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第1章 疑似兄妹
27.真実の愛
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18歳になったパトリツィアは輝く大輪の薔薇のように美しい令嬢に成長していた。
ルイトポルトは彼女を妹のような存在と言い切ることができなくなった。彼女のはにかむ笑顔を見れば、彼女の愛にはっきりと応えてあげられない心が疼く。いくらアントンに咎められてもこの高ぶる気持ちをルイトポルトは抑えられない。でも彼女と結婚後にルイトポルト達の計画が成功したら、彼女は破滅だ。逆の場合、改革計画は失敗、国は衰退、ルイトポルトは破滅、彼女とは引き裂かれる運命になる。どちらにしても彼女がルイトポルトと結ばれた後に共に過ごす未来は来ない。だったら、今のうちに彼女を手放したほうが彼女は幸せになれるのではないか……パトリツィア18歳の今年が成婚予定でもうすぐ結婚式なのに、ルイトポルトの心の中は未だにそんな迷いが消えない。
顔を見てしまえば愛しい気持ちが溢れ出てくるから、ルイトポルトはパトリツィアになるべく会わないようにしていた。でもパトリツィアが3年前に社交界デビューして以来、2人で出席する場でルイトポルトは婚約者としてパトリツィアをエスコートしなければならない。そのような機会がそれほど多くならないようにルイトポルトは努めているものの、完全には避けられない。彼女をエスコートして踊ることができるのは、本当はうれしいのに、表に出してはいけない想いが溢れ出そうで辛くなる。エスコートやダンスの時に彼女の腕、手、肩、腰に触れた所から熱が回ってくる。
今夜もそんな夜会だった。
ルイトポルトとパトリツィアは婚約者同士だから、本当なら2曲続けて踊っても何ら問題はない。でもルイトポルトはいつも1曲で彼女の手を離す。彼女のさみしそうな顔を見ると、もう1曲踊ってしまいそうだから、すぐに顔をそむけて彼女の前を立ち去る。その後、彼女は壁の花と化す。男達は大輪の薔薇をちらちら見るが、王太子の長年の婚約者をダンスに誘う猛者はなかなかいない。だがその夜は違った。
「美しいお嬢さん、私と踊っていただけませんか? 貴女の憂い顔を笑顔に変えて差し上げます」
訛りのあるクレーベ語でルイトポルトの珠玉に話しかけたのは、隣国の第3王子コーネリウスだった。彼の目はルイトポルトがパトリツィアを見る目と同じ熱を持っていた。
パトリツィアは流石に隣国の王族の誘いを断ってはいけないと思ったのだろう。でも彼の手をとる前に戸惑うような目でルイトポルトをちらりと見た。ルイトポルトはすぐに目線を外して知らない振りをした――本当はその手を取るなと嫉妬の炎を燃やしているのに。
翌日、コーネリウスが母国へ出立する前に2人きりで会いたいとルイトポルトが伝えると、彼はすぐにルイトポルトの要請に応えた。
「昨夜は我が婚約者パトリツィアをダンスに誘っていただきありがとうございます」
「それは皮肉ですか?」
「いえ、本音です。それで貴方のお気持ちを知りたいのですよ。パトリツィアをどう思われますか?」
「どうって……それを貴方に言う勇気は流石にありませんよ」
「もし貴方が本当にパトリツィアを想うのでしたら、私は彼女を貴方に嫁がせる手助けをしたいと思います」
「本気ですか?!」
「ええ、貴方が本当にパトリツィアのことを愛しているのなら……」
「実は……彼女には数年前に偶然出会った時に助けていただきました。多分彼女のほうは覚えていないと思いますが……その時はクレーベ王国の王太子殿下の婚約者なのだから諦めるしかないと思いました」
「今まで婚約されていないのはパトリツィアを忘れられなかったからですか?」
