上 下
98 / 120
第4章 英雄の落日

98.カインと二人の魔王

しおりを挟む
カインの目の前には、憤怒の魔王『イリア』と傲慢の魔王『スペビア』がいた。
この二人は、それぞれの軍勢を率い、様々な種族を攻撃することで有名だった。
人間の国などは、この二人によって、いくつ滅ぼされたのか分からないほどだ。
人々は、魔王を恐れた。
魔王について、こんな口伝がある。

『その性格は、残虐であり、好戦的である。その姿を見かけたら、迷わず死を選べ。でなければ、死よりも恐ろしき残虐を味わうこととなる。決して会うな。決して近寄るな。出会えば、汝だけでなく、汝の国まで滅びるぞ。』

この二人の魔王こそが、誰よりも恐れられた魔王なのである。
一人でも、恐れられる魔王が、カインの目の前には、二人もいるのだ。
もし、仮にこの状況で、普通の人間がいたのなら、迷わず自害を選ぶであろう。
そんな状況にいるにも関わらず、そんの魔王に対し、カインはのほほんと話しかけた。

「おぉい、そろそろいいか?」
「ちょっと待ちなさい!いや、待って下さい。」
「そ、そうだ!もう少しだけ待ってくれ!いや、待って下さい!」
「じゃあ、あと少しだけだぞー。」

カインは、欠伸をしながら立ちつくし、待っていた。その後ろには…。
20万もの魔物の屍があったのである。
見える限り、一面が魔物の屍だ。何があったか言うまでもない。まさに、阿鼻叫喚の絵図なのである。
その光景になるにあたり、魔王二人が怯えてしまう出来事が起こったのである。

カインは、戦うにあたり、神力を使うことを制限された。しかし、それでもなお余裕があったのである。何故なら、カインは神力を使わなくても、神獣タイロンと渡り合った能力があった。

光の王のみが使える『光の闘気』
闇の王のみが使える『闇の闘気』

カインとカインの中にいるツヴァイは、後継者としてこの二つの闘気を使えた。
そして、相乗させることができたのだ。それも、タイロンと戦った時以上に上手く扱えるようになっている。
それは、現世にいる魔物では相手をすることができないほど、圧倒的な強さだった。
つまり、負ける道理がなかったのである。

SSS級危険度の魔物も中にはいたであろう。しかし、カインにとっては、もはや相手にならない魔物だった。
そのため、どんな魔物と戦ったのか、記憶にすら残っていなかったのである。

魔王の二人はその強さを見て、呆然としてしまった。
神力を使わせなければ、何とか戦えるとふんでいただけに、衝撃を受けたのである。

途中、あまりの強さに、作戦を練り直そうとした。しかし、カインの動きがあまりにも速すぎて、その間に魔物の軍勢は全滅してしまったのである。

「仕方ないから、暇つぶしに魔物の屍はもらっていくぞ。まったく。結界になんて閉じ込めなければ、もう少し色々とやれたのに。」

カインは、ため息をつく。結界に閉じこめられるのは想定外だったのだ。
まさか、結界のせいで、周りの状況が見えないくなり、ただただ、暇を持て余すことになるとは思ってもみなかったのだ。
本来であれば、ジャパン国軍を指揮し、全体のレベルアップをはかりたかったのである。

カインは、魔物の屍を自身のアイテムポーチに収納していく。この素材を売るだけで、一国が建国できるほどの量であった。
いや、あまりの量に買い取れるところなどない。
もし売却しようものなら、値崩れを起こしてしまうほどの量である。
カインは、収納しつつも、売却ができる機会がないだろうと思い、またもや少しだけふて腐れたのである。

そんなカインを横目に魔王二人は、ひそひそと話している。その目はすでに涙目だ。
そして、作戦を決めるために、カインへ質問してしまう。
それほど動揺してしまったのだ。

「一つ聞いていいかしら?あなたにとって人質は価値あるの?」
「ないっ。」
「実の兄でしょ?この人でなし!」
「おうっ。」

魔王二人は、自分たちの浅はかさを思い知り、そして諦める。
もともと、カインは兄に殺されそうになっていたのだ。
人質としての価値などあるはずがなかった。
もはや、ここまで追い詰められたら、出来ることは限られていた。

