傀儡妃は幼馴染の王太子をひたすら愛する

田鶴

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第2章 傀儡の王太子妃

37.アントンの提案

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 パトリツィアとの間に早急に子供を作れと脅してきたベネディクトの背中が見えなくなると、アントンは執務室の中に戻った。

「殿下、宰相の話はやはり……?」
「ああ、私がパトリツィアと最後までしていない事が宰相に露見した。パトリツィアはで子供ができると誤解していたのだが、どうやら宰相夫人がその誤解を正したらしい。私も知らぬ存ぜぬで誤魔化せばよかったのだが、余りに不躾に直接的な事を聞かれたので、つい態度に出てしまった。すまない」
「それが彼の手なのです。気を付けなくてはなりません」
「そうだな。宰相の方がまだまだ老獪だ」

「宰相は私を殿下の側近から外すと脅してきました。でも私は、既に成人された殿下個人の侍従です。陛下にだって勝手に辞めさせる事はできません」
「そうだな、だからその点だけは安心だ」
「ですが、私が父の思うように宰相の言いなりになっていない事に気付かれていますので、二重スパイができなくなりました」
「まだまだ計画遂行の準備ができていないのに、色々手詰まりになってきたな。急がなくては」

「妃殿下との閨はどう偽装しましょうか? 言っときますが、本当に抱くのはなしですよ」
「私は真剣に悩んでいるんだ、茶化さないでくれ。本当なら愛する女性を抱きたいと思うのは当たり前の事だろう? でも本当に王子が生まれたら、あの冷酷な宰相はパトリツィアをお役御免と抹殺するかもしれない……」
「言い過ぎました。申し訳ありません」
「宰相はこのままなら私に側室を娶らせて子供を産ませるとまで言ってきた。私はパトリツィア以外と子供をもうけるつもりはないと言ったが、どうにかして作らせると脅してきた。私に薬を盛るか、最悪、私の容姿に似た男に側室にした女を抱かせるかもしれない」
「そんな事は絶対させません! 実はそれに対抗するいい物を見つけました」

 アントンは、媚薬成分と幻惑効果のある香を使ってパトリツィアに性交を最後までしたと誤認させる事を提案した。この製品がいくつか国境を隔てた国で開発されたのはごく最近であり、クレーベ王国にはまだ流通していないと言う。アントンはずっと前から類似の効果のある香を任務に使っていたが、耐性をつけていても何度も使用していると性欲が我慢できなくなる副作用が酷くなってくる。でもこの新製品にはそんな危険がない……と言われている夢の媚薬なのだ。

「それには常習性はないのか?」
「常習性はないと言われています。特に副作用も知られていません。香と名付けられてはいますが、ほとんど匂いもしません。ただ、殿下もその香を吸ってしまうので、実際に使用する前に耐性をつけないといけません」
「そんな物はハニートラップに最適ではないか! 普及する前に流通を禁止する必要があるだろう?」
「ええ、でも今は流通量がわずかでかなり高価ですので、購入できる者は限られています。宰相は購買力がありますが、この香の存在を知っているかどうか分かりません。ですから下手に禁止すると宰相派が香の存在を知って入手する可能性があります。計画が成功してから禁止薬物に入れるべきでしょう」
「あの宰相が知っていないとは思えないぞ。これで誤魔化せても数回が関の山じゃないか?」
「あのまま素股で誤魔化し続けるのはもう無理なのですから、やってみる価値はあります。それに殿下に使われる想定もしなくてはなりません」
「だが、本当に副作用はないのか? もしかしたら今は副作用が発見されていないだけかもしれないではないか。そんな恐れのある物をパトリツィアに使いたくない。その案は却下しよう」
「殿下、側室をあてがわれてもいいのですか? それとも殿下は妃殿下を本当に抱いてこっそり堕胎薬を入れたお茶でも飲ませますか? 言っておきますが、そちらの方が後々子が出来なくなる恐れが大きいですよ」
「なっ……!」
「妃殿下が将来、を奪わないように、それに殿下が妃殿下を本当に抱いて未練が大きくならないように私は提案しているんです。物は試しです。体験してみて下さい。――ペトラ、入って来い」

 アントンに声をかけられて執務室に入って来たのは、パトリツィアと同じぐらいの年頃の黒髪の少女で侍女のお仕着せを着ていた。ルイトポルトは、どこかで彼女を見たことがあったような気がしたが、思い出せなかった。

「彼女はペトラ、私の配下の影です。殿下付きの侍女に任命して色々工作活動をしてもらうことにします。まず手始めに彼女と例の香の耐性をつける練習をしましょう。私は耐性をつけていますが、席を外しますので、思いきりやってみて下さい」
「どういう事だ? おい、アントン、待て!」

 アントンはルイトポルトの反論を最後まで聞かずに執務室を出て行った。
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