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24.結婚式と名ばかりの初夜
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2人の結婚式は高位貴族らしく王都の中央教会で行われた。でもまだルドルフの喪中が明けていないため、三大公爵家のコーブルク公爵家の結婚式としては、かなりこじんまりとして、招待客もコーブルク公爵家、ロプコヴィッツ侯爵家、ノスティツ子爵家の3家族だけだった。
ラルフの母カタリナはここぞとばかりにこの日のために王都一番のオートクチュールメゾンで大急ぎでドレスを仕立てさせていた。真っ赤なドレスには、そこかしこに宝石があしらわれ、その派手なデザインはとても新郎の実母の着るようなものには見えなかった。昔は麗人と知られていたカタリナが、今、美人と名高いゾフィーにまるで対抗意識を燃やしているようだった。
このオートクチュールメゾンは何ヶ月も注文待ちで有名で、1ヶ月前に注文して間に合うわけはないので、カタリナはおそらくフライングで既に注文していたのだろう。でもラルフもコーブルク公爵も今回だけは請求書がまわってきても目をつぶることにした。だが、後になって甘かったと後悔することになるのは、この時には2人ともまだ知らない。
ゾフィーの白いウェディングドレスは、かなり昔に流行したエンパイアスタイルで、ハイウエストの切換え部分に白いリボン、襟ぐりと袖口に繊細なレースがあしらわれてスカート部分にも同じレースがかかっていた。
ゾフィーの豊かな金髪は結い上げられ、ダイヤと真珠があしらわれた髪飾りが輝いていた。ほっそりとした白い首には、髪飾りとお揃いのネックレスがかかり、耳にもダイヤと真珠のピアスが光っていた。
お腹の子のために健康に気を付けてきちんと食べようと決意したゾフィーは、つわりがおさまったせいもあるのか、見違えるように健康的に見えた。顔色に生気が戻り、美しく着飾った花嫁姿のゾフィーは神々しく見えて、控室に来たラルフは一瞬言葉を失った。
「……き、綺麗です」
「ありがとうございます」
2人とも真っ赤になったところに控室のドアがノックされ、返事をする間もなく不躾にドアが開いた。
「あらぁ、あの父親似の貴方でも正装すれば何とか見れるものね。それにしてもゾフィーさん、この古臭いデザインのウェディングドレスは何なんですの?」
「母上、失礼ですよ!」
「古いのは確かです。お義母様と公爵閣下のおばあ様のウェディングドレスですから。公爵家に今も大切に保管されていたのはご存知なかったのですね」
「し、知らないわよ、そんなものがあったことなんて!」
「公爵家は家族の歴史と伝統を大切にしてるんですね」
新しい流行のドレスにしか興味がなかったカタリナは祖母のウェディングドレスになんて興味がなかったから、知らなかったのも無理はなかった。
結婚式では、ラルフは緊張のあまり誓いの言葉をかんでしまったが、なんとか言い終えた。
それはまだいいほうで、誓いのキスでラルフはガチガチになってしまい、ベールを上げる手も震えていた。目を閉じて軽く顔を上に向けたゾフィーを見ると、ラルフの心臓は早鐘のようにばくばくと打ってゾフィーに聞こえそうなほどだった。ラルフはぎこちなくゾフィーに顔を近づけ、あまりの緊張に唇をほんの一瞬重ねただけで離れてしまった。ゾフィーも緊張していたが、それを残念に思うほどには多少余裕があった。それでも初めての唇へのキスは2人にとって忘れられない思い出となった。
結婚式の後は、喪中なので3家族で軽く食事をしただけで解散となり、後は初夜を待つばかりとなった。
ゾフィーが湯あみして夫婦の寝室に入ってまもなく、ラルフも入ってきた。初夜で身体を繋げることはないと暗黙の了解で2人ともわかっていても緊張していた。
「ゾフィー、もう話したことだけど、初夜だからもう1回確認で話すね。僕は出産後も君がいいと言うまで君を抱きません。ただ、これからすぐに妊娠する設定だから、私達はしばらくの間、寝室を共にする必要があります。毎日じゃなくてもいいだろうけど、仲がよいことを見せつけなくてはなりません。その時は私はソファーで寝るから君がベッドで寝てください。了解してくれるかな?」
「ソファーじゃ疲れがとれませんよ。私は昼間も横になれる時間がありますから、ソファーで寝ます」
「だめ、君は元気な赤ちゃんを産まなきゃいけないんだから」
「それでは、このベッドは広いから、2人ともベッドで寝るのはどうですか?」
「えっ……そんなの拷問だ……」
耳まで赤くしてつぶやいたラルフの言葉は、ゾフィーには聞こえなかった。
ラルフは勇気を振り絞ってゾフィーの額におやすみのキスをしてベッドに入った。結局2人ともベッドの両端で離れて寝ることになったからだ。でもラルフは緊張で目が冴えて眠れなかった。
ゾフィーの妊娠が公表されれば、ラルフが婚前にゾフィーを妊娠させたとか、ルドルフの生前から男女関係にあったとか、不名誉な噂が流れるだろうことをラルフは覚悟していた。
前婚約者が亡くなってすぐにゾフィーが結婚することは社交界ではよく思われておらず、妊娠公表前の今でも、ルドルフかラルフの子供をゾフィーが既に妊娠しているから今急いで結婚するんだろうと噂されていた。
ただ、ゾフィーがルドルフと関係を持った夜会はコーブルク公爵家で開催されたので、この話が公爵家以外には広まらないように侍女達には口止めがしてあった。
それにルドルフが別の女性と情死したことは有名だったから、ほとんどの人はゾフィーとラルフが婚前に――それももしかしたらルドルフの生前に――男女関係になったと思っているようだった。
