女装令嬢奮闘記

小鳥 あめ

文字の大きさ
19 / 50

泥棒猫参上 ⑤

しおりを挟む
 
 馬車から降ろされた僕は、その勢いのままぽいっと自室に投げ込まれた。ちょっとハンス、主人に向かってその扱いは何だ!とか訴える暇もなく、優秀な使用人たちによる一連の流れはとてもスムーズだった。


部屋に入るなり、待機していたステラによって、すぐさま寝間着に着替えさせられて、そのままベッドの中へ、反抗する余地を与えられる間もなく、ステラの子守唄によって強制的に眠りの中へ。


 絶対に朝まで起きて、帰宅したところを襲撃してやろうと思ってたのに、その手段すら無効化された。使用人達の連携っぷり半端ない。
 しかもこの部屋良い香りしてるし、ステラは相変わらずの美声だしで、僕の瞼はもう無理開いてられませんと白旗を挙げた。
 
 いつの間にか眠りは深くなっていたらしい。


 夢の中で僕は妹と、グラデウスの三人でお茶会をしている夢を見た。
 場所は薔薇に囲まれた美しい庭園で、真っ白のテーブルの上には沢山の焼き菓子と、いれたての紅茶。


 妹が楽しそうに笑うと、グラデウスも優しく微笑んで紅茶に口を付ける。そう、これが僕の理想、こう有って欲しい未来図。
 それなのに、なんでだろ。二人が目を合わせ笑い合うその中に僕は居られないんだ。だって今は妹の振りをしてるだけ、本当は僕は部外者なんだから。


 妹の良い所も、グラデウスの優しい所も僕は知っていて、それでも二人の間には入り込めない。


 少しずつ夢の中の景色は崩れていく、夢の中で二人を前にして僕は笑っていられたかな。


 将来、元に戻った時に僕はどうすればいいんだろう。


何処からか声が聞こえる。


今までに聞いたことの無い人の声だ。


『奪えばいいじゃない』


 何を?


『妹の婚約者を貴方が奪えばいいのよ。』


そんなこと出来るわけが無い。


『あらどうして?貴方は妹に将来の可能性を奪われたのに』


 その声はだんだん近づいてきて、まるで僕の本心を見透かし暴こうとしているみたいだ。


『どうして妹の可能性を代わりに奪おうと思えないのかしら、』


 声は僕の耳元でささやかれ、目の前で刃ぐにゃぐにゃとした白い塊が人型を成していく。


「臆病なのね貴方。良い人ぶって妹の為ですって。グラデウスはその妹が捨てて行ったモノなのに。そんなことにも気が付いて居ないの?いいえ気が付かないようにしているんだわ。だって余りものを押し付けられているなんて、自分がとっても惨めですもんね。」


白い人型の真っ黒い口が厭らしく笑う。


『それなら、彼はあたしが貰っちゃおうかしらね。』


 いつの間にか人型は、教会で見た桃色の巻き毛男に変わっていた。


『グラデウスはあ・た・し が幸せにしてあげる!』


 パチリとウインクする男に、夢の中の僕は叫ぶ。


「誰がやるか!この泥棒猫が!!!」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

俺の居場所を探して

夜野
BL
 小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。 そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。 そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、 このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。 シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。 遅筆なので不定期に投稿します。 初投稿です。

この手に抱くぬくもりは

R
BL
幼い頃から孤独を強いられてきたルシアン。 子どもたちの笑顔、温かな手、そして寄り添う背中―― 彼にとって、初めての居場所だった。 過去の痛みを抱えながらも、彼は幸せを願い、小さな一歩を踏み出していく。

大嫌いなこの世界で

十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。 豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。 昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、 母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。 そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

処理中です...