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泥棒猫参上 ⑤
しおりを挟む馬車から降ろされた僕は、その勢いのままぽいっと自室に投げ込まれた。ちょっとハンス、主人に向かってその扱いは何だ!とか訴える暇もなく、優秀な使用人たちによる一連の流れはとてもスムーズだった。
部屋に入るなり、待機していたステラによって、すぐさま寝間着に着替えさせられて、そのままベッドの中へ、反抗する余地を与えられる間もなく、ステラの子守唄によって強制的に眠りの中へ。
絶対に朝まで起きて、帰宅したところを襲撃してやろうと思ってたのに、その手段すら無効化された。使用人達の連携っぷり半端ない。
しかもこの部屋良い香りしてるし、ステラは相変わらずの美声だしで、僕の瞼はもう無理開いてられませんと白旗を挙げた。
いつの間にか眠りは深くなっていたらしい。
夢の中で僕は妹と、グラデウスの三人でお茶会をしている夢を見た。
場所は薔薇に囲まれた美しい庭園で、真っ白のテーブルの上には沢山の焼き菓子と、いれたての紅茶。
妹が楽しそうに笑うと、グラデウスも優しく微笑んで紅茶に口を付ける。そう、これが僕の理想、こう有って欲しい未来図。
それなのに、なんでだろ。二人が目を合わせ笑い合うその中に僕は居られないんだ。だって今は妹の振りをしてるだけ、本当は僕は部外者なんだから。
妹の良い所も、グラデウスの優しい所も僕は知っていて、それでも二人の間には入り込めない。
少しずつ夢の中の景色は崩れていく、夢の中で二人を前にして僕は笑っていられたかな。
将来、元に戻った時に僕はどうすればいいんだろう。
何処からか声が聞こえる。
今までに聞いたことの無い人の声だ。
『奪えばいいじゃない』
何を?
『妹の婚約者を貴方が奪えばいいのよ。』
そんなこと出来るわけが無い。
『あらどうして?貴方は妹に将来の可能性を奪われたのに』
その声はだんだん近づいてきて、まるで僕の本心を見透かし暴こうとしているみたいだ。
『どうして妹の可能性を代わりに奪おうと思えないのかしら、』
声は僕の耳元でささやかれ、目の前で刃ぐにゃぐにゃとした白い塊が人型を成していく。
「臆病なのね貴方。良い人ぶって妹の為ですって。グラデウスはその妹が捨てて行ったモノなのに。そんなことにも気が付いて居ないの?いいえ気が付かないようにしているんだわ。だって余りものを押し付けられているなんて、自分がとっても惨めですもんね。」
白い人型の真っ黒い口が厭らしく笑う。
『それなら、彼はあたしが貰っちゃおうかしらね。』
いつの間にか人型は、教会で見た桃色の巻き毛男に変わっていた。
『グラデウスはあ・た・し が幸せにしてあげる!』
パチリとウインクする男に、夢の中の僕は叫ぶ。
「誰がやるか!この泥棒猫が!!!」
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