「決めたわっ!」
「ええっ!」
「よし、かかってこい!」

魔王二人は、ほんの少しカインと距離を取るため、後ろへ軽く飛んだ。
そして、カインへ言い放つ。

「「戦略的、撤退よ!!」」

魔王二人は逃げ出した。しかし、結界に衝突し、逃げることを阻まれる。

「そんな!?」
「私たちの結界よ!なんで!?」

カインは、ゆっくりと二人へ歩き、不敵に笑った。

「この程度の結界、どうとでもなるに決まっているだろう。
あまりにも暇だったんで、待っている間に主導権はいただいた。」

結界の色が赤から白へと変わる。その事実だけでも、魔王二人から主導権をなくなっていることを知るのに充分であった。

「そんな!?」
「結界の権限を奪われた!?」

魔王二人はさらに動揺した。
カインは、さらに言い放つ。

「知らないのか?昔からこんなことわざがある。
『魔王からは逃げられない!』」
「私たちが魔王でしょ!」
「立場が逆じゃないの!」

魔王二人は、一斉にカインへツッコんだ。

「はっはっはっ。意外と細かいんだな。
まぁ、いい。続きを始めようか。
火矢フレイムアロー×2000」

カインの周りの空中に、いや空全体に火矢が現れる。
それは、圧巻の量だった。

「えーっと、それは、一人1000本ってこと!?」
「ちょっと、多すぎかなぁ~。」
「大丈夫!足りなくなったら、途中で補給するから。」
「「全然、大丈夫じゃない!!」」
「細かいことは気にするな。」

カインは、満面の笑みを浮かべる。そして、ギャーギャー言う魔王二人に気にせず火矢を放った。
火矢は一斉にではなく、順次、放たれていく。
初級魔法であるにも関わらず、カインが放てば上級魔法の威力であるのだから、魔王二人にとってはシャレにならない話しである。

「ちょっと、おかしいじゃない!魔法は誰が使っても威力のはずよ。」
「そうよ!魔法理論を無視してるわ!」
「魔王は、それすらも超える。」
「「だから、魔王は私達でしょ!!」」
「細かいことは気にするな。」

カインは、またもや満面の笑みだ。
魔王二人に、火矢が降り注ぐ。ふと見ると、減った火矢は補給され、終わりが見えなかった。
上級魔法の威力をもつとはいえ、さすが魔王。
ダメージは軽微だ。
だが、軽微なダメージも続けば大ダメージとなる。

「お、お願い、もうやめて…。」
「もう、むり…。」
「じゃあ、変えてやるよ。雷矢サンダーアロー

火矢に混ざって、雷の矢が放たれ始めた。一本一本のダメージは大したことないが、塵も積もれば何とやらである。

「も、もうムリ…。」
「勘弁して…。」
「まだまだ!」

気にせずカインは、続ける。そして、途中から魔王二人はおかしくなり始めた。

「も、もっと。」
「き、気持ちいい。」

軽い痛みも、途中で快感になり始めることがある。
魔王二人は、カインのむず痒い攻撃が快感へと変わり始めた。
目がとろんとし始める。

「よし、分かったことがある。基本的に魔王は何かが変態だな。」
「そんな目をしないで。」
「こ、心が奪われそうになるわ。」

その時、カインが主導権を奪った結界に大きな穴が空いた。
それは、黒い塊となり、カインの前に現れる。

「やぁ、カイン。悪意をばらまきにきたよ。」

カインが用意していた魔法は全て吹き飛んだ。

「あん、もっと…。」
「まだ、足りないわ。」

ソラトは、二人の魔王に向かって、大きなため息をついた。

「やれやれ。馬鹿を言うな、おしおきだ!」

ソラトは魔王二人に対して、黒い塊を渡す。
かつてのゼリアンと同じで魔王二人の力は飛躍的にあがった。
そして、ソラトはそのまま姿を消してしまう。
カインは、ただ黙ってそれを見ていた。あえて、止めなかったのだ。

「ふふふっ。もう、さっきのようにはいかないわよ!」
「あなたからの快感は気持ちよかったけど、今度はこっちの番だわ。今度は私たちが、あなたをヒイヒイ言わせてあげる!」
「二人ともよだれが出てるぞ。」
「「細かいことは気にしないで!!」」

