鳩でメイドな探偵助手の鳩川さん

田鶴

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第1章 探偵事務所もといなんでも屋

1.納得できない依頼

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 ボロボロの雑居ビルの3階にわたし・外川そとかわ真由まゆがバイトしている吉田探偵事務所はある。

 所長の吉田耕作さんは、わたしの年の離れた兄の親友で、わたしはコーサクと呼んでいる。

 事務所はいつも閑古鳥が鳴いていて、コーサクはソファでゴロゴロしているか、デスクの椅子でずり落ちそうになってだらしなく座っている。

 コーサクは身だしなみもひどい。くせ毛の頭髪はボリューミーで爆発していて鳥の巣状態、顔は無精ひげを生やしていてまだ30歳そこそこなのにおじさんっぽい。目はいつも眠そうに半目になっていて、気だるそうだ。

 コーサクのシャツは、たいていシワシワでどこかのボタンが取れている。いつも履いているジーンズも踵を履き潰しているスニーカーも破れている。その破れは、自称おしゃれだそうだけど、そんなわけはない。単に破れただけだ。

 外出していたコーサクが帰って来た。仕事だと言っていたけど、近所のカフェで鼻の下を伸ばして店員のお姉さんを見ていたに違いない。珍しくシャツのボタンが揃っているからだ。

「真由、ただいまー。誰かお客さん来た?」
「いいえ」
「電話は?」
「ありません……ハァ、働けっつーの」
「何か言ったー?」
「いえー、何でもありません!」

 コーサクの懐事情は謎だ。開店休業状態なのにバイト代はきちんと払われるし、雑居ビルもコーサクの所有らしい。1、2階はテナント、5階はコーサクの住居でわたしは4階のワンルームのうちの1戸を格安で借りている。

 条件は悪くないけど、あまりに退屈なので、本当はとっとと辞めたい。でも辞めたら何もない田舎に強制的に帰らされるのは確実だ。

 2年前、東京の短大の英文科を卒業したわたしは、就職に失敗した。派遣とバイトで食いつないでいたわたしに業を煮やして両親が上京してきた。田舎に連れ帰らされそうになったところ、わたしが東京に残れるようにコーサクと田舎の兄が両親を説得してくれた。

 探偵事務所で働くようになった頃のことをぼうっと思い出していたら、突然事務所のドアが開いた。

「こんにちはー!」
「げっ?! 俺はいないって言って! バイト代上乗せするから!」

 入って来た町内会の会長のおじさんを見て、コーサクは、速攻でデスクの下に潜り込んで居留守を決め込んだ。コーサクはいつもダラダラしているのに、こういう時だけ素早い。

「真由ちゃん! 耕作君はデスクの下でしょ? 困るんだよなぁ、町内会会費5年分と側溝清掃欠席代10回分、合わせて2万円滞納してる分、払ってもらわなきゃ。お祖父じいさんの代からの付き合いなんだからさ、頼むよ」

 コーサクは、わたしのバイト代を払うお金はあっても町内会会費は払わない。今時アホくさいからと言っていた。

 わたしからしたら、ご近所でゴマをすってでも営業すればいいのにと思う。ご近所から頼まれることは、何でも屋みたいな仕事のほうが多いかもしれないけど、仕事は仕事だ。

 コーサクは、デスクの裏側からすぐ前に立っているわたしの足首をツンツンと突いてきた。要は黙っていろってことだ。でも、わたしはコーサクを裏切る!

「会長さん、ご明察ぅ~! こちらをご覧くださぁ~い!」

 わたしは、バスガイドさんみたいに見てもらう方向を指し示す手をデスクの下へ向けた。

「そこにいるのは分かっているんだぞ、耕作君よ」

 諦めの悪いコーサクは、デスクから出てこなかったけど、会長が近づいて来てコーサクをデスクの下から引っ張り出して愚痴を言い始めた。

 会長がブーブー文句を散々たれている間に、コーサクはそろそろとドアのほうへ動いた。だけど、その動きを見逃す会長ではない。

「待ちな! 今日はね、町内会会費の徴収じゃない。いや、払ってくれればいいけどね、それよりいい話を持って来たんだよ」
「えっ?! 仕事ですか?!」
「そうそう、仕事だよ。今度、町内会の夏祭りがあるんだけどね、そこでカフェを出店しようって話になったんだよ」
「ふーん、そうですか」

 コーサクは、ボサボサの頭をボールペンで掻きながら、気のない返事をした。会長は気を悪くしたみたいだ。

「ちょっとよく聞きなよ。夏祭りのカフェのメイドを真由ちゃんにやってほしいんだよ。滞納した今までの会費は免除するし、真由ちゃんにはバイト代を払う。その代わり、このメイド服を着てくれるかな?」

 会長がジャジャジャーンとバッグから出したメイド服は、メイドカフェの店員が着ているみたいな、いかにもザ・メイド服だった。スカートの長さだって絶対膝上だ。

「ちょっとおじさん、わたし、こんなの着ないよ!」
「その話乗ったー!!」

 わたしの抗議とコーサクの叫び声が重なった。

「ちょっと! 何勝手に承諾してるの?! 事務所の留守番はどうするの?!」
「いや、だって、どうせ誰も来ないだろ? 俺がいればいいよ」
「そういう話じゃない! お兄ちゃんに言いつけてやる!」
「あいつはやれって言うさ」
「そんなわけないじゃない!」
「それじゃ、真由ちゃん、耕作君、頼んだよ~」

 わたしがコーサクとギャーギャー揉めている間に会長は帰ってしまった。
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