世界をまたいだ恋~植物状態になった恋人も異世界に転生してました~

田鶴

文字の大きさ
28 / 62
本編

閑話2 初恋は実らないもの

しおりを挟む
クラウスが出て行った後、マリオンはしばらく放心状態だった。ヨロヨロとソファの上に座り、心を落ち着かせる。1人になりたかったので、クラウスが在室中の時に部屋に控えさせた侍女は退室させた。

「あれがファーストキスなんて…酷いわ…」

マリオンの目から雫が溢れてきた。

ひとしきり泣いた後、マリオンはノロノロとソファから立ち上がって続き部屋になっている衣裳部屋へ入った。両側にはびっしりとドレスがかけられ、作り付けの棚には帽子やバッグ、靴などが収納されている。衣裳部屋の一番奥まで進むと、奥の壁に造り付けの金庫の鍵を開けた。家宝級の高価なものは父の執務室の金庫に入っているが、普段使いのアクセサリーや自家より下位の貴族主催のお茶会や夜会につけていく宝飾品はここで保管している。マリオンは、真っ二つに割れてしまった青い魔石のペンダントの入っているケースを手に取って開けた。何も覚えていないのにこのペンダントは何か気になる。

「これは誰がくれたの?カールかしら?どうして割れちゃったの?カール、貴方はどこにいるの?」

誰も答えてくれないとわかっていても疑問が口をついてでた。

「…オン、マリオン?」

掌の上に置いたペンダントをじっと見て考え込んでいたので、母が呼んでいるのに気付くのが遅れた。

「あ、お母様」
「侍女に聞いたら、貴女は部屋にいるはずと言うから、衣裳部屋かなと思ってここに来たのよ」
「ねえ、お母様。このペンダント、カールがいなくなる前にくれたのよね?割れた石を直したいわ」
「どうして?」

母は否定も肯定もしなかったが、母の質問はマリオンの疑問を肯定したようなものだった。

「カールは私の初恋だったの…」
「だからペンダントを修理させたいの?」
「クラウスと結婚するのは分かってる。でもカールとの思い出は持ってたっていいでしょう?」
「そんなことしたら辛くなるだけよ。それにクラウスさんは焼きもち焼きだからお勧めできないわ」
「クラウスとは結婚する。でも、せめてカールの思い出だけは持っていたいの。ねえ、お母様、彼はどこにいるの?教えて」
「駄目よ。会ったら余計に未練ができるでしょう?」
「今更カールと駆け落ちするとか考えてないわ。ただ、会ってちゃんと別れを言いたいだけ」
「それだけじゃ済まなくなるわよ」
「そんなことない…しちゃいけないの…」

カールは出奔1ヶ月前にマリオンに別れを告げた。でも今のマリオンにはその記憶はない。

マリオンは、自分に言い聞かせるように戒めの言葉を口にすると、心の中につかえていたものが一気に涙として溢れ出てきた。母は、涙を流す娘が痛々しくてたまらなくなり、そっと胸の中に抱き寄せた。

「お母様…私、カールと結ばれたかった…どうして彼じゃ駄目だったの?!」

マリオンは半ば分かっていたが、聞かずにはいられなかった。カールの家は、公爵家に騎士として代々仕えていたが、世襲できる爵位はなく、当主は切磋琢磨して騎士として騎士爵を賜ってきた。そんな家の息子の地位は、公爵家の婿として十分ではないし、マリオンの父が亡くなったら後ろ盾もない。

「…それに彼の両親はルチアと結婚させて彼に家を継がせるつもりだったのよ。それが貴女と結婚させられなかった一番の理由」
「え?!カールはルチアの兄でしょう?!」
「ああ、貴女、覚えていなかったのよね…」

マリオンの母は余計な事まで話してしまったと後悔した。

「お母様、お願い。教えて」
「…カールはね、よそからもらってきた子だったのよ」
「じゃあどうしてカールはルチアと結婚しなかったの?」
「さあ…妹としてしか見られなかったからじゃないの」

カールがマリオンへの想い故に義妹との結婚を拒否していたことまでマリオンが知ったら、彼女はカールをますます忘れられなくなるだろう。母は娘にこの事は話すまいと決意した。

「こんな想いを抱えたまま、結婚してもいいのかしら?クラウスの想いには応えられないもの」
「大丈夫よ。クラウスさんは貴女がカールを忘れられないことも知っているわ。それでも貴女を愛してるから、結婚したいのよ。こんなに愛されていれば、貴女も彼を愛するようになるわ」
「そうかしら…」

マリオンは大好きな母の言うことでも懐疑的だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...