「ええ、その通りです。幸い、2人の兄は結婚して子供にも恵まれましたし、私は第3王子だから、結婚しろとそれほどうるさく言われずに今まできました。待っていた甲斐がありました……本当にいいのですね?」
パトリツィアが外国へ嫁げば、父親が失脚しようと彼女の身は安全だ――実父が罪人として処罰される彼女を夫が疎んで追放しない限り。第3王子にはルイトポルト達の計画を伝えるわけにはいかないから、パトリツィアの身の安全に関する密約を結ぶわけにはいかなかったが、ルイトポルトはなぜか彼を信じられると思った。
「でも、なぜ貴方がそんなことをするのか教えて下さい。それがわからなければ私は決断できません」
「真実の愛を見つけたのです。パトリツィアは生まれた時から私の婚約者でしたから、彼女のことを赤ん坊の頃から知っています。そんな彼女のことを妹としか思えないのは当たり前でしょう?」
「本当ですか? そんな理由で貴方はパトリツィア嬢を傷つけるのですか? 貴方は王太子なのだから、自由に恋愛結婚できないことはおわかりだったはずでしょう?」
「それでもままならないのが人情です」
「……そうですか。私も貴方の『真実の愛』を利用して彼女を手に入れようとしている以上、貴方を責める権利はありませんね。貴方の提案を受けましょう。ただし、彼女が私を新しい婚約者として受け入れるならば、ですが」
多分、ルイトポルトの表情でパトリツィアに対する恋情はコーネリウスにばれている。彼も同じ顔をしていたから。それでも彼はこの提案に飛びついた。ルイトポルトはそれに賭けた。
アントンがこんなことを察知したら、怒り狂うことはルイトポルトにも分かっていた。せっかく秘密裡に運んでいる計画がこれで宰相側に漏れる可能性があるのだ。でも絶対に彼女を破滅に追いやる訳にいかない以上、ルイトポルトはこの可能性に賭けた。
だがルイトポルトは賭けに負けた。帰国からまもなくコーネリウスは、とある王国の女王の王配となることが決まり、ルイトポルトとの密約をあっさり覆した。誰かが手を回したことは明らかだった。
ルイトポルトは彼女を妹のような存在と言い切ることができなくなった。彼女のはにかむ笑顔を見れば、彼女の愛にはっきりと応えてあげられない心が疼く。いくらアントンに咎められてもこの高ぶる気持ちをルイトポルトは抑えられない。でも彼女と結婚後にルイトポルト達の計画が成功したら、彼女は破滅だ。逆の場合、改革計画は失敗、国は衰退、ルイトポルトは破滅、彼女とは引き裂かれる運命になる。どちらにしても彼女がルイトポルトと結ばれた後に共に過ごす未来は来ない。だったら、今のうちに彼女を手放したほうが彼女は幸せになれるのではないか……パトリツィア18歳の今年が成婚予定でもうすぐ結婚式なのに、ルイトポルトの心の中は未だにそんな迷いが消えない。
顔を見てしまえば愛しい気持ちが溢れ出てくるから、ルイトポルトはパトリツィアになるべく会わないようにしていた。でもパトリツィアが3年前に社交界デビューして以来、2人で出席する場でルイトポルトは婚約者としてパトリツィアをエスコートしなければならない。そのような機会がそれほど多くならないようにルイトポルトは努めているものの、完全には避けられない。彼女をエスコートして踊ることができるのは、本当はうれしいのに、表に出してはいけない想いが溢れ出そうで辛くなる。エスコートやダンスの時に彼女の腕、手、肩、腰に触れた所から熱が回ってくる。
今夜もそんな夜会だった。
ルイトポルトとパトリツィアは婚約者同士だから、本当なら2曲続けて踊っても何ら問題はない。でもルイトポルトはいつも1曲で彼女の手を離す。彼女のさみしそうな顔を見ると、もう1曲踊ってしまいそうだから、すぐに顔をそむけて彼女の前を立ち去る。その後、彼女は壁の花と化す。男達は大輪の薔薇をちらちら見るが、王太子の長年の婚約者をダンスに誘う猛者はなかなかいない。だがその夜は違った。
