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第1章 探偵事務所もといなんでも屋
2.コーサクの思い出の喫茶店
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あっという間に町内会の夏祭りまで1週間になった。
掃除道具を持ってメイドカフェの会場へ行くコーサクに、わたしが「いってらっしゃい!」と言ったら、「お前も行くんだよ!」と引きずられて行く羽目になった。
メイドカフェ会場は、数年前に閉店した古い元喫茶店だ。
現場に着いてお店の様子を見てわたしは一気にテンションが下がった。
ドアの木の格子の色は剥げ、その間にはめられているガラスは曇り、ドアの上に付いている店名付きのビニールの雨よけは、破れかかっていた。ドアの横にあるショーウィンドウも曇っていて、勝手に貼られたポスターを剥がした痕が付いていた。ショーウィンドウのガラスの向こうには、ナポリタンやプリン、メロンソーダなどの色あせた食品サンプルが見えた。
「ここでメイドカフェするの? 廃墟だと思って誰もお客さん、来ないよ」
「こら! タダで夏祭りに提供してくれるマスターの息子さんに悪いだろう?」
「痛っ! 何するんだよ、コーサク!」
わたしが文句を言うと、コーサクはわたしにデコピンしてきた! もう痛いの、なんの!
「それに廃墟って言うほどじゃないだろ。俺らが掃除したら、見違えるようになるぞ」
「えぇ~?!」
掃除道具を持って来た時点で想像はついたけど、超ヒマな探偵事務所で留守番するのと、数年間使われていなかった元喫茶店を掃除するのでは、疲労度が全然違う。
文句を言ったから、またデコピンが飛んでくるかと思ったけど、コーサクは預かった鍵でさっさとドアを開け、中を見回して感慨にふけっていた。
喫茶店の中には、埃の積もったガラスのテーブルがいくつも置かれていた。普通のテーブルと違ってテーブル板の下に何か装置みたいなものが付いている。
「懐かしいなぁ……」
コーサクは、隅の席のテーブルに近づいて感極まったように思い出話をし始めた。
「ここだよ、ここ! 学校帰りにいつもここに座ってプリンとか食べたんだよなぁ」
「へぇ、学校の帰りは道草禁止じゃなかったの?」
「そんなの、お前だって守ってなかっただろ?」
「守るつもりなくても、毎日喫茶店でプリン食べるようなお小遣いなかったよ! コーサクは金持ちの子だったんだね」
「俺だって毎日行っていたわけじゃないよ」
「それでもしょっちゅう行けたなんてすごいじゃん」
「まぁね。俺んち、小遣いだけは結構いっぱいくれたから」
「何それ?! 自慢なの?!」
「まぁな」
コーサクは、わたしを適当にあしらいながら、手でテーブルの埃をよけた。
「ああっ、手が汚れたじゃん」
「どうせ掃除したら、汚れるからいいよ」
テーブルの埃がなくなった所に画面のような区切りが見えた。
「この画面、何?」
「テーブルゲームだよ。ここに100円玉を入れて遊んだんだよ」
「やっぱりコーサクは金持ちだ! プリン食べてゲームまでしたの?!」
「いや、俺が中学生の頃にはもう壊れていてただのテーブルだったけどね」
「ここにあるテーブルゲーム、全部壊れていたの?」
「うーん、1台ぐらいは現役だったかもね。俺はゲームに興味なかったから、遊んだことないんだよね……思い出話はそのぐらいにして掃除始めようか」
「ううん、ずっと思い出語ってくれていていいよ。わたしはその間に帰るから」
「それを言うなら、その間に掃除するから、だろ!」
「違うに決まってる!」
冗談はそのぐらいにしてわたし達はようやく掃除を始めた。
わたし達が動くたびに埃がもうもうとたつので、マスクをしても喉がイガイガした。喫茶店なので、窓が嵌め殺しになっていて開かず、空気の入れ替えにはドアを開けるしかない。
「おっ! 耕作君、せいがでるね!」
開いたドアから町内会の知らないおじさんがコーサクに声をかけてきた。挨拶するより掃除を手伝ってくれ!
そんなわたしの願いも空しく、おじさんはコーサクとわたしに缶コーヒーを渡して去っていった。
わたし達は、そこで掃除に区切りをつけ、手を洗ってからもらった缶コーヒーを飲んで事務所のある雑居ビルへ帰った。
翌日もわたしは掃除に行かされ、コーサクは事務所で留守番をした。逆でいいのに!
