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本編 テレザとアドルフとステファン
25.初めての訪問
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ヨナスが初めてラムベルク家を訪問する日となった。ヨナスは着いて早々、ステファンの剣の訓練に付き合うことになった。
2人は剣を構えて対峙した。使うのは刃を潰してある練習用の剣だが、それでも打ちどころが悪ければ骨折するから、油断はできない。ステファンがヨナスの殺気に一瞬気を取られたかと思うと、ヨナスはいつの間にか間合いを縮めて剣を打ち込んできた。ステファンはどうにか持ちこたえたが、細い身体のヨナスのどこにそんな力があるのかと思うほど剣が重く、ステファンの剣は弾き飛ばされてしまった。
「参りました。全く歯が立ちませんでした。これではこんな腕で奥様の護衛をするなんてと馬鹿にされて当然です」
「いや、馬鹿になどしていませんよ。貴方は執事としてはかなり腕が立つほうでしょう。もう少し身体を鍛えて集中力とスピードを高めれば、もっと上達できますよ」
ステファンがヨナスの殺気に気後れしたことはヨナスにも気付かれていた。テレザに無様な負けっぷりを見られてステファンは恥ずかしくなったと同時に、悔しく感じた。
「お疲れ様でした。ヨナス様、お茶でもいかがですか?」
「ありがとうございます。ではお相伴にあずかります」
「では、こちらへどうぞ。ステファンも一緒に休憩しましょう」
「いえ、使用人の身で同じテーブルにつくわけにはまいりません」
「そんなに堅苦しくしなくていいのよ。今日はそういうことにうるさい主人も息子達もいないですからね」
「ですが・・・」
「大丈夫って言ったら、大丈夫なのよ。さあ、ステファンもいらっしゃい」
「では、お言葉に甘えまして・・・」
最初は孤児院の話から、剣の話まで色々と話が盛り上がり、思ったよりも時間が経っていて、アドルフが予定よりも早く帰宅したのにテレザはすぐに気付かなかった。
「ステファン、女主人と同じテーブルについていい気だな」
「アドルフ、お帰りなさい。これは私が無理に誘ったからよ。それにお客様の前ですので、それ以上はおっしゃらないで」
「ああ、これは、これは。気が付きませんでした。ようこそいらっしゃいました。私はテレザの夫のアドルフ・フォン・ラムベルクです。お名前をお伺いしても?」
「ヨナスと申します。家名はございません。今日は執事のステファンさんと剣の手合わせをさせていただきました。これからもステファンさんと剣の訓練をしにたまにお邪魔させていただきます」
「ほぉー、見かけによらず、腕が立つのですね。最も剣のほうだけじゃなくて、あっちのほうもかな?」
「さぁ、どうでしょうね」
アドルフはヨナスを一目見て色を売る男だろうと思って嫌味を言ったが、ヨナスに軽くいなされてムッときた。
「アドルフ、変な言いがかりは止めて!」
「失礼しました。歓談中、お邪魔して申し訳ありませんでしたね。どうぞごゆっくり」
ステファンはアドルフに叱責された時点で席を離れていた。ヨナスももう帰宅すると言い、3人のお茶会はお開きとなった。
その日のうちにテレザはアドルフに見つからないようにステファンを探し出して話しかけた。
「ステファン、ごめんなさいね。私がいいって言ったばかりに」
「いいえ、奥様。私が身の程をわきまえなかったからです。ご迷惑をおかけしました」
「本当にそんなことを気にする必要はないのにね」
「いえ、けじめは必要と存じます」
それ以降、ステファンがテレザと同じテーブルにつくことは少なくとも数年間なかった。
2人は剣を構えて対峙した。使うのは刃を潰してある練習用の剣だが、それでも打ちどころが悪ければ骨折するから、油断はできない。ステファンがヨナスの殺気に一瞬気を取られたかと思うと、ヨナスはいつの間にか間合いを縮めて剣を打ち込んできた。ステファンはどうにか持ちこたえたが、細い身体のヨナスのどこにそんな力があるのかと思うほど剣が重く、ステファンの剣は弾き飛ばされてしまった。
「参りました。全く歯が立ちませんでした。これではこんな腕で奥様の護衛をするなんてと馬鹿にされて当然です」
「いや、馬鹿になどしていませんよ。貴方は執事としてはかなり腕が立つほうでしょう。もう少し身体を鍛えて集中力とスピードを高めれば、もっと上達できますよ」
ステファンがヨナスの殺気に気後れしたことはヨナスにも気付かれていた。テレザに無様な負けっぷりを見られてステファンは恥ずかしくなったと同時に、悔しく感じた。
「お疲れ様でした。ヨナス様、お茶でもいかがですか?」
「ありがとうございます。ではお相伴にあずかります」
「では、こちらへどうぞ。ステファンも一緒に休憩しましょう」
「いえ、使用人の身で同じテーブルにつくわけにはまいりません」
「そんなに堅苦しくしなくていいのよ。今日はそういうことにうるさい主人も息子達もいないですからね」
「ですが・・・」
「大丈夫って言ったら、大丈夫なのよ。さあ、ステファンもいらっしゃい」
「では、お言葉に甘えまして・・・」
最初は孤児院の話から、剣の話まで色々と話が盛り上がり、思ったよりも時間が経っていて、アドルフが予定よりも早く帰宅したのにテレザはすぐに気付かなかった。
「ステファン、女主人と同じテーブルについていい気だな」
「アドルフ、お帰りなさい。これは私が無理に誘ったからよ。それにお客様の前ですので、それ以上はおっしゃらないで」
「ああ、これは、これは。気が付きませんでした。ようこそいらっしゃいました。私はテレザの夫のアドルフ・フォン・ラムベルクです。お名前をお伺いしても?」
「ヨナスと申します。家名はございません。今日は執事のステファンさんと剣の手合わせをさせていただきました。これからもステファンさんと剣の訓練をしにたまにお邪魔させていただきます」
「ほぉー、見かけによらず、腕が立つのですね。最も剣のほうだけじゃなくて、あっちのほうもかな?」
「さぁ、どうでしょうね」
アドルフはヨナスを一目見て色を売る男だろうと思って嫌味を言ったが、ヨナスに軽くいなされてムッときた。
「アドルフ、変な言いがかりは止めて!」
「失礼しました。歓談中、お邪魔して申し訳ありませんでしたね。どうぞごゆっくり」
ステファンはアドルフに叱責された時点で席を離れていた。ヨナスももう帰宅すると言い、3人のお茶会はお開きとなった。
その日のうちにテレザはアドルフに見つからないようにステファンを探し出して話しかけた。
「ステファン、ごめんなさいね。私がいいって言ったばかりに」
「いいえ、奥様。私が身の程をわきまえなかったからです。ご迷惑をおかけしました」
「本当にそんなことを気にする必要はないのにね」
「いえ、けじめは必要と存じます」
それ以降、ステファンがテレザと同じテーブルにつくことは少なくとも数年間なかった。
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