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第1章 探偵事務所もといなんでも屋
4.メイド服
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元喫茶店――いや、今日だけはメイドカフェ――の中に入った途端、締め切っていた空間の熱気がぶわっとわたし達に襲い掛かった。
「うわっ! 暑っ! エアコン、エアコン!」
わたしは、カウンターの上に置いてあるリモコンを手に取り、エアコンのスイッチをピッと入れた。
すぐにエアコンがゴォーンと音を立てて運転を始めた。でもエアコンが古いので、涼しくなるまで時間がかかる。
先週、掃除中に初めてスイッチを入れた時には、臭い風が出てきて大変だった。コーサクがオーナーに連絡してエアコン掃除を頼んでもらったらしいので、今は効きが悪くても我慢できる。
カフェの内装は、元の喫茶店と変わっていない。先週まで散々掃除していたんだから、わたしもそれは分かっている。
ちょっと昔の喫茶店みたいなコンセプトの内装で……と言えば聞こえはいいけど、要は何十年も営業していた喫茶店の閉店前の内装のままだ。町内会からは、さすがに内装を変えるお金までは出ない。
それどころかコーサクは、どう見ても高そうなコーヒーメーカーを自腹で買っちゃったので、完全に赤字だ。町内会に滞納している2万円を免除してもらって、わたしの今日のバイト代を払ってもらうだけでは割に合わない。
レトロなテーブルゲーム(今はただのガラステーブル)とひび割れた合成皮革のソファ、飴色になった木のカウンターと丸い椅子、座席やカウンターの上にぶら下がっているステンドグラス風のランプ――そんな昭和な雰囲気の中でカウンターの奥に鎮座しているピカピカのコーヒーメーカーは、異彩を放っている。
「ねえ、コーサク、このコーヒーメーカーいくらしたの?」
「うーん、いくらだっていいじゃん」
「絶対高いよね? そんなんだったら、町内会に2万円払って夏祭りのメイドカフェは断ればよかったじゃん」
「そういう問題じゃないでしょ。真由だっていつも町内会で顔を繋いで仕事もらえるようにしなっていつも言ってるよね?」
「町内会からの伝手でもらえる仕事は、このメイドカフェみたいになんでも屋みたいな仕事ばっかりだよ」
「小さい仕事でも何でも引き受けろって言ったのは誰?」
「それはそうだけどさぁ……これじゃタダで掃除して高いコーヒーメーカー買って損しただけじゃん」
「事務所にコーヒーメーカーがほしいって言ってたよね?」
「えっ?! これ、事務所に持ってこれるの?! ヤッター!」
わたしは腕を突き上げて大喜びした。
その時、入口のドアのベルがカランカランと鳴った。
「おお、すごくきれいになったね! ありがとう。はるばる大阪から来た甲斐があったよ」
入って来たおじさんは、きれいに掃除された内部を見て感激し、コーサクにお礼を言った。
「いえいえ、ただで使わせてもらえるんですから、このぐらいお安い御用ですよ。それに僕もこの喫茶店には思い出がありましてね。中高生の頃、しょっちゅう来ていたんです。田中さんも夏休みにお手伝いされていましたよね。その時、ここでお会いしてるんですが、覚えていますか?」
「ああ、そう言えば、そうでしたね! 懐かしいなぁ。かつてのお客さんがおやじの喫茶店にいまだに思い入れを持ってくれていて、天国のおやじも喜んでいると思います」
そのおじさん――田中さんは、ちょっと感傷的になったみたいだった。そして初めてわたしのほうを見てコーサクに尋ねた。
「こちらのお嬢さんは、今日、カフェを手伝ってくれる方ですか?」
「ええ、うちの探偵事務所を手伝ってくれている外川真由さんです」
わたしは、田中さんにペコリと頭を下げて挨拶した。
