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8.最後の思い出旅行
あの深夜の密会後、ルドルフは何度もアンネに翻意を迫ったが、アンネは頑なにルドルフとの将来を拒否し、ルドルフももう諦めたようだった。
「そうか……そうだね……それじゃあ、せめて最後に君との思い出を作らせてほしい。ヴォルフガングの領地の都に出かけよう。彼の領都は王都の次に栄えていると評判だよ。君も行ったことがないだろう?」
王都で生まれ育ったアンネはディートリヒシュタイン領に行ったことどころか王都から出たことすらなかった。アンネが最後の思い出旅行を承諾したのは、ルドルフの懇願だけではなく、まだ見たことのない地への憧れもあったのだろう。だが、アンネはその決意がどんな結果をもたらすか知らなかった。
ゾフィーとの結婚が迫っていたので、旅行は急だったが翌週決行することになった。その前に、アンネは『新しい勤め先に行く前に実家に帰って少し羽休みをする』と言い残してコーブルク公爵家を辞した。ルドルフはゾフィーとの結婚を受け入れる前に最後の独身旅行としてディートリヒシュタイン領に旅をすると両親に話したようだった。
ディートリヒシュタイン伯爵家は商業で成功した裕福な家で、ヴォルフガングの父である当主はしょっちゅう出張に出かけており、母は出張から帰宅する夫を待って普段から王都のタウンハウスに住んでいた。ヴォルフガングはたいてい領地に滞在しており、領地経営を任せられていた。ルドルフとアンネが来ることはヴォルフガングの両親には内緒であったが、2人とも領地に来る予定はないし、使用人には口止めしてあるので、ばれないはずであった。
「ディートリヒシュタイン様、素敵なお屋敷とお庭ですね!」
「いや、アンネ、うちの領地の城と庭園はこれよりもすごいよ。君にも見せてあげたかったなぁ……」
「それが人の家に泊めてもらう人間の言うことか?!」
アンネは慌てて話題を変えたが、ヴォルフガングの目は怒っておらず、むしろ久しぶりに会う友人と冗談を言い合えることを喜んでいるようだった。
「そう言えば、この領都には素敵な劇場があるそうですね。」
「あぁ、王都の劇場には負けるけどね。君を王都の劇場に……」
「おいおい、うちの領都の劇場だってすごいんだぞ。なにしろマクシミリアン元王子とその婚約者の真実の愛を題材にした、あのホットな劇を王都の次に公演するんだから」
「やっぱり王都の劇場には負けているんじゃないか」
「公演の順番なんか重要じゃないさ。うちの劇場は王都の劇場よりどの席でも舞台が見やすくていいって評判なんだぞ」
またもや領都と王都の比較に話題が行きそうになったので、アンネは慌てて話の流れをぶった切った。
「あれは本当に『真実の愛』だったんでしょうか?」
「えっ? 元王子が廃人状態になっても最後まで彼を捨てなかったユリア様の愛ってすごくないか?」
「でも結局悲劇でしたよね。あれは愛ではなくて執着だったとしか私には思えません」
また話が変な方向に行きそうだったので、その話題は強制終了となったが、翌日ルドルフとアンネが観劇するのはその作品の予定だった。観劇の後は劇場の隣にある高級ホテルに宿泊することになった。ヴォルフガングは自分の屋敷に泊まればいいと言ったが、ルドルフは観劇の夜に2人きりで最後の思い出を作りたいと押し切った。
------
この話に出てくるマクシミリアンとユリアの話は、『公爵令嬢はダメンズ王子をあきらめられない』という題で投稿しています(完結済):
https://www.alphapolis.co.jp/novel/768272089/295708266
「そうか……そうだね……それじゃあ、せめて最後に君との思い出を作らせてほしい。ヴォルフガングの領地の都に出かけよう。彼の領都は王都の次に栄えていると評判だよ。君も行ったことがないだろう?」
王都で生まれ育ったアンネはディートリヒシュタイン領に行ったことどころか王都から出たことすらなかった。アンネが最後の思い出旅行を承諾したのは、ルドルフの懇願だけではなく、まだ見たことのない地への憧れもあったのだろう。だが、アンネはその決意がどんな結果をもたらすか知らなかった。
ゾフィーとの結婚が迫っていたので、旅行は急だったが翌週決行することになった。その前に、アンネは『新しい勤め先に行く前に実家に帰って少し羽休みをする』と言い残してコーブルク公爵家を辞した。ルドルフはゾフィーとの結婚を受け入れる前に最後の独身旅行としてディートリヒシュタイン領に旅をすると両親に話したようだった。
ディートリヒシュタイン伯爵家は商業で成功した裕福な家で、ヴォルフガングの父である当主はしょっちゅう出張に出かけており、母は出張から帰宅する夫を待って普段から王都のタウンハウスに住んでいた。ヴォルフガングはたいてい領地に滞在しており、領地経営を任せられていた。ルドルフとアンネが来ることはヴォルフガングの両親には内緒であったが、2人とも領地に来る予定はないし、使用人には口止めしてあるので、ばれないはずであった。
「ディートリヒシュタイン様、素敵なお屋敷とお庭ですね!」
「いや、アンネ、うちの領地の城と庭園はこれよりもすごいよ。君にも見せてあげたかったなぁ……」
「それが人の家に泊めてもらう人間の言うことか?!」
アンネは慌てて話題を変えたが、ヴォルフガングの目は怒っておらず、むしろ久しぶりに会う友人と冗談を言い合えることを喜んでいるようだった。
「そう言えば、この領都には素敵な劇場があるそうですね。」
「あぁ、王都の劇場には負けるけどね。君を王都の劇場に……」
「おいおい、うちの領都の劇場だってすごいんだぞ。なにしろマクシミリアン元王子とその婚約者の真実の愛を題材にした、あのホットな劇を王都の次に公演するんだから」
「やっぱり王都の劇場には負けているんじゃないか」
「公演の順番なんか重要じゃないさ。うちの劇場は王都の劇場よりどの席でも舞台が見やすくていいって評判なんだぞ」
またもや領都と王都の比較に話題が行きそうになったので、アンネは慌てて話の流れをぶった切った。
「あれは本当に『真実の愛』だったんでしょうか?」
「えっ? 元王子が廃人状態になっても最後まで彼を捨てなかったユリア様の愛ってすごくないか?」
「でも結局悲劇でしたよね。あれは愛ではなくて執着だったとしか私には思えません」
また話が変な方向に行きそうだったので、その話題は強制終了となったが、翌日ルドルフとアンネが観劇するのはその作品の予定だった。観劇の後は劇場の隣にある高級ホテルに宿泊することになった。ヴォルフガングは自分の屋敷に泊まればいいと言ったが、ルドルフは観劇の夜に2人きりで最後の思い出を作りたいと押し切った。
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この話に出てくるマクシミリアンとユリアの話は、『公爵令嬢はダメンズ王子をあきらめられない』という題で投稿しています(完結済):
https://www.alphapolis.co.jp/novel/768272089/295708266
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