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第2章 破滅円舞曲

37.武闘大会 前編

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街の外れで、武闘大会を開催している。

会場のどこからでも見れるように、
コロシアムのような建物を建設した。

武闘大会のルールは簡単だ。
強い者を見つけたいのだから、
死人を出す以外は、何でもアリだ。

もちろん、危険なので、
当然、途中棄権もアリとした。

予選はバトルロワイヤル形式にして、
決勝トーナメントでは1対1で行う。

まぁ、観客席に被害が出ないよう、
俺とウルティアで、
円柱のような結界を張っているし、
万が一を備えて、回復薬をたくさん用意してある。

事前準備を万端にしてあるため、
特に俺は、やることはない。
しかし、国のトップが見ているということで、
張り切る者もいるだろうから、
観てることこそが仕事となるのだろう。

「ウルティア、今のところ、
気になる者はいるかい?」

隣に座っていたウルティアに話しかけた。
「そうですね。
あっ、あの男の子とあの女の子は、
可愛らしくて好きですよ。」

ウィズが報告してきた。
『報告:あちらにいるあの男は精霊族ですね。
あれほどの精霊力の保持者は、
なかなか、お目にかかれませんよ。』

ツヴァイも話しかけてきた。
『向こうの方にいる男の子は、
なかなか精神が淀んでるな。
操作系を強化してやれば、
色々なものを操作できると思うぞ。』

カインは話す。
「ツヴァイ、お前は寝てたんじゃないのか!?
まぁ、いい。
なかなか有益な情報だから、
適宜、話してきてくれっ。」

黄龍リュクレオンも割り込んで話してきた。
「そこにいるあやつは龍人族じゃな。
変身すると、なかなかの強さだぞ。」

『報告:ツヴァイが話していた男の子は、
前に魔王が召喚した悪魔のようですよ。』

「あっ、カイン。
私が言ってた子、天使たちだよー。」

「誰か、カメ○メ波を出せるやつはいないかのぅ。」

『おっ、カイン!
あそこの赤髪の女性、かなりの別嬪だぞ!
見てみろっ!』

お、俺の精神の中、うるさい…。
なんか、どんどん自由なのが増えている。
頭の中で、ギャーギャー言ってるが、
とりあえずムシしよう。

えっ、ケーキと紅茶が飲みたい!?
俺の脳内で、お茶会はじめるなよっ!
ギャーギャー。

ん?
皆が注目していた人たちが、
俺の視線に気付くと、
お辞儀をしてどんどん棄権していくぞ。

よく見ると、皆が話すような種族には見えない。
皆、変装してるのか…。

まぁ、ありがたい。
実力があるなら、隠したまま登用できた方が後々、有利になるだろう。

全部で予選は、8グループだ。
まぁ、ジャックは順調に決勝トーナメントに進出している。
出るからには、内外に強さをアピールしてもらう必要があるため、
そうでなくては困るのだが。

最終グループが出てきた。

ん?
えっ!?

グリード!?!?

そういや、あいつの相手をすっかり忘れてた!
あいつ戦闘狂だもんなぁ。
確かに、こういうの好きなのかも。

あっ、一瞬で勝ちやがった…。
他の参加者の力を見たかったのに…。
決勝戦の前に注意しておくか。

とりあえず、予選落ちした、
めぼしい人たちに声をかけよう。
俺は、個室に呼び出していくことにした。

まずウルティアが目をつけた天使だ。
よく見ると、双子?

「初めまして。
カインと申します。
ぜひ、お二人にお願いがありまして、
この国に仕えていただけないでしょうか?」

「「カイン様にお仕えさせていただきます!」」
二人はハモって即答する。

「ありがとうございます。
国ではなく、個人へ仕えるというのは気になりますが…。
やけに返事が早かったのですが、
当初から、そのつもりだったのですか?」

男の子がまず答えた。
「実は、天使長さまより、
光の王となられる予定のカイン様にお仕えするようにと命じられまして、やってまいりました。
私の名前は、ルシフェルと言います。
以後、よろしくお願いします。」

女の子も答えた。
「それと、動向を常に天使長さまに伝えるようにとの指示がされています。
私の名前は、ミカエルです。
よろしくお願いします。」

「光の王?
天使長??」

そこに、悪魔の男の子がやってきた。
「ツヴァイ様。
どうぞ、私を仕えさせて下さいませ。」

ツヴァイへ仕えたい?
どういうことだ?

まぁ、それ以前にだが、
「お前は魔王に召喚されただけなんだから、
何で元いた場所に戻らないんだ?」

男の子は、ちょっとシュンとした。
俺は、悪魔の姿を見てないから、
何とも言えないが、本当に悪魔か?って思うぐらい、可愛らしい。
「それが、悪魔長さまより、
闇の王となられるお方にお仕えするようにとのことで、
帰還させてもらえませんでした。」

「闇の王?
悪魔長??」

「さようでございます。
ところで、私には名前がありません。
もし、よろしければ付けていただけないでしょうか?」

ツヴァイが答える。
『サタナキアと名付けようぜ。』

ん?
格好良いな。
どういう意味だが分からないが、
それにしよう。

「それでは、これから、サタナキアと呼ぶことにしよう。」

「サタナキア。
なんと素晴らしい響きなのでしょう。」

男の子は、体を震わせた。
あれっ、力がとてつもなく強くなったぞ!
もしや、名前を与えると強くなるとかか??

ルシフェルがサタナキアに話しかけた。
「おい、悪魔。
お前はこの方には必要ない。
早く去れっ!
でないと強制的に向こうへ飛ばぞ。」

物凄い冷たい目で言い放つルシフェル。
そして、同じ目でミカエルも話した。

「優しいのね、ルシフェルは。
悪魔よ、早く去りなさい。
でないと、霊子レベルで滅するわよ。」

そっちの意味で、ルシフェルのことを優しいと言ったのね!
ミカエルの方が過激だよっ!

