傀儡妃は幼馴染の王太子をひたすら愛する

田鶴

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第1章 疑似兄妹

28.密約

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 高貴な男達が人払いをして2人きりで話していた。

「殿下、残念でしたね。とやらを押し通せなくて」
「なっ……!」
「他の男にあてがおうとする程、私の娘ではそんなに満足できませんでしたか? でも婚前ですからね、純潔は守ってもらわないと――おっと、そんな目で睨まないで下さいな。不敬でしたでしょうか?」

 ルイトポルトは将来義父になるはずの政敵を睨んだ。

「いいですよ、そんなにあの娘が嫌ならば、別の娘にしましょう。幸い、私にはもう1人娘ができましたし」
「じ、冗談じゃないっ!」
「それではパトリツィアにしておきますか? を託するのは不本意ですが……もし殿下が予定通りパトリツィアと結婚されるのなら、彼女には殿下のを明かさないでおきましょう」
「私はパトリツィアに対して不誠実な事などした事はない!」
「でも婚約破棄をしたがっていましたよね? 殿下が『真実の愛』とやらを見つけて婚約破棄したがっていたと知ったら、娘は悲しむでしょうね。もしかしたら絶望してしまうかもしれません」
「なっ……」

 パトリツィアがしまうとしたら、誰――十中八九、残酷にも彼女の父である目の前の男――が手を下すのだと悟らせるのに十分な言葉だった。

「今年予定通りに殿下と成婚できた折には、パトリツィアは喜ぶでしょうな。では失礼いたします」
「ま、待てっ! まだ返事はっ……」

 ベネディクトは、くるりとルイトポルトに背を向けた途端、怒りを抑えきれない表情を隠さず、返事を聞く前にさっさと退出した。ルイトポルトの執務室の扉が閉まった途端、ベネディクトは思わず『あの小僧……!』と口に出していた。そしてすぐに次の手に着手した。

 翌日、ベネディクトは珍しく屋敷にとどまっていた。まもなく待ち人はやってきたが、ベネディクトが在宅しているとは露ほども思わず驚いた。

「これは驚いたな、お忙しい宰相閣下がご在宅とは」
「自分の家にいて何か問題でも?」
「いや、もちろんないよ……」

 ベネディクトは、ヨアヒムの若い侍従ヨルクをちらりと見てヨアヒムに人払いを願った。ヨアヒムはムッとしたが、ベネディクトの真剣な様子に結局了承し、ヨルクは後ろ髪を引かれる思いを顔に出さないようにして退出した。

「殿下、単刀直入に言いましょう。殿下がせっかく私の妻に会いに来たのに時間をとらせては申し訳ない」
「なっ……」
「殿下がカロリーネの長年の恋人で、ガブリエレは殿下の娘だということは承知しております」

 クレーベ王国の王族は何代にもわたって近親結婚を繰り返した結果、子供が生まれにくくなり、生まれたとしても身体の弱い子供や夭逝する子供が続出し、随分前にいとこ同士やおじおばと甥・姪の結婚が王国中で禁止された。それでカロリーネが結婚するまで、いや結婚してもヨアヒム自らは独身を通して従姉のカロリーネと秘めた関係を続けていた。ガブリエレはヨアヒムを優しい親戚のおじさまと思っていて自分の実父とは知らなかった。

「なのにどうしてカロリーネと再婚したのですか?」
「殿下といい交渉をできると思ったからですね」
「カロリーネとガブリエレを政治の駒のように使うつもりですか?!」
「そうなるかどうかは殿下次第ですよ。ああ、安心して下さい。妻とは白い結婚ですから。これからも抱くつもりはありません。幸いにも女には困ってませんからね」
「……っ!」
「殿下のお怒りを買ってしまったようですね。申し訳ありません」

 ベネディクトの軽い謝罪は、ちっとも反省しているようには見えなかった。ましてや最愛の女性の事だ。温厚なヨアヒムでも怒りがムクムクとこみ上げてきた。

「王になる気はありますか?」
「ないね。そもそも私には王位継承権がない」
「殿下はそれでも先王陛下の血を引く元王子です。殿下の王位継承権剥奪はアルフレッド陛下や王太后陛下の横暴でした。継承権復活は正当でしょう」
「貴方なら兄上や継母上の横暴を止められただろうに」
「本当に私はあの頃、まだ若輩者で王太后陛下に対抗できる力を持っていなかったのですよ」
「本当かどうか……それ以前に次期王はルイトポルトでしょう? それに彼は君の娘の婚約者だ」
「王太子殿下が次期王になる必要は必ずしもないのですよ」
「兄上とルイトポルトを排除するつもりですか? 兄上は政務に関心を持たず、貴方の言いなりだ。それに不摂生してはいるが、健康を害している訳ではないし、まだ若い。ルイトポルトの治世になるまでまだ時間はあるはずでしょう?」
「両陛下の放蕩が過ぎて民主過激派が台頭しているのですよ」
「その責任の一端は貴方にもあるでしょう?」

 ベネディクトは、その鋭い指摘にニヤリと笑っただけで直接反応しなかった。

「革命が起きては本末転倒ですからね。それにあのルイトポルトがこの状況を父親がするまで静観するとでも思いますか? だから殿下が速やかに陛下になりかわって王になるべきなのです。その気があるのでしたら、カロリーネを譲りましょう」
「彼女は物ではない!」
「殿下がカロリーネと結婚するには、色々な障害を乗り越える必要があります。離婚経験のある女性と王族の結婚を可能にするように王室典範を改正したり、いとこ婚ができるように法律を改正したり、教会とも交渉したり……でもそれだけではありません。王族である以上、その結婚を世間が納得するように工作する必要もあります。ましてやとなるなら尚更です。それにガブリエレを王女として認めさせたいでしょう? 今の典範では結婚前の庶子は王女として認められません。私なら全てやり遂げられる力があります」
「本当か?」

 ヨアヒムは自分のためだけだったら、ベネディクトの手を取らなかっただろう。だが、彼はどうしてもカロリーネとガブリエレを自分の元に正式に迎えたかった。

「ええ、それに今すぐできるメリットも提供します。殿下の歳費は随分抑えられているでしょう? カロリーネ達を迎えるにあたって十分な準備をできるようにして差し上げます」
「でも兄上が何と言うか……」
「陛下が私の意見に物を言えるとでも?」

 ベネディクトは傲慢なまでに自信満々な様子だった。
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