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第3章 戦場の姫巫女

75.傲慢の女神

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【カイン】

覚えてろ、あの爺さん!
今度、会ったら泣きいれさせてやる。

そうは思いつつも、1秒も耐えることができなかったため、俺は半泣きだった。

半神半人モードとなっても、しょせんは中途半端な神なのだ。
完全なる神に勝てるわけがないのは分かってはいたが、あまりの不甲斐なさに悔しくて仕方ない。
まぁ、どさくさにまぎれて逃げ出せたから、よしとするか。
しかし、いつか一撃を入れてやる。それだけは絶対に確定だ。
それまでは、修行の日々だな。

そして、現世の自分の体へ戻ってくる。
しかし、あまりの衝撃に驚くこととなった。

「いってぇー!!なんだ!?」

体中が痛い。
慌てて自分の体を起こそうとしたが、何か柔らかいものが邪魔をして体を起こすのをためらった。
柔らかいものが何か確かめるために見るより前に触ってしまった。

「ん、んー。」

見てみると、ベッドにはアテナが変装したアンがいて、もだえている。
お互い一糸まとわぬ姿だ。

えっ!?
何が起きたの!?

えっ、どういうこと!?
もしかして、そういうこと!?

「おはよう、ツヴァイ。」

アテナは少し顔を赤らめている。
少し体が熱っぽいようだ。

ツヴァイ!
何をしたんだ!!
起きろっ。

『カイン、すまん…。
一生の不覚をとった。』

な、な、な、何をしたんだー!

トントン。

「失礼します。
あっ、起きられたのですね。
昨日の夜はお楽しみになられましたか?」

メイドのような女性が入室してきた。

「うるさくしてしまって、すいません。
それと申し訳ありませんが、もう少し二人の時間を過ごさせて下さい。」

いやいや、何をうるさくしたんだ!?
ウィズ!
リュクレオン!
教えてくれっ!

『すぴー。』
『ぐぅぐぅ。』

誰も返事をしてくれない。
俺はアテナに声をかけられなかった。

「カイン、昨日は激しかったな。
さすがに疲れてしまったよ。
もう少し休ませてくれっ。」

アテナは寝てしまった。

な、何が起こったんだー!!
頼むっ!
誰かこの状況を説明してくれっ!!

ん?
俺の体の様子が明らかにおかしい。
よく見ると、俺自身がボロボロだった。
そのためなのか、だんだん気が遠くなっていく。

本当に一体、何があったんだ?
俺も気絶し、アテナに寄っかかってしまった。

ぐぅ。


ぐぅ。


ぐぅ。

「カイン。
カイン。
そろそろ起きてくれ。
体が重くて動かせないんだ。」

俺は目を開ける。
寝ぼけていた。
俺を呼んでいる。ウルティアかな?
つい、いつものクセで抱きしめてキスをした。

衝撃が走る。

「いてっ!殴られた!?」

アテナは顔が真っ赤っかだ。

「何をしてるんだ!」

「何がだ?」

俺は殴られた衝撃で記憶が飛んでしまった。

「せ、責任はとってくれ、いや、下さい。」

責任?
一体、何のことなんだ。
ふと寝てしまう前のことを思い出す。

「そうだ!いったい、何があったんだ!
お互い、もの凄いダメージを追っているぞ!」

『おはよう、カイン。』

ウィズが具現化した。
そして、リュクレオンも小さく具現化する。

『カイン、ようやく戻ったか。』

ツヴァイも話しかけてくる。

『カイン、マジですまん!』

ツヴァイの情報を共有させるため、ツヴァイは一体、近くにあった人形に入ってもらって意思疎通できるようにした。

しかし、声が出せないため、紙での会話となる。
とりあえず、アテナから事情を聞くことにした。

「カイン、かなり深刻な状況だ。
順を追って話そう。」

俺が離れてからの事情を順を追って聞いていく。

「なるほどな、そんなことがあったのか。
それで、今はエルフのつがいを演じてるんだな。
それとゼリアンの攻撃で俺は弱くなってしまったということか。」

『そうです。
どうやら、ドレイン系の能力で攻撃を受けているようです。
生命エネルギーも、魔力エネルギーもほとんど持っていかれてしまっています。』

「ところで、ウィズ。
どうして、あの男へ攻撃できたんだ?」

リュクレオンは不思議に思っていた。
ゼリアンへの反撃は、ウィズの指示に従ったからできただけであって、仕組みがさっぱり分からなかったのだ。

「彼の能力がある程度わかったからです。」

リュクレオンは驚く。

「なんじゃと!?」

ツヴァイが紙で先に答えた。
ちょっと可愛いな。

「能力は、『具現化』だろ?」

「私も同じ考えです。」

「よく分からないな。
具現化では説明できないぞ。」

リュクレオンだけじゃなく、アテナも不思議そうな顔をしている。
しかし、俺は理解できた。

「そういうことか。」

アテナは、驚く。

「今の説明で分かるのか?」

まぁ、あの説明だけじゃ、確かに分からないな。
付き合いの長い俺だから分かるというものだ。

「あぁ、俺から順を追って話すよ。
おそらくゼリアンは前の世界では人間ではない。
人工知能だよ。」

アテナは驚く。
リュクレオンは漫画の知識で人工知能のことは知っていた。

「人工知能?どういうことだ?」

「現実と非現実の垣根を取り払っているんだよ。
バーチャルの世界を具現化しているんだ。
それも俺たちが本物と間違えるほどにな。
ゼリアンの居場所が特定できなくなるのが、これで説明できる。
それと、行動を縛る方法だが、脳へイメージを植えつけ行動も縛れるんだろう。」

