女装令嬢奮闘記

小鳥 あめ

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バザーに向けて

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 来月に隣の領地で行われるバザーの為に、修行の休憩時間を利用して毛糸で出来た髪飾りをたくさん作っている。貴族はともかく一般の村人たちはあまり身を着飾ったりしないらしい。

日々生きていくために仕事に熱心なのはいいけれど、そこをもう少し楽になるよう改善していくのも貴族や領主の役目だと思うんだけどな、それもまた治める人間によって変わってくるわけで。
 僕の両親が納める領地は、農作業をしている民たちよりも、狩りで生計を立てている者が多く、女性達もあまり着飾りはしなかったがそれでも、木の実で布を染めて服を作ったり、髪紐などを編んだりなど、自分の身の丈に合った着飾り方をしていた気がする。
 

 グラデウスが治めるこの領地では、酪農と果樹園での収穫が主な税収を占めている、加工技術が発展しているから町もにぎわっていて、可愛らしい小物やアクセサリーも人気があるらしいけれど、ほとんどのモノが高額で、皆お金を貯めてご褒美に買うくらいには貴重品なんだとか。女性や子供は可愛らしいものが好きだろうに、それでは何だか寂しい気もする。
 僕はほら、病弱だったからベッドに張り付いている時は、暇すぎて乳母のステラから習った手芸で手を動かすことが一番のストレス発散法だった。あの頃作っていた物は母親やメイドたちに分けていたけれど、この趣味が役に立って町の人たちに喜んでもらえるなら後々は手ごろなアクセサリーのお店を出してもいいかもね。もちろんその時は領主の奥方ではなく、魔術師として名前を売っていきたいと思う。

 手作りのクマのぬいぐるみに癒しの力を加えると良いお守りになるのよ、とジャノメが言っていたので。もう少し余裕が出来たらこの教会でも作ってお守りとして販売してみようかな。
まだまだ、魔術師としては見習いだから出来ることは限られているけれど、少しでも色々な人の力になってみたいと最近は思えるようになった。

 妹の事もまだ吹っ切れてはいないんだけど、僕が男として彼らの前に立たなきゃいけなくなったとき、少しでも自分は何かに貢献できる人間だということを見せたいのかもしれない。
 もし、グラデウスと引き離されてしまう未来が来ようとも、彼の中に僕と言う存在を強く残して置きたいと思うんだ。

 僕が鉤編みで毛糸の花飾りを編んでいる横で、アルとハンスは押し花の栞を作っていた。アルはバザーで儲けたお金で両親に美味しいものを食べさせるんだと張り切っている。彼の両親はグラデウスの屋敷の庭を手入れしてくれる立派な庭師で、支払われているお金も少なくないはずなんだけどアル曰く、「父ちゃんも母ちゃんも何時か俺が、町で花屋を開くときの為にお金を貯めてるんだ。俺は自分で金を溜めるって言ってるのに聞かねーんだよな。」とのこと。

 その為大分節約し慎ましく暮らしているのだとか、アルの将来の夢は町一番の花屋の店主になって両親に恩を返すことらしい、今回のバザーにも自分で育てた花を持っていきたいと張り切っていた。
 グラデウスも彼のやる気を買っていて、裏庭の3分の一を売るための花畑として認めている。その為アルは週に一度訪れる祈りの日には町に行き、自分や両親が育てた花を売って歩いているそうだ。
商魂たくましい。彼はきっと夢を叶えるんだろうな。その時僕もグラデウスの隣で、アルの成功を祝えていたらいい。

 そんなわけで、来月のバザーは色々な意味で大変になりそうだ。

 因みにジャノメは何をしているのかと言うと。

「あたしは神父補佐をするだけだから楽ちんよー。でも讃美歌を任されているからちゃんと練習しているけれどね。」

美しい癒しの歌声を持つジャノメは練習だと言って、時間を知らせる鐘を打った後、色々な歌を聞かせてくれるようになった。歌は神父の嗜みなんだとか、僕も真似して歌ってみたけれど、中々上手く行っていない。

「あんた、もしかして音痴なのかしら?」

 そういって、困惑気に師匠が首を傾げるくらいの才能だということは自覚しないといけないのかも。

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