それが夏祭り前日まで続いてわたしはすっかり筋肉痛になってしまった。
掃除道具を持ってメイドカフェの会場へ行くコーサクに、わたしが「いってらっしゃい!」と言ったら、「お前も行くんだよ!」と引きずられて行く羽目になった。
メイドカフェ会場は、数年前に閉店した古い元喫茶店だ。
現場に着いてお店の様子を見てわたしは一気にテンションが下がった。
ドアの木の格子の色は剥げ、その間にはめられているガラスは曇り、ドアの上に付いている店名付きのビニールの雨よけは、破れかかっていた。ドアの横にあるショーウィンドウも曇っていて、勝手に貼られたポスターを剥がした痕が付いていた。ショーウィンドウのガラスの向こうには、ナポリタンやプリン、メロンソーダなどの色あせた食品サンプルが見えた。
「ここでメイドカフェするの? 廃墟だと思って誰もお客さん、来ないよ」
「こら! タダで夏祭りに提供してくれるマスターの息子さんに悪いだろう?」
「痛っ! 何するんだよ、コーサク!」
わたしが文句を言うと、コーサクはわたしにデコピンしてきた! もう痛いの、なんの!
「それに廃墟って言うほどじゃないだろ。俺らが掃除したら、見違えるようになるぞ」
「えぇ~?!」
掃除道具を持って来た時点で想像はついたけど、超ヒマな探偵事務所で留守番するのと、数年間使われていなかった元喫茶店を掃除するのでは、疲労度が全然違う。
文句を言ったから、またデコピンが飛んでくるかと思ったけど、コーサクは預かった鍵でさっさとドアを開け、中を見回して感慨にふけっていた。
喫茶店の中には、埃の積もったガラスのテーブルがいくつも置かれていた。普通のテーブルと違ってテーブル板の下に何か装置みたいなものが付いている。
「懐かしいなぁ……」
コーサクは、隅の席のテーブルに近づいて感極まったように思い出話をし始めた。
「ここだよ、ここ! 学校帰りにいつもここに座ってプリンとか食べたんだよなぁ」
「へぇ、学校の帰りは道草禁止じゃなかったの?」
「そんなの、お前だって守ってなかっただろ?」
「守るつもりなくても、毎日喫茶店でプリン食べるようなお小遣いなかったよ! コーサクは金持ちの子だったんだね」
「俺だって毎日行っていたわけじゃないよ」
「それでもしょっちゅう行けたなんてすごいじゃん」
「まぁね。俺んち、小遣いだけは結構いっぱいくれたから」
「何それ?! 自慢なの?!」
「まぁな」
コーサクは、わたしを適当にあしらいながら、手でテーブルの埃をよけた。
「ああっ、手が汚れたじゃん」
「どうせ掃除したら、汚れるからいいよ」
テーブルの埃がなくなった所に画面のような区切りが見えた。
「この画面、何?」
「テーブルゲームだよ。ここに100円玉を入れて遊んだんだよ」
「やっぱりコーサクは金持ちだ! プリン食べてゲームまでしたの?!」
「いや、俺が中学生の頃にはもう壊れていてただのテーブルだったけどね」
「ここにあるテーブルゲーム、全部壊れていたの?」
「うーん、1台ぐらいは現役だったかもね。俺はゲームに興味なかったから、遊んだことないんだよね……思い出話はそのぐらいにして掃除始めようか」
「ううん、ずっと思い出語ってくれていていいよ。わたしはその間に帰るから」
「それを言うなら、その間に掃除するから、だろ!」
「違うに決まってる!」
冗談はそのぐらいにしてわたし達はようやく掃除を始めた。
わたし達が動くたびに埃がもうもうとたつので、マスクをしても喉がイガイガした。喫茶店なので、窓が嵌め殺しになっていて開かず、空気の入れ替えにはドアを開けるしかない。
「おっ! 耕作君、せいがでるね!」
開いたドアから町内会の知らないおじさんがコーサクに声をかけてきた。挨拶するより掃除を手伝ってくれ!
そんなわたしの願いも空しく、おじさんはコーサクとわたしに缶コーヒーを渡して去っていった。
わたし達は、そこで掃除に区切りをつけ、手を洗ってからもらった缶コーヒーを飲んで事務所のある雑居ビルへ帰った。
翌日もわたしは掃除に行かされ、コーサクは事務所で留守番をした。逆でいいのに!
それが夏祭り前日まで続いてわたしはすっかり筋肉痛になってしまった。
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