みそうになった。
うんあれはとても良い剣だ見ただけでも分かる。質素なのに何処かしこにも職人の魂が宿っているかのような素晴らしさだ。仲良くなったらあの剣を受けさせて貰えるだろうか。自分の持参した愛刀があの刀とぶつかるのを想像しただけでとても気分が高揚してきた。でもこれは僕が可笑しいのではない。これは剣に命を捧げている我が一族の血がそうさせるのだ。仕方が無いね。
グラデウスは迎えに出たカールと、いかつい筋肉を持つ左目に眼帯を付けた大柄なスキンヘッドの護衛をつれてこちらに向かってきた。
そして僕の姿に気が付くと数歩離れた所で立ち止まり、まるで晴れた快晴の空の様に、美しいスカイブルーの瞳で僕の目を見つめて口を開く。
「シャシュカ嬢出迎えと、遠い我が領地まで態々来てくれたこと大変ありがたく思う。しかし君はここでは気を遣わず自由に過ごしてくれて構わない。」
「あら、自由とはどういった意味ですか?グラデウス様は朝から視察でしたとか、お疲れでしょう。私が婚約者として何か出来ることはないのでしょうか?」
グラデウスは端正な顔を少し歪めると、強い口調でこういぅた。
「俺と貴方は婚約者という間柄ではあるが、それは君が成人を迎えるまでの事だ。君は要するに俺の婚約者であるということを証明するために唯この屋敷に居てくれればいい、勝手に恋人を作ろうと好きな物を購入しようと俺は別に咎めはしない。その代り必要な時以外は話しかけないでほしい。それと絶対俺に干渉して来ようとするな。」
ポカンとする僕たちを気にもせずグラデウスは淡々と言葉を続ける。
「俺は『女』が大嫌いだ。そのことをしっかり覚えておく様に。」
氷の様に冷たい表情を崩す事無く、僕たちの横を速足で通り過ぎると、グラデウスは振り返る事もせず屋敷の奥に消えていった。
そもそも馬車での移動は道の状況でも到着予定が変わってしまうものだから、元々待ち合わせた時間もあいまいだったらしいので気にしても仕方が無い。
カールの妻でもあり使用人頭のミーアがお茶と焼き立てのお菓子を持って来てくれた。執事夫妻は若いころからワルツ家に仕えておりグラデウスの事も息子同然に思い大切にしているようだ。待っている間暇なので軽く話をさせて貰ったけれど、彼らの言葉の端々から屋敷の主人への深い敬愛が感じられた。
紅茶と果実もこの領地の売りらしく、今飲んでいる紅茶も癖が無くとても美味しい。焼き菓子もほんのりと酸味のある果実が入っていて口に入れる度に、長い旅の疲れを癒してくれるような気さえした。因みにこの屋敷から更に南に行くと茶畑や果樹園が広がっているそうで、グラデウスは丁度そちらの視察に出ているのだということだった。
当主が来る前にこの屋敷の人員をそれとなく聞いて確認しておくことにする。まず、執事夫妻次はこのお菓子を作ってくれた料理人とその弟子一人。庭師の夫婦とその息子。
メイドは全て結婚しており子供がいる者たちしかおらず、一番若いもので40歳だという。彼女たちは近所に夫婦で住んでいて通いでこちらに来てくれているそうだ。この話を聞き僕は何となく嫌な予感を感じていた。確か手紙にはこちらが連れて行っていい使用人は一人と書かれていた、しかも年嵩で信頼できるものを一人だけと念入りに。療養地なこともありグラデウスはかなりの美形と聞いていたから、若いメイドが来て騒がれたく無いのかなと思っていたけれど。
なんか色々きな臭いんだよなぁ。
因みにハンスは馬車を引くものや荷物運びが居ないと大変でしょうと勝手宣言してついて来た。元々妹付きで暇が出来たからかなと考えていたけれどなんか絶対理由があるぞこれ。
僕はダラダラと背を伝う冷や汗を表情に出さないよう、冷静にお茶を飲むしか出来なかった。
お菓子を食べ終わり、何だかうとうとしてきた頃グラデウスは帰宅した。
馬の蹄が響き渡り坂を昇ってくる音が聴こえると、執事夫婦が主人の迎えに動き出したので、なんとなく僕もついて行くことにする。来たばかりの令嬢としては優雅に部屋で待つ方が良いのかもしれないけれど、妹だったらきっと迎えに出ると思うし、他はどうかは知らないが我が屋敷では家に居る時は必ず家人の出迎えは玄関先で家族が出迎えることを義務としていた。恐らくアクティブな人間が多いせいで、もし怪我をしていたらすぐに傷を確認して医者を迎えに行く為にだと思う。
一度父上が血まみれで帰宅したことがあったのだが、その時は母上が父上をお姫様抱っこして外に飛び出そうとしていたっけ。その時にはすでに主治医が近くまで来ていて事なきを得たけれど、夫婦仲の良い我が両親の事だ、恐らく医者が来なかったら母上は絶対に医者の家まで父上を抱えたまま一心不乱走っただろう。
生まれも育ちも貴族であるのにこういった人間臭い所のある両親がとても好きだ、だからシャシュカとグラデウスにも将来は仲睦まじい夫婦になって欲しいと心から願っている。
大きく開かれた扉から無作法にならないように外を眺めていると。スラリとした身体を持った背の高い美丈夫が、頭上で一括りにされた長いブロンドを風に靡かせながらこちらに向かってきた。隠れマッチョなのだろうか第一王子の専属護衛だったとは思えないスマートさがある。腰には愛用しているのだろうシンプルな装飾の剣が一振り下げてあり、僕は思わず頬が緩みそうになった。
うんあれはとても良い剣だ見ただけでも分かる。質素なのに何処かしこにも職人の魂が宿っているかのような素晴らしさだ。仲良くなったらあの剣を受けさせて貰えるだろうか。自分の持参した愛刀があの刀とぶつかるのを想像しただけでとても気分が高揚してきた。でもこれは僕が可笑しいのではない。これは剣に命を捧げている我が一族の血がそうさせるのだ。仕方が無いね。
グラデウスは迎えに出たカールと、いかつい筋肉を持つ左目に眼帯を付けた大柄なスキンヘッドの護衛をつれてこちらに向かってきた。
そして僕の姿に気が付くと数歩離れた所で立ち止まり、まるで晴れた快晴の空の様に、美しいスカイブルーの瞳で僕の目を見つめて口を開く。
「シャシュカ嬢出迎えと、遠い我が領地まで態々来てくれたこと大変ありがたく思う。しかし君はここでは気を遣わず自由に過ごしてくれて構わない。」
「あら、自由とはどういった意味ですか?グラデウス様は朝から視察でしたとか、お疲れでしょう。私が婚約者として何か出来ることはないのでしょうか?」
グラデウスは端正な顔を少し歪めると、強い口調でこういぅた。
「俺と貴方は婚約者という間柄ではあるが、それは君が成人を迎えるまでの事だ。君は要するに俺の婚約者であるということを証明するために唯この屋敷に居てくれればいい、勝手に恋人を作ろうと好きな物を購入しようと俺は別に咎めはしない。その代り必要な時以外は話しかけないでほしい。それと絶対俺に干渉して来ようとするな。」
ポカンとする僕たちを気にもせずグラデウスは淡々と言葉を続ける。
「俺は『女』が大嫌いだ。そのことをしっかり覚えておく様に。」
氷の様に冷たい表情を崩す事無く、僕たちの横を速足で通り過ぎると、グラデウスは振り返る事もせず屋敷の奥に消えていった。
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