なんでも、田中さんは喫茶店の亡くなったオーナーの息子さんで、大阪でサラリーマンをしている。父親が亡くなった後、2階の住居だけ賃貸に出しているそうだ。1階の喫茶店のスペースは、大きく変えないままで貸したいと希望していたら、借り手がつかず、結局放置していたらしい。
コーサクが喫茶店に入り浸っていた頃、田中さんはすでに大阪で大学に行っていたので、コーサクと個人的な付き合いはほとんどなかった。でも、田中さんは夏休みとかの長期帰省中はお店を手伝っていたので、面識はあり、その頃の話で盛り上がっていた。
わたしは、コーサクをそっとツンツンつついて、ささやいた。
「もうそろそろ着替えて準備しようと思うんだけど……」
田中さんにもそれは聞こえてしまったみたいだった。
「ああ、ごめんね。準備の邪魔をしちゃったね。それじゃ、俺は町内会の皆さんに挨拶してくるよ。開店したら、また来るね」
田中さんが出て行った後、わたしは喫茶店のバックヤードでメイド服に着替えた。
「うん? ちょっと違う服なのかな?」
事務所で見せてもらったメイド服とは、心なしかちょっと違う気がした。何よりスカートが長くて、くるぶしくらいまである。ワンピースの上身頃は、自慢の胸のせいか、ちょっときつい。
「胸がちょっとパツンパツン過ぎるかなぁ……ま、いいか。エプロンするし、1日だけだし」
メイド服のワンピースの襟は白いレースで、エプロンもフリルがついていてかわいい。わたしは、くるっと回ってスカートをひるがえしてみた。鏡がないので全身を見られないのが残念だ。
持ってきたトートバッグの中から鳩の被り物を出して被り、胸から上を撮った。SNS用に顔は鳩の絵を入れてもちろん隠す。わたしは、『今日はメイドカフェの日!』とコメントをつけて、この写真をZに投稿した。
するとすぐにクサコさんからいいねがついた。
他にも反応がないかなと思って通知をじーっと見ていた。でも、うんともすんとも言わなくてがっくりきた。
その時、バックヤードのドアがノックされた。
「おい、いつまで着替えてるんだ? ケーキ屋さんがケーキを持ってきてくれたぞ」
「ハイハイハイ、今行くよ!」
「『はい』は1回でいいよ!」
「ハイハーイ!」
わたしは、顔を引き締めてバックヤードを出て行った。
「うわっ! 暑っ! エアコン、エアコン!」
わたしは、カウンターの上に置いてあるリモコンを手に取り、エアコンのスイッチをピッと入れた。
すぐにエアコンがゴォーンと音を立てて運転を始めた。でもエアコンが古いので、涼しくなるまで時間がかかる。
先週、掃除中に初めてスイッチを入れた時には、臭い風が出てきて大変だった。コーサクがオーナーに連絡してエアコン掃除を頼んでもらったらしいので、今は効きが悪くても我慢できる。
カフェの内装は、元の喫茶店と変わっていない。先週まで散々掃除していたんだから、わたしもそれは分かっている。
ちょっと昔の喫茶店みたいなコンセプトの内装で……と言えば聞こえはいいけど、要は何十年も営業していた喫茶店の閉店前の内装のままだ。町内会からは、さすがに内装を変えるお金までは出ない。
それどころかコーサクは、どう見ても高そうなコーヒーメーカーを自腹で買っちゃったので、完全に赤字だ。町内会に滞納している2万円を免除してもらって、わたしの今日のバイト代を払ってもらうだけでは割に合わない。
レトロなテーブルゲーム(今はただのガラステーブル)とひび割れた合成皮革のソファ、飴色になった木のカウンターと丸い椅子、座席やカウンターの上にぶら下がっているステンドグラス風のランプ――そんな昭和な雰囲気の中でカウンターの奥に鎮座しているピカピカのコーヒーメーカーは、異彩を放っている。
「ねえ、コーサク、このコーヒーメーカーいくらしたの?」
「うーん、いくらだっていいじゃん」
「絶対高いよね? そんなんだったら、町内会に2万円払って夏祭りのメイドカフェは断ればよかったじゃん」
「そういう問題じゃないでしょ。真由だっていつも町内会で顔を繋いで仕事もらえるようにしなっていつも言ってるよね?」