「美しいお嬢さん、私と踊っていただけませんか? 貴女の憂い顔を笑顔に変えて差し上げます」
訛りのあるクレーベ語でルイトポルトの珠玉に話しかけたのは、隣国の第3王子コーネリウスだった。彼の目はルイトポルトがパトリツィアを見る目と同じ熱を持っていた。
パトリツィアは流石に隣国の王族の誘いを断ってはいけないと思ったのだろう。でも彼の手をとる前に戸惑うような目でルイトポルトをちらりと見た。ルイトポルトはすぐに目線を外して知らない振りをした――本当はその手を取るなと嫉妬の炎を燃やしているのに。
翌日、コーネリウスが母国へ出立する前に2人きりで会いたいとルイトポルトが伝えると、彼はすぐにルイトポルトの要請に応えた。
「昨夜は我が婚約者パトリツィアをダンスに誘っていただきありがとうございます」
「それは皮肉ですか?」
「いえ、本音です。それで貴方のお気持ちを知りたいのですよ。パトリツィアをどう思われますか?」
「どうって……それを貴方に言う勇気は流石にありませんよ」
「もし貴方が本当にパトリツィアを想うのでしたら、私は彼女を貴方に嫁がせる手助けをしたいと思います」
「本気ですか?!」
「ええ、貴方が本当にパトリツィアのことを愛しているのなら……」
「実は……彼女には数年前に偶然出会った時に助けていただきました。多分彼女のほうは覚えていないと思いますが……その時はクレーベ王国の王太子殿下の婚約者なのだから諦めるしかないと思いました」
「今まで婚約されていないのはパトリツィアを忘れられなかったからですか?」
「ええ、その通りです。幸い、2人の兄は結婚して子供にも恵まれましたし、私は第3王子だから、結婚しろとそれほどうるさく言われずに今まできました。待っていた甲斐がありました……本当にいいのですね?」
パトリツィアが外国へ嫁げば、父親が失脚しようと彼女の身は安全だ――実父が罪人として処罰される彼女を夫が疎んで追放しない限り。第3王子にはルイトポルト達の計画を伝えるわけにはいかないから、パトリツィアの身の安全に関する密約を結ぶわけにはいかなかったが、ルイトポルトはなぜか彼を信じられると思った。
「でも、なぜ貴方がそんなことをするのか教えて下さい。それがわからなければ私は決断できません」
「真実の愛を見つけたのです。パトリツィアは生まれた時から私の婚約者でしたから、彼女のことを赤ん坊の頃から知っています。そんな彼女のことを妹としか思えないのは当たり前でしょう?」
「本当ですか? そんな理由で貴方はパトリツィア嬢を傷つけるのですか? 貴方は王太子なのだから、自由に恋愛結婚できないことはおわかりだったはずでしょう?」
「それでもままならないのが人情です」
「……そうですか。私も貴方の『真実の愛』を利用して彼女を手に入れようとしている以上、貴方を責める権利はありませんね。貴方の提案を受けましょう。ただし、彼女が私を新しい婚約者として受け入れるならば、ですが」
多分、ルイトポルトの表情でパトリツィアに対する恋情はコーネリウスにばれている。彼も同じ顔をしていたから。それでも彼はこの提案に飛びついた。ルイトポルトはそれに賭けた。
アントンがこんなことを察知したら、怒り狂うことはルイトポルトにも分かっていた。せっかく秘密裡に運んでいる計画がこれで宰相側に漏れる可能性があるのだ。でも絶対に彼女を破滅に追いやる訳にいかない以上、ルイトポルトはこの可能性に賭けた。
だがルイトポルトは賭けに負けた。帰国からまもなくコーネリウスは、とある王国の女王の王配となることが決まり、ルイトポルトとの密約をあっさり覆した。誰かが手を回したことは明らかだった。
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