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第1章 伝説の始まり

9.嘘も真実も人によっては答えは同じ

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ちゅんちゅん。
窓の外から、小鳥の鳴き声がする。

もう、朝なのか。

「う、う~ん。
すぅすぅ。」

ウルティアが俺の隣りで、すやすやと寝ていた。
俺は、昨日という日を一生忘れないだろう。
圧倒的な理不尽を恨んだ俺。
生きる希望を失い、ただ流されるだけの日々だった俺。

それが今ではどうだろうか。
世界には光が満ちあふれていると思える。
これからは、何でもなれる。誰にも俺の邪魔はさせない。

そして、俺は隣りで寝ているウルティアを見て、絶対にこの子を幸せにしようと思った。

そんなことを考えているうちに、ウルティアは目を覚ます。

「おはよう、カイン。」

可愛い…。
思わず、昨日の出来事を思い出し、俺は更に、にやけてしまった。

「おはよう、ウルティア。」

幸せだ。
こんなに可愛い嫁をもらって、それだけでも一生分の幸運を使い果たしたような気がする。

ウルティアと目があうと、お互い妙に恥ずかしくなってしまった。
まだ、会って間もないのだ。これから、少しずつ仲良くなろう。

二人でキッチンへ向かう。保存食材があるので、簡単に朝食を作ってあげた。
ウルティアは、昨日まで女神だったのである。料理をさせるには気が引けてしまったのだ。

「ありがとう、カイン。」
「いえいえ。お口に合ったかな?」
「うん、美味しかったよ。次は、私が作るね。」

ウルティアの笑顔は、朝から眩しい。
地球にいた頃なら、絶対にあり得なかったシチュエーションだ。

「女神も料理をするの?」
「ううん、しないよ。でも、知識としては知っているから、大丈夫。」

知識はあるから料理ができるという女の子。さて、嫌な予感しかしない。
決まって相場は、ハルマゲドンのような料理が出てくるのである。

「じ、じゃあ、一緒に作ろうか。」
「カイン。」

ウルティアは、満面の笑みだ。そして、こちらの考えを読まれていることが、分かった。

「や、やっぱり、全部お願いしようかな。あはは~。」
「それで、よろしい。」

ウルティアは、どや顔をした。昼食は覚悟するとしよう。

「そういえば、どんな能力を創造したの?ステータスは確認するために教会にでも行ってみる?」
「いや、たぶん大丈夫。」

俺には確信があった。朝食を済ませた後、リビングの椅子に腰をかける。

そこで、ステータスを確認することにした。
ステータスを確認するには、教会に保有されている鑑定石というものが必要だ。

だが、俺にはきっと『鑑定』の能力が備わっているに違いない。
ありとあらゆる能力を創造したのだ。『鑑定』の能力を創造しないわけがなかった。

ウィズ、俺のステータスを教えてくれ!

『了:ステータスウィンドウを開きます。

名前:カイン・レオンハルト
性別:男性
種族:ハイヒューマン
能力:■
加護:■
称号:■

以上となります。』

ん?
どういうことだ??

ウィズ、この■は、なんだ?
『解:文字数が多すぎて、文字化けをしております。』

なるほど、それほど多くの能力を持っているんだな。
ウィズ、文字化けをしている能力欄について口頭で読み上げることは可能か?

『解:可能です。』

ウィズ 、よろしく頼む。

『了:先に終了予定時間をお知らせします。
3642578時間47分3秒かかります。
では、読み上げます。』

!?!?
ウィズ、ストップだ!
なんで、そんなに時間がかかるんだ!

『解:創造時、ありとあらゆる創造を行ったからです。』

たしかに、あの時は意識がもうろうとしていたため、並列思考に能力の創造を任せてしまったんだ。
もう、これだけでもチートの嵐の予感しかない。あの時の俺の判断に、いいねボタンを押してあげたい。ナイス、俺っ!!

ウィズ、それでは俺が1番凄いと思える能力、真ん中付近の能力、1番しょぼいと思える能力を、ひとつずつ教えてくれ!

この質問でだいたいの傾向が分かるだろう。

『了:
1番凄いと思える能力、「異世界転移」
真ん中付近と思える能力、「刀装備可」
1番しょぼいと思える能力「女性のうなじを見た時のドキドキ緩和。」』

!?!?!?
意味は、全部分かる!
異世界転移ってことは、元の世界『地球』に行けるってことだろう!
確かにこれは凄い!!

刀は男の憧れだし、地味にうれしい。必殺技とか創りたい!
でも、これって、誰でも装備できるよな。上手く扱えるかは別にして、装備できない人の方が少ないんじゃないか?

何より、問題は最後だ。
女性のうなじを見た時のドキドキ緩和って何だ!?
ウィズ、何故こんな能力を創造きたんだ?

『解:昨日の夕方までは重要度が高かったのですが、昨日の夜に価値観が変わり、重要度が下がりました。』

…。
……。
ウ、ウィズ、
に、2番目にしょぼい能力を教えてくれ!

『解:女性のふくろはぎを見た(ごめん、もう、やめてー!!)時のドキドキ緩和』

言うのやめてくれないし!

なんで、俺の密かな性癖が曝露されるの!?
たしかにウルティアと過ごしたことによって、だいぶ人生観かわったけどさ!
今の俺には重要度が下がったけどさ!

って、ウィズ!もしかして、こんなしょぼい能力がたくさんあるのか?

『解:同様の種類 が1/3を占めます。』

ぎゃー!!!
今すぐやり直したいー!!!