「町内会からの伝手でもらえる仕事は、このメイドカフェみたいになんでも屋みたいな仕事ばっかりだよ」
「小さい仕事でも何でも引き受けろって言ったのは誰?」
「それはそうだけどさぁ……これじゃタダで掃除して高いコーヒーメーカー買って損しただけじゃん」
「事務所にコーヒーメーカーがほしいって言ってたよね?」
「えっ?! これ、事務所に持ってこれるの?! ヤッター!」
わたしは腕を突き上げて大喜びした。
その時、入口のドアのベルがカランカランと鳴った。
「おお、すごくきれいになったね! ありがとう。はるばる大阪から来た甲斐があったよ」
入って来たおじさんは、きれいに掃除された内部を見て感激し、コーサクにお礼を言った。
「いえいえ、ただで使わせてもらえるんですから、このぐらいお安い御用ですよ。それに僕もこの喫茶店には思い出がありましてね。中高生の頃、しょっちゅう来ていたんです。田中さんも夏休みにお手伝いされていましたよね。その時、ここでお会いしてるんですが、覚えていますか?」
「ああ、そう言えば、そうでしたね! 懐かしいなぁ。かつてのお客さんがおやじの喫茶店にいまだに思い入れを持ってくれていて、天国のおやじも喜んでいると思います」
そのおじさん――田中さんは、ちょっと感傷的になったみたいだった。そして初めてわたしのほうを見てコーサクに尋ねた。
「こちらのお嬢さんは、今日、カフェを手伝ってくれる方ですか?」
「ええ、うちの探偵事務所を手伝ってくれている外川真由さんです」
わたしは、田中さんにペコリと頭を下げて挨拶した。
なんでも、田中さんは喫茶店の亡くなったオーナーの息子さんで、大阪でサラリーマンをしている。父親が亡くなった後、2階の住居だけ賃貸に出しているそうだ。1階の喫茶店のスペースは、大きく変えないままで貸したいと希望していたら、借り手がつかず、結局放置していたらしい。
コーサクが喫茶店に入り浸っていた頃、田中さんはすでに大阪で大学に行っていたので、コーサクと個人的な付き合いはほとんどなかった。でも、田中さんは夏休みとかの長期帰省中はお店を手伝っていたので、面識はあり、その頃の話で盛り上がっていた。
わたしは、コーサクをそっとツンツンつついて、ささやいた。
「もうそろそろ着替えて準備しようと思うんだけど……」
田中さんにもそれは聞こえてしまったみたいだった。
「ああ、ごめんね。準備の邪魔をしちゃったね。それじゃ、俺は町内会の皆さんに挨拶してくるよ。開店したら、また来るね」
田中さんが出て行った後、わたしは喫茶店のバックヤードでメイド服に着替えた。
「うん? ちょっと違う服なのかな?」
事務所で見せてもらったメイド服とは、心なしかちょっと違う気がした。何よりスカートが長くて、くるぶしくらいまである。ワンピースの上身頃は、自慢の胸のせいか、ちょっときつい。
「胸がちょっとパツンパツン過ぎるかなぁ……ま、いいか。エプロンするし、1日だけだし」
メイド服のワンピースの襟は白いレースで、エプロンもフリルがついていてかわいい。わたしは、くるっと回ってスカートをひるがえしてみた。鏡がないので全身を見られないのが残念だ。
持ってきたトートバッグの中から鳩の被り物を出して被り、胸から上を撮った。SNS用に顔は鳩の絵を入れてもちろん隠す。わたしは、『今日はメイドカフェの日!』とコメントをつけて、この写真をZに投稿した。
するとすぐにクサコさんからいいねがついた。
他にも反応がないかなと思って通知をじーっと見ていた。でも、うんともすんとも言わなくてがっくりきた。
その時、バックヤードのドアがノックされた。
「おい、いつまで着替えてるんだ? ケーキ屋さんがケーキを持ってきてくれたぞ」
「ハイハイハイ、今行くよ!」
「『はい』は1回でいいよ!」
「ハイハーイ!」
わたしは、顔を引き締めてバックヤードを出て行った。
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