先程の快感を思い出し、よだれを垂らしてしまっていたようだ。

「イリア、同時攻撃するわよ。」
「任せなさい、スペビア。いくわよ!」

二人の魔王は、カインへ同時攻撃を行おうとした。
それは、辺り一帯を完全に消滅させるほどの威力だった。

その時、バリィィィンと結界は砕け散る。
ソラトが穴を開けた箇所から亀裂が入り、結界は完全に崩壊したのだ。
ジャパン国軍がカインの戦いを見えるようになる。

「カイン首相、危ない。」
「カイン首相を助けろ!」

その言葉も空しく響き、魔王の同時攻撃は、ついに放たれる。
その一撃は、辺り一帯を照らし、天まで光った。
その一撃は、あまりの轟音に遥か遠くまで音が聞こえた。
その一撃は、生きとし生けるものに恐怖を与えた。
だが、それほどのその一撃は、カインの右手に作り出した光の玉にあっさり吸収された。

「「へっ!?」」

カインは光の玉を持ち、ゆっくり魔王へと歩き出す。

「…。」

カインは、無言だ。ただただ、笑みを浮かべている。
それが魔王二人にとって、より恐怖の対象でしかなかった。

「お、お願い、許して。」
「もう、二度と刃向かいませんから。」

カインは、微笑みながら歩き、魔王二人にどんどん近づいていく。

「人質は、今、解放しました。だから、お願い!」
「これ以上されたら、死んじゃう。」

カインは無視して、近づいていく。
魔王二人は、泣き出した。
そして、ようやく、カインが口を開く。

「たっぷり、俺を味わってこい。」

その笑顔が、最高に輝いていた。
右手に魔王二人が放った攻撃。左手にカイン自身が力を込めた攻撃。
その両手を併せ、魔王二人へ向ける。

「「い、いやー!!」」

カインは、ために溜めた力を魔王二人へ放った。
その攻撃は、天まで届きそうなぐらい、一直線に光り輝く一撃だった。

そして、吹き飛ばされていく魔王二人の声が響き渡る。

「「た、助けて-!!」」

それは、世界中の人々が目撃することとなる。

誰よりも近くにいたジャパン国軍は、その光景を目に焼き付けた。
その時の話しをすると、皆が目を輝かして語る。

「カイン首相は、魔王すらも命乞いしてしまうほどの偉大なお方なんだ。」

ジャパン国軍にとって、カインは、もはや生きた伝説だった。

その光景は、ソラトも見ていた。

「まぁ、足止めにすらならないか。仕方ない。これ以上のちょっかいは、もう難しいか。」

ソラトは、この戦争にまだまだ手を出す気が満々だった。しかし、ある程度、満足したのか、暗躍することをいったん辞めた。

そして、ようやくカインは、ジャパン国軍と合流する。
しかし、魔物の屍を見て苦笑してしまった。インパルスへ思わず話してしまう。

「そっちも派手にやったみたいだな。」
「エレナがですよ。」

カインの姿を見つけたエレナが嬉しそうに合流した。
魔獣フェンリルも連れて。

「あっ、カイン!ねぇねぇ、見て!私のペットなの。」

魔獣フェンリルは、カインに頭をたれた。それは、礼をつくす者の態度であったため、カインにとっては好感がもてた。

「ふむっ。フェンリルか。ちょっと、おいで。」

フェンリルは、大人しくカインへ従う。

「我が名において、汝を魔から解放する。汝は聖なる道を歩みたまえ。」

フェンリルから魔が抜けていく。そして、聖なる力がフェンリルの中から溢れ出した。
神力とも違う。それは、天使達が持つ力に近かった。

「これより、神に仕える獣、神獣フェンリルと名乗るがよい。」

神獣フェンリルは、こうして誕生した。

この一連の戦いは、ローマ帝国軍の偵察部隊も遠くから見ていた。
そして、驚愕しつつ、アテナへ情報を届けるために、この場から姿を消す。
カインは、偵察部隊の存在に気付きながらも、あえて見逃した。

こうして、ジャパン国軍1万 対 魔王二人が率いる魔王軍30万の絶望的な戦いは、ジャパン国軍が圧勝したのである。
そして、この戦いは、味方を鼓舞し、敵に恐怖を与えることとなるのであった。


次回、『99.戦争の天才』へつづく。
しおりを挟む

処理中です...