アテナは驚く。
しかし、納得してくれた。

「そんなことが…。
しかし、私は能力を奪われてしまったぞ。」

「あぁ、それも説明がつく。
彼はスキルを奪う能力を具現化させたのだろう。
俺たちも持っていたスキル、マジックドレインがあるだろ?
彼はその能力を向上させ、エナジードレインやスキルドレインを使ったのだろう。
そして、人の能力はそれで奪える。
最後に半神になって、ようやくクロノスナンバー特有の能力は奪えたということか。」

「なんだ、それは。
クロノス神が聞いたら、驚きそうだな。」

ウィズは、アテナにとって酷な発言をする。

「それにしても、アテナの能力を奪われたのは痛いですね。
これから、どれほど強くなっていくか分かりません。
早めに倒さないと手遅れになります。」

リュクレオンも頷いた。

「そうだな。だが、お主たち弱っているだろう?
今のままでは絶対に勝てぬぞ。」

その通りだ。
正直、弱くなりすぎていて、勝負にすらならない。

「とりあえず、今は体を回復させよう。
そして能力を元に戻すことが重要だ。
しかし、その前に検証したい。
能力を奪われたのではなく解析されて使えるようになったという可能性がある。
それと、俺たちに使えないと脳が誤作動している可能性だ。」

ツヴァイは、飛び跳ねながら紙で書いた文面を叩く。

「いや、それはあり得ないだろう。」

よく見るとツヴァイの文面は、今までの会話に混ざろうとしたが、誰も気づかないまま会話が進んでしまったため、消した後があった。

すまん、全然、気付かなかった。

「俺もそう思う。
しかし、そう思わされているだけかもしれない。」

ツヴァイは、文字を書く。

「検証できるのか?」

ウィズはその方法を提案してくれた。

「ステータス鑑定石を使うのですね。」

しかし、俺は別のアプローチ方法を提案する。

「いや、それよりも簡単な方法がある。
ウィズ、自動モードだ。
アテナを治せに指示を出す。」

「なるほど、分かりました。」

俺は自動モードに入る。
グリードと戦った時に使った俺の意志をかえさずに体を動かす方法だ。

『能力、使用不可を確認。
風邪と判断し、治療します。』

アテナをベッドに寝かせ俺も入った。
人肌で温めようとする。
アテナを腕枕する。
検証中ということもあり、アテナはされるがままだ。

「よし、自動モード終了だ。
これで分かった。
やはり能力はなくなっていない。
使えないと思い込んでいるだけだ。
『使用不可』と発言したのが、その理由だ。」

ウィズも同意した。

「間違いありません。
回復魔法をしようとしていました。
そして、途中で中断しています。
体に暗示のようなものがかかっているのでしょう。
解析を始めます。」

「あぁ、頼む。
それとな、アテナ。
どうも様子が変だぞ。
俺のことになると、思考が鈍くなっているように感じる。
もしかしたら、あいつに暗示をかけられているのかもしれない。」

「そ、そうなのかもな。
検証結果は分かった。
少しだけ寝させてもらうよ。」

アテナは布団の中に顔を隠した。
もう自分でもこの感情が分からない。
これは、恋心なのかもしれない。
しかし、それを本人に偽物かもしれないと否定されてしまった。
意味も分からず涙が出てくる。

そして、アテナは寝入ってしまった。


しばらくして、カインがアテナに話しかける。

「アテナ、少しだけ話させてくれないか?」

アテナは寝ているため、無言だ。

「女神アテーナーよ、話させてくれないか?」

アテナから女神が具現化する。
アテナによく似た、赤髪の女性が現れた。
女神と呼ぶに相応しい雰囲気がある。

『何用じゃ?』

俺は臆せずに話した。

「アテナにかけられた暗示を解除してもらいたいんだ。」

アテーナーは鼻で笑った。

『断る!これも最後に勝利するための試練じゃ。』

「そうか。
なぁ、戦うのを止める選択肢はないのか?」

アテーナーは、明らかに怒った顔をした。

『それは我の存在を否定するということだ。
聞けんよ。
我は勝利の女神。戦い、勝利することこそが全てだ。
せいぜい、貴様も精進するがよい。』

女神アテーナーは、アテナの中へ戻っていった。

女神アテーナー…。
人の時間は限られている。
アテナをそれに巻き込まないでくれ。

カインは心の内で、ただただ、アテナの幸せを願ったのだった。


次回、『76.白虎襲来』へつづく。
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