「どうしたの?」

ウルティアは不思議そうな顔で、俺を見ている。
い、言えない。でも通りで、女性と一緒に寝泊まりしたのに、平然としていられるわけだ。
能力の影響だったというわけか。
とりあえず、ウルティアへは誤魔化そう。恥ずかしくて、言えない…。

「昨日のことを思い出して、照れただけだよ。」

よしっ、誤魔化せた。我ながら、上手い言い訳だ!でも、思い出し笑いする男性は、女性にひかれるかもしれない。
言い訳を失敗してしまったかもしれない。だめだ、混乱して上手く言い訳の言い訳が浮かばない!

しかし、ウルティアはお構いなしに、ズバッと核心をついてくる。

「あっ、ステータスを見て、慌てたのね。
大丈夫、カインは不思議な趣味がたくさんあるなぁって思ったけど、それぐらいで幻滅したりしないから。」

思いっきり、バレてる…。
こういう時にピュアな子の発言はツラい。この子の前では隠し事はできないかもな。
それか、まだまだ俺がお子様ということかな。これから、成長していけばいいか。

「ところで、ウルティアに幾つか聞きたいことあるんだけど、いいかな?」
「お答えできる範囲なら、いくらでもいいよ。
ちなみに、他の転生者のことなどは、色々と制限があって話せない。」

どうやら、神のルールがあるらしい。種族が変わっても適用されるようだ。

「そっかぁ。転生者のことを聞きたかったんだけど、言えないのなら仕方ないね。」

俺は、あっさり聞くのを諦める。神のルールを破らせるわけにはいかないのもある。しかし、別の手段があると思ったのだ。
そう、その手段とは、ウィズだ。ウィズに聞けば分かるに違いない。

『報告:知識にないことはお答えできません。』

ちっ。そう上手くいかないか。
まだまだ俺自身が調べていく必要があるようだ。

そうして、俺は別の質問を色々とウルティアにした。
そして俺は驚愕する。

妹のマリーナ、マジで先代国王の遺児だった…。
口からでまかせだったのに。嘘が真実になるとは。

そして、レオンハルト家。思いっきり冤罪じゃなかったよ。白か黒で答えるなら、黒だね。それも、真っ黒だ。
ウルティアも全てを知っているわけではないが、暗殺前夜をたまたま神界から除いていたため、少しだけ事情を知っていたらしい。

父よ、優しい顔して、盛大に悪の道を進んでいたのですか。

レオンハルト家の計画は次のとおり。

①子飼いの女マリーナの母を国王にあてがう。
②マリーナの母が国王の子を懐妊する。
③マリーナの母を死んだことにして隠す。
④生まれてきた子を自分の娘とし、自分の言葉が絶対として刷り込ませ育てる。
⑤王家を事故死または暗殺する。
⑥唯一、王家の血を引くマリーナを国王の子として公表する。
⑦マリーナを女王として即位させ、後見人としてレオンハルト家が国を牛耳る。

途中、マリーナの父が崩御し、現国王となったりしたものの、計画は上手く行きかけていたらしい。
まぁ、だいぶ計画は変わったらしいが。当初は、そんな大それた計画ではなかったようだが、最終的な計画が全てだろう。
レオンハルト家は、大罪であるのには間違いない。

それに、どうやら、暗殺される翌日には王家を事故死させようとしていたようだ。

それを察知したルッソニー宰相一派は、自分こそが国を乗っ取ると意気込み、慌ててレオンハルト家に強襲をかけた。

そして、レオンハルト家は、攻撃することに集中してしまい防御を怠った…。
いや、転生者の能力が想像を超えていたのかもしれない。
どちらにせよ、レオンハルト家は王国を乗っ取ろうとしていたわけだ。

レオンハルト家・ルッソニー宰相一派・王家の三つ巴…。

それに、それぞれクロノス神の加護をもつ転生者を集め、宮廷の裏で争っていたようだ。

そう考えると、俺の専属メイドだったクレアもだが、レオンハルト家には同じ年代の執事やメイドが多かった気がする。
もしかして、あの中にクロノス神の加護をもつ転生者がいたのかも知れない。

俺は思わず空を見上げる。
これから、どうしようか。

レオンハルト家は、お取り壊しして当然のことをしたわけだ。
今さら、復興だなんて考えるべきではないだろう。

では、マリーナを助けるために王国派に与する?
最終的に俺を流刑地に送ることを許可したあの王家を守る?
マリーナはもちろん助けたい。

でも、これだけ下にいいようにされている王家に未来はあるのだろうか。

貴族に生まれたからには、王家に着くことが正解なのだろう。
だか、あいにく俺は前世で民主主義の国で生まれ育ったのだ。
王家が潰れようと、別に心は痛まない。

じゃあ、どうする?
どうやって、マリーナを助ければいい?
おぼろげだか、やりたい事は見えてきている気がする。

何をするにも、まず手に入れた力を使いこなすことが重要か。

「ウルティア、家でのんびりしててくれ。狩りをしながら能力の肩慣らしをしてくるよ。」

ウルティアは微笑み、声をかけてくれた。

「いってらっしゃい。」
「いってきます。」

ただ、その言葉だけで、力が湧くのは気のせいだろうか。
俺は元気よく、出かけたのだった。

そして、魔獣がいる草原へと向かう。きっと、余裕で倒せるだろう。
どんな魔獣だって、恐くない。俺はチートの権化なのだから。

しかし、俺はヤツとの闘いで思い知る。力は使えてこその力なのだと…。
能力を使い、圧倒的な力に酔いしれる一日を過ごすつもりが、いきなり敗北を味わう苦い思い出の一日となるのだった。


次回、『10.【幕間】暗殺指令とミドリーズの野望 』へつづく。
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