「ふふふっ。
また、ご冗談を。
それに、私のことはサタナキアと呼んで下さい。
まぁ、あなた方こそ、さっさとツヴァイ様の前から消えないと、
堕天させますよ!」

「上等だ!
その喧嘩、買った!」

いや、喧嘩を買うなよ、ルシフェル!
って、ミカエルは戦闘態勢に入ってる!
天使対悪魔って、
こんなところで、ハルマゲドン起こす気か!?

「お前ら、そこまでだ。
俺に仕えてくれるというのは、
よく分かった。
なら、俺が生きている間は休戦してくれっ。」

三人は、しぶしぶと了承してくれた。

えーっと、あと呼んだ二人。
龍人族と精霊族か。

あとの二人は普通だった。
龍人族のイグニールによると、
次代の龍王に仕えるのは当然のことらしい。

『あっ、次代の龍王って、
儂のことじゃ。』

黄龍リュクレオン、次代の龍王だったんかい!

精霊族のセイルーンによると、
次代の精霊王に仕えるように現精霊王の導きがあったらしい。

『私は、精霊王になりませんよ。』

お前ら、いったい何がどうなってるんだ!?
とりあえず、皆、もう何かしらの王候補なのね。
何が起こってるんだ??

今度、クロノス神に、
問いただしてやる。


【クロノス神】

その頃のクロノス神。
くしゅん。

「ん、噂??」



【カイン】

さてっ、とりあえず、人材登用はできたし、
決勝トーナメントを見に行くとしようか。

決勝トーナメントには何人か登用したい者たちが残っている。

それにしても、ジャックとグリードか。
一度、戦ってからジャックは死線を乗り越え強くなっているし、
前回と同じ結果になることはないだろう。
個人的にも、物凄く楽しみな対戦カードだ。

そして、これだけは間違いなく分かる。
この対戦は間違いなく、
来た人の記憶に残る試合になるのだろうと。

俺は楽しみに決勝トーナメントの会場へと戻った。



【アテナ】

「なるほど、考えてるな。」

アテナは関心したように武闘大会を観戦している。

「そうですね。
自国の強さをここでアピールし、
より住民を増やす。
そして、強い者を登用する。
また賭けの対象とすることで、
元締めは大儲け。
いいこと尽くしですね。」

グラウクスも同調した。

「ますます、この国の王に、
興味を沸いたよ。」

アテナは、不敵な笑みを浮かべている。
しかし、グラウクスは、今の発言を訂正しようとした。

「王ではなく、
首相というらしいですよ。」

アテナは、顔を横にふる。
「残念だが、呼び名は首相であっても、
実態は王と変わらんよ。」

「まぁ、確かに選挙といっても形だけでしたからね。
これから先、どうなるか分かりませんが、
現時点では、アテナ様のおっしゃる通り、
王の呼び名が相応しいのかもしれません。
そうそう、アテナ様は、
どなたに優勝を賭けられますか?
こちらがリストです。」

グラウクスは、リストをアテナに見せた。

「ふむっ。
私には賭けられないな。」

グラウクスは、意外な顔をする。
「アテナ様が決められないなんて、珍しいですね。
今日は雨でも降りますかな?
このグリードとジャックは強そうですよ。」

アテナは笑みを浮かべた。
「あっはっはっ。
賢者殿はここで血の雨がみたいらしいな!
まぁいい。
私が賭けられないのは、このリストにない者が優勝すると考えているからだよ。
私は、カイン王が優勝すると思っている。」

「カイン首相がですか?
出られてませんよ。」

「経過はどうであれ、
最後はそうなると考えているだけさ。
まぁ、結果は楽しみにしておこう。
おやっ、カイン王が私を見たぞ。
なかなかの観察力だな。」

グラウクスは驚く。
「カイン首相も、
観察系の能力をお持ちなのですか?」

「あぁ、私と同じだな。
ステータスを見れるものは希少だから、
視線ですぐ分かるのだよ。
まぁ、そういうものたちは、
ステータスの隠蔽も出来るから、
お互いのステータスを見てもあまり意味はないがな。」

「希少というか、鑑定石を使わないでステータスを確認できる存在を、
私は片手で数えられるほどしか知りませんよ。
しかも、隠蔽までとなると、
アテナ様がお話しされるまで、
出来ることすら知りませんでした。」

「ふむっ。
グラウクスが知らないとなると、
私とカイン王は特別なのかもしれないな。
あっ、先程の賭けだが、
私の予想が当たったら、
夕飯はプリンパフェな。」

「またですか!?
全く、どんな育て方をしたら、
こんなに甘いものばかりを主食にしようと育つのやら。」

グラウクスは思う。
はぁ。
アテナ様がおっしゃるのなら、
きっと、そうなるのだろう。
おいしいプリンパフェを食べられるところを
探すしかないか。

それにしても、アテナ様は人が悪い。
アテナ様のステータスは、
あきらかに隠蔽ではなく偽装されている。
そうでないと実績にあったステータスとしては、低すぎる。
そして、カイン首相は隠蔽を使っているとおっしゃられた。

いつか、また私を楽しませるために秘密にしているのだろう。
これだから、このお方といるのは飽きないのだ。

「さて、それではアテナ様の食生活のために、
いえ、体重管理のために、
普通の食事を取れるよう他の方の勝利を願いますか。」

アテナは笑顔だ。
だが雰囲気で怒っている。

「グラウクスが賭けに負けたら、
食事抜きな。」

グラウクスは、
その可愛らしいやり取りも含めて、
心からアテナに仕えるのだった。


次回、『38.武闘大会 後編 』へつづく。
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