でもラルフはゾフィーのためにあえてその不名誉をかぶることにしていたから、それに対して事を起こすつもりはなかった。だがゾフィーは、そのような噂でラルフの名誉に傷がつくことを申し訳なく思っていた。
ラルフの母カタリナはここぞとばかりにこの日のために王都一番のオートクチュールメゾンで大急ぎでドレスを仕立てさせていた。真っ赤なドレスには、そこかしこに宝石があしらわれ、その派手なデザインはとても新郎の実母の着るようなものには見えなかった。昔は麗人と知られていたカタリナが、今、美人と名高いゾフィーにまるで対抗意識を燃やしているようだった。
このオートクチュールメゾンは何ヶ月も注文待ちで有名で、1ヶ月前に注文して間に合うわけはないので、カタリナはおそらくフライングで既に注文していたのだろう。でもラルフもコーブルク公爵も今回だけは請求書がまわってきても目をつぶることにした。だが、後になって甘かったと後悔することになるのは、この時には2人ともまだ知らない。
ゾフィーの白いウェディングドレスは、かなり昔に流行したエンパイアスタイルで、ハイウエストの切換え部分に白いリボン、襟ぐりと袖口に繊細なレースがあしらわれてスカート部分にも同じレースがかかっていた。
ゾフィーの豊かな金髪は結い上げられ、ダイヤと真珠があしらわれた髪飾りが輝いていた。ほっそりとした白い首には、髪飾りとお揃いのネックレスがかかり、耳にもダイヤと真珠のピアスが光っていた。
お腹の子のために健康に気を付けてきちんと食べようと決意したゾフィーは、つわりがおさまったせいもあるのか、見違えるように健康的に見えた。顔色に生気が戻り、美しく着飾った花嫁姿のゾフィーは神々しく見えて、控室に来たラルフは一瞬言葉を失った。
「……き、綺麗です」
「ありがとうございます」
2人とも真っ赤になったところに控室のドアがノックされ、返事をする間もなく不躾にドアが開いた。
「あらぁ、あの父親似の貴方でも正装すれば何とか見れるものね。それにしてもゾフィーさん、この古臭いデザインのウェディングドレスは何なんですの?」
「母上、失礼ですよ!」
「古いのは確かです。お義母様と公爵閣下のおばあ様のウェディングドレスですから。公爵家に今も大切に保管されていたのはご存知なかったのですね」
「し、知らないわよ、そんなものがあったことなんて!」
「公爵家は家族の歴史と伝統を大切にしてるんですね」
新しい流行のドレスにしか興味がなかったカタリナは祖母のウェディングドレスになんて興味がなかったから、知らなかったのも無理はなかった。
結婚式では、ラルフは緊張のあまり誓いの言葉をかんでしまったが、なんとか言い終えた。
それはまだいいほうで、誓いのキスでラルフはガチガチになってしまい、ベールを上げる手も震えていた。目を閉じて軽く顔を上に向けたゾフィーを見ると、ラルフの心臓は早鐘のようにばくばくと打ってゾフィーに聞こえそうなほどだった。ラルフはぎこちなくゾフィーに顔を近づけ、あまりの緊張に唇をほんの一瞬重ねただけで離れてしまった。ゾフィーも緊張していたが、それを残念に思うほどには多少余裕があった。それでも初めての唇へのキスは2人にとって忘れられない思い出となった。
結婚式の後は、喪中なので3家族で軽く食事をしただけで解散となり、後は初夜を待つばかりとなった。
ゾフィーが湯あみして夫婦の寝室に入ってまもなく、ラルフも入ってきた。初夜で身体を繋げることはないと暗黙の了解で2人ともわかっていても緊張していた。
「ゾフィー、もう話したことだけど、初夜だからもう1回確認で話すね。僕は出産後も君がいいと言うまで君を抱きません。ただ、これからすぐに妊娠する設定だから、私達はしばらくの間、寝室を共にする必要があります。毎日じゃなくてもいいだろうけど、仲がよいことを見せつけなくてはなりません。その時は私はソファーで寝るから君がベッドで寝てください。了解してくれるかな?」
「ソファーじゃ疲れがとれませんよ。私は昼間も横になれる時間がありますから、ソファーで寝ます」
「だめ、君は元気な赤ちゃんを産まなきゃいけないんだから」
「それでは、このベッドは広いから、2人ともベッドで寝るのはどうですか?」
「えっ……そんなの拷問だ……」
耳まで赤くしてつぶやいたラルフの言葉は、ゾフィーには聞こえなかった。
ラルフは勇気を振り絞ってゾフィーの額におやすみのキスをしてベッドに入った。結局2人ともベッドの両端で離れて寝ることになったからだ。でもラルフは緊張で目が冴えて眠れなかった。
ゾフィーの妊娠が公表されれば、ラルフが婚前にゾフィーを妊娠させたとか、ルドルフの生前から男女関係にあったとか、不名誉な噂が流れるだろうことをラルフは覚悟していた。
前婚約者が亡くなってすぐにゾフィーが結婚することは社交界ではよく思われておらず、妊娠公表前の今でも、ルドルフかラルフの子供をゾフィーが既に妊娠しているから今急いで結婚するんだろうと噂されていた。
ただ、ゾフィーがルドルフと関係を持った夜会はコーブルク公爵家で開催されたので、この話が公爵家以外には広まらないように侍女達には口止めがしてあった。
それにルドルフが別の女性と情死したことは有名だったから、ほとんどの人はゾフィーとラルフが婚前に――それももしかしたらルドルフの生前に――男女関係になったと思っているようだった。
でもラルフはゾフィーのためにあえてその不名誉をかぶることにしていたから、それに対して事を起こすつもりはなかった。だがゾフィーは、そのような噂でラルフの名誉に傷がつくことを申し訳